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前編 学園編
2-1. 学園入学 ゲーム開始
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2-1.
入学式当日、お世話になった宿を引き払った。王都の南端にある『プリセミリア学園』を目指して、ブレンと二人、並んで歩く。
ここ一ヶ月できっちりと、私のレベルを更に1上げたブレンは機嫌がいい。そんなブレンを見上げれば、彼の首に巻かれているのは、少しゴツめのチョーカー。これは、どう見ても―
「…」
「…何だ?」
―大型犬に首輪つけてるようにしか見えない
見下ろしてくる鋭い眼光も相まって、ブレンが猛獣に見えてくる。
仕方なかったのだ―
ブレンの奴隷紋を隠せて、どうせなら防御力も高い物をと探した結果、この装備しかなかったのだから。なるべく悪目立ちしないために奴隷紋を隠そうと考えたのに、結果、これはこれで目立ってしまっている気がしてならない。かと言って、他に良い方法も浮かばず、これはもうどうにもならないと諦めることにした。
訝しげなブレンの視線には何でもないと首を振って、気になっていたことを尋ねる。
「宿、引き払って良かったの?」
私と違い、ブレンは五年近くお世話になっていた宿だから、離れることに抵抗は無いのだろうか。
「学園を出た後、必ず戻るとも限らない。必要になれば、また取ればいいだけのこと。お前次第だ」
「…うん」
確かに、既に家を出た以上、王都に留まる必要はない。行こうと思えば、意思一つで何処にだって行けるわけだ。ブレンの言い方からすると、彼も一緒に。
『プリセミリア学園』には学年制がなく、必要な単位をとり、学園に認められれば卒業することが出来る。ゲームの中でも特に卒業イベントなどはなく、ずっと学園に在籍しながら冒険を続けていた。
私の目的は『始まりの祠』だから、特に卒業に拘っているわけでもない。学園を拠点にダンジョン攻略が進められるなら、それでいいと思っていたけれど。もっと、遠く、ゲームでは登場しなかったような場所まで、二人で行ってみるのも―
「ミア」
「?」
突然、ブレンに肩を引き寄せられる。隣を馬車が駆け抜けて行った。
「気を抜きすぎだ」
そのまま、私と並ぶ位置を入れ換えたブレンの眉間に皺が寄っている。
「平気でしょう?そんなに危ない距離でも無かったし、もし、ぶつかっていても、壊れるのは馬車の方だったと思うよ?」
「…」
「…わかった、気を付ける」
たまに、こうやってブレンが神経質になる時があるが、そのスイッチがいつ入っているのかがわからずに困惑してしまう。
「気を付ける」という私の言葉に満足したらしいブレンが頷いて、馬車が走り去った先を睨んだ。
「アメルン家の紋章入りだったな」
「わかるの?」
「…」
黙り込んでしまったブレン。馬車の消えた先は、学園へと続く一本道。
学園は貴族を中心に成り立っているが、一定の金額を納めれば、平民でも入学することが出来る。両者の間に何か軋轢があるという話は聞かないけれど、全く何も無いということはないだろう。貴族から平民になった私達はちょっと特殊な部類だが、なるべく余計な争いには巻き込まれたくない。
―そう言えば、
ステータスを唱える。現れた表示、名前の項目にはまだ、「ビンデバルド」の文字が残っている。
「ブレン、ちょっとアナライズしてみてよ。私の名前どうなってる?」
「…『ミア・ビンデバルド』」
「やっぱり?家名、まだついてるよね?」
勘当され、家を出てから、一月は経つのだが、
「ブレンはどれくらいで消えた?」
「わからん」
「うーん、そっかぁ」
私が、ブレンの姓が無くなっていることに気づいたのは、ブレンが家を出てから半年くらい後のことだった。私の場合も、それくらいの時間は掛かるのかもしれない。
―さっさと、消えればいいのに
元から、学園内で『ビンデバルド』を名乗るつもりはない。それでも、今のステータスを見られてしまえば、簡単にばれてしまうわけで。下手をすると、途中で名前が変わるという事態に、誰かが気づいてしまう可能性はある。
