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しおりを挟む5月21日
王立学院はとても立派な、貴族の集う学院だ。
ここで三年間学んだ後、卒業後は王太子と結婚するための準備に入る。王妃教育はおそらくはとてつもなく大変なものとなるのだろう。自由に過ごせる最後の三年だ。
王太子と結婚なんて、誰もが羨む幸運な事なのかもしれないが、私にとっては地獄同然だ。
会った事もない彼にどう好意をもてというのか。
いや、持つ必要もないのか。所詮これは政略結婚なのだから。
王家に取り入りたい父と。
そこそこ力を持った、王家にとって利用できる侯爵家……の令嬢。
互いに申し分なしといったところか。
なぜフレアリアでは無いのか不思議だったが、彼女を溺愛する父の事だ。フレアリアは自由に、好きな人と結婚させたいと思ったのだろう。──それと、やはり元愛人との娘より、元々正妻の娘である私の方が体裁も良いのだと思う。
共に入学したフレアリアは、なぜかいつも大勢の殿方と共にいた。
「男に取り入るのが上手い妹さんね」
そんな事を言われた事もあり困ってしまった。
フレアリアと仲の良い男性の中には、婚約者の居る方も多数いる。
どうして皆、婚約者を放置してフレアリアの側に行くのだろうか?
その答えは、今日偶然中庭に居るのを見た時に分かった。
校舎内を移動中、外からフレアリアの声がして。
何気なく窓から覗いたら、とある貴族男性にしなだれかかるフレアリアが居たのだ。
男性の保護欲をそそる幼い顔立ちの彼女は、男性に腕を絡めてその身を預け、徐々に顔を近づけて──そして口づけた。
見てはいけないものを見た気がして、すぐにその場を離れたのだけれど。
きっと彼女は他の男性にも同じことをしてるのだと直ぐに分かった。
そして男性達をそそのかしてるのだとも理解した。
「フレアリアを虐めるな。なんて酷い姉なのだ、お前は」
昨日、話もしたことのない、とある貴族男性に声をかけられたことを思い出す。
どうやらフレアリアは私に虐められてると言い広めてるらしい。
それを信じた一人の男性に、そう言われてしまったのだ。
私は何もしてないと言ったら「聞いてた通り、最低な女だな!」と言われ突き飛ばされてしまった。
倒れ込んだ時に床についた手が──手首がまだ痛い。
左手で良かったと思う。右手ではこうやって日記も書けなかっただろうから。
一体フレアリアは何がしたいのだろう。
彼女の行動は不可解で、だんだんと怖くなってきた。
ああ、また義母が怒鳴りながら私を呼んでいる。
嫌だけど無視すると何されるか分からない。
仕方ない、行ってこよう。
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