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休息と仕事
【昼】休息としての
しおりを挟む夜の仕事を終えたモエとウミは、何日かの休養を経て、昼の仕事へと顔を出した。通常、夜に出勤した場合でも、一日日をおけば昼に出勤していたが、二人はまだ新人で、初めての夜の仕事の体験であった。
体力面、及び、精神面を考慮し、今回は休息を多めに取るよう通達されていた。
“……あの二人、大丈夫だったかな……”
アヤは心配していた。百パーセントではないものの、話には幾らか聞いていたはずなのと、店長のフォローが入ったはず。だが、普通に生活をしていたならば、本来は体験することのない出来事。
自分達はもう、感覚がある程度麻痺している。だから、仕事だと割り切れる部分もあるし、その中で楽しみを見つけていくキャストもいる。僕のように、見受けされる予定ができることも。
しかし、割り切ることも、楽しみを見つけることも、身受けされることもないまま、夜の仕事を続けていくことになったら、その弊害は大きいだろう。
……それは、昼の仕事にも影響する。
オープン前の支度に取り掛かる。今日は、あの二人が出勤するはずだ。
若干の気まずさを持ちつつ、それでも、優しく明るく接しようとアヤは考えていた。
昼の仕事は、制服とコンセプトは変わっているが、お客さんは優しい人が多いし、賄いも美味しい。自分がキャラになり切る、楽しむことが出来れば、頑張ったと思える気持ちも大きくなるし、満足出来るものにもなる。
それに、夜の仕事の、休息になり得ることもあるのだ。
“もうそろそろだよね、あの二人が来るの”
アヤがロッカーへの扉を何度も確認していると、ガチャリ、と音を立てて扉が開いた。
「……おはようございます」
「あ! おはよう!」
「おはよう、ございます」
「おはよう!」
“あぁ……良かった”
二人は出勤してきた。どこか元気がないようにも見受けられたか、精一杯の笑顔で、彼らはアヤに挨拶をしてきたのだ。……強制的に来させられたのかもしれないが、ここに来られるということは、きっと頑張っているはずだ、何とは言わずとも、分かる気がする。
「……良かった。大丈夫?」
「ありがとうございます。……大丈夫です」
「……まだちょっと、落ち着かないですけど……大丈夫、です」
「……そう。無理はしないで、ね? 体調が悪かったら、休んで良いと思うから」
顔を見合わせて頷くと、ウミとモエはアヤと一緒にオープンの準備を初めた。
黙々と準備をする間、三人に会話は無い。時々、ウミとモエの溜息が聞こえ、チラリとアヤがそちらに目をやると、精一杯の笑顔でアヤを見ていた。
“……本当に、大丈夫、かな……?”
心配をよそに、準備が終わる。
「お、お前らお疲れさん」
「あ、店長! おはようございます!」
「「おはようございます」」
「……まぁ、無理すんなよ」
そう言って、ポン、とウミとモエの頭に手をやると、そのままひらひらと手を振り、バックヤードへと下がっていった。
「……店長なりに、初め、だしね。特に心配してるのかなって思うよ」
「……分かってます」
「はい。……ありがとうございます」
時間は過ぎ、二人は初めての昼のオープンを迎えた。
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