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ルーカスとギルド本部(1)

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 死を覚悟したダンジョンの依頼から無事に帰還したルーカス一行は、一先ず疲れを癒すために【勇者の館】に帰還した。

「全員装備の確認をしろ。それと、エリザを呼べ」

 Sランクのルーカスは、ここに来るまでに精神的にも肉体的にもある程度回復したが、他のメンバーはそうではない。
 見てわかる程全員が疲弊しているので、装備を確認後は一旦休ませる事にした。

 その間に、事務方であり、ギルド本部と繋がっている(と思っている)エリザに今後の対応を相談する事にしたのだ。

「お待たせしました」

 他のメンバーから既に事情を聞いているエリザは、ルーカスがこれから何を話そうとしているのかも理解している。
 伊達に長くルーカスの腰巾着として過ごしている訳ではない。

「座れ。もう聞いているだろう?フレナブルの所の【癒しの雫】。そしてそこに移籍したミハイル達【鉱石の彩】三人の話」
「はい。ハンナから聞きました。有り得ないですね。どこまでも腐った連中です。私が今から本部に行ってその蛮行を余すことなく伝え、更なる処罰を申請致しましょうか?」

「蛮行を伝えるのは当然だな。そもそもギルド本部の怠慢によって俺達は危険に晒された。まさか一体と思ったランドルが、上位個体まで含めて四体もいるとは思いもしなかったぞ。そこも厳しく追及しなくてはならない。それで……」
「成程。ランドルの本体はこちらにあるのですね?だとすれば、再び【癒しの雫】の卑しい連中がこちらの成果を奪ったと進言すれば、ギルド本部の怠慢による情報不足によって【勇者の館】を危険に晒したお詫びとして、あの小物の本部ギルマスであるツイマも【癒しの雫】に対して厳しい処罰を行うでしょう」

 下種な会話がなされ、方針が決定すると二人揃って近くにあるギルド本部に移動する。

「これはルーカス様とエリザ様。今日はどういったご用件でしょうか?」

 今まで受付には一切いなかったギルドマスターであるツイマがいて、声を掛けてくる。

「ツイマさん、最近は受付にいる事にしたのですか?」
「ええ、【勇者の館】の皆様に対する礼儀がなっていない受付が多すぎるので、暫くはこの私、ツイマが【勇者の館】の担当をさせて頂く事にしたのです」

 本当は全ての受付に【勇者の館】の担当を拒否されただけなのだが、そのような事実を告げてへそを曲げられても困るので、取り繕うように説明する。

「それは苦労するな、ツイマ。で、聞くが、【癒しの雫】もあのダンジョンの依頼、どうやらAランクのランドルの調査依頼を受けていたようだが、帰還しているか?」
「よくご存じですね、流石は【勇者の館】です。【癒しの雫】は、しょせんはDランク。皆様とは違って、それほど早くは依頼を達成できるわけはありませんから、まだこちらには来ておりません」

 ツイマの予想とは異なり、既にフレナブルは一旦【癒しの雫】に戻りメンバー全員に事情を説明の上、救出したシルバとカスミを【自由の風】に送り届ける事にしていたので、ギルド本部に今尚来ていないだけである。

「流石はフレナブルさんです。Aランクと聞いてちょっとだけ心配しましたけど、やっぱり余計な心配でしたね!」

 嬉しそうにはしゃぐのは、フレナブルの話を言いているギルドマスターであるシア。

「フフ、ご心配をおかけして申し訳ありません、シア様。ですが、私は全く問題ありませんよ。ミハイルさん、ロレアルさん、バーミルさんの作品もありますし」
「ハハハ、嬉しい事を言ってくれるじゃねーか、フレナブルさん。アレ?」
「錬金術師冥利に尽きますな……ムム?」
「嬉しい話ですが……フム?ちょっとそれ、壊れていますね?」

 魔道具、武具作成バカの三人が、目ざとく棒が少々破壊されている事に気が付いた。

 このまま行くと、ここで改良のための事情聴取を強制的に受ける事になり、かなりの長時間拘束される事が分かっているフレナブルは、少々冷や汗をかいて即座に対応する。

「そ、そうですわね。ですが、そのお話はお二方をお送りして、ギルド本部への書類を提出した後で宜しいでしょうか?」
「その方が良いね。フレナブルは送ってきてくれるかい?その間に書類は作っておくから、一旦送って戻ってきた後に本部に一緒に行こう」

 クオウが〆て、一応この場では事なきを得た。

 調査結果としては、確かにAランクのランドルがいたのだが、一体ではなく魔術を行使する個体が三体、通常の個体が一体の合計四体存在していた事。

 更には魔術を行使する三体の中の一体は、人言を理解する程の特殊個体だったと言う報告になるのだが、既に始末している為、始末した事に関する報告書も必要になる。

 クオウは慣れた様子でササッと書類を書き上げる。

「ほぇ~、クオウさんは相変わらず凄いですね。私がその書類を仕上げようとすると、二日はかかると思います」
「ははは、マスター。慣れですよ、慣れ!」

 たわいもない会話も楽しい物だと思いつつ、シアと話しているクオウ。

 その横の椅子では、魔道具バカの三人が棒についての議論を深めていた。
 詳細はフレナブルから聞いていないので全て憶測での話になるのだが、かなり白熱していたのだ。

 その内容も白熱しつつも楽しそうで、頬が緩むクオウ。

「只今戻りました!」

 フレナブルの声がしたので、書類と共に受付に向かうシアとクオウ。

「あれ?何故皆さんが?」

 シアの言う通り、そこには所属するギルドである【自由の風】に送り届けたはずの夫婦二人、シルバとカスミがいたのだ。

「えっと、実は……」

 シルバによれば、気絶していたカスミは何も知らないので、ダンジョン内部で起こった事実、【勇者の館】の蛮行を含めてシルバが説明したのだが、Sランクギルドと個人でSランクのルーカスに歯向かう事を良しとしないギルドマスターによって強制脱退させられてしまったとの事だったのだ。

「呆れますね。本来ギルマスとは所属のメンバーを守るのが普通です」

 両親の姿を見て来たシアにとっては、全く信じられない事が起こっていたのだ。

「情けない姿を恩人であるフレナブルさんに見せてしまいましたが……」

 その後言い淀むシルバに代わって

「クオウ様、シア様、私がこのお二方を【癒しの雫】に加入してはどうかとお誘いしたのです。如何でしょうか?」

 シルバとカスミとしては、命を救ってもらったのに所属ギルドではお礼を言われないばかりか、厄介払いのように自分達がギルドを追い出されると言った情けない姿を晒している上に、新たに【癒しの雫】に加入を勧めてくれる事に対して負い目があり、言い淀んでしまったのだ。

 ギルド所属の冒険者、高レベルの冒険者が増える事はギルドにとってプラスにはなる。

 しかし、このジャロリア王国最大のギルドである【勇者の館】に睨まれるのは間違いないであろう二人の加入は、漸く軌道に乗り始めているギルド【癒しの雫】にとって負担以外の何物でもないはずだと理解していたのだ。

 そうは言っても二人は冒険者として生計を立てていたので、継続して活動するにはどこかのギルドに所属するか、自らギルドを設立する他ない。

 着の身着のまま突然解雇通知を言い渡されてギルドから追い出された二人には、ギルド設立に必要な資金すらないので、今日明日の食事にも困る有様だったのだ。

 悲しいかな、この現状は二人の力では変える事が出来ないのだ。
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