美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第５章 解雇

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――西園寺オーナーも分かっているのに……。

良い匂いだが、歳を重ねた西園寺オーナーに十代の香りは似合わない。なのに彼はその香りを纏い続けている。その意味を知っている私には、その香りが憐愍れんびんを誘う香りに思えて仕方がなかった。


＊＊＊


「――ちゃん……寧々ちゃん」

遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。

「寧々、起きて」

揺り動かされる感触に、重い瞼を上げると神乃マネージャーとマミさんが呆れたような顔で私を見下ろしていた。

「あの中で爆睡するなんて……本当に心臓に毛でも生えてるんじゃない？」
「――えっ？　パーティーは？」
「終わったわ」

神乃マネージャーの返事に「嘘でしょう！」と声を上げ、身を起こして周りを見回す。

「本当だ……」

片付けはほとんど終わり、後はこの棺を撤去するだけのようだった。
呆然とする私にマミさんが、「そうそう、樫野チーフが『賄いは？』って」と伝言を伝える。

「そうだった！」

棺から飛び出て急いで厨房に向かおうとすると、神乃マネージャーが「着替えが先よ！」と私を止めた。衣装部が返却を待っているらしい。

「それに、その格好で厨房に入ったら汚れるでしょう？」

彼女の指が私の足元を指す。頭を垂れ見ると、床を引きずるドレスの裾が目に入った。

確かにと頷き、「すぐ着替えてきます」と言って更衣室に向かうと、そこに衣装部の人が待っていた。

どうやら私が最後らしい。急いでドレスを脱ぐと、彼女はそれを抱えて足早に更衣室を出て行った。

――早く帰りたかったのだろう。悪いことをした。