美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第５章 解雇

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今夜は時雨煮の気分だった。それを白米の中心に置き、通常の二倍の大きさでおむすびを作る。

海苔は焼き海苔の全形を使った。『ばくだんおむすび』とか『ばくだんおにぎり』とか言われるものだ。これは基本の“お握り定食”のおむすびをアレンジしたものだ。

「いつ作っても食欲そそる見栄えだこと」

うししと込み上げる笑みを引っ込め、それに齧り付き、もぐもぐと頬張りながら、味噌を入れるばかりのお味噌汁を温める。根菜がたっぷり入った具沢山のお味噌汁もあの時と同じ物だ。

「ああ、やっぱり寝かせた時雨煮は美味だわ」

白米の部分から時雨煮のところに到達したので思わず感想が漏れる。

本当はもう少し寝かせておきたかったが、浅漬けと同じで、これはこれで味わい深いと自己満足の世界に浸る。

「でも、この時雨煮には泣かされたのよねぇ」

白米の中心に鎮座する時雨煮を凝視する。

もし、自分で自分の吹き出しを視ることができるとしたら、きっとこの“お握り定食”を食べている頭上にそれを視ることができるだろう。

思い入れ……というよりは、執着と言った方がいいかもしれない。

あの時のあの味をどうしても再現したかった。だが、その頃の私は料理の『りょ』も知らない子どもだった。

「なのに、時間が許す限りキッチンに立って……」

再現させるためにどれだけ尽力したことか……涙ぐましい努力とはあのことだ。

「――完成までの歳月は長かった」