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第二章
9-3.
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9-3.
親しき者と杯を重ね、穏やかに夜が更ける。こんな風に過ぎる夜が続くこと。求めているのは、そんな単純なこと―
「…不滅者の絶対数は少ないとは言え、十年で八体、或いはもっと多い可能性もある。無視できる数じゃないよね。対策無しじゃ、いつか人類は滅びる」
「…そう、なりますよね。不滅者の復活するという特性。復活出来ぬように倒せねば、増えていく一方だなんて」
「うん。対抗措置として研究自体も進めるけど、一番手っ取り早い手段は、不滅者を封じることができる人間、英雄の血をひく人間を増やすことなんだよね」
真面目な顔で、実際、本人は真剣なのだろうが、ヴィアンカが頷く。
「私もヘスタトル様に同意だ。だが、英雄の血をひく者が皆、同じことを出来るわけではない。実際、リュクには扱えない」
ヴィアンカの真剣な眼差しが、ラギアスに向けられた。
「だから、私は多くの子を産みたいと思っている」
「!待て!多くの子!?」
ラギアスの頬に再び赤みがさしてくる。こうしてヴィアンカの言動一つに振り回されている姿を見ていると、こんなゴツい男でも段々可愛く見えてくるから不思議だ。
「力ある者が多く産まれれば、それだけ個の負担は減らしてやれるだろうから、多ければ多いほどいいと思っている」
「待て!本当に、ちょっと待て!それは、俺の子を産むってことだな!?結婚すんだから!そういう話だな!?」
「そうなるな」
「くっそ!お前!」
うん、訂正しよう。赤くなってにやける筋骨隆々の男などやはり可愛くなんてない。気の迷いだった。
「…ヴィーの結婚相手については色々制約があるんだ。英雄の力はいつかは公になる。魔にも人にもその血を狙われることになった時のことを考えると、下手な相手と縁付くわけにもいかない」
「それで、お二人が結婚するご予定だったんですね」
納得したのか、ユニファルアの瞳に曇りが無いことにほっとする。
「そう。恋とか愛とかで結び付いてたわけじゃないからね?まあ、政略と言えなくはないんだけど、私が最良の相手というわけでもなかったし」
「…あんたが次期辺境伯だから、か?」
ヴィアンカのこととなると、突然性能を著しく落とすため忘れがちだが、この男も幼い頃から軍の中枢、そこに立つことを期待され続けてきた人間なのだ。
「君も知ってるだろうけど、南の一件以来、辺境と英雄の結び付きって言うのは禁忌。ちょっと神経質過ぎない?ってくらいにね。ヴィーの血筋だって、バレたら大騒ぎだよ」
「…士官学校で魔力を断っていたのもそのせいか?」
ラギアスがヴィアンカを見つめる。
「あの頃から、お前には全く魔力を感じなかった。そんときは単純に魔力量が少ないんだと思ってたけどよ」
「そうだな、一番の理由は今も同じだ。魔力循環を断っておけば、うっかりで人の魔力を吸ってしまうことがない。だが確かに、当時は英雄の血をひくサリアリアが近くに居たことも、大きな要因だった。危険は侵せないだろう?」
肯定を示す返事に、ラギアスの肩が落ちた。
近親者の魔力には旧懐の情や親和性を感じることが多い。当時、サリアリアとの距離が近かったヴィアンカが、魔力を遮断していたのは当然の措置だったとは言える。
だけどまあ、身体防御である魔力を常に断っているというのも異常な話。かつ、短時間ならともかく常時遮断なんて芸当は、ヴィアンカの恐ろしく緻密な魔力操作技術があって初めて成せるもの。それに気づけと言うのも酷な話ではあるが。
「…サリアリアについては、恐らく英雄と同じ力は無いだろうと推測している」
名前が出たサリアリアについて、ヴィアンカが話を続ける。
「どこで判断した?」
「ラギアスはサリアリアと居て、違和感を感じたことがあったか?魔力の自然消費が早い、というような」
「いや、ねえな。ただ、直接あいつと触れ合うことそのものが無かったからな。まあ、マクライドも何も言ってなかったから、本当に無かったと思うが」
