7 / 10
7、
しおりを挟むさ~、ちゃちゃっと進めて参りましょう!
だんだん楽しくなってきましたよー!
というわけで、ビスタさんが広めていた噂の内容を思い出す。
「えーっと、次は花瓶の水をかけられた、でしたっけ?」
「ひ──!い、いやいやいやいや!もういいですから!私が悪うございました、もう嘘は言いません!だからもう許して!」
「あらビスタさん、嘘ではありませんよ、真実にするために動いてるのですから。ささ、早く行きましょ行きましょ♪」
「語尾に『♪』が付くとか、この状況を楽しんでない!?」
「楽しんでませんよ~。あなたを正直者にするためにですね、苦しい心を敢えて鬼にして……」
「鬼どころか悪魔スマイルにしか見えないけど!?」
あら酷い、私の悩殺スマイルを悪魔だなんて。よく見てますね。
まあでも私の本性が徐々に分かってきたようなので、これ以上はあまり酷い事しちゃ駄目ですね。小さめの花瓶で済ましましょうか。
と、キョロキョロと小さめの花瓶を探していましたら、「ルリアナ様!ビスタを虐めないでください!」という声がかかりました。
振り返れば、いつだったか話しかけられた事のあるご令嬢達が、目を吊り上げて立っておられました。
「やっぱり噂は本当だったんですね!いくらカルシュ様が愛してる存在だからって、ビスタを虐めないでください!公爵令嬢として恥ずかしくないんですか!」
「そうですわ!貴女のような方が将来国母になられるなんて、なんと恐ろしい……!」
「身分は低くとも、ビスタの方が美しい心を持ってます!いっそ彼女の方が国母に相応しい……」
「はい?今なんて言いました?」
最後の台詞は私です。
あれこれ好き勝手言われてますが、聞き捨てなりませんね。
特に最後のやつ。
国母が云々。
さすがに眉間にピキッと筋が立ちましたよ。
私はニッコリと微笑みながら……どす黒いオーラを背後に、彼女たちの方を見ました。どうやらそのオーラを感じとったようですね。喉の奥で引きつるような音を立てて、彼女たちは一斉に黙り込みました。
ご令嬢達に向けて一歩、前に進み出ます。
「誰がなんですって?」
「え?え?」
「誰が国母に相応しいですって?」
「え、いや、その……」
私の気迫に押されたのか、こぞって真っ青になるご令嬢達。身長は同じくらいなのに、きっと遥か上から見下ろされてる気分なのでしょうね。実際私は見下ろしてます。──必死のつま先立ちなので、ちょっと足がプルプルしてますけどね。あ、つる、つる、足がつる!
まるで水面下の鴨の足のように彼女達から見えないところで足をプルプルさせ、見下ろしたまま私は言った。
「皆様」
「「「はい!!」」」
「ビスタさんの心が美しいとおっしゃいましたよね?」
「「「はい!!」」」
その揃った返事に満足げに頷き、私は言葉を続けた。
「そうですね、ビスタさんは心が美しく、嘘などつきません。そういう方こそが、王の側室に相応しいのです。王の心を癒せる存在はそのような方でなくては。逆に国母たる王妃ではその務めは果たせません……残念なことに、それが現実なのです。王の癒しとなるには時間がありません。それほどに王妃とは多忙なのですよ」
きっとそんな事も知らないのだろう。王妃教育を受けてる私の言葉に、そこでようやくハッとなった。理解していただけましたかね。
「お分かりいただけましたでしょうか。ビスタさんが清い心ならば、側室こそが彼女に相応しい」
「な、なるほど……」
「私は彼女が側室となるのは大歓迎ですよ」
「そ、そうなんですね」
「ですが」
空気が穏やかになりかけた所で、私は声音を低くして、空気を一変させた。瞬間、怯えたような顔をするご令嬢達。そんな彼女達を見ながらピッと人差し指を立てます。
「ですが、嘘つきでは駄目です。そしてこのままではビスタさんは嘘つきになってしまうのです」
「へ?え、一体それはどういう……」
「皆さんは私がビスタさんに水をかけた場面をご覧になりましたか?」
戸惑う彼女達に問えば、全員が黙り込んだ。まあそうでしょうね、見た事ある方なんているわけありませんよね。やってませんもの。
「誰も見た事がないのに、その話を彼女は広めてるのです。このままでは彼女は嘘つきになってしまうでしょ?」
「う?え?そ、そうなるんでしょうか?」
「そうなるんですよ!!」
困惑した彼女達の一人の手を握りしめて私は力説する!
「いいですか、このままではビスタさんは嘘つきです!それでは側室に相応しくない!ですが、解決策はあるのです!」
「そ、その解決策とは!?」
「嘘を真実にしてしまえばいいのです!私が彼女に水をかけるのを皆さんが目撃すれば、ビスタさんは嘘つきにはなりません!!」
「ちょ!ふっざけんじゃないわよ!私がやられたって言ってるんだから、真実なんてどうでも……!」
令嬢の手を握り叫ぶ私に、慌てたようにビスタさんが割り込んできました。
ですが私に手を握られてる令嬢も、その他の令嬢も、皆さん顔を赤くして私の言葉にウンウンと頷いています。これはやるべきでしょう!いつやるの?今でしょ!!
「さあビスタさん、やりましょう!手ごろな花瓶を探して……」
「いやちょっとまっ……」
「ルリアナ様ぁ!なかなかに大きな花瓶がありましたあ!!!!」
「ナイスですわあ!!!!」
「いやだからちょっと待っ……!!!!」
「そいやあああああああーーーーー!!!!!」
あまりに大きいので令嬢達と力を合わせて花瓶を持ち。
思い切り水を飛ばした結果。
弧を描いて水は飛び。
窓から差し込む光が美しい虹を作り出し。
見事に、ビスタ令嬢へと降り注いだのでした。
「これで真実が増えましたわね!!」
「その笑顔、腹たっつわあぁぁ!!!!」
126
あなたにおすすめの小説
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に
ゆっこ
恋愛
王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。
私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。
「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」
唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。
婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。
「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」
ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。
「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました
唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」
不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。
どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。
私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。
「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。
身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。
今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです
シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」
卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?
娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。
しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。
婚約破棄されている令嬢のお母様視点。
サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。
過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた──
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は──
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
「華がない」と婚約破棄されたけど、冷徹宰相の恋人として帰ってきたら……
有賀冬馬
恋愛
「貴族の妻にはもっと華やかさが必要なんだ」
そんな言葉で、あっさり私を捨てたラウル。
涙でくしゃくしゃの毎日……だけど、そんな私に声をかけてくれたのは、誰もが恐れる冷徹宰相ゼノ様だった。
気がつけば、彼の側近として活躍し、やがては恋人に――!
数年後、舞踏会で土下座してきたラウルに、私は静かに言う。
「あなたが捨てたのは、私じゃなくて未来だったのね」
(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た
青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。
それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。
彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。
ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・
ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる