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馬面勇者と愉快で可笑しな仲間たち2

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「なんであんたが来るんだよ」
「ふん、知れたことよ」

 俺のぼやきに冷たい一瞥と憮然とした言葉が返ってくる。

「監視役に決まっているだろう」

 声の主は前を歩く甲冑兵士ことヴィオレッタ。俺たちは今、彼女と行動を共にしていた。

 ――予想外に実力を認められたのはいいが、まんまとハメられるような形で王女救出の命令を下されたわけだが。

 そこへなぜがこの女兵士が同行することになったのだ。

「ヴィオレッタってさ。ほんっとにマジメちゃんだよね」

 呑気に笑うアルワン。つーか、こいつもついてきてるんだった。理由を聞けば。

『面白そうだもん』

 だと。
 確かに一度は便宜上でも仲間となったけどな、それでも一応王族の血族としてどうなんだ。この兄妹どもは。

「真面目とかそういう問題ではない。王国の一大事だろう。貴様には忠誠心とか愛国心とかそういう崇高な思考はないのか」
「あはは。残念ながらないねぇ」
「ぐっ、貴様って男は……」

 眉間にこれ以上ないってほどのシワを刻んだ険しい顔にも、この男はヘラヘラ笑うだけで。

「なんかめんどくさいのを背負い込んじまったな」
「それ誰のせいだと思ってんの」
「スチル、お前までやめろよな」

 ジト目のガキを見下ろす。
 確かに元はと言えば、俺が軽々しくアルワンを仲間にしたこととか。あ、そもそもあのS級野郎にケンカ売ったことか。
 そういえばあいつ、ちゃんと生きてるかな。めちゃくちゃよく吹っ飛ばされてたけども。

「この先、森を超えた先がオーガの村だ」

 ヴィオレッタの言葉に足を止めた。

「なかなかだな」

 森に囲まれた平地に村を作る種族は多い。なぜなら攻め込まれた時の事を考えるから。
 言わば天然の要塞なんだ。
 周りは生い茂る木々で敵襲の目をくらましてくれる。そしてなおかつ生息する魔獣や魔生物たちに守られる形になるのだ。

 だがもちろんデメリットもある。

 危険な魔獣達は村人たちに牙を向いてくる可能性は高いし、そんな森で拾う木の実は毒ばかり。さらには農作物も他の村や町に比べて育ちにくいだろう。

 さらには他種族との関わりはほぼ皆無に近くなるくらいか。
 
「このオーガ族の村は、魔界から落ち延びた者たちがつくったと言われている」
「魔界から?」
「数年前の魔王討伐のすぐあと、魔界から多くの魔族たちが追われた」

 そう言えば耳にしたことあるかもしれない。
 魔界をべる王が人間に倒され、その権力はたちまち失われた。魔界は大騒ぎになった末に荒廃の一途を辿っているらしい。
 
「それは混乱に乗じた人間側の略奪やら大量虐殺がおおよその原因だろうけどねえ」
「貴様になにが分かる」

 相変わらずの緊張感がないアルワンの言葉に、彼女がまた噛み付いた。

「そもそも軍部はその事を認知していない」
「うわ、常套句だね」

 おどけたように肩をすくめて言う。

「君たち軍人はいつもそうだよ。っていうか国のお偉いさんがそうなのかな。そんなことで国民が騙されてくれたらいいんだけどねぇ」
「貴様、何が言いたい?」
「何がって言葉通りだよ。ヴィオレッタ」
「それでも貴様は王族か!」
「だから真面目かってば。ほんとに盲目的というか、優等生もここまでくると心配になってくるってこと」
「黙って聞いていれば。反逆罪で今すぐ叩き切ってやる!」
「ちょっ、いきなり剣振り回さないで!?」

