美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第６章 再就職

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「――吹き出しのことですね？」
「そう。到底信じられない現象だけど、私ってこんなでしょう？」

また樫野チーフのスイッチが変わったようだ。

「ゲイだってノーマルな人から言わせると信じられない現象でしょう？　男が男を愛するんですもの」

指向は様々だ。性的指向が同性愛だとしても私は異端だと思わない。

「だから私、寧々ちゃんの不思議な力がスンナリ認知できたの。世の中にはそういう人もいるんだわ、って」

「俺もだ」と白戸さんも同調する。

「だって、世の中は広いもの。顔や髪の色が違っても、言葉が通じなくても、丸い地球に住む同じ人間。違いは個性ってことでしょう？」

樫野チーフの言葉が胸に染み込んでいく。

――クーラウが居心地良かったのは、こういうところかもしれない。中学の時に在籍していたボランティア部と同じだ。個性豊かな人たちは私を奇異な目で見ない。

「ありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです」
「綾時もああ見えて偏見を持たない奴よ。私のことだって……」

樫野チーフの瞳が懐古するように遠くを見つめ、柔らかな弧を描く。

「――だから私同様、寧々ちゃんの不思議な力に引き付けられたのは確か。でも、だからといって婚約者の代行まで頼むなんて……それこそ考えられない現象だったのよ」

「だから、西園寺オーナーが私を手放したくないと思っておいでだと思われたのですか？」

確かに婚約者のフリをしろと命を受けたが、それは私が全く彼に好意を持っていないからだ。

「それは樫野チーフの思い過ごしです」