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祝・ゲーム開始
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自分がして欲しいから人にしているのに、誰も私にそれを返してくれないまま、ゲーム開始の日がやって来た。
学園の入学だ。
この日をどれだけ待ち望んだことか。
「ヒロインを邪魔しまくればいいのよ。腕によりをかけて邪魔して差し上げましょう」
制服を着て鏡の前で不敵に笑う私を、侍女のコニーがうっとりと見つめている。
「さあ、わたくしの幸せのために、絶望をプレゼントしますわよ」
賢明な読者様はもうおわかりだろう。
絶望するのが誰なのか。
∴**。・**∵**。・**‥*∴
「そう、よ。そうよね。そうだったわ。けれど、これは、あまりにも、あまりにも、あまりにもおおおおぉぉ」
入学式が終わり、各々の教室にて。サファイアは絶望していた。
鬼畜令嬢として名を馳せていたサファイアを初めて見る者たちは、誰もが信じられないと言う顔をしていた。それはそうだ。見た目儚げおっとり超絶美少女。そしてその美少女の目から、涙がぽろり。それを見てしまった者たちは、軒並み倒れた。
「が、ガーディニー嬢っ?何を泣いているのですかっ」
駆け寄ってきた淡い茶髪の男子。制服のリボンの色で学年がわかる。二年のようだ。見たことあるようなないような。差し出されたハンカチと茶髪を交互に見ていると、茶髪は困ったように笑った。
「はは。やはり覚えていらっしゃいませんか。リードです。リード・ザルツ。あなたとお見合いをしてから、諦められなくて、その後何度も婚姻のお願いをしても受け入れていただけていない、リード・ザルツです」
その言葉に、教室がどよめいた。ほう。茶髪は有名人らしい。だが知らぬ。そう思って尚も見ていると、ガックリと肩を落とした。
「な、名前も覚えていただけていなかったのですね。ですが、諦めませんよ。これから距離を縮めさせていただきますから」
爽やかに笑いおった。何この人。私を振り向かせたいなら出会い頭にブッ飛ばすくらいしてみせろや。と考えていると、受け取らないハンカチで、茶髪自ら私の涙を拭う。フリをして爪立てて血を流させるくらい出来んのか。涙だけ拭ってどうするチャンスを活かせないクズが。
「それで、何故泣いていらっしゃるのですか?私でお力になれるなら、なんなりと」
「わたくしの絶望は海の底より深い。癒やせる者など、いるかもしれないしいないかもしれない」
そう。攻略対象さえわかれば。攻略対象さえわかれば、誰がヒロインかわかるのに!
今更になって気付く。ヒロインの女の子の描写はない。プレイヤー自身に置き換えて妄想するタイプのもの。
ヒロイン誰だよおおおおおぉぉぉ!
攻略対象が取り巻く人間がヒロイン。それを邪魔すれば、もう私の人生バラ色。ようこそめくるめく痛みの世界へ!ゴールはすぐそこ!
なのに!
「もう、わたくしは、このまま、朽ちるしかないの」
新たな涙が零れると、茶髪まで泣きそうな顔になった。
「ガーディニー嬢、私は、あなたに相応しくなれるよう、お見合いをした日から、日々鍛練を積み、体を鍛えてきました」
む?ほう。言われてみれば、なかなかいい肉体をしているではないか。
「あの日の、あなたの願いを叶えるために、私は、ずっと、ずっと」
茶髪が潤んだ目で私を見た。
「ガーディニー嬢っ。遠慮はいりませんっ。私を」
「待て待て待て待て!このような公衆の面前でおまえは何を言う気だ!」
黒髪が割って入ってきた。このドS顔、どこかで?
