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学園編

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 新章開始です。前章よりも残酷な表現がございますので、苦手な方はこのまま閉じてください。
 ご都合主義に進みますので、笑って許して下さるとありがたいです。


*~*~*~*~*


 世情を知らぬ者は、一定数いる。それを踏まえた上で、トラブルを回避すべく対策を講じることは、当然のことと言えよう。しかしながら、その対策すら意味を成さない、斜め上の行動を取る者がいることもまた、悲しいが当然のごとくいる。



 桜が満開に咲いている。
 時折吹く風に、花びらがひらりひらりと舞い散る光景は美しい。
 本日入学式を迎えた学園は、新たな者を迎え入れることの喜びに溢れ、その新たに迎えられる者たちは希望に満ちていた。
 貴族と平民が共に学ぶこの学園は、今年はいつもと様子が違っていた。どこか皆落ち着きがない。そんな中、どれとも比べるべくもない豪奢な馬車が止まった。皆が色めき立つ。落ち着かない原因が、コレだった。
 筆頭公爵家、ディレイガルドの馬車。御者が恭しく扉を開けると、磨き上げられた靴がカツ、と音を立てた。姿を見せたのは、エリアスト・カーサ・ディレイガルド公爵令息。月光を溶かしたような淡く輝く銀髪に、アクアマリンのような瞳。優しい色合いのはずのその瞳は、なぜか冬の凍てつく海に見える。何よりもその神が生み出したような美貌は、見るものの感嘆を誘う。うっとりと溜め息をつく周囲に何も感じることなく、エリアストは馬車を振り返る。エスコートのために差し出された手に、周囲は固唾をのんだ。
 「ありがとうございます、エル様」
 心に響くような優しい声音と共に姿を見せた令嬢、アリス・コーサ・ファナトラタ。星空のような髪色に、美しい紫色の瞳が穏やかな色を湛えている。とびきりの美人ではないが、なぜか惹かれる。内面から滲み出る美しさを、皆、本能で感じているのかもしれない。
 そして。
 「疲れていないか、エルシィ」
 幻聴かもしれない。ディレイガルド公爵令息様の気遣う声が聞こえた気がする。
 幻覚かもしれない。ディレイガルド公爵令息様の目が、春の空のように見える。
 「はい、大丈夫です。エル様がたくさんお気遣いくださいましたもの」
 ふふ、と楽しそうに馬車の中をチラ、と見たアリスにつられて周囲も視線を馬車内へ移す。そこにはたくさんのクッションが転がっていた。ところどころにぬいぐるみも見える。
 「そうか」
 嬉しそうに頬を染めるアリスに、エリアストの目が愛しげに細められた。それを見た周囲は高速で目を逸らした。
 だれ?あれ、だれ?
 「歩けるか、エルシィ。私が運ぼうか」
 ナニモキコエナイ。
 「ありがとうございます。元気ですから一緒に歩きましょう、エル様」
 「そうか、疲れたらすぐに言ってくれ、エルシィ」
 ナニモミエナイ。
 「はい、その時は甘えさせていただきますね」
 「ああ」
 キョウモソラガアオイデス。



 貴族と平民でクラスは違う。貴族のクラスは二クラスしかないが、平民のクラスは三~五クラスある。平民の入学は義務ではないので、年によってかなりバラつきが出る。今年の平民クラスは四クラスあった。平民の中に二人、噂される人物がいた。一人は、淡い水色の髪に新緑のような瞳のウィシス・ナーギヤ。世界を相手取る貿易商の三男。もう一人は、栗色の髪に金が混じったような茶色の瞳のルシア・タリ。国内はおろか、世界中に展開を見せる豪商の長女。国内で十指に入る資産家が、二人も入学する。下手な貴族さえ尻込みする相手なのである。
 しかしこの二人が噂になるのは何も、資産家だから、と言うだけではない。ウィシスは蒐集家しゅうしゅうか、ルシアは奔放さで有名だった。それ故に皆、危惧していた。この二人の悪癖が、あの二人に向いてしまうことを。
 だが物事というものは大抵、望まない方向にいくものである。


 *つづく*
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