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【癒しの雫】のとある一日
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ルーカスが王城に呼び出された翌日、【癒しの雫】の夕食の場。
腕によりをかけて作った食事を、【癒しの雫】全員が美味しそうに食べてくれているのを見て頬を緩めるクオウ。
「クオウの旦那!相変わらずの腕前だな!俺達、武具、魔道具には自信があるが、飯だけはだめだからな」
いつの間にか鍛冶士であるミハイルから旦那呼びをされているクオウだが、悪い気はしていない。
寧ろ、壁が取れたようで嬉しく感じている。
そのミハイルに続くように、魔道具バカ三人の残りに二人である錬金術士のロレアルと、鑑定士のバーミルが口を開く。
「そうですね。俺にできる事と言えば……錬金術で良い調理器具を作成する事……位かな?でもミハイル……お前は掃除もダメだろう?」
「俺もロレアルと同じだな。と言うか、俺は出来た物を鑑定して不具合を見つけたり、素材を厳選したりだね。こんなに美味い物を作れるわけがない。仕事場も充実しているし、食事も素晴らしい。最早以前の【鉱石の彩】として活動するなんてあり得ないな」
男三人で活動していた【鉱石の彩】時代には絶対に戻れないと断言するバーミルに対し、残りの元メンバーであるミハイルとロレアルも激しく同意する。
「ちげーねーな。冷静に考えりゃ、あんな汚ねー場所で、質素な食事。うん?アレは食事と言って良いか分からねーが、最悪だったな」
「大体、掃除ができないミハイルが散らかしていましたけどね」
楽しい雰囲気の中、更に【癒しの雫】所属メンバーは感想を述べて行く。
「本当ですね、とっても美味しいです。クッ、なんだかクオウさんに女子力で大きく負けた気がします!」
「ハハハ、カスミ。諦めも肝心だぞ!これだけの味、そうそう出せるもんじゃない。でもカスミの食事も美味しいぞ!」
悔しがる冒険者のカスミを宥めるのは、夫のシルバ。
さりげなく惚気ているのは御愛嬌。
この二人は【自由の風】に所属していた冒険者だが、【勇者の館】とのトラブルを恐れたギルドマスターによって不当に解雇され、【癒しの雫】に加入したCランクの冒険者だ。
「うへぇ~、ご馳走様です、カスミさん、シルバさん。なんだか口が甘くなってきちゃいましたよ」
「フフフ、でも仲の良い事は素晴らしい事ですよ、シア様」
ワザとおどけて見せたのは【癒しの雫】ギルドマスターではあるが、少女と言っても差し支えない年齢のシア。
その姿を見て美しい所作で微笑みながら話すのは、実は魔族であり、先代魔王であるクオウ時代に最強戦力とされていた四星の中の一星であるフレナブル。
「ところで旦那。フレナブルさんが仕留めた前回のAランクの魔獣、確かランドルだったよな?実はあのレベルの心臓、魔石として使いてーんだが……どこかで手に入らねーかな?できれば三つ欲しいんだが」
突然ミハイルから要求が来た。
本来はギルドマスターのシアに真っ先に相談する案件だが、年齢から事務職であるクオウが全てのサポートをしているので、直接クオウに相談したのだ。
ミハイル達は何かあればもちろんシアにも報告するのだが、この場で言えばシアも聞いているので丁度良いと思っている。
「えっと、なんでですか?」
当然の疑問を口にするクオウ。
三つと言う個数から使用用途の推測は出来ているが、一応確実な理由を知っておきたいと思っているのだ。
「実は、三つ魔道具を作りたくってな。二つはシルバとカスミの武具、一つはフレナブルさんに渡した棒の改善だな」
深く頷いているロレアルとバーミルも説明する。
「あの後、フレナブルさんに事情を聞いて記録の魔道具からの情報を補完した結果、棒の強度を上げる必要があると判断しました」
「そう。俺の鑑定でも、明らかに攻撃力に対しての強度不足が示唆されたので、対策は絶対に必要だ」
「フフフ、皆さんは事情を聞くと言うよりも、強制聴取でしたわよ。魔道具にかける情熱が素晴らしいですね」
事実、強制的に彼らの仕事場に拉致されて行ったフレナブルの言葉に、同じような経験をしたのであろうシルバとカスミも苦笑いしている。
「アハハハ、すまねーな、フレナブルさん。それと、さりげなく苦笑いしているお二人さん。俺達、どうも魔道具の事になるとブレーキがかかり辛くてよ」
