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第二章
4-1.
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4-1.
「メチャクチャ仕事出来るじゃないですか!?」
女の背中が扉の向こうに消えたところで、ダグストアが吠えた。
「確かに、物資輸送の停滞が完全に解消されましたね」
「なんか誰かが『無能』みたいなこと言ってましたけど、あの人かなり優秀!一週間で結果出すとか!」
「…八日かかってる」
「うわぁ」
苦し紛れだと自覚している言葉に、避難の声が返ってきた。面白くはないが、これ以上何を言っても墓穴を掘りそうで、目の前の書類に集中することでやり過ごす。
「先ほどの報告で、魔物探知に優れた部下がいるとおっしゃっていましたから、その人物の個人の能力が高いのもあるんでしょうね」
「訓練場で見てたけど、補佐官の二人もかなり強いんだよ。リュクが剣術と体術で、レイが魔法に強い。いい組合せだよな」
「…」
口に出しては認めないが、実際のところ己の評価も対して変わらない。口にするのは癪なので黙っていると、ダグストアが話を振ってきた。
「ラギアス様も、リュクとは何度か手合わせしてたでしょ?」
「…まだ、甘いとこはあるけどな。致命的な隙ってのは無かった。師事してる相手が、死なねえように鍛えてんだろ。まだ19だつってたし、間違いなくこれから伸びる」
「レイも確か15か。あいつの攻撃魔法も、魔術部隊の連中が絶賛してましたよ。強くてまだまだ発展途上の組。やっぱいいですよね」
特務の補佐官や協力者は正確には帝国軍の所属ではない。領軍や自警団などに与する場合もあるが、あくまで特務官が個人で採用する。これだけ能力の高い者を個人で集めるというのは至難の技だ。
「引き抜きますか?例の魔物探知が出来る人物も含めて、交渉してみましょう」
「あー。そうだよな、特務から正規隊への引き抜きなら大出世。あいつらの実力ならうちとしても大歓迎だし」
こちらを伺う二対の視線。確かに討伐部隊にとっては悪い話ではない。恐らくは、補佐官二人にとっても。後は、その指揮官、ヴィアンカ・ラスタードがどう反応するか―
「…任せる。好きにしろ」
「了解です」
あの女がどう思おうと、気にすることなどない―
「ただ、補佐官二人は難しいかもね。あの二人は自分の上司大好きだから。特にレイ。シッポ振ってるのが見える」
ダグストアの言葉に、眉間に力が入る。
「特務官殿の戦闘能力はどの程度なんですか?能力不足で、補佐官が不満を抱いているというようなことは?引き抜きの交渉材料にはなりませんか?」
「どうかな?体術ではリュクを圧倒してた。でも魔法も剣も使ってなかったから、派手さはなかったんだよな」
なんとなしに二人の会話を流していたが、聞き逃せない言葉を拾う。
「待て、ダグ。お前、あいつと会ったのか?訓練場で?」
「何度か会いましたよ?よくリュクと組手してます。夜間に一人でやってるとこも見ましたね。ラギアス様は会ったことなかったんですか?」
「…一度もない」
ほぼ執務室に籠りきり、適度に体を動かしには行っているが、行動範囲は広くない。だからあの女と他で出くわさないのも、そんなものだろうと思っていた。
なのに、己と対して変わらない行動をしているダグが、あの女に会っていただと?しかも何度も―?
