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第二章
7-3.
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7-3.
もぎ取った休暇の一ヶ月が過ぎようとしていた。ダグストアからの帰還コールが一日置きから毎日、日に二回になった時点で、帝都へ戻る決心が着いた。
帰還のため、転移の間に入れば、見送りに来ている次期辺境伯夫妻。その隣にヴィアンカの顔を見つけ、胸に甘い痺れが走った。
結局、リュクムンドとの邂逅以来、ヴィアンカと二人で話す機会はなかった。今を逃せば、暫くは彼女に会うことも叶わない。
「…ヴィアンカ、少し二人で話がしてえ」
「ダメだよ」
ヴィアンカの前で立ち止まれば、彼女の横に立つヘスタトルに止められた。
この一ヶ月の付き合いで、彼の人となりを多少は理解したと思う。そして、今はその顔に楽しそうな―つまり、ろくでもない―笑みが浮かんでいる。
「ラギアス君には前科があるから。この前、中庭でヴィーに手を出したでしょ?あれ結構目撃者がいたんだよね。だから二人にはさせられない」
話があるならここでどうぞと笑顔で言ってのけるヘスタトル。この男は本当にいい性格をしている。
仕方がない、引く様子の無い男の態度に腹をくくる。
「…ヴィアンカ」
呼べば、まだ真っ直ぐに見てくれる瞳に安堵する。
「俺が間違っていた。すまなかった」
言って、頭を下げれば、
「それは?何に対する謝罪だ?」
ヴィアンカの眼差しがきつくなった。それを真正面から受け止める。
「俺はお前を全面的に信じることにした。いや、もう信じてる。俺の目は腐ってる。視野が狭すぎて、色んなものを取りこぼす。正しいのは、お前の方だ。サリアリアのことは、冤罪だったと認める。退学についても、」
「馬鹿な」
ヴィアンカの声に怒気が混じる。
「安直な答えを出すな。人を盲目的に信じることで、己の判断を、責任を放棄するな。盲信による信頼など、私は認めない」
そう、認めてはもらえないかもしれない。
「わかってんだよ。けど、俺は最初から間違えたからな」
出来るなら、最初から間違えずに、お前の隣にいたかった。だが、そう、過去を無かったことにはできない。だから―
「よほどの奇跡でも起こさない限り、俺に対するお前の気持ちなんてひっくり返んねえだろ?普通にやってたんじゃ巻き返しようがねえ。馬鹿だと言われてもやめねえよ」
諦めきれねえんだから―
「…私が道を誤った時はどうするつもりだ?帝国を滅ぼすとでも言い出したら?…私には出来ないとでも?」
「いや、出来んじゃねえかって思い始めてる。けど、止めねえ。お前がそう判断したことならな」
ヴィアンカの顔が不快に歪む。
「愚かだ」
「いいんだよ。お前のことに関しちゃ、俺はそれで。その代わり、ヘスタトル殿にでも話すさ」
「…何?」
それが、お前にとっての、最良の選択となるよう―
「辺境伯閣下やヘスタトル殿に相談する。俺はお前を止めねえし、そもそも俺には止められねえだろ?お前を止めれんのは、お前が大事にしてる人間だからな。閣下達に止められて、それでも止まんねえなら、最後まで付き合うさ」
「…」
「あははは!」
黙ってしまったヴィアンカの横で、ヘスタトルが腹を抱えて笑っている。彼女の答えはもらえていないが、まあ、いい、今は。
「ヴィアンカ、必ずまた口説きに戻って来る。だからそれまで考え、いや、とりあえず俺のこと忘れんな。それだけでいいから。頼む」
「…忘れはしないが」
「おう」
その答えに満足して、転移陣で待機していたマイワットに並ぶ。陣に魔力を流して起動しながら、横に立つ男に詫びる。
「またしばらくは忙しくする。悪ぃが、片が付くまでは付き合え」
