初恋と想い出と勘違い

瀬野凜花

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33 入学式2

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「お隣、失礼します」

 隣の席の人が来たようだ。顔をあげると、光沢のある赤い髪に黄みの強い茶色の瞳の令嬢が椅子に腰かけるところだった。知らない顔だ。美しい赤髪を持つ貴族はそう多くはない。私が会ったことがないことからも察するに……。

「お初にお目にかかります。ミュラー伯爵家のエレナと申します。隣の席となったのも何かの縁でしょう。これからよろしくお願いいたします」

 エレナはゆったりと微笑んだ。予想は当たっていたようだ。

「はじめまして。ソフィア・フェルノと申します。仲良くしていただけると嬉しいわ」

 私の名前を聞いてもエレナに動揺は見られない。彼女も私が誰なのか分かっていて声をかけたようだ。学園に来て初めて話しかけてくれたエレナ。友だちになれるかな。

「ではソフィアと呼ばせてもらうわね。堅苦しい話し方は苦手なのだけど、いいかしら」

「もちろんよ。私はエレナと呼ぶことにするわ」

 突然口調を崩したエレナに驚きながらも、嬉しくなって笑みがこぼれた。今までは私の機嫌を損ねることを恐れているのか、気軽に話してほしいと言っても敬語を崩してくれる令嬢はいなかったから。ルー以来の敬語を崩してくれる同い年の人。彼女は他の令嬢とは違う。期待に胸がふくらんだ。

 私の笑みに、エレナは目を見開き、こっそりと様子をうかがっていたらしい周囲がざわついた。
 エレナは目を細めて笑い声をもらした。

「ふふ。改めてよろしくね、ソフィア」

 エレナの瞳に宿る鋭い光が和らぐ。口調を崩した瞬間のエレナの探るような視線に、私は気がついていた。仲良くなれそうだと思ってくれていたらいいな。

 突然、教室の外が騒がしくなった。何事かと顔を向けると、教室のドアが開いて、男子生徒が教室に入ってきた。その姿を見た途端、教室内でも歓声があがる。
 入ってきたのはルーだった。ルーは教室を見渡すと、こちらに向かって歩いてきた。胸が高鳴る。ルーはゆっくりと歩いてくる。視線が合って……。

 合った視線はすぐに逸らされて、ルーは私の横を通り過ぎ、私の後ろの席に腰を下ろした。

 ルーは、私がフィーだって気がつかなかったのね。あるいは……。

 期待しただけに、落胆する。そもそも手紙に返事が来なかった時点で、期待するのは無駄だと、ルーではなくてルイス様と呼ぶと決めたではないか。どうして期待してしまったのだろう。

「君は私の前の席かな? 会うのは初めてだね。ルイス・ウォーレンだ。これからよろしく」

「ええ、そのようですね。ソフィア・フェルノと申します。よろしくお願いいたします」

 にっこりと微笑むルー、いいえ、ルイス様に、胸がちくちくと痛む。

 私は今、笑えているのかな。
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