「彼女は無防備だった。仮に力があったとするなら、直ぐに露見していたはずだ」
考え込むラギアスを見て、ヴィアンカが一瞬の逡巡の後、言葉を続けた。
「…彼女の誘拐事件については、」
「!」
弾かれたようにラギアスが顔をあげ、ヴィアンカの顔を凝視する。
ヴィアンカを信じると宣言したラギアスが、以降、事件について触れることは無かった。ヴィアンカ自身も今まで自ら釈明することはなかったのだが。
「ラギアス、最初に言っておく。この件については既にあなたからの謝罪を受け取っている」
だから謝罪は不要だと暗に言うヴィアンカに、不承不承ながらもラギアスが頷く。
「サリアリアの誘拐は、封じる力とは関係なく、英雄の娘の影響力を恐れた皇家によるものだとみている。本人の意思はともかく、彼女に心酔する者は多かったからな」
「!」
「『帝国の影』を知っているな?かの家の娘が、ラインベスタ家のディノールと接触していた。事件の証拠集めに尽力していたのは彼だろう?私を主犯とする証拠も、かの家ならば容易く仕込めた」
「…そういう、ことかよ」
ラギアスの食い縛った歯から、ギリと音がする。
「うん、正確には暴走した一部のやんごとなき方々の後始末を影が負った、というところだったみたいだけどね」
「…調べたのか?」
「当然!君達と対立していたヴィーを、都合のいい生け贄として偶々選んだのか。それともヴィーの出自に気づいた上での、個人攻撃だったのか。どっちかで話は全然変わってくるでしょ?」
多少の危険は侵したが、彼女の安全を保証するためには必要だった。
「結局、選ばれたのは偶然だったみたいだし、ヴィー本人も気にしてないから、後は放っておいたけどね」
「…その話、あいつらにもするわけには…いかねえんだろうな」
いかないね。それは彼女も承知の上。ラギアスの嘆息に、ヴィアンカが口を開いた。
「…幸いなことに、サリアリアの嫁いだべブスファーは皇家に近い。公爵位という地位の高さからも、彼女が狙われる危険性は格段に下がったとみて良いだろう。マクライドはともかく、皇家の思惑など気づかぬままが、彼女にとっては安全だ」
確かに、サリアリア嬢についてはそうなのだろう。
「過去のことだ。今さら真実を暴いたところで得るものは何もない。この事で、国との間に軋轢を生みたくはないからな」
「…得るもんはなくても、お前の名誉は回復されんだよ。本当に、俺はなんにも見えてねえんだな」
「全てを見るというのは無理な話だ。限られた情報のなかでどう判断するかだが。これに関しては、私も国との対立を避けて、敢えて思い込ませたままにしていたところがある。気にするな」
惚れてる女に、謝罪は不要、気にするなと言われて、本当に気にしない男なんていないと思うのだが。それを平気で言うのがヴィアンカだから仕方ない。
浮上しないラギアスに視線を送る。やれやれ、本当に手のかかる―
「…ラギアス君」
「あ?」
「私はね、君に期待している。単純な剣や魔力もそうだけど、ヂアーチである君なら守れると信じて。辺境の、そして英雄の娘であるヴィーを、私達の愛し子を託すんだよ」
「!?」
だから、一々、こんなことで立ち止まってもらっては困る。一応は、激励も込めたつもりの言葉を、目の前の男は正しく理解したらしい。
―野生の獣の会心の笑みとか、恐いんだけど
「家の名でも何でも、使えるものは使ってやるよ。ヴィアンカの、お前の隣は俺だ」
ギラギラした雄の視線を平然と受け止めるヴィアンカに。まぁわかってはいるけれど、もう少し危機感というか…この子の情緒面の成長は、何というか、うん。
隣を見れば、最愛の妻が何とも言えない表情で目の前の捕食光景を眺めている。思わず吹き出せば、拗ねる彼女の可愛い顔が見られた。
「だって、ヴィアンカ様がこんなに急に嫁がれるなんて。ずっと姉のように思っていましたから」
言って、寂しげな表情になるのは良くない流れ。遠くに離れるわけではないが、全てが今まで通りというわけにはいかない。思うところもあるのだろう。
「…ユニファルア夫人、あなたにも正式な謝罪を」
ユニファルアの様子を見てとったラギアスが頭を下げた。
