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(50)ミュゼ
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長く共に行動していたパーティーメンバーを、単純に新たな武器の威力を試す為、更には武器に慣れる為だけに<勇者>パーティーに殺害されてしまったミュゼ。
今の所は平静を装っているのだが、深い悲しみ、やるせない気持ち、あの時の恐怖、色々な感情がかわるがわる襲い掛かってくるので、かろうじて普通の生活は出来ているが冒険者としての活動などできるはずもなかった。
「はぁ、どうして私だけ助かっちゃったんだろう……」
教会の裏の芝生の上で、遠くの景色を眺めながら共に活動した楽しい仲間の事を思い浮かべているミュゼの目には無意識のうちに涙が溜まっている。
自分をこのような状況にした<勇者>パーティー一行は憎いのだが、彼等から殺されそうになった恐怖の感情の方がより大きいので復讐しようと言う気持ち等湧いてくるはずも無く、その行き場のない思いも彼女の心を蝕んでいる。
「こんな所にいたのですね」
中々見つけ辛い場所に座っていたのに、あっという間に神父ホリアスに見つかったようで少しだけ驚くのだが、元よりこの教会の主なのでそのようなものかと勘違いしている。
実際はルビーに気配を察知してもらった結果なのだが、ホリアスは相当気落ちしているミュゼに対して毎日のように優しい笑顔と共に、敢えてたわいもない話をするために時間を費やしている。
ここまで悲しい状況になってしまったミュゼに対して無責任な励ましは無意味だと知っており、以前イリヤが決死の覚悟で<勇者>パーティーとダンジョンに入って行った時の取り繕った笑顔を見て、あのままイリヤが返ってこずに落ち込んだ状態で無駄に励まされても、余計に悲しくなるだけだと自らの経験から理解していた。
暫くこのような日々が続く中で、漸く先の事についての話をしてくれるようになったミュゼ。
冒険者としてはもう活動できないので、今後どのように生活するのかと言った不安を曝け出してくれたので、何も心配する事がないと告げるホリアス。
「ミュゼさん。貴方さえ良ければ、この教会で民の為に働いてみませんか?」
「で、でも……私は回復魔法を行う事も出来ませんから、皆さんの力になれる事は無いと思います」
実際にはこれ以上ない程に優しい神父、不思議なほど綺麗な修道服の三人を始め、時折現れるイリヤ達とも会えるこの教会で生活できる事がとてつもなく嬉しいのだが、自分が教会の為に行動できるのかと言うと、正直不安が隠し切れない。
「フフフ、大丈夫ですよ。癒しとは回復魔法だけの事を言っているわけではないのです。それに、傷口を魔法で治せても周囲の汚れは綺麗になりませんから、そのケアをしてあげる事や、誰かの話を聞いてあげる事も大切な癒しの一つですよ?悲しみを誰よりも理解しているミュゼさんにしかできない事があるはずです」
「し、神父様……ありがとう……ございます」
ここまで言ってくれる神父に対して、もう自分一人では何もする事は出来ない程に弱っていたミュゼは泣きながらお礼を伝える事しかできないのだが、神父は泣いているミュゼの頭を優しく撫で、その行為がよりミュゼの喜びとも言える不思議な感情を増幅させて、大泣き状態になってしまった為に少々焦っているホリアス。
この程度の状態はルビーを始めとした魔族の三人や彼女達から情報を貰って監視状態になっていたモラル達も把握しているのだが、誰も手助けする術を持っておらず……一部立候補も有ったのだが、結果的に全てをホリアスに任せるほかなかった。
因みに、立候補の一連の流れはこうだ。
「お、俺が行って見ようか?」
「は~、貴方はバカなのかしら?バケット。無駄に大きな図体のツンツンした髪の毛で威圧する事しかできないでしょうに」
「そうだな。シリアナの言う通りだ。であれば、ここはこの俺クロックの出番ではないだろうか?」
「ハハハハハ、クロック!そなた自身の顔を見た事があるか?ハハハハ、丸坊主の筋肉ダルマが現れては、余計に泣かれるのが落ちじゃ!」
「そうですよね、モラル様。こうなったらこの私、シリアナが一肌脱ぐしかないと思います!」
と、一時はシリアナがミュゼの対応にオロオロしている神父ホリアスの元に向かおうかと思ったのだが……
「あ、あの……きっとあれほどの悲しい出来事を消化できずにいるので、暫くはそっとしておいてあげた方が良いのではないでしょうか?」
ミュゼと同族であるイリヤの一言があり、ここで今迄さんざん言われていたクロックとバケットがシリアナとモラルに対して反撃に出る。
以前では考えられない行動だが、おやつ争奪戦によって培われた経験があるので、ことあるたびにこのようなやり取りがなされるようになっていた。
「そうだぞ!シリアナ。全く、人の感情をしっかりと理解していないからそのような事も分からないのではないか?」
「そうそう。シリアナもそうだが、モラル様も、もうちっと人の感情を理解しないと、適切なおやつを選択できない可能性が高いんじゃないですかねぇ?」
言っている事は一部意味不明だが、じゃれ合っているだけなので中身はそう重要ではない四人はガヤガヤと楽しそうにふざけ合っている。
「ミュゼさんにも心穏やかな時が訪れますように」
そんな中でもイリヤの一言は耳に入っており、その言葉を聞いて誰しもが口を噤んでイリヤの真剣な、それでいて慈しむ様な表情に見入っていた。