和やかな雰囲気で食事は進む。
「クオウさん、こう言った場合は本部に依頼を出すか、次の納品をしなければ良いのですか?」
シアは、ギルドマスターとしての本来の仕事を覚える為、内容によって対応をクオウから教わっている。
「そうですね、本部に依頼を出してもあの上質な素材を得る事は難しいでしょう。仲間の安全につながる素材入手ですから、最も信頼できるフレナブルが入手するのが良いでしょうね。その場合、依頼の討伐証明に心臓以外を使えば良いので、本体を納品すれば問題ないですね」
その代わり、買い取り金額は少々下がりますが……と付け加え、シアにギルドマスターとしての知識を教えるクオウ。
シアが必死で知識を吸収しようとするその姿勢にも好感を持っているクオウだ。
結局、素材に関してはAランクの魔獣を三体、ギルドを通さない形でフレナブルが入手し、必要な部分だけ抜き取ったうえで本部に納品する事にした。
本部からの依頼を受けての討伐・納品ではないために評価や買い取り額は少々下がるが、そこは仕方がない。
本部の依頼として受けると、必要な素材、最も貴重な素材を除く納品をする事になるので、期待を裏切ってしまう可能性があるからだ。
その後、武具、魔道具の話になってしまったので、食事が終わった後も強制的に全員が魔道具バカ三人の話を延々と聞かされる羽目になっていた。
しかし彼ら三人の知識は深く冒険者としてためになる上、クオウですら知らない知識が豊富にある為に、誰もが楽しくその話を聞く事が出来ていたのだ。
眠気に勝てずに、ソファに移動されて寝息を立てているシア以外……
「ふぅ~、今日はこんな所だな」
「そうだな。次は、それぞれの武具が出来た時に特徴とかを説明する方が良いかもしれないな」
「特徴であれば、鑑定士であるこの俺に任せてくれ!」
漸く魔道具に関する説明会が終わったので、各々部屋に戻る。
シアは、フレナブルが優しく抱きかかえて部屋に連れて行った。
こうして【癒しの雫】の日常は過ぎて行く。
「あ~、事務処理以外にもこれ程楽しい生活が出来るなんて思ってもいなかったな!それも、マスターとフレナブル、そして仲間皆のおかげだ。これからも【癒しの雫】を大きくしていかないと!」
クオウの喜びの声と共に……
腕によりをかけて作った食事を、【癒しの雫】全員が美味しそうに食べてくれているのを見て頬を緩めるクオウ。
「クオウの旦那!相変わらずの腕前だな!俺達、武具、魔道具には自信があるが、飯だけはだめだからな」
いつの間にか鍛冶士であるミハイルから旦那呼びをされているクオウだが、悪い気はしていない。
寧ろ、壁が取れたようで嬉しく感じている。
そのミハイルに続くように、魔道具バカ三人の残りに二人である錬金術士のロレアルと、鑑定士のバーミルが口を開く。
「そうですね。俺にできる事と言えば……錬金術で良い調理器具を作成する事……位かな?でもミハイル……お前は掃除もダメだろう?」
「俺もロレアルと同じだな。と言うか、俺は出来た物を鑑定して不具合を見つけたり、素材を厳選したりだね。こんなに美味い物を作れるわけがない。仕事場も充実しているし、食事も素晴らしい。最早以前の【鉱石の彩】として活動するなんてあり得ないな」
男三人で活動していた【鉱石の彩】時代には絶対に戻れないと断言するバーミルに対し、残りの元メンバーであるミハイルとロレアルも激しく同意する。
「ちげーねーな。冷静に考えりゃ、あんな汚ねー場所で、質素な食事。うん?アレは食事と言って良いか分からねーが、最悪だったな」
「大体、掃除ができないミハイルが散らかしていましたけどね」
楽しい雰囲気の中、更に【癒しの雫】所属メンバーは感想を述べて行く。
「本当ですね、とっても美味しいです。クッ、なんだかクオウさんに女子力で大きく負けた気がします!」
「ハハハ、カスミ。諦めも肝心だぞ!これだけの味、そうそう出せるもんじゃない。でもカスミの食事も美味しいぞ!」
悔しがる冒険者のカスミを宥めるのは、夫のシルバ。
さりげなく惚気ているのは御愛嬌。
この二人は【自由の風】に所属していた冒険者だが、【勇者の館】とのトラブルを恐れたギルドマスターによって不当に解雇され、【癒しの雫】に加入したCランクの冒険者だ。
「うへぇ~、ご馳走様です、カスミさん、シルバさん。なんだか口が甘くなってきちゃいましたよ」
