召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第二章 巫女という名の監禁生活

6.

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6.

―ヴォルフ

もう二度と、会えないと思っていたのに―

ハイリヒの後に続いて部屋に入ってきた男の姿に、息を飲んだ。

忘れたかったけど、忘れられなかった。会いたかったけど、絶対に会っちゃだめだと思ってた。なのに、何で彼が、

「巫女様、新しい護衛騎士を紹介致します」

ハイリヒの言葉で姿勢を正した彼が、綺麗なお辞儀をした。本当の、騎士みたいな。

「この者は、白銀の冒険者をしておりましたので、腕は確かです。如何な敵からも、必ずや巫女様をお守りするでしょう」

上げた彼の顔に、髭がない。伸び放題だった髪も短く刈り上げられている。全然、違う人みたいになってしまっているけれど。

見つめる瞳が。静かに凪いだ瞳が、懐かしくて、愛しくて。溢れそうになる涙を、漏れそうになる声を必死にこらえた。

ベールがあって、良かった。顔を見られなくて―

ハイリヒが、彼を振り向く。

「お前の前任者は、巫女様に許可なく触れるという愚行を侵した。お前は決して同じ間違いを侵すな」

「…」

無言でうなずく彼を一瞥し、ハイリヒが再びこちらに視線を向けた。その顔に、笑みをのせて。

「巫女様、煩わしいでしょうが、御身の安寧のため、ご辛抱下さいませ」

頭を下げる男に返す言葉はもたない。無言を貫けば、苦笑を浮かべたハイリヒは暇を告げて部屋を後にした。

部屋に二人残され、身の置き所に迷う。何故、彼がこんなところに?何故、巫女わたしの護衛騎士になんてなったのだろう?ひょっとしたら―

「…トーコ」

「っ!」

名前を呼ばれた。この一年、誰も呼ぶことのなかった、誰にも告げることのなかった、私の名前を。

「っ!」

―ヴォルフ、会いたかった!

告げてしまいそうになった想い。だけど、彼に伝えるわけにはいかないその言葉を、必死にこらえた。

駄目だ。決めたのだから。誰も好きにならない、大切な人なんて作らないって。泣いて、喚いて、頼りたくなる弱い気持ちを押し込めて、部屋の扉へと向かった。

部屋を出て向かうのは巫女の間、あそこなら一人になれる。巫女の間は巫女だけに許された場所、例え護衛騎士であろうと入室は許されない。気配のしない背後を振り向けば、ヴォルフが無言で付き従っている。視線を戻し、足を早める。早く、早く、一人にならないと。

ヴォルフは、彼は、巫女の護衛。一緒に居られることを、嬉しいと感じるわけにはいかないのだから。だけど、

いつもは僅かにしか感じられない、体に流れ込む不快感が増えていく―




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