「大丈夫じゃ。神父殿に任せておけば間違いない。イリヤも良く分かっておるじゃろ?」
「そうですね。その通りです。ありがとうございます、モラル様」
今の所は平静を装っているのだが、深い悲しみ、やるせない気持ち、あの時の恐怖、色々な感情がかわるがわる襲い掛かってくるので、かろうじて普通の生活は出来ているが冒険者としての活動などできるはずもなかった。
「はぁ、どうして私だけ助かっちゃったんだろう……」
教会の裏の芝生の上で、遠くの景色を眺めながら共に活動した楽しい仲間の事を思い浮かべているミュゼの目には無意識のうちに涙が溜まっている。
自分をこのような状況にした<勇者>パーティー一行は憎いのだが、彼等から殺されそうになった恐怖の感情の方がより大きいので復讐しようと言う気持ち等湧いてくるはずも無く、その行き場のない思いも彼女の心を蝕んでいる。
「こんな所にいたのですね」
中々見つけ辛い場所に座っていたのに、あっという間に神父ホリアスに見つかったようで少しだけ驚くのだが、元よりこの教会の主なのでそのようなものかと勘違いしている。
実際はルビーに気配を察知してもらった結果なのだが、ホリアスは相当気落ちしているミュゼに対して毎日のように優しい笑顔と共に、敢えてたわいもない話をするために時間を費やしている。
ここまで悲しい状況になってしまったミュゼに対して無責任な励ましは無意味だと知っており、以前イリヤが決死の覚悟で<勇者>パーティーとダンジョンに入って行った時の取り繕った笑顔を見て、あのままイリヤが返ってこずに落ち込んだ状態で無駄に励まされても、余計に悲しくなるだけだと自らの経験から理解していた。
暫くこのような日々が続く中で、漸く先の事についての話をしてくれるようになったミュゼ。
冒険者としてはもう活動できないので、今後どのように生活するのかと言った不安を曝け出してくれたので、何も心配する事がないと告げるホリアス。
「ミュゼさん。貴方さえ良ければ、この教会で民の為に働いてみませんか?」
「で、でも……私は回復魔法を行う事も出来ませんから、皆さんの力になれる事は無いと思います」
実際にはこれ以上ない程に優しい神父、不思議なほど綺麗な修道服の三人を始め、時折現れるイリヤ達とも会えるこの教会で生活できる事がとてつもなく嬉しいのだが、自分が教会の為に行動できるのかと言うと、正直不安が隠し切れない。
「フフフ、大丈夫ですよ。癒しとは回復魔法だけの事を言っているわけではないのです。それに、傷口を魔法で治せても周囲の汚れは綺麗になりませんから、そのケアをしてあげる事や、誰かの話を聞いてあげる事も大切な癒しの一つですよ?悲しみを誰よりも理解しているミュゼさんにしかできない事があるはずです」
「し、神父様……ありがとう……ございます」
ここまで言ってくれる神父に対して、もう自分一人では何もする事は出来ない程に弱っていたミュゼは泣きながらお礼を伝える事しかできないのだが、神父は泣いているミュゼの頭を優しく撫で、その行為がよりミュゼの喜びとも言える不思議な感情を増幅させて、大泣き状態になってしまった為に少々焦っているホリアス。
この程度の状態はルビーを始めとした魔族の三人や彼女達から情報を貰って監視状態になっていたモラル達も把握しているのだが、誰も手助けする術を持っておらず……一部立候補も有ったのだが、結果的に全てをホリアスに任せるほかなかった。
因みに、立候補の一連の流れはこうだ。
「お、俺が行って見ようか?」
「は~、貴方はバカなのかしら?バケット。無駄に大きな図体のツンツンした髪の毛で威圧する事しかできないでしょうに」
「そうだな。シリアナの言う通りだ。であれば、ここはこの俺クロックの出番ではないだろうか?」
「ハハハハハ、クロック!そなた自身の顔を見た事があるか?ハハハハ、丸坊主の筋肉ダルマが現れては、余計に泣かれるのが落ちじゃ!」
「そうですよね、モラル様。こうなったらこの私、シリアナが一肌脱ぐしかないと思います!」
と、一時はシリアナがミュゼの対応にオロオロしている神父ホリアスの元に向かおうかと思ったのだが……
「あ、あの……きっとあれほどの悲しい出来事を消化できずにいるので、暫くはそっとしておいてあげた方が良いのではないでしょうか?」
ミュゼと同族であるイリヤの一言があり、ここで今迄さんざん言われていたクロックとバケットがシリアナとモラルに対して反撃に出る。
以前では考えられない行動だが、おやつ争奪戦によって培われた経験があるので、ことあるたびにこのようなやり取りがなされるようになっていた。
「そうだぞ!シリアナ。全く、人の感情をしっかりと理解していないからそのような事も分からないのではないか?」
「そうそう。シリアナもそうだが、モラル様も、もうちっと人の感情を理解しないと、適切なおやつを選択できない可能性が高いんじゃないですかねぇ?」
言っている事は一部意味不明だが、じゃれ合っているだけなので中身はそう重要ではない四人はガヤガヤと楽しそうにふざけ合っている。
「ミュゼさんにも心穏やかな時が訪れますように」
そんな中でもイリヤの一言は耳に入っており、その言葉を聞いて誰しもが口を噤んでイリヤの真剣な、それでいて慈しむ様な表情に見入っていた。
「大丈夫じゃ。神父殿に任せておけば間違いない。イリヤも良く分かっておるじゃろ?」
「そうですね。その通りです。ありがとうございます、モラル様」
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