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【癒しの雫】の活躍(防衛)(4)

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 シアは冒険者ではないと知れ渡っているので、フレナブルとカスミだけでこの大軍を相手にできないだろうと狼狽する。

「はい、そうです。全てお任せください。不安なのは理解できますが、既に私達の実力の一部……威圧による皆様の救助をご覧いただいているはずです」

 こう言われて、漸くこの大量の魔獣が硬直し、その間に仲間を助ける事が出来た事を思い出す騎士。

 冷静に考えればこれだけの事が出来るのだから何とかなるのだろうと思い、希望の表情を浮かべながら頭を下げる。

「失礼しました。確かに救助までして頂いて……大変失礼な物言いでした。お許しください」

「いえいえ、そんな……頭を上げて下さい。まだ私達の戦闘は始まってもいませんから」

 そんな中でフレナブルとカスミは、ミハイルから渡されている武具を手に取って準備運動をしていた。

「これだけ的があれば、好きなだけ打てるわね。フレナブルさん、一発目は私でも良いかな?」

 金と銀が螺旋状に絡まっている様に見える杖を軽く手に持って感触を確かめつつ、Aランカーのカスミはフレナブルにこう告げた。

「ええ、どうぞ、カスミさん。ですが、私の分も少しで良いので残しておいてくださいね」

「ありがとう!じゃあ、本当に少しだけ強めにして見るわね!」

 カスミは意識を集中して杖に魔力を込め始める。
 ラトールが威圧を行っていた時と似たような大気の振動を感じ始めるこの場の全員。

 騎士達や冒険者は唖然とし、シアとフレナブルは、魔道具三人組の技術の高さに感心していた。

「フレナブルさん、カスミさんって少しだけ強めって言っていましたよね?だとすると、フレナブルさんは、相当力を抜かないと危なくないですか?」

「……正直、そうかもしれませんね。まさかこれほどとは。この力が有れば、カスミさんもジュラ相手であっても一発ですよ」

 Sランクの魔獣であり、大厄災と言って良い魔獣を仕留められる力が有ると明言するフレナブル。

「行きますね」

 そんな二人の会話と、唖然としている騎士・冒険者をよそに、カスミは魔術を発動する。

 杖からは眩いばかりの炎が噴き出し、魔獣のいる上空に広がる。

 幻想的な光景であり、攻撃魔術でなければ誰もが見惚れる美しい空だった。

 しかし現実は間違いなく攻撃魔術であり、美しく一面を彩っていた魔術は直下にいる魔獣に落下する。

 地上に着弾した魔術はゴウッ と言う音を立てて激しく燃え盛る。

 その炎すら美しく見える光景ではあるが、その熱波が、距離が離れている騎士達の元にも届くほどの熱量だ。

 叫び声すら聞こえない程の圧倒的な火力によって、ジャロリア王国側に侵入していた魔獣のほぼ全てが灰すら残らずに消え去る。

 残っているのは、魔王国側から侵攻しようと押し寄せている一団だけになっている。

「こ、これ程とは……」

 当初、いくら【癒しの雫】でも二人だけで対応すると言われた段階で絶望した騎士だが、この圧倒的な火力を目の前で見させられては、その実力を認めるしかない。

「流石はカスミさん!」

「フフフ、私の分も残していただいてありがとうございます」

「でも、フレナブルさんだと……相当力を抜かないとダメじゃないかしら?私が少し力を込めただけでコレでしょ?どう見てもAランクの魔獣も多数いたし、あれだけいれば特殊個体もいたでしょう?」

 あまりの武具の性能に、地力がありすぎるフレナブルが組み合わさってしまった時の二次被害を恐れ始めるカスミ。

「確かに特殊個体もいましたね。う~ん、どうしましょうか。ですが、この武具を試す機会は中々ありませんし……かと言って、他の方にはこの武具は使えませんし。とても悩みますね」

 遥か後方、魔王国側から魔獣が攻めてきているのにも拘らず、呑気に今後どうするかを目の前で話されている騎士は気が気ではなかった。

「そ、その……皆さん。ホラ!魔獣が迫ってきています。良く見て下さい!!!レムリニア、ゴスモンキ、ランドルまで……もう一度今の術を…は、早く!!」

「そう焦らないでくださいな。ここに到着するまでにはもう少し時間がかかりますから」

 焦る騎士をよそに、シア、フレナブル、カスミはのんびりしたものだ。

「ではフレナブルさん。限界まで力を抑えて、魔王国方面に術を発動してみましょう。二次被害も、魔王国側であれば問題ありませんから!」

 力を抑えないと余波でジャロリア王国側に被害がある可能性があるので、シアの一言で一応力を抑えて魔王国方面に向けた魔術を発動する事に決定した。

「フフ、素晴らしい武具は見た目も素晴らしいですね」

 うっとりした視線で、漆黒の中に黄金の龍が彫られている棒を見つめるフレナブル。

 その姿が非常に絵になっており、焦っている騎士ですら口を開いたまま固まって見惚れてしまっている。

「では、やってみましょう!」

 本当に軽く、棒に描かれている龍の口を魔王国方面に向けた状態で軽く棒を一振りしたフレナブル。

……ゴッ……ゴゴゴゴゴゴ……

 怪しい音と共に、フレナブルを中心として少し離れた場所から魔獣方面に半円を描くように地面が隆起し、その波が魔獣方面に容赦なく襲い掛かる。

 フレナブルは土の魔術を行使したわけではなく風の魔術を行使したのだが、威力が桁違いである為に、土を抉りながら減衰する事無く魔獣に襲い掛かったのだ。

 カスミの時とは異なり、美しさを感じることはできない圧倒的な破壊力によって、その波にのまれた魔獣はその身を割かれ、砕かれ、絶命する。

 既に視界には生存している魔獣は一匹も折らず、遥か遠方に未だに地面が隆起して魔王国方面に突き進んでいるのが辛うじて見えている。

「こ、これがSランカー……」

 武具なしでSランク以上の実力がある所に、常識を超える武具を持っているのだからSランクなどと言う枠に収まる訳はないが、騎士はその桁違いの実力を見せられて魔獣の危機が去った安堵より、驚きの感情に支配されていた。

 こうして、【癒しの雫】所属冒険者によるたった二回の攻撃で、四星誕生の景気付けとして魔王国から差し向けられていた魔獣の群れは全滅したのだ。
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