「殿下、止めないでくださいっ。愛する人の涙を見て何もしないなどっ」
「わかった!とにかく落ち着け!」
何か寸劇始まったけど放っておこう。そんなことよりも、光が見えた。男の子に囲まれた女の子を探せばいいのではなかろうか。きっとその子がヒロイン。その子の邪魔をすれば私の長年の夢が叶う。危うくこの世界に生まれた意味がなくなるところだった。こうしてはいられない。早速ヒロインを探しに行こう。
*つづく*
学園の入学だ。
この日をどれだけ待ち望んだことか。
「ヒロインを邪魔しまくればいいのよ。腕によりをかけて邪魔して差し上げましょう」
制服を着て鏡の前で不敵に笑う私を、侍女のコニーがうっとりと見つめている。
「さあ、わたくしの幸せのために、絶望をプレゼントしますわよ」
賢明な読者様はもうおわかりだろう。
絶望するのが誰なのか。
∴**。・**∵**。・**‥*∴
「そう、よ。そうよね。そうだったわ。けれど、これは、あまりにも、あまりにも、あまりにもおおおおぉぉ」
入学式が終わり、各々の教室にて。サファイアは絶望していた。
鬼畜令嬢として名を馳せていたサファイアを初めて見る者たちは、誰もが信じられないと言う顔をしていた。それはそうだ。見た目儚げおっとり超絶美少女。そしてその美少女の目から、涙がぽろり。それを見てしまった者たちは、軒並み倒れた。
「が、ガーディニー嬢っ?何を泣いているのですかっ」
駆け寄ってきた淡い茶髪の男子。制服のリボンの色で学年がわかる。二年のようだ。見たことあるようなないような。差し出されたハンカチと茶髪を交互に見ていると、茶髪は困ったように笑った。
「はは。やはり覚えていらっしゃいませんか。リードです。リード・ザルツ。あなたとお見合いをしてから、諦められなくて、その後何度も婚姻のお願いをしても受け入れていただけていない、リード・ザルツです」
その言葉に、教室がどよめいた。ほう。茶髪は有名人らしい。だが知らぬ。そう思って尚も見ていると、ガックリと肩を落とした。
「な、名前も覚えていただけていなかったのですね。ですが、諦めませんよ。これから距離を縮めさせていただきますから」
爽やかに笑いおった。何この人。私を振り向かせたいなら出会い頭にブッ飛ばすくらいしてみせろや。と考えていると、受け取らないハンカチで、茶髪自ら私の涙を拭う。フリをして爪立てて血を流させるくらい出来んのか。涙だけ拭ってどうするチャンスを活かせないクズが。
「それで、何故泣いていらっしゃるのですか?私でお力になれるなら、なんなりと」
「わたくしの絶望は海の底より深い。癒やせる者など、いるかもしれないしいないかもしれない」
そう。攻略対象さえわかれば。攻略対象さえわかれば、誰がヒロインかわかるのに!
今更になって気付く。ヒロインの女の子の描写はない。プレイヤー自身に置き換えて妄想するタイプのもの。
ヒロイン誰だよおおおおおぉぉぉ!
攻略対象が取り巻く人間がヒロイン。それを邪魔すれば、もう私の人生バラ色。ようこそめくるめく痛みの世界へ!ゴールはすぐそこ!
なのに!
「もう、わたくしは、このまま、朽ちるしかないの」
新たな涙が零れると、茶髪まで泣きそうな顔になった。
「ガーディニー嬢、私は、あなたに相応しくなれるよう、お見合いをした日から、日々鍛練を積み、体を鍛えてきました」
む?ほう。言われてみれば、なかなかいい肉体をしているではないか。
「あの日の、あなたの願いを叶えるために、私は、ずっと、ずっと」
茶髪が潤んだ目で私を見た。
「ガーディニー嬢っ。遠慮はいりませんっ。私を」
「待て待て待て待て!このような公衆の面前でおまえは何を言う気だ!」
黒髪が割って入ってきた。このドS顔、どこかで?
「殿下、止めないでくださいっ。愛する人の涙を見て何もしないなどっ」
「わかった!とにかく落ち着け!」
何か寸劇始まったけど放っておこう。そんなことよりも、光が見えた。男の子に囲まれた女の子を探せばいいのではなかろうか。きっとその子がヒロイン。その子の邪魔をすれば私の長年の夢が叶う。危うくこの世界に生まれた意味がなくなるところだった。こうしてはいられない。早速ヒロインを探しに行こう。
*つづく*
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