「御意」
歪み始める視界。こちらを見送る紅玉に、覚悟を決める。
もぎ取った休暇の一ヶ月が過ぎようとしていた。ダグストアからの帰還コールが一日置きから毎日、日に二回になった時点で、帝都へ戻る決心が着いた。
帰還のため、転移の間に入れば、見送りに来ている次期辺境伯夫妻。その隣にヴィアンカの顔を見つけ、胸に甘い痺れが走った。
結局、リュクムンドとの邂逅以来、ヴィアンカと二人で話す機会はなかった。今を逃せば、暫くは彼女に会うことも叶わない。
「…ヴィアンカ、少し二人で話がしてえ」
「ダメだよ」
ヴィアンカの前で立ち止まれば、彼女の横に立つヘスタトルに止められた。
この一ヶ月の付き合いで、彼の人となりを多少は理解したと思う。そして、今はその顔に楽しそうな―つまり、ろくでもない―笑みが浮かんでいる。
「ラギアス君には前科があるから。この前、中庭でヴィーに手を出したでしょ?あれ結構目撃者がいたんだよね。だから二人にはさせられない」
話があるならここでどうぞと笑顔で言ってのけるヘスタトル。この男は本当にいい性格をしている。
仕方がない、引く様子の無い男の態度に腹をくくる。
「…ヴィアンカ」
呼べば、まだ真っ直ぐに見てくれる瞳に安堵する。
「俺が間違っていた。すまなかった」
言って、頭を下げれば、
「それは?何に対する謝罪だ?」
ヴィアンカの眼差しがきつくなった。それを真正面から受け止める。
「俺はお前を全面的に信じることにした。いや、もう信じてる。俺の目は腐ってる。視野が狭すぎて、色んなものを取りこぼす。正しいのは、お前の方だ。サリアリアのことは、冤罪だったと認める。退学についても、」
「馬鹿な」
ヴィアンカの声に怒気が混じる。
「安直な答えを出すな。人を盲目的に信じることで、己の判断を、責任を放棄するな。盲信による信頼など、私は認めない」
そう、認めてはもらえないかもしれない。
「わかってんだよ。けど、俺は最初から間違えたからな」
出来るなら、最初から間違えずに、お前の隣にいたかった。だが、そう、過去を無かったことにはできない。だから―
「よほどの奇跡でも起こさない限り、俺に対するお前の気持ちなんてひっくり返んねえだろ?普通にやってたんじゃ巻き返しようがねえ。馬鹿だと言われてもやめねえよ」
諦めきれねえんだから―
「…私が道を誤った時はどうするつもりだ?帝国を滅ぼすとでも言い出したら?…私には出来ないとでも?」
「いや、出来んじゃねえかって思い始めてる。けど、止めねえ。お前がそう判断したことならな」
ヴィアンカの顔が不快に歪む。
「愚かだ」
「いいんだよ。お前のことに関しちゃ、俺はそれで。その代わり、ヘスタトル殿にでも話すさ」
「…何?」
それが、お前にとっての、最良の選択となるよう―
「辺境伯閣下やヘスタトル殿に相談する。俺はお前を止めねえし、そもそも俺には止められねえだろ?お前を止めれんのは、お前が大事にしてる人間だからな。閣下達に止められて、それでも止まんねえなら、最後まで付き合うさ」
「…」
「あははは!」
黙ってしまったヴィアンカの横で、ヘスタトルが腹を抱えて笑っている。彼女の答えはもらえていないが、まあ、いい、今は。
「ヴィアンカ、必ずまた口説きに戻って来る。だからそれまで考え、いや、とりあえず俺のこと忘れんな。それだけでいいから。頼む」
「…忘れはしないが」
「おう」
その答えに満足して、転移陣で待機していたマイワットに並ぶ。陣に魔力を流して起動しながら、横に立つ男に詫びる。
「またしばらくは忙しくする。悪ぃが、片が付くまでは付き合え」
「御意」
歪み始める視界。こちらを見送る紅玉に、覚悟を決める。
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