 もうさっきからずっとこれだ。
 同じ出生で同じ育ちのはずなのに、どうしてもこの兄妹達は価値観や考え方がまるきり違うらしい。
 そして互いがそれを許せないと。

「どうでもいいけど、そういうのは他所でやりなよ」

 スチルの呆れ声に二人は黙り込み、気まずそうにそっぽを向いた。

「ほら、気を抜いてるとあっという間に全滅だ」

 その視線の先。森は鬱蒼と木々が茂り、どこか瘴気めいたくらい影を落としている。
 
「確かにな」

 俺は己の剣に触れながら頷く。

「これは魔獣の巣窟だな」

 何となく肌でわかる。だって。毒の花が咲き乱れ、人を喰らわんと魔獣だけでなく毒蟲までも蠢く。小さな魔境のような森だ。

「貴様達の出る幕などない」

 すでに剣をぬいた彼女が先陣を切るつもりらしい。こちらに一瞥もくれずに吐き捨てた。

「すべて切り捨てて道をつくってやる」

 


 ※※※


 さほど広くない森のはずだった。

「ったく、キリがねえな!」

 次々に襲いかかる中型魔獣を切り伏せながら、俺は腹立ち紛れに叫んだ。

 さっきから本当に終わらないんだ。息をつく間もなく襲われ、そのたび必死に切りさいていく。
 そりゃあ今までより容易く倒せるが、それでもこうも立て続けだとこっちも体力の限界ってものがだな――あ、最初に巨大魔獣の群れを数体相手させられたのを思い出した。

 あの時は本当にめちゃくちゃだった。ボロボロになりながら、木の枝一本で立ち向かったっけ。
 なんの嫌がらせだ、ってスチルを後でぶん殴ったけど思えば経験としては貴重だった。
 でもな。

魔法使い共お前らも手伝えッ!!!」
「えー、めんどくさいなぁ」
「絶対やだ (キッパリ)」

 さっきからのんびりと散歩か散策みたいな顔をして歩いてるスチルとアルワン。どう考えても、なんにもしてないだろーが!

 むしろ俺とヴィオレッタがこいつらを護衛してるような形だ。
 
「いやあ、ボクはインドア派だからさあ」
「だったらなんでついてきた!?」

 すかさずつっこむ彼女。

「僕、疲れた。おいメイト、おんぶしろ」
「幼児かお前は、っていうか出来るかボケぇぇえッ!」
 
 怒鳴りつける俺。
 二人ともふざけてんのか? 俺と彼女にすべて任せてのんびり高み見物 (低みかもしれんが)を決め込んでやがる。

 なんせさっきから戦ってるのは俺と彼女だけ。ほら、こんなこと言ってる傍から――。

「危ない!」

 赤黒い汚泥のようなスライムが血を張って襲いかかってくるのを、間一髪で叩き斬った。
 スライムってのはこう攻撃性や殺傷能力が強いんだ。あと俊敏だしな。
 気づくとまたたく間に取り込まれて後には骨すら残らない。
 出会ったら逃げるか、こうやって速攻斬り捨てるくらいじゃないと。

「このスライム……この地方では見ない種だ」

 彼女が低くうめくように呟いた。
 色やその光沢によって、こいつらは細かく分類される。多くは半透明の無色。時折、こけに擬態するように緑色のものが見られる。
 だがこんなグロテスクなものは見たことがない。

「目玉があるね」

 アルワンが木の棒つつきながら言う。
 確かに、眼球らしきものが一つ二つじゃなくいくつも中にある。それだけでなく。

「体毛や皮膚の一部にもみえるな」

 スチルの言葉に改めて観察すると、どうやら何人もの人間や他の生き物を取り込んでいるようだ。
 
「このスライムはかなりの食いしん坊さんってことだね」
「そんな可愛いモノじゃない」

 アルワンが興味深げに目を細め、ヴィオレッタが横目で睨む。
 でも間違っちゃいない。
 こいつ、大勢の人間や生き物を捕食している。

「おい、見ろ」

 彼女が指を指す。

「嘘だろ」

 目を疑った。
 そこには俺でも目を覆いたくなる光景が広がっていたからだ。

「うわぁ。スライム大漁だね」

 音もなく集結したスライムども。しかもそれらはすべて赤黒い腐肉のような色をして、中には未消化の手足がぶら下がっていたり生えていたり。
 低い呻き声も発していた。

 たすけて。殺してくれ、と懇願する声もする。

「これは……」

 その中に何かを見つけたらしい。ヴィオレッタは絶句したように言葉を失った。

「これはまずいぞ」

 俺が剣を構えた瞬間、無数のスライム達は一斉に飛びかかってきた。


 









 




 

 

 

 
 
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