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第一章 【殺人鬼】
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しおりを挟む現場検証を終えた伯爵は、自警団に挨拶してから町長の家へと向かう。モンドーは、探偵とやらを呼ぶためどこかへ消えた。従って、伯爵は一人で町長の家に行かねばならないのだ。
ハッキリいって、気が重い。
町長は昔から町長で、親も祖父も町長だった。それが彼のプライドとなり、それこそが彼を形成するものであり、それこそが彼でありそれ以外は彼ではなかった。すなわち町長であることが彼を支えている。
そんな町長が昔から苦手な伯爵。ちなみに先代も先々代も苦手。つまり伯爵は、町長一家が大の苦手。もっと言えば、嫌い。
記憶操作しているから伯爵の実年齢を知らないとはいえ、いつ会っても伯爵を小僧扱いするのだ。若造扱いされるのは別に構わないのだけれど、一応領主であるのだから見下されるいわれはない。そして小バカにされるのはあまり気分の良いものではない。
「なんだ、一体何しに来たんだ?」
なんて言われようものなら、温厚な伯爵でも苦笑するしかない。形だけでも敬意を払えと偉そうなことを言うつもりはないが、形だけでも敬語を使って欲しいなとは思う。
「自分の領地内で連続殺人が起きれば、そりゃ来るよ」
そう答えれば
「ふん、暇人め」
と返って来るのだ。顔は笑顔で心は青筋立てる伯爵。
記憶操作して、恐怖心を植え付けてやれば良いのでは? とモンドーは言っていたが、それでは温厚で皆から愛されるイメージが壊れると拒否したのは、誰あろう伯爵自身。
彼はことなかれを望み、平穏に、永遠の時を生きたいのだ。化け物と追い立てられるのを好まない。
長い時を生きて培った作り笑いは、けしてそうとは悟らせない。ひたすら温厚そうな笑みを浮かべて、伯爵は町長宅に上がった。……一応は入れてくれる町長である。
「連続殺人、ついに六件目ですね」
「まったく、無能ばかりで腹が立つわい!」
そう言って、町長はドッカと椅子に腰かける。促されてはいないが、テーブルを挟んで正面の椅子に座る伯爵。何も言われないということは、座って良しということであろう。
「最初は……半年ほど前でしたか」
「ああ。裏通りでフラフラしてる、宿無し野郎だ。あんなのはどうでもいい」
冷たい町長の物言いに内心いい気はしないが、それも顔には出さない。
そう、最初の被害者は身寄りもなく家も職も持たない、生きるためには手段を選ばない、そんな輩だった。どんな悪事に手を染めて手に入れたのか分からないが、酒を飲みさびれた裏通りで泥酔してるところを殺された。
正確には、泥酔してるのを起こされたのか、襲われて起きたのか、争った形跡や逃げようとした痕跡があった。
「次は三ヶ月後に、これまた身寄りのない男だったね」
「あれは悪党の幹部だったので、腕っぷしはあった。だというのに、そんなのまでやられるとはな」
次の犠牲者は盗賊団の団員だった。つまりは素人ではないということ。ある程度腕に自信はある者だった。
「血痕は二人分ありました。それだけでも収穫でしょう?」
「怪我をしたのは一人でも、犯人が複数いないとも限らんさ。お前、本当に馬鹿だな」
ピキッ。
これは実際に伯爵に立った青筋。顔は笑って心で……とはさすがにいかない。
「はは、これは手厳しい。で、次が一ヶ月半後、それから一ヶ月で数週間が……今回は十日、ですね」
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