「遅くなってしまったが、レイドの名をあなたから奪ったこと、申し訳なかった。…ずっと、謝罪せねばと思っていた」
「!」
潔いラギアスの態度にユニファルアが慌て出す。だが、この件に関しては自分にも言いたいことがある。
「ラギアス君、ユニとも話したけど、その件について、君の謝罪はいらないよ。君が主導したわけでも、実行したわけでも無いってのは調査済みだし。その場に居合わせて、何というか箔付け?ヂアーチの名を振りかざす?役回りではあったようだけど」
「…んなもんは、言い訳にもなんねえだろ」
「君にとってはそうかもね。でも私にとって非常な幸運だったことも確かなんだよ。仮に帝都でユニファルアに出会ったとしても、レイドのままでは流石に辺境に拐うわけにはいかなかったし」
高位貴族と辺境の結び付きも、国にとっては目障りでしかない。
「…出来ないことも無いけど、私の手でユニからレイドを奪ったら、嫌われちゃってたかもしれないでしょ?」
そうなっていたら最悪だ。だから自分の手を汚すことなくユニファルアを手に出来たのは本当に幸運だった。
「ラギアス、私もヘスタトル様の意見に賛同する。ユニファルアを泣かせたことについては謝罪すべきだが、結果としては最良だった。…セウロンだけは許されんがな」
ユニファルアを守るべき立場にありながら、それを裏切った。彼女の元婚約者を、ヴィアンカは嫌う。自身、全く同じ気持ちだと頷けば、ラギアスが困惑し、ユニファルアが呆れの表情を見せる。
「ラギアス様、この二人は私事 になると、多分に我儘といいますか、自己中心的になることがあって」
ユニファルアが嘆息する。
「ですがそうですね。結局、私も二人と同じ気持ちです。それに、」
口元に穏やかな笑みが浮かぶ。
「南の砦で、ラギアス様はセウロン様から私を庇おうとしてくれました。…ラギアス様、私は貴方を許します」
それでも、許された男の顔は険しいまま。だけどまあ、納得できなくても、ここは諦めてもらうしかない。それがどうしても無理だと言うのなら、
―態度で示せ
時間は与えられた。明日から、僕たちは親族なのだから。
親しき者と杯を重ね、穏やかに夜が更ける。こんな風に過ぎる夜が続くこと。求めているのは、そんな単純なこと―
「…不滅者の絶対数は少ないとは言え、十年で八体、或いはもっと多い可能性もある。無視できる数じゃないよね。対策無しじゃ、いつか人類は滅びる」
「…そう、なりますよね。不滅者の復活するという特性。復活出来ぬように倒せねば、増えていく一方だなんて」
「うん。対抗措置として研究自体も進めるけど、一番手っ取り早い手段は、不滅者を封じることができる人間、英雄の血をひく人間を増やすことなんだよね」
真面目な顔で、実際、本人は真剣なのだろうが、ヴィアンカが頷く。
「私もヘスタトル様に同意だ。だが、英雄の血をひく者が皆、同じことを出来るわけではない。実際、リュクには扱えない」
ヴィアンカの真剣な眼差しが、ラギアスに向けられた。
「だから、私は多くの子を産みたいと思っている」
「!待て!多くの子!?」
ラギアスの頬に再び赤みがさしてくる。こうしてヴィアンカの言動一つに振り回されている姿を見ていると、こんなゴツい男でも段々可愛く見えてくるから不思議だ。
「力ある者が多く産まれれば、それだけ個の負担は減らしてやれるだろうから、多ければ多いほどいいと思っている」
「待て!本当に、ちょっと待て!それは、俺の子を産むってことだな!?結婚すんだから!そういう話だな!?」
「そうなるな」
「くっそ!お前!」
うん、訂正しよう。赤くなってにやける筋骨隆々の男などやはり可愛くなんてない。気の迷いだった。
「…ヴィーの結婚相手については色々制約があるんだ。英雄の力はいつかは公になる。魔にも人にもその血を狙われることになった時のことを考えると、下手な相手と縁付くわけにもいかない」
「それで、お二人が結婚するご予定だったんですね」
納得したのか、ユニファルアの瞳に曇りが無いことにほっとする。
「そう。恋とか愛とかで結び付いてたわけじゃないからね?まあ、政略と言えなくはないんだけど、私が最良の相手というわけでもなかったし」
