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第一章 追放と告白

1-4 Side W

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『あ!一年生の子?研究室訪問かな?ごめんね、今、私しか居なくて。先生はもう直ぐ来ると思うんだけど…』

『えっと、名前を聞いてもいい?私は、二年のメリル・リースマン!』

『ウィルバート君って言うんだ。うん、ウィル君!二年間、よろしくね!』

初めてメリルと会った時、ウィルバートは彼女の態度に驚いた。メリルは、ウィルバートの特殊な目、魔物と同じ血の色をした瞳を恐れなかった。あの日、彼女から向けられた屈託のない笑顔を、ウィルバートは今でも思い出すことが出来る。

その日、メリルがパーティーメンバーから叱責を受け、一人研究室に留守番させられていたということは後から知った。

そんなメリルとの出会いもあり、ウィルバートは入学直後、一度は彼女と同じ第三研究室に入った。しかし、研究室の雰囲気に馴染めなかったため、早々に通うことを止めてしまう。そうなってからも、メリルのウィルバートへの態度は変わらなかった。学園内でウィルバートを見つけると必ず声をかけてくるメリル。なぜ、彼女がそこまで自分に構うのか。ウィルバートはメリルの行動が理解できずにいた。

けれど、いつしか、メリルと言葉を交わすことが当たり前になり、彼女の訪れを楽しみにしている自分に気づいた時、ウィルバートは彼女に対する自分の想いを自覚した。彼女に近づきたい。独り占めしたい。初めての感情にウィルバートは戸惑ったが、強くなる一方の想いをやがて受け入れた。

ただ、いくらウィルバートがメリルに近づきたいと願っても、彼女の側には常に彼女のパーティーメンバーがいた。そこにウィルバートの入り込む余地は無い。だから、ウィルバートはつかず離れずの距離で彼女を見守り続けた。

少なくとも、今日、この時までは――

(今回もまたいつものいざこざ、不快な話を聞く羽目になると思っていたけれど、まさか、そんなことになってるとはね……)

ウィルバートは、ついつい上がりそうになる口角を必死に抑え込んだ。

彼女にとっては最悪な、けれど、自分にとっては最良の好機を、逃すつもりはない――

「……先輩、卒業課題はどうするつもりですか?今更、他のパーティーになんて入れませんよね?」

ウィルバートの言葉は、仲間に追い出されて落ち込むメリルに追い打ちをかけるもの。事実、卒業を間近に控えた彼女にとっては、それが一番深刻な問題だった。

「うん。今から他のパーティーに入るのは無理だと思う。でも、課題を提出しないと卒業できないから、もう、一人でやるしかないかな……」

悲痛な面持ちのメリルに向かって、ウィルバートは首を横に振った。

「無茶ですよ。言霊使いの先輩が一人で採取に行くなんて。無謀もいいところです」

「でも、他に方法がないし……」

彼女にも無茶だという自覚はあるのだろう。自信なさげにそう口にしたメリルに、ウィルバートは提案という名の罠を仕掛ける。

「ねぇ、先輩?パーティー、僕が組んであげましょうか?」

「えっ!?」

驚きに見開かれた栗色の瞳。ウィルバートの言葉を理解したメリルの顔が、喜びに輝いた。

「ウィル君、本当に!?ありがとう!そうしてもらえたら、私、すごく助かる!」

そう素直に礼を口にするメリルに、ウィルバートは内心で「あーあ」とため息をつく。

(駄目ですよ、先輩。そんなに簡単に騙されちゃ………)

込み上げて来る愉悦を押し込めて、ウィルバートは至極真面目な顔で頷いた。

「勿論、本当です。ただ、一つだけ条件があります」

「うん、何でも言って!」

「何でも……、ですか?」

男に対する迂闊な発言、ウィルバートを「男」として意識していないメリルの言葉に、ウィルバートの胸に苦い想いが溢れる。なのに、メリルはそんなウィルバートの想いに気づきもせず、満面の笑みを見せるのだ。

「それくらい、すごくすごく助かるの!ウィル君が手伝ってくれるなら、私、何でもできそうな気がする!ありがとう、ウィル君!」

全幅の信頼を寄せてくれるメリルの言葉に、ウィルバートは毒気を抜かれてしまう。

「……そこまで感謝されると、流石にちょっと罪悪感を感じますね」

「え?」

(本当にもう、心配になるくらいの素直さ……)

その素直さを向けるのが自分だけであればいいのに。だが、まぁ、言質はとった。後は、彼女に逃げられないようにするだけだ。

(絶対に、逃がしませんからね)

心の中でメリルに宣戦布告したウィルバートはニコリと笑う。彼女に警戒心を抱かせないために。

「先輩、僕と付き合って下さい。」

「え?」

「それが、パーティーを組む条件です」

「条件……?……え?」

混乱するメリル。ウィルバートは、メリルが自分の言葉を理解するのをじっと待った。黙ったまま彼女の顔を見つめ続ければ、メリルは面白いくらいにクルクルと表情を変える。

(……百面相)

飽きることなく彼女の表情に魅入っていれば――

「えっ!?付き合うって、えーっ!?」

漸く合点がいったメリルの口から悲鳴が上がった。その悲鳴が何を意味するのか。メリルの感情を見逃さないよう、ウィルバートは彼女の顔を見つめ続けるが、そこには悲嘆も嫌悪もない。あるのはただ、純粋な驚きだけ。

(……良かった)

安堵して、ウィルバートは密かに詰めていた息を吐き出した。




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