身分制度の面倒な部分に巻き込まれずに、平穏な学園生活を送る、つまりダンジョン攻略が出来ればいいのだけれど。
入学式当日、お世話になった宿を引き払った。王都の南端にある『プリセミリア学園』を目指して、ブレンと二人、並んで歩く。
ここ一ヶ月できっちりと、私のレベルを更に1上げたブレンは機嫌がいい。そんなブレンを見上げれば、彼の首に巻かれているのは、少しゴツめのチョーカー。これは、どう見ても―
「…」
「…何だ?」
―大型犬に首輪つけてるようにしか見えない
見下ろしてくる鋭い眼光も相まって、ブレンが猛獣に見えてくる。
仕方なかったのだ―
ブレンの奴隷紋を隠せて、どうせなら防御力も高い物をと探した結果、この装備しかなかったのだから。なるべく悪目立ちしないために奴隷紋を隠そうと考えたのに、結果、これはこれで目立ってしまっている気がしてならない。かと言って、他に良い方法も浮かばず、これはもうどうにもならないと諦めることにした。
訝しげなブレンの視線には何でもないと首を振って、気になっていたことを尋ねる。
「宿、引き払って良かったの?」
私と違い、ブレンは五年近くお世話になっていた宿だから、離れることに抵抗は無いのだろうか。
「学園を出た後、必ず戻るとも限らない。必要になれば、また取ればいいだけのこと。お前次第だ」
「…うん」
確かに、既に家を出た以上、王都に留まる必要はない。行こうと思えば、意思一つで何処にだって行けるわけだ。ブレンの言い方からすると、彼も一緒に。
『プリセミリア学園』には学年制がなく、必要な単位をとり、学園に認められれば卒業することが出来る。ゲームの中でも特に卒業イベントなどはなく、ずっと学園に在籍しながら冒険を続けていた。
私の目的は『始まりの祠』だから、特に卒業に拘っているわけでもない。学園を拠点にダンジョン攻略が進められるなら、それでいいと思っていたけれど。もっと、遠く、ゲームでは登場しなかったような場所まで、二人で行ってみるのも―
「ミア」
「?」
突然、ブレンに肩を引き寄せられる。隣を馬車が駆け抜けて行った。
「気を抜きすぎだ」
そのまま、私と並ぶ位置を入れ換えたブレンの眉間に皺が寄っている。
「平気でしょう?そんなに危ない距離でも無かったし、もし、ぶつかっていても、壊れるのは馬車の方だったと思うよ?」
「…」
「…わかった、気を付ける」
たまに、こうやってブレンが神経質になる時があるが、そのスイッチがいつ入っているのかがわからずに困惑してしまう。
「気を付ける」という私の言葉に満足したらしいブレンが頷いて、馬車が走り去った先を睨んだ。
「アメルン家の紋章入りだったな」
「わかるの?」
「…」
黙り込んでしまったブレン。馬車の消えた先は、学園へと続く一本道。
学園は貴族を中心に成り立っているが、一定の金額を納めれば、平民でも入学することが出来る。両者の間に何か軋轢があるという話は聞かないけれど、全く何も無いということはないだろう。貴族から平民になった私達はちょっと特殊な部類だが、なるべく余計な争いには巻き込まれたくない。
―そう言えば、
ステータスを唱える。現れた表示、名前の項目にはまだ、「ビンデバルド」の文字が残っている。
「ブレン、ちょっとアナライズしてみてよ。私の名前どうなってる?」
「…『ミア・ビンデバルド』」
「やっぱり?家名、まだついてるよね?」
勘当され、家を出てから、一月は経つのだが、
「ブレンはどれくらいで消えた?」
「わからん」
「うーん、そっかぁ」
私が、ブレンの姓が無くなっていることに気づいたのは、ブレンが家を出てから半年くらい後のことだった。私の場合も、それくらいの時間は掛かるのかもしれない。
―さっさと、消えればいいのに
元から、学園内で『ビンデバルド』を名乗るつもりはない。それでも、今のステータスを見られてしまえば、簡単にばれてしまうわけで。下手をすると、途中で名前が変わるという事態に、誰かが気づいてしまう可能性はある。
身分制度の面倒な部分に巻き込まれずに、平穏な学園生活を送る、つまりダンジョン攻略が出来ればいいのだけれど。
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