「フフフ、でも仲の良い事は素晴らしい事ですよ、シア様」
ワザとおどけて見せたのは【癒しの雫】ギルドマスターではあるが、少女と言っても差し支えない年齢のシア。
その姿を見て美しい所作で微笑みながら話すのは、実は魔族であり、先代魔王であるクオウ時代に最強戦力とされていた四星の中の一星であるフレナブル。
「ところで旦那。フレナブルさんが仕留めた前回のAランクの魔獣、確かランドルだったよな?実はあのレベルの心臓、魔石として使いてーんだが……どこかで手に入らねーかな?できれば三つ欲しいんだが」
突然ミハイルから要求が来た。
本来はギルドマスターのシアに真っ先に相談する案件だが、年齢から事務職であるクオウが全てのサポートをしているので、直接クオウに相談したのだ。
ミハイル達は何かあればもちろんシアにも報告するのだが、この場で言えばシアも聞いているので丁度良いと思っている。
「えっと、なんでですか?」
当然の疑問を口にするクオウ。
三つと言う個数から使用用途の推測は出来ているが、一応確実な理由を知っておきたいと思っているのだ。
「実は、三つ魔道具を作りたくってな。二つはシルバとカスミの武具、一つはフレナブルさんに渡した棒の改善だな」
深く頷いているロレアルとバーミルも説明する。
「あの後、フレナブルさんに事情を聞いて記録の魔道具からの情報を補完した結果、棒の強度を上げる必要があると判断しました」
「そう。俺の鑑定でも、明らかに攻撃力に対しての強度不足が示唆されたので、対策は絶対に必要だ」
「フフフ、皆さんは事情を聞くと言うよりも、強制聴取でしたわよ。魔道具にかける情熱が素晴らしいですね」
事実、強制的に彼らの仕事場に拉致されて行ったフレナブルの言葉に、同じような経験をしたのであろうシルバとカスミも苦笑いしている。
「アハハハ、すまねーな、フレナブルさん。それと、さりげなく苦笑いしているお二人さん。俺達、どうも魔道具の事になるとブレーキがかかり辛くてよ」
和やかな雰囲気で食事は進む。
「クオウさん、こう言った場合は本部に依頼を出すか、次の納品をしなければ良いのですか?」
シアは、ギルドマスターとしての本来の仕事を覚える為、内容によって対応をクオウから教わっている。
「そうですね、本部に依頼を出してもあの上質な素材を得る事は難しいでしょう。仲間の安全につながる素材入手ですから、最も信頼できるフレナブルが入手するのが良いでしょうね。その場合、依頼の討伐証明に心臓以外を使えば良いので、本体を納品すれば問題ないですね」
その代わり、買い取り金額は少々下がりますが……と付け加え、シアにギルドマスターとしての知識を教えるクオウ。
シアが必死で知識を吸収しようとするその姿勢にも好感を持っているクオウだ。
結局、素材に関してはAランクの魔獣を三体、ギルドを通さない形でフレナブルが入手し、必要な部分だけ抜き取ったうえで本部に納品する事にした。
本部からの依頼を受けての討伐・納品ではないために評価や買い取り額は少々下がるが、そこは仕方がない。
本部の依頼として受けると、必要な素材、最も貴重な素材を除く納品をする事になるので、期待を裏切ってしまう可能性があるからだ。
その後、武具、魔道具の話になってしまったので、食事が終わった後も強制的に全員が魔道具バカ三人の話を延々と聞かされる羽目になっていた。
しかし彼ら三人の知識は深く冒険者としてためになる上、クオウですら知らない知識が豊富にある為に、誰もが楽しくその話を聞く事が出来ていたのだ。
眠気に勝てずに、ソファに移動されて寝息を立てているシア以外……
「ふぅ~、今日はこんな所だな」
「そうだな。次は、それぞれの武具が出来た時に特徴とかを説明する方が良いかもしれないな」
「特徴であれば、鑑定士であるこの俺に任せてくれ!」
漸く魔道具に関する説明会が終わったので、各々部屋に戻る。
シアは、フレナブルが優しく抱きかかえて部屋に連れて行った。
こうして【癒しの雫】の日常は過ぎて行く。
「あ~、事務処理以外にもこれ程楽しい生活が出来るなんて思ってもいなかったな!それも、マスターとフレナブル、そして仲間皆のおかげだ。これからも【癒しの雫】を大きくしていかないと!」
クオウの喜びの声と共に……
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