美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第６章 再就職

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（なんて美味しいんだ！）

白戸さんが初めて樫野チーフの料理を口にしたのは、ヨーロッパ旅行の最中だったらしい。その時、彼は雷にでも打たれたような強い衝撃を受けたようだ。

同年代で同じ料理人でもある樫野チーフに感銘を受けた白戸さんは、それから密かに彼の追っかけを始めた。但し、それは樫野チーフが取り上げられる雑誌でだ。

（遠距離恋愛みたいだったな）

ヨーロッパと日本。二年ほど白戸さんの片想いが続いたある日、西園寺オーナーに呼び戻され、樫野チーフがクーラウで働き始めた。

白戸さんは矢も盾も堪らず、それから一年後、クーラウの面接を受け、見事合格した。

（その日が人生最良の日だと思ったが……）

白戸さんの最良の日は日々更新していった。

（まさか友宏と付き合えるなんて……）

料理に片想いしていた白戸さんだったが、一緒に働き出した樫野チーフの人柄に触れ、いつしか彼自身に惹かれていったらしい。

「なーんだ、樫野チーフが白戸さんにゾッコンだと思っていたけど、白戸さんも樫野チーフが物凄く好きだったんですねぇ」

「はぁ？」とハテナマークを浮かべた二人が私を凝視する。
「あっ！」やってしまった。

「もしかしたら吹き出しが視えたの？」

そう言いながら樫野チーフが白戸さんを見る。

その白戸さんだが……動揺しているようだ。いつもポーカーフェイスで強面の顔が真っ赤に上気している。