「…あんたが次期辺境伯だから、か?」
ヴィアンカのこととなると、突然性能を著しく落とすため忘れがちだが、この男も幼い頃から軍の中枢、そこに立つことを期待され続けてきた人間なのだ。
「君も知ってるだろうけど、南の一件以来、辺境と英雄の結び付きって言うのは禁忌。ちょっと神経質過ぎない?ってくらいにね。ヴィーの血筋だって、バレたら大騒ぎだよ」
「…士官学校で魔力を断っていたのもそのせいか?」
ラギアスがヴィアンカを見つめる。
「あの頃から、お前には全く魔力を感じなかった。そんときは単純に魔力量が少ないんだと思ってたけどよ」
「そうだな、一番の理由は今も同じだ。魔力循環を断っておけば、うっかりで人の魔力を吸ってしまうことがない。だが確かに、当時は英雄の血をひくサリアリアが近くに居たことも、大きな要因だった。危険は侵せないだろう?」
肯定を示す返事に、ラギアスの肩が落ちた。
近親者の魔力には旧懐の情や親和性を感じることが多い。当時、サリアリアとの距離が近かったヴィアンカが、魔力を遮断していたのは当然の措置だったとは言える。
だけどまあ、身体防御である魔力を常に断っているというのも異常な話。かつ、短時間ならともかく常時遮断なんて芸当は、ヴィアンカの恐ろしく緻密な魔力操作技術があって初めて成せるもの。それに気づけと言うのも酷な話ではあるが。
「…サリアリアについては、恐らく英雄と同じ力は無いだろうと推測している」
名前が出たサリアリアについて、ヴィアンカが話を続ける。
「どこで判断した?」
「ラギアスはサリアリアと居て、違和感を感じたことがあったか?魔力の自然消費が早い、というような」
「いや、ねえな。ただ、直接あいつと触れ合うことそのものが無かったからな。まあ、マクライドも何も言ってなかったから、本当に無かったと思うが」
「彼女は無防備だった。仮に力があったとするなら、直ぐに露見していたはずだ」
考え込むラギアスを見て、ヴィアンカが一瞬の逡巡の後、言葉を続けた。
「…彼女の誘拐事件については、」
「!」
弾かれたようにラギアスが顔をあげ、ヴィアンカの顔を凝視する。
ヴィアンカを信じると宣言したラギアスが、以降、事件について触れることは無かった。ヴィアンカ自身も今まで自ら釈明することはなかったのだが。
「ラギアス、最初に言っておく。この件については既にあなたからの謝罪を受け取っている」
だから謝罪は不要だと暗に言うヴィアンカに、不承不承ながらもラギアスが頷く。
「サリアリアの誘拐は、封じる力とは関係なく、英雄の娘の影響力を恐れた皇家によるものだとみている。本人の意思はともかく、彼女に心酔する者は多かったからな」
「!」
「『帝国の影』を知っているな?かの家の娘が、ラインベスタ家のディノールと接触していた。事件の証拠集めに尽力していたのは彼だろう?私を主犯とする証拠も、かの家ならば容易く仕込めた」
「…そういう、ことかよ」
ラギアスの食い縛った歯から、ギリと音がする。
「うん、正確には暴走した一部のやんごとなき方々の後始末を影が負った、というところだったみたいだけどね」
「…調べたのか?」
「当然!君達と対立していたヴィーを、都合のいい生け贄として偶々選んだのか。それともヴィーの出自に気づいた上での、個人攻撃だったのか。どっちかで話は全然変わってくるでしょ?」
多少の危険は侵したが、彼女の安全を保証するためには必要だった。
「結局、選ばれたのは偶然だったみたいだし、ヴィー本人も気にしてないから、後は放っておいたけどね」
「…その話、あいつらにもするわけには…いかねえんだろうな」
いかないね。それは彼女も承知の上。ラギアスの嘆息に、ヴィアンカが口を開いた。
「…幸いなことに、サリアリアの嫁いだべブスファーは皇家に近い。公爵位という地位の高さからも、彼女が狙われる危険性は格段に下がったとみて良いだろう。マクライドはともかく、皇家の思惑など気づかぬままが、彼女にとっては安全だ」
確かに、サリアリア嬢についてはそうなのだろう。
