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ルーカスの依頼(1)

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 ルーカスがツイマにした提言は、決して違法なものでは無い。

 【癒しの雫】への襲撃すら失敗しており、連続して直接的な関係者を使って同じような事をするほど馬鹿ではなかったのだが……裏の繋がりは別であり、ルーカスとの関係について悩んでいる本部ギルドマスターのツイマも、恐らくルーカスが裏の人材を使って悪さをするだろうという事も理解していた。

 ルーカスのギルド【勇者の館】が受けている新魔王ゴクド討伐および活性化した魔獣の対応については進捗が思わしくないおかげで、ギルドの信頼も下がってきている事は事実なのだが、ルーカスに言わせれば、どれだけ大変か分からずに、口だけ出して来るクソ共!という事になる。

 そこで閃いたのが、最近明らかに評判をあげているクオウが所属している【癒しの雫】にも同じ依頼を出して狩ってきた魔獣の量や質を比較させる事で、どれだけ【勇者の館】が優秀なのかを再度認識させようと思っていたのだ。

 ついでに、Aランク魔獣をあれ程の状態で仕入れて来る秘密も暴けるように、期間限定ではあるが合同依頼として、魔王ゴクドによって暴走している高ランクの魔獣の始末をさせる事を提案した。

 期間限定としたのは、万が一にも【癒しの雫】が【勇者の館】と同等に近い成果を叩き出してしまった場合、自分達の存在意義が薄れる為、継続しての依頼を受けさせないようにすると言うセコイ考えからだ。

 ルーカスとしては、確かにAランク魔獣の状態は素晴らしいためにかなりの戦力を持っているだろうと言う事はわかっている。

 何と言ってもフレナブルの実力の一端をその目で垣間見ているのだから。

 しかし、それは武具の性能によるところが大きく、絶対に【勇者の館】よりも格下である事は疑いようがないとも思っている。

 本部で合同依頼の提案をしてきたルーカスは急ぎ【勇者の館】に戻り、事務職側のリーダーであるルーニーを呼び出しこう告げる。

「良いか、最近の俺達の依頼達成率の低下は武具によるところが大きい。今回、新たに俺達の力を知らしめるために【癒しの雫】との合同依頼として魔獣の始末を行う事をツイマに提言してきた。比較対象があれば俺達が如何に素晴らしいか、【癒しの雫】が口先だけのカスの集まりかを分からせる事が出来る。わかっているな?今回は金に糸目をつけずに、高レベルの武具を準備しろ。今すぐだ!」

「承知しました」

「そうだ、それと【闇夜の月】と渡りをつけておけ」

「!……し、承知しました」

 ルーニーが一瞬絶句したのだが、ルーカスが伝えたこの【闇夜の月】は所謂ギルドであり、正式なギルドとしては認められていない。

 当然本部からのギルドカード作成用の魔道具を渡されているわけもなく、その存在すら公になっていないギルドだ。

 その仕事は多岐にわたる……と言われているが、闇ギルドだけあって裏の仕事を行っていると言う話だけはジャロリア王国にまことしやかに囁かれている状態で、誰もがその存在を知らず、単純に噂話、都市伝説だと言い切る者もいるほどだ。

 そこに渡りをつけろと平然と指示を出すルーカス。

 既に先代魔王を討伐した<勇者>時代から【闇夜の月】には依頼をだしており、今尚その繋がりは切れていない。

 当時は人族に仇成す魔族の詳細情報収集と言う、真っ当な依頼を出していた。

 普通の冒険者では対応できず、報酬次第では何でも引き受けると言い切る【闇夜の月】を重宝していたので、その実力も把握済みだ。

「フフ、これで四人しかいない【癒しの雫】は必死で魔獣を始末しようとするだろう。その結果、ギルドはがら空きになる。今回の襲撃は鍛冶士共に迎撃されたらしいが、所詮は武具に頼り切るしか能がない半端者。そこに【闇夜の月】を投入すれば……フフフ、クオウ、これが本当の力、【勇者の館】の実力だ!お前もどうせギルドに残る居残り組だろう。そこで悔しさに溺れながら息絶えろ!」

 ルーカスは【癒しの雫】を真っ当そうな理由で魔獣討伐に強制的に参加させ、その隙を突いて闇ギルドの【闇夜の月】に【癒しの雫】襲撃を頼む事にした。

 襲撃について疑われたとしても、その当時に【勇者の館】のメンバーは【癒しの雫】には誰もいないと言う事になり、アリバイも完璧だ。

 今までどのような仕事も引き受けてきた【闇夜の月】であれば、恐らくギルドに残るであろう鍛冶士達三人、ギルドマスターのシア、事務職のクオウは全滅するのは目に見えているので、その後あのギルドの場所を【勇者の館】が奪い取ったうえで、冒険者四人もこき使ってやろう、いや、フレナブルだけは自分の傍において三人は死ぬほどこき使ってやろうと思っていた。

 そこまで考えると今迄の怒りが嘘のようにスーっと引いて行き、漸く一息つく事が出来たルーカス。

 棚から秘蔵の酒を出し、椅子にゆったりと座ってその風味を楽しむ。

「今回はどんな依頼だ?」

 そんなルーカスの目の前の椅子に突然現れた、フードを目深に被った存在。

 声は機械的で、何かしらの魔道具で変声しているのだろう。

 当然性別、人相、年齢全てが分からないが、仮にもSランクであるルーカスの私室にこうも簡単に現れるのだから、実力は段違いだ。

「まだお前との接触を頼んで時間は経っていないのだがな?ペトロシア」

「お得意様の情報は、ある程度掴んでいる」

 自分に気配を察知させずにここまで近接できるとは、いくら酒が入って緩んでいるとはいえ、実力は相変わらずだと安心するルーカス。
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