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ジャロリア王国から離脱の検討(1)
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ギルドマスターであり、リビル公爵家に仕える騎士でもあるラクロス。
たった今、ルーカスから【癒しの雫】の中に魔族が紛れ込んでいる可能性について示唆された。
ルーカスは得意満面で説明し、担当受付のツイマは慌てふためくようなしぐさをしていたのだが、非常に重要な案件であり、自分預かりで調査をするから他言無用とだけ伝えて二人を退室させた。
「いくらバカでもやはり気が付くか……」
そう、公爵家に仕える騎士として、ギルドマスターとして、更には、公爵令嬢が入り浸っているギルドに対して調査をしないわけがない。
相当な力を持っている集団だと言う事は薄々感づいていたので、調査とは言え世間話をしながら様子を伺ったりする程度しかできなかったが、結果、ラクロスもルーカスと同じ見解に至っていた。
「バカの推測が私の考えと一部一致しているのは癪だが、どうするか……」
今までの戦闘、成果から、最低でもフレナブルは魔族である事が確実だと思っているのだが、そのフレナブルは事務職のクオウを慕ってここまで来たと言う事は、少し話を聞けばわかる事だ。
そこから導き出したラクロス結論は、最低でもフレナブルとクオウが魔族だと言う事だ。
何故事務仕事しかしておらず、一切戦闘をしていない男にあれ程の強さを持つフレナブルが従っているのかは不明だが、魔族とはそう言う者だろうと自分を納得させている。
「しかし厄介な奴にバレてしまったな」
ルーカスだけならば、今迄の悪行と、逆にフレナブル達への賞賛から誰にも信用されない可能性が高いが、同席していたのは元ギルドマスターのツイマだ。
今はただの受付に成り下がっているが、一応人族として立場のあった存在であり、今も公的機関である冒険者ギルドの本部に勤めている人物。
その男に知られてしまったのは非常に痛手だと思っている。
「一先ず……どう見ても人族の敵ではないのだが、論破されるのは簡単だからな。仕方がない」
意を決したように立ち上がり、受付に向かうラクロス。
「少し外す。不在の間は頼んだぞ」
そう言い残してギルドを後にして向かったのは、リビル公爵邸。
「突然の訪問、申し訳ありません」
「ラクロスが突然来るとは、相当な案件なのかい?」
「本当、珍しいですわね」
何故か主であるリビル公爵と、娘のリリアもちゃっかりと同席している。
リリアは、ギルド関連の話……つまりは【癒しの雫】の話になるのだろうと言う第六感により、半ば強引にこの席にいたりする。
「えぇ、実は……【癒しの雫】の件ですが、私達の推測に辿り着いた者がいます。あろうことか、ルーカスですが、その話を同席していたツイマにも聞かれました。一応こちらで対応するので他言無用とは伝えていますが、どうなるかは未知数です」
「そうですか。遅かれ早かれ明らかになるとは思っていましたよ。あれほどの実績ですからね。ルーカスが気付くのは少し早い気がしますが」
「お父様、そんな悠長な。どうするのですか?」
リアント大好きのリリアは、もちろんこの中で誰よりも【癒しの雫】に入り浸っているので、ラクロスと同じ様にフレナブルとクオウは最低でも魔族、そしてアルフレドも魔族だろうと思っている。
三人が既に共通認識として持っているので、そこはすり合わせる必要はなく次の話に進む。
「以前、彼らが魔族だと言う疑いの時点で陛下に魔族についてお話しした事があるのですよ。人もそれぞれ、魔族もそれぞれ……とね。ですが、陛下は受け入れる様子はありませんでした。恐らく、これだけの実績を上げている【癒しの雫】だとしても、認めないでしょうね」
「じゃあ、どうするのですか?匿うのですか?それとも、他国に行って頂くのですか?その場合、ジャロリア王国の防衛は?」
「リリア様、落ち着いて下さい」
リビル公爵の言葉に愕然として慌てふためくリリアを、ラクロスが優しく止める。
「このまま現状維持が一番良いのですが、ルーカスとツイマ……無理でしょうね。仕方がありません。私が直接【癒しの雫】の面々と話をさせて頂きましょう」
「リビル様、【癒しの雫】の内部でも秘匿しているのかもしれませんが?」
既に【癒しの雫】のメンバー全員が、クオウを始めとして魔族がいると言う事を知っている上で活動しているとは知らないこの場の三人。