「過去のことだ。今さら真実を暴いたところで得るものは何もない。この事で、国との間に軋轢を生みたくはないからな」
「…得るもんはなくても、お前の名誉は回復されんだよ。本当に、俺はなんにも見えてねえんだな」
「全てを見るというのは無理な話だ。限られた情報のなかでどう判断するかだが。これに関しては、私も国との対立を避けて、敢えて思い込ませたままにしていたところがある。気にするな」
惚れてる女に、謝罪は不要、気にするなと言われて、本当に気にしない男なんていないと思うのだが。それを平気で言うのがヴィアンカだから仕方ない。
浮上しないラギアスに視線を送る。やれやれ、本当に手のかかる―
「…ラギアス君」
「あ?」
「私はね、君に期待している。単純な剣や魔力もそうだけど、ヂアーチである君なら守れると信じて。辺境の、そして英雄の娘であるヴィーを、私達の愛し子を託すんだよ」
「!?」
だから、一々、こんなことで立ち止まってもらっては困る。一応は、激励も込めたつもりの言葉を、目の前の男は正しく理解したらしい。
―野生の獣の会心の笑みとか、恐いんだけど
「家の名でも何でも、使えるものは使ってやるよ。ヴィアンカの、お前の隣は俺だ」
ギラギラした雄の視線を平然と受け止めるヴィアンカに。まぁわかってはいるけれど、もう少し危機感というか…この子の情緒面の成長は、何というか、うん。
隣を見れば、最愛の妻が何とも言えない表情で目の前の捕食光景を眺めている。思わず吹き出せば、拗ねる彼女の可愛い顔が見られた。
「だって、ヴィアンカ様がこんなに急に嫁がれるなんて。ずっと姉のように思っていましたから」
言って、寂しげな表情になるのは良くない流れ。遠くに離れるわけではないが、全てが今まで通りというわけにはいかない。思うところもあるのだろう。
「…ユニファルア夫人、あなたにも正式な謝罪を」
ユニファルアの様子を見てとったラギアスが頭を下げた。
「遅くなってしまったが、レイドの名をあなたから奪ったこと、申し訳なかった。…ずっと、謝罪せねばと思っていた」
「!」
潔いラギアスの態度にユニファルアが慌て出す。だが、この件に関しては自分にも言いたいことがある。
「ラギアス君、ユニとも話したけど、その件について、君の謝罪はいらないよ。君が主導したわけでも、実行したわけでも無いってのは調査済みだし。その場に居合わせて、何というか箔付け?ヂアーチの名を振りかざす?役回りではあったようだけど」
「…んなもんは、言い訳にもなんねえだろ」
「君にとってはそうかもね。でも私にとって非常な幸運だったことも確かなんだよ。仮に帝都でユニファルアに出会ったとしても、レイドのままでは流石に辺境に拐うわけにはいかなかったし」
高位貴族と辺境の結び付きも、国にとっては目障りでしかない。
「…出来ないことも無いけど、私の手でユニからレイドを奪ったら、嫌われちゃってたかもしれないでしょ?」
そうなっていたら最悪だ。だから自分の手を汚すことなくユニファルアを手に出来たのは本当に幸運だった。
「ラギアス、私もヘスタトル様の意見に賛同する。ユニファルアを泣かせたことについては謝罪すべきだが、結果としては最良だった。…セウロンだけは許されんがな」
ユニファルアを守るべき立場にありながら、それを裏切った。彼女の元婚約者を、ヴィアンカは嫌う。自身、全く同じ気持ちだと頷けば、ラギアスが困惑し、ユニファルアが呆れの表情を見せる。
「ラギアス様、この二人は私事 になると、多分に我儘といいますか、自己中心的になることがあって」
ユニファルアが嘆息する。
「ですがそうですね。結局、私も二人と同じ気持ちです。それに、」
口元に穏やかな笑みが浮かぶ。
「南の砦で、ラギアス様はセウロン様から私を庇おうとしてくれました。…ラギアス様、私は貴方を許します」
それでも、許された男の顔は険しいまま。だけどまあ、納得できなくても、ここは諦めてもらうしかない。それがどうしても無理だと言うのなら、
―態度で示せ
時間は与えられた。明日から、僕たちは親族なのだから。
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