「ヴィアンカ様に避けられてるんじゃないですか?普通に嫌でしょ。報告のたびに自分に欲情してくる男とか」
「…おい、何だそれは?」
「は?」
知らず声が低くなる。
「いつから、あの女を名前で呼ぶようになった?いつの間に、そんなに気安い仲になってんだよ?」
「え…いや、ご本人が『ヴィアンカ』でいい、と…」
こちらの怒りが伝わったのか、ダグの軽口が止まり、顔色が悪くなる。助けを求めるように泳いだ視線が、マイワットを見つけ―
「私は回覧書類を他部署に回してきます」
「あ!ちょっ!マイワット!」
さっさと部屋を出て行くマイワット。部屋に残されたダグストアを追い詰めるため、立ち上がる。よし、まずはこいつを蹴ろう。問い詰めるのはそれからだ。
このイラつきの原因が何か―部下が悪どい女と親しくしているから?―それを見定めるのは後回しにする。
「メチャクチャ仕事出来るじゃないですか!?」
女の背中が扉の向こうに消えたところで、ダグストアが吠えた。
「確かに、物資輸送の停滞が完全に解消されましたね」
「なんか誰かが『無能』みたいなこと言ってましたけど、あの人かなり優秀!一週間で結果出すとか!」
「…八日かかってる」
「うわぁ」
苦し紛れだと自覚している言葉に、避難の声が返ってきた。面白くはないが、これ以上何を言っても墓穴を掘りそうで、目の前の書類に集中することでやり過ごす。
「先ほどの報告で、魔物探知に優れた部下がいるとおっしゃっていましたから、その人物の個人の能力が高いのもあるんでしょうね」
「訓練場で見てたけど、補佐官の二人もかなり強いんだよ。リュクが剣術と体術で、レイが魔法に強い。いい組合せだよな」
「…」
口に出しては認めないが、実際のところ己の評価も対して変わらない。口にするのは癪なので黙っていると、ダグストアが話を振ってきた。
「ラギアス様も、リュクとは何度か手合わせしてたでしょ?」
「…まだ、甘いとこはあるけどな。致命的な隙ってのは無かった。師事してる相手が、死なねえように鍛えてんだろ。まだ19だつってたし、間違いなくこれから伸びる」
「レイも確か15か。あいつの攻撃魔法も、魔術部隊の連中が絶賛してましたよ。強くてまだまだ発展途上の組。やっぱいいですよね」
特務の補佐官や協力者は正確には帝国軍の所属ではない。領軍や自警団などに与する場合もあるが、あくまで特務官が個人で採用する。これだけ能力の高い者を個人で集めるというのは至難の技だ。
「引き抜きますか?例の魔物探知が出来る人物も含めて、交渉してみましょう」
「あー。そうだよな、特務から正規隊への引き抜きなら大出世。あいつらの実力ならうちとしても大歓迎だし」
こちらを伺う二対の視線。確かに討伐部隊にとっては悪い話ではない。恐らくは、補佐官二人にとっても。後は、その指揮官、ヴィアンカ・ラスタードがどう反応するか―
「…任せる。好きにしろ」
「了解です」
あの女がどう思おうと、気にすることなどない―
「ただ、補佐官二人は難しいかもね。あの二人は自分の上司大好きだから。特にレイ。シッポ振ってるのが見える」
ダグストアの言葉に、眉間に力が入る。
「特務官殿の戦闘能力はどの程度なんですか?能力不足で、補佐官が不満を抱いているというようなことは?引き抜きの交渉材料にはなりませんか?」
「どうかな?体術ではリュクを圧倒してた。でも魔法も剣も使ってなかったから、派手さはなかったんだよな」
なんとなしに二人の会話を流していたが、聞き逃せない言葉を拾う。
「待て、ダグ。お前、あいつと会ったのか?訓練場で?」
「何度か会いましたよ?よくリュクと組手してます。夜間に一人でやってるとこも見ましたね。ラギアス様は会ったことなかったんですか?」
「…一度もない」
ほぼ執務室に籠りきり、適度に体を動かしには行っているが、行動範囲は広くない。だからあの女と他で出くわさないのも、そんなものだろうと思っていた。
なのに、己と対して変わらない行動をしているダグが、あの女に会っていただと?しかも何度も―?
「ヴィアンカ様に避けられてるんじゃないですか?普通に嫌でしょ。報告のたびに自分に欲情してくる男とか」
「…おい、何だそれは?」
「は?」
知らず声が低くなる。
「いつから、あの女を名前で呼ぶようになった?いつの間に、そんなに気安い仲になってんだよ?」
「え…いや、ご本人が『ヴィアンカ』でいい、と…」
こちらの怒りが伝わったのか、ダグの軽口が止まり、顔色が悪くなる。助けを求めるように泳いだ視線が、マイワットを見つけ―
「私は回覧書類を他部署に回してきます」
「あ!ちょっ!マイワット!」
さっさと部屋を出て行くマイワット。部屋に残されたダグストアを追い詰めるため、立ち上がる。よし、まずはこいつを蹴ろう。問い詰めるのはそれからだ。
このイラつきの原因が何か―部下が悪どい女と親しくしているから?―それを見定めるのは後回しにする。
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