美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第５章 解雇

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今となっては『なぜそこまでして？』と思えるのだが、なぜかその時は『やり遂げなければ！』と使命感にも似た思いがあり、それが私を駆り立てていた。

まぁ、だからこんなに美味しい時雨煮のおむすびが、今こうして食べられるんだけどねと残りを口の中に放り込む。

「本当、旨っ！」

モグモグと口を動かしていると、小鍋がグツグツ大きな泡を立て始めた。

「おっと」

少し弱火にして味噌を解き入れる。そして、すぐ火を消し青ネギをたっぷり加えると、途端に葱の良い香りがしてきた。それを大きめの椀に盛って、おむすびの載った半月盆の上に置く。

――出来上がり！

口元に海苔が付いていないか、厨房の入り口にある洗面台の鏡で確かめ、ウォーターサーバーからグラスに少し水を注ぎ入れると、それをコクコク飲み干し、半月盆を持って西園寺オーナーの部屋に向かう。

夜の店内は不気味だ。廊下の人感センサーライトが私の姿に反応して点いては消える。その中で私は足を早めた。

「――でも、本当にいるのかな？」

一瞬、もしかしたら帰ってしまったかも、と不安が過ぎる。だが……いらぬ心配だった。廊下の角を曲がりかけたとき、西園寺オーナーの声が聞こえてきたのだ。

だが、その声は苛立っているようだった。それでだと思う。出て行くタイミングを失い、私は角に身を潜めたまま盗み聞きするような形で立ち尽くしてしまった。