美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第４章 美しい女性

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またしても違和感が湧き上がった。その顔が哀しそうにも……苦しそうにも……苛立っているようにも見えたからだ。

「何をしている、早く行け！」

立ち止まったまま動かない私に向かって西園寺オーナーが声を荒げた。
八つ当たり？　そんな風だった。

何かある！　西園寺オーナーを見つめ返して「失礼します」と言うと私はスタッフルームを後にした。

心の中に宿った違和感は、消えるどころか時間が経つにつれてどんどん大きくなっていく。そして、仕事が終わる頃、一つの結論に至った。西園寺オーナーの顔をああさせる何かは、きっと富美乃様親子にある……と。


＊＊＊


「お疲れ様」
「お疲れ様でした」

余計なことまで考えていたので、今日の疲労は半端なかった。早く帰ってお風呂に入ろうと思いながら更衣室でコックコートを脱いでいると、〈聖天寧々！　着替えが終わったら来い〉と西園寺オーナーの声が突然スピーカーから聞こえた。

「珍しいわね。仕事終わりに呼び出しだなんて」

マミさんが両手の人差し指を頭上に立て、角つのを作りながら「また何か怒らすようなことをしたんでしょう？」とほくそ笑んだ。

「よく考えてから言って下さい。そんな機会があったと思いますか？」
「――確かに。だったら何？」
「マミ、帰れる？」

そこに神乃マネージャーの声が割って入った。たちまちマミさんの意識は神乃マネージャーに移る。

「あっ、はーい。じゃあね、寧々、バイバイ」

やはり人は他人のことなどどうでもいいのだ。中途半端に投げかけられた『だったら何？』が私の脳内でエンドレスにリピートする。

ウキウキしながら帰って行くマミさんの背中を溜息交じりに見送ると、私は着替えを済ませて西園寺オーナーの部屋に向かった。『だったら何？』の正体を知るために。