元王子クロイツとその弟子達

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ベナマス一行とベルヘルト(1)

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「陛下、グアトロ国王からの直接の依頼でございます。何でも、市場のポーション不足を補うべく、素材となり得る純度の高い魔核が必要で、ダンジョンに潜って採取する依頼となっております」

「なるほど。流石にこれだけポーションが無ければ国家として動くか。確かに我らが覇権を握るための行動にもポーション不足は致命傷になるからな。良いだろう。その依頼、受ける旨回答しておけ」

 こうして依頼を受けたベナマス国王は、配下の者達に純度の高い魔核が得られる場所……即ち高ランクの魔獣が存在するダンジョンの調査を命じた。

 調査せずとも、ダンジョン町に隣接している岩の隙間から入れるダンジョンは1階層侵入直後から純度の高い魔核が取れそうな魔獣が闊歩しているのだが、そこは魔核を得る前に命を捨てる事になる上、そもそもナスカ王国と関連のある者の近くで活動する気にはならなかった。

 条件としては、ランクの高い魔獣が単独・・で比較的浅い層に存在している事に尽きている。

 目的の魔獣のいる場所に到達する前に疲弊しては元も子もないのだ。

「魔核……相当慎重に準備せねばならんな。しかし良い経験にもなる。余の軍が練度を上げ、近いうちにシス連合国を掌握してやる」

 ベナマス国王が呟いている通り、魔獣に対して最も致命傷を与えられる場所の一つが人で言う所の心臓になる魔核だが、そこを攻めては魔核としての価値が下がり、場合によっては破壊されて使い物にならなくなるのだ。

 暫く国家上げての調査が続き、比較的浅い層に高ランクの魔獣の目撃情報がある事、更には単体で活動している事、そこに至るまでの魔獣は高ランクの魔獣がいない事と言う条件に合致するダンジョンが見つかったとの報告を受けた。

「ご報告いたします。目的の場所が見つかりました。どの国家の領土にもなっておりませんが、リベラ王国が最も近くなっております。あまり古いダンジョンではないらしく、そのおかげか浅層では低ランクの魔獣がおり、少し潜れば高ランクの魔獣が単体でいるそうです。恐らく、新しいダンジョン故に大量に高ランクの魔獣を準備できないのでしょう」

「わかった。だが、油断せずに情報を精査して準備しろ。今は赤の紋章もおらんのだ。慎重に慎重を期して準備しろ。これも良い訓練だ!」

「はっ!」

 過去であれば囮に使いつつも、場合によっては自爆覚悟の攻撃を行える赤の紋章を引き連れて傭兵紛いの仕事を行ってきたのだが、今では赤の紋章を見る事が出来ないので、以前と同じ行動を行う事は出来ない。

 報告をした騎士はこの場から急ぎ去って行くが、国王の指示通りに各種情報を精査の上で対応できる準備を整えるのだろう。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ポーション不足の原因としてダンジョン町を認識させて大陸中の民からの怒りの視線を向ける事には失敗したベルヘルトだが、ダンジョンから魔核を入手する依頼先がベナマス王国であれば話は少々異なってくる。

「ベルヘルト様。ベナマス王国からの使者がお見えです」

 馬車で5日程度と、この大陸の中では比較的近い場所にあるシス連合国の一国であるベナマス王国と、ベルヘルトがいるポーションの産地であるグアトロ王国。

 今回の依頼が出されると聞いた直後に、ベルヘルトは以前から親交のあるグアトロ国王に直接親書を送っており、その内容を吟味した国王側から使者が来たのだ。

「お通ししなさい」

 無駄に豪華な執務室の椅子の前に立ち、ベナマス王国からの使者を迎え入れるベルヘルト。

「ようこそお越しくださいました。ベナマス陛下はご健勝ですかな?」

「はい。以前ベルヘルト様から納入頂いた魔道具を重宝しておりますよ」

 ベルヘルトは軽い挨拶をしている最中に職員を退出させて密室状態を作ると、表情を変えて話始める。

「あの親書をお読み頂いた上でお越し頂けたと言う事は、全て了解して頂いたと言う事で良いのでしょうか?」

「その通りですが難易度が不明なので、報酬の赤の紋章の人数も調査の上で決定したいとの事でした」

「同然ですね。店の名前は“龍と高ランカーの集い”です。あの店の客はクロイツ一行を模した連中がわんさかおりますが、皆偽物ですから、そこは安心してください」

 ベルヘルトは、自ら命令できる奴隷商に勤めている人材によって赤の紋章を作りだす事が出来るので、闇の奴隷商と繋がりがないまま商会長と言う地位に至るまでに赤の紋章を使って悪事に手を染めた経験がある。

 そこを踏まえて、シシリーをその手に入れる事を条件に今回ダンジョン遠征の際に赤の紋章を作成して譲渡する事を提案したのだ。

 その後この使者の男はハルミュレの店に新規の客として入り、薄暗い中でも少々赤い光が照らされている店内で、白や黒の外套を羽織った者やクロイツの真似をしている者しかいなかった事から、自分が浮いてしまっていると感じていた。

「このお店は、中々のお店ですね。クロイツを始めとしたSSランカーを称えるお店ですか?」

 怪しまれないように、クロイツ達に尊敬の念がある態度のまま客として違和感のない状態で話を進める。

「そうなのですよ。あ、私はシシリーと申します。お客様は初めてですよね?随分とご立派な……どこかの文官さんなのでしょうか?」

 ベルヘルトの所に向かった使者としての服装のまま来てしまった事に少々眉を顰めてしまったが、笑顔でかわし、難なく対象の人物を特定できた事に安堵した。
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