彼らを纏めて助けるためには事情を話す必要があるので、【癒しの雫】のメンバーのなかで人族が魔族を無条件で嫌っていた場合、最悪【癒しの雫】を内部から破壊する事になってしまうかもしれないのだ。
「ですが、余り猶予はないです。彼らの絆を信じるしかないでしょうね」
確かにここでどうこう言っても始まらないので、公爵の言葉を信じるしかない。
「お父様、それでその後はどうするのですか?」
「例の話の時に相談する事にはなりますが、基本的にはアルゾナ王国に移籍ですね。実は今回の【勇者の館】の失態時にあちらの国王と少し話をする機会が有ったので、陛下と同じく魔族について話したのですが、あちらは非常に好意的でしたので」
リビル公爵の言っている例の話と言うのは、ジャロリア王国の防衛についてだ。
最早【勇者の館】は一切信頼できないので、少々強めの魔獣が来てしまっては一気に危機的状況に陥るのは明らかである為、何か【癒しの雫】として対策が出来ないかを相談するのだ。
「猶予が無いですから、早速行きましょうか。リリアがお世話になっている挨拶と言う体で私も向かいましょう。ラクロスはギルドに戻り、ツイマを監視してください」
こうしてリビル公爵とリリアは【癒しの雫】に向かい、ラクロスはギルド本部に戻って行く。
【癒しの雫】に向かう馬車の中では、今日は一応公爵令嬢としての訪問である為にドレスを纏っているリリアが非常に不安そうな表情をしている。
「お父様。皆さんが移籍すると、リアントさんに会えなくなってしまうのでしょうか?」
「……リリア。心配しているのはそこなのかい?」
あまりにも不安そうな表情をしているので、もう少し危機的な話をするのかと思いきや……一気に毒気が抜かれてしまったリビル公爵は、肩の力が抜けた状態で【癒しの雫】に到着する事が出来た。
「リアントさん!」
ギルドに入ってリアントが視界に入った途端、突撃して行くリリア。
「いらっしゃいリリアさん……え?公爵様!!」
シアはいつも通りにリリアの対応をしていたのだが、その後にギルドに入ってきた人物を見て大声を上げてしまう。
ギルドマスターのシアを大切に思っている【癒しの雫】の面々は、シアの大声だけに反応して、即座にシアを守るべく受付に現れる。
大声の内容は取り敢えずどうでも良いのだ。
「大丈夫かマスター……って、あれ?」
偶然一番近くにいたので最初に受付に突入したシルバは、特に異常がない……いや、公爵がいる事でシアの大声の理由に気が付いた。
たった今、ルーカスから【癒しの雫】の中に魔族が紛れ込んでいる可能性について示唆された。
ルーカスは得意満面で説明し、担当受付のツイマは慌てふためくようなしぐさをしていたのだが、非常に重要な案件であり、自分預かりで調査をするから他言無用とだけ伝えて二人を退室させた。
「いくらバカでもやはり気が付くか……」
そう、公爵家に仕える騎士として、ギルドマスターとして、更には、公爵令嬢が入り浸っているギルドに対して調査をしないわけがない。
相当な力を持っている集団だと言う事は薄々感づいていたので、調査とは言え世間話をしながら様子を伺ったりする程度しかできなかったが、結果、ラクロスもルーカスと同じ見解に至っていた。
「バカの推測が私の考えと一部一致しているのは癪だが、どうするか……」
今までの戦闘、成果から、最低でもフレナブルは魔族である事が確実だと思っているのだが、そのフレナブルは事務職のクオウを慕ってここまで来たと言う事は、少し話を聞けばわかる事だ。
そこから導き出したラクロス結論は、最低でもフレナブルとクオウが魔族だと言う事だ。
何故事務仕事しかしておらず、一切戦闘をしていない男にあれ程の強さを持つフレナブルが従っているのかは不明だが、魔族とはそう言う者だろうと自分を納得させている。
「しかし厄介な奴にバレてしまったな」
ルーカスだけならば、今迄の悪行と、逆にフレナブル達への賞賛から誰にも信用されない可能性が高いが、同席していたのは元ギルドマスターのツイマだ。
今はただの受付に成り下がっているが、一応人族として立場のあった存在であり、今も公的機関である冒険者ギルドの本部に勤めている人物。
その男に知られてしまったのは非常に痛手だと思っている。
「一先ず……どう見ても人族の敵ではないのだが、論破されるのは簡単だからな。仕方がない」
意を決したように立ち上がり、受付に向かうラクロス。
「少し外す。不在の間は頼んだぞ」
そう言い残してギルドを後にして向かったのは、リビル公爵邸。
「突然の訪問、申し訳ありません」
「ラクロスが突然来るとは、相当な案件なのかい?」
「本当、珍しいですわね」
何故か主であるリビル公爵と、娘のリリアもちゃっかりと同席している。
リリアは、ギルド関連の話……つまりは【癒しの雫】の話になるのだろうと言う第六感により、半ば強引にこの席にいたりする。
「えぇ、実は……【癒しの雫】の件ですが、私達の推測に辿り着いた者がいます。あろうことか、ルーカスですが、その話を同席していたツイマにも聞かれました。一応こちらで対応するので他言無用とは伝えていますが、どうなるかは未知数です」
「そうですか。遅かれ早かれ明らかになるとは思っていましたよ。あれほどの実績ですからね。ルーカスが気付くのは少し早い気がしますが」
「お父様、そんな悠長な。どうするのですか?」
リアント大好きのリリアは、もちろんこの中で誰よりも【癒しの雫】に入り浸っているので、ラクロスと同じ様にフレナブルとクオウは最低でも魔族、そしてアルフレドも魔族だろうと思っている。
三人が既に共通認識として持っているので、そこはすり合わせる必要はなく次の話に進む。
「以前、彼らが魔族だと言う疑いの時点で陛下に魔族についてお話しした事があるのですよ。人もそれぞれ、魔族もそれぞれ……とね。ですが、陛下は受け入れる様子はありませんでした。恐らく、これだけの実績を上げている【癒しの雫】だとしても、認めないでしょうね」
「じゃあ、どうするのですか?匿うのですか?それとも、他国に行って頂くのですか?その場合、ジャロリア王国の防衛は?」
「リリア様、落ち着いて下さい」
リビル公爵の言葉に愕然として慌てふためくリリアを、ラクロスが優しく止める。
「このまま現状維持が一番良いのですが、ルーカスとツイマ……無理でしょうね。仕方がありません。私が直接【癒しの雫】の面々と話をさせて頂きましょう」
「リビル様、【癒しの雫】の内部でも秘匿しているのかもしれませんが?」
既に【癒しの雫】のメンバー全員が、クオウを始めとして魔族がいると言う事を知っている上で活動しているとは知らないこの場の三人。
彼らを纏めて助けるためには事情を話す必要があるので、【癒しの雫】のメンバーのなかで人族が魔族を無条件で嫌っていた場合、最悪【癒しの雫】を内部から破壊する事になってしまうかもしれないのだ。
「ですが、余り猶予はないです。彼らの絆を信じるしかないでしょうね」
確かにここでどうこう言っても始まらないので、公爵の言葉を信じるしかない。
「お父様、それでその後はどうするのですか?」
「例の話の時に相談する事にはなりますが、基本的にはアルゾナ王国に移籍ですね。実は今回の【勇者の館】の失態時にあちらの国王と少し話をする機会が有ったので、陛下と同じく魔族について話したのですが、あちらは非常に好意的でしたので」
リビル公爵の言っている例の話と言うのは、ジャロリア王国の防衛についてだ。
最早【勇者の館】は一切信頼できないので、少々強めの魔獣が来てしまっては一気に危機的状況に陥るのは明らかである為、何か【癒しの雫】として対策が出来ないかを相談するのだ。
「猶予が無いですから、早速行きましょうか。リリアがお世話になっている挨拶と言う体で私も向かいましょう。ラクロスはギルドに戻り、ツイマを監視してください」
こうしてリビル公爵とリリアは【癒しの雫】に向かい、ラクロスはギルド本部に戻って行く。
【癒しの雫】に向かう馬車の中では、今日は一応公爵令嬢としての訪問である為にドレスを纏っているリリアが非常に不安そうな表情をしている。
「お父様。皆さんが移籍すると、リアントさんに会えなくなってしまうのでしょうか?」
「……リリア。心配しているのはそこなのかい?」
あまりにも不安そうな表情をしているので、もう少し危機的な話をするのかと思いきや……一気に毒気が抜かれてしまったリビル公爵は、肩の力が抜けた状態で【癒しの雫】に到着する事が出来た。
「リアントさん!」
ギルドに入ってリアントが視界に入った途端、突撃して行くリリア。
「いらっしゃいリリアさん……え?公爵様!!」
シアはいつも通りにリリアの対応をしていたのだが、その後にギルドに入ってきた人物を見て大声を上げてしまう。
ギルドマスターのシアを大切に思っている【癒しの雫】の面々は、シアの大声だけに反応して、即座にシアを守るべく受付に現れる。
大声の内容は取り敢えずどうでも良いのだ。
「大丈夫かマスター……って、あれ?」
偶然一番近くにいたので最初に受付に突入したシルバは、特に異常がない……いや、公爵がいる事でシアの大声の理由に気が付いた。
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