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ギルド【鉱石の彩】

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「帰ったぜ!」

 ミハイルが自らギルドマスターを務める【鉱石の彩】に、クオウ達と共に戻る。

「どうだった?やはりダメか?」
「まぁ、普通に考えれば覆らないだろうが」

 奥から二人が出てきて、それぞれが思いを口にする。
 そんな言葉を無視するように、ミハイルは出てきた二人をクオウ達に紹介し始めた。

「こいつらが俺の仲間で、ギルドのメンバーだ。こいつが錬金術士のロレアル、こいつが鑑定士のバーミル、そして俺がギルドマスターであり鍛冶士のミハイルだ」

 突然第三者がやってきたので、ランクダウンの処置に来たギルド本部の人間だと思っていた二人は、その中に少女がいる事に気が付いて勘違いであると理解する。

「おい、ミハイル。この方達は?」
「おぅ、聞いて驚け。あの信じられねー素材を納品したギルド【癒しの雫】のメンバー様御一行だ」

 互いに自己紹介が始まり、ギルドでの出来事も説明したミハイル。
 その中には、決定は覆らないと言う事も含まれており、明らかに落胆しているロレアルとバーミルだ。

 ギルドランクが下がると受けられる依頼の幅も狭くなり、対応する報酬も下がるからだ。
 もちろんギルドに対する指名依頼も大幅に減少する事になる。

 特に武具作成に特化したこのギルド【鉱石の彩】では、当然他のギルドが内部に抱えている鍛冶士では対応しきれない仕事を貰っている形になっていたので、固定客が存在していない。
 自ら稼ぐ討伐系統の依頼も、冒険者がいないので受けられないのだ。

 そんな中、安定した発注を掛けてくれていた【勇者の館】のクレームによってランクが下がり、そのおかげで信頼度が下がるので【勇者の館】による余計な圧力がなくとも、じり貧になるのは目に見えている。

 そもそも、ギルドからの依頼を受けて信頼度を上げる必要があるのだが、冒険者が所属しているギルドではないために鍛冶に関する依頼しか受けられないが、鍛冶関連単体の依頼は絶対的に数が少ない。

 各ギルド内部で抱えている鍛冶士達が個別に対応してしまうからだ。
 こうなるとギルド本部からの信頼度が下がる一方で、最悪ギルドとして立ち行かなる可能性すらあるのだ。

 そこまで理解している二人に元気がないのは仕方がない。
 既に諦めの境地になっているミハイルだけは、空元気を出している。

 誰もが見惚れるフレナブルにさえ、一切の関心を示さないのが良い証拠になっているだろうか。

「あの、皆さんの武具を見せて頂ければと思い、ミハイルさんに無理を言ってお願いしたのですが、宜しいですか?」

 ここで、クオウが話を進める。

「実は、【癒しの雫】の冒険者であるこのフレナブル、まともな武具を持っていないのですよ。この後安定して依頼を達成するためには武具は必要だと思っているのですが、ご存じの通り俺達は三人で活動していて、鍛冶士や錬金術士、鑑定士、解体士すら所属していません。ですから、信頼のおける武具を得る必要があると思って情報収集をしています」

 ここでようやく三人の目に力が灯ってくる。
 【勇者の館】にはある意味盛大な裏切りをされたが、あの素材を納入できる力のある【癒しの雫】に納品する事が出来れば、再びCランクも夢ではないと思ったのだ。

 もちろんクオウが言っているように、冒険者に対して武具が必要である事は誰しもが認めるだろうが、実際にフレナブルは武具を一切使用せずとも、あのAランクの魔獣でさえ難なく始末する事が出来る。

 つまり、明らかに【鉱石の彩】救済のためだけにクオウはこのような事を言っているのだ。

 クオウとフレナブルは、その言葉を聞いたシアが安心したように微笑んでいるので、このまま話を進める事にした。

「当方のギルマスも賛成の様ですので、このまま話を進めさせて頂いても宜しいですか?」

 改めてクオウが【鉱石の彩】の三人に話すと、三人は喜び勇んでおくから数々の武具を持ってきた。

 短剣、弓、杖、流石に見た目は細い女性であるフレナブルに対応する武具という事で、斧や長剣の類は無かったが、多種多様な武具がクオウ達の目の前に並ぶ。

「おぉ~、これは凄いですね」
「クオウ様。私も感動いたしました」
「クオウさん、フレナブルさん、私、よくわかりませんが、ここにある武具はとっても奇麗です!」

 クオウやフレナブルはもちろん鑑定の力を持っているが、その力を使うまでもなく目の前の武具がとても良い出来だと体感で理解している。
 シアについては、やはり極上の武具は見た目も美しいので、そのままの感想を述べている。

「私、この杖を試させて頂こうかと思います。一応これでも魔術が得意ですので」
「そうなのかい?まぁ、確かに物理的な攻撃じゃあ、あれ程奇麗な状態で魔獣は納品出来ねーわな」

 鍛冶士であるミハイルが思ったままを口にするのだが、どのように仕留めたかなどの余計な事は聞いてこない。

「マスター、これから【癒しの雫】は有名になるにつれ、謂れなき妬みによる攻撃を受ける可能性が出て来ると思います。マスターとしても、何か一つ身を守る力をつけた方が良いと思うので、どれか直感で選んで見て下さい」

 シアに対して、事務職で得た知識を元に対策するべきだと進言するクオウ。

 シア本人も、今迄のギルド運営の経験で理解したことがある。
今まで散々両親がお世話をしていた人々すら容易に自分を切り捨ててくる事を目の当たりにしていたので、クオウの言っている事も強ち間違いではないと思ったのだ。

「今の私では……やはりこの短剣でしょうか?」

 少女であるが故、あまり複雑な武具は使えない。
 護身用であるならば、短剣が持ち運びにも良いし、扱いも良いと考えたのだ。

「そうですね。私もそれがマスターに合っていると思いますよ」

 クオウのこの一言で、短剣と杖をその場で購入する事にした二人。
 もちろんこのまま購入しても【鉱石の彩】の信頼度上昇には寄与できないので、少々費用は高くなるのだが、ギルド本部に指名依頼と言う形で依頼をして購入する事にした。

「ありがとよ。だがな、俺達はこの武具販売には一切の妥協をしていないつもりだ。あんたらが出した結論は、一切の妥協なく本部に伝えてくれ」

 シアについては相当後になるのかもしれないが、フレナブルについては冒険者である以上、それほど時間が経過せずに評価をギルド本部に伝える事が出来る。

 その際には、色目を一切使うなとミハイルは釘を刺しているのだ。
 鍛冶に対する想い、そして自分達の仕事へのプライドがそうさせているのだろう。

 そこまで言われずとも、今の時点で素晴らしい武具だと理解できているクオウとフレナブルだが、余計な事は口にしなかった。

「わかりました。そのようにさせて頂きます」

 こうして、一旦【鉱石の彩】から【癒しの雫】に戻る三人。

「クオウさん、【鉱石の彩】の所って、暫くは大丈夫なのですよね?」
「はい。大丈夫ですよ。心配しなくとも、あれ程しっかりとした仕事をしているのですから、全く問題ありません」
「そうですよ、シア様。あ、そうでした。その短剣を使った訓練、少しずつで良いので毎日実施しましょうね。私の方で教えて差し上げます」

 自分は魔術が得意と言っていたフレナブルだが、ありとあらゆる武具に精通している。
 その中でも魔術が一番楽である為に、そう言っているだけに過ぎなかったりする。
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