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(45)キャスカの宣言

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 王位継承に改めて参加するにしても、いくらダンジョンの一部とは言えユガル王国の寂れた教会にいるだけでは何もできる事は無いので、正式に争いに参戦する事を知らしめる必要があるキャスカ。

 以前は無駄に<勇者>パーティー一行や国王であるヤドリア・ユガルまでが癒し手を引き抜くためにこの場に来ていたのだが、最早その気配は一切見られないので、ユガル王国を通して何かをするには自らが王城に出向く必要が出てしまっている。

 今の所の情報によれば、それぞれの王位を狙う者達は自陣の状態を整える事に力を使っているので、キャスカには一時的かもしれないが視線は向いていないとの事で、この隙にできる事はやってしまおうと早速動く。

 外出する事になるのだが、必ず神父ホリアスに一声かけるように言われているので指示通りにすると、癒し手の一人が作業を中断して同行してくれる事になった。

 その分民への癒しの作業が滞るので非常に申し訳ない気分になるのだが、民も状況は嫌でも把握している事や、普段キャスカやサリハも自分達の為に動いてくれているのを目の当たりにしているので、誰一人として文句を言う者はいない。

「キャスカ様、頑張ってください!」

 流石にこの時点で王位を狙う宣言をしているわけではないのでキャスカが何をしに行くのかは分からない民であっても、決意の表情を浮かべているキャスカに対して応援の言葉を投げている。

「ありがとうございます。申し訳ありませんがルビーさんを少々お借りいたしますね?」

 事前情報通りに道中に危険は一切なく、難なく王城に到着して国王との謁見を申し出るキャスカ。

 通常であれば突然謁見を申し出ても受け入れられる事は無いのだが、今回は今の時点では王位継承権を放棄しているとは言え<魔王>を討伐する為に共闘する事になるシナバラス王国の王女である事から、この申し出は即了解された。

 ルビーは教会にいる時と同じようにベールを纏い修道服を着て侍女であるサリハと同様に一歩引いた状態でキャスカの背後に控えているのだが、流石に謁見時にベールをしたままと言うのは許可されず、キャスカやサリハとは全く異なる美しいその顔を曝け出す事になっていた。

 三人の美女が訪問してきたので一瞬邪な気持ちになってしまった事は否めない国王ヤドリア・ユガル……彼は<勇者>達に与えた武器の力を得た実力の一端を確認しているので、今更癒し手や他国からの援助は必要ないと再び考えを変えており、無駄に遜る必要が無いとの思いがあった。

「で、今日は突然の訪問、どの様な要件かな?キャスカ王女」

「はい、実は……私は今迄王位継承から離脱した旨宣言しておりましたが、祖国平定、ひいては大陸の安定の為に動く事を決心いたしました」

 王位を狙うとは直接口にしないまでも、流石にここまで言われればユガルもキャスカが何を言わんとしているのかは理解できるのだが、自分が焚きつけた<魔王>モラル討伐が王位継承権を得るための手段となっているので、実際には達成不可能ではないかと告げる事にする。

 同時にユガルは、目の前のキャスカが自分達に力を貸せと言いに来ているのだとも思っているので、自分が率先してシナバラス王国に助力を求めた事など関係ないとばかりに、そこについても釘を刺す。

「キャスカ王女。言わんとしている事は分かるが……それは少々厳しいのではないか?間違いなく<魔王>討伐は我らユガル王国が誇る<勇者>グレイブパーティーが達成するだろうからな。悪いが、その栄誉を王位継承がかかっているとは言え他国の者に譲るつもりは一つも無い」

 この話を聞いているキャスカ達は能力の高い侍女のサリハですら仕入れる事の出来なかった情報まで知ってしまっているので、このユガルの物言いには思う所があるのだが……一先ずは自らの目的である王位継承権への名乗りを確実にしておく事に意識を削ぐ。

「ご指摘ありがとうございます、陛下。ですが、それでも私は平定の為に王位を継がなくてはなりません。長い間継承権を放棄すると言ってきた手前心苦しい所があるのは否めませんが、もうこの決意は揺るぎません。しかし残念な事に、ご存じの通りに私が持ち得ている戦力、今の立場から祖国に戻って宣言できる状況にはないので、そこは陛下の助力を頂きたいと思っておりますが、如何でしょうか?」

 ユガルは、もうシナバラス王国の助力は必要ないのでこのような願いを聞き入れる事は面倒だと思っていたのだが、冷静に考えればキャスカが王位継承に名乗りを挙げればよりシナバラス王国が混乱し、結果的に<勇者>パーティーが行動しやすくなる可能性がある事に気が付く。

「わかった。宣言については、多忙ではあるが国王であるこの私自らが責任をもってキャスカ王女の祖国に伝えておく事にしよう」

 相当恩着せがましい物言いではあるが、これで確実に自分の立ち位置は決まったと安堵すると同時に、今は小康状態と言っても良い環境……暗殺者が来ていない状況が激変するだろうと緊張しているキャスカ。

「ありがとうございます。では、私はこれで失礼させて頂きます」

 この場を去ろうとするキャスカだが、国王は完全に自分の方が立場は上であると思っているので、交換条件を後付けで告げる。

「待たれよ。ところでそこな修道服の者。その方はあの教会で癒しを行っていた者で間違いないな?相当癒しの力が強かったために以前<勇者>パーティーへの同行を申し付けたのだが、キャスカ王女の願いによって見逃してやった経緯がある。今回<勇者>パーティーがダンジョンに侵攻する際、戦力的にも十分で安全は確保されておる以上、同行するべきではないか?」

 武器を与えて相当力を得ているので、癒しを行える者が同行せず共問題ないと落ち着いているように見えるのだが、何時何があるのかわからずに保険をかけるために形上は交渉と言う名の命令をするユガルと、まさかそのような事を今更言われると思っていなかったので何と答えて良いのかわからずに困惑するキャスカだが……

「承知しました。では、出立の情報については教会にご連絡ください」

 あっさりとルビーが同行する旨明確に回答してしまったので、これにはキャスカだけではなく、同じく全ての事情を知っている侍女のサリハでさえ言葉を失っていたのだが、国王ユガルだけは自分の命令を素直に聞いたこの状況に満足していた。
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