124 / 170
第5章 解雇
21
しおりを挟む
彼女が立ち去ると私はコックコートを羽織り、厨房に向かった――だが、フロアーは元より、厨房にももう誰の姿もなかった。
『スタッフだけで打ち上げをするから、賄いを作り終えたら“居酒屋ダイニング猫のトール”においで』
私が眠っている間に、急遽そんな計画が持ち上がっていたのだ。マミさんも神乃マネージャーももういないということは、すでに出掛けてしまったのだろう。
「本当にタフな人たちだ」
私も今日は身体が軽い。当然だ。あれだけ眠ったのだから。でも、皆のように飲みに行きたいとは思わなかった。しかし、お腹は減っている。だからトールの料理には惹かれる。
悩ましい取捨選択に、「そうだ!」と閃く。
一人分も二人分も手間は同じだし――とついでに私の分の“お握り定食”も作り始めた。
「でも、先に食べて彼を待たせるわけにはいかないかぁ」
後が怖い。だから、行儀は悪いが、味見と称してつまみ食いをしながら作ることにした。
私はつまみ食いほど美味しいシチュエーションはないと思っている。
誰に対してか分からない背徳感が、エッセンスとなりより料理を美味しくさせると思うからだ。
これについては何の根拠もない。ただ単に空腹状態の脳が誤作動を起こしているだけかもしれない。でも、私はつまみ食いが好きだ。
嬉々としながら西園寺オーナーのおむすびを三個作り終える。具はいつも一緒だ。梅におかか、それから生姜をたっぷり使った牛の時雨煮だ。それらはあの時あの食堂で食べた具と同じだった。
それにラップをかけ、もう一個自分用におむすびを握る。
『スタッフだけで打ち上げをするから、賄いを作り終えたら“居酒屋ダイニング猫のトール”においで』
私が眠っている間に、急遽そんな計画が持ち上がっていたのだ。マミさんも神乃マネージャーももういないということは、すでに出掛けてしまったのだろう。
「本当にタフな人たちだ」
私も今日は身体が軽い。当然だ。あれだけ眠ったのだから。でも、皆のように飲みに行きたいとは思わなかった。しかし、お腹は減っている。だからトールの料理には惹かれる。
悩ましい取捨選択に、「そうだ!」と閃く。
一人分も二人分も手間は同じだし――とついでに私の分の“お握り定食”も作り始めた。
「でも、先に食べて彼を待たせるわけにはいかないかぁ」
後が怖い。だから、行儀は悪いが、味見と称してつまみ食いをしながら作ることにした。
私はつまみ食いほど美味しいシチュエーションはないと思っている。
誰に対してか分からない背徳感が、エッセンスとなりより料理を美味しくさせると思うからだ。
これについては何の根拠もない。ただ単に空腹状態の脳が誤作動を起こしているだけかもしれない。でも、私はつまみ食いが好きだ。
嬉々としながら西園寺オーナーのおむすびを三個作り終える。具はいつも一緒だ。梅におかか、それから生姜をたっぷり使った牛の時雨煮だ。それらはあの時あの食堂で食べた具と同じだった。
それにラップをかけ、もう一個自分用におむすびを握る。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる