出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第四章:想う心と○○な味の……

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 3月に入って、寒さも段々と和らいできて、季節は移り変わる。

 長すぎる春休みは、殆どバイトに明け暮れていた。

 働いている時は、余計な事を考えなくて済む。

 ただ……俺はもう、透さんを無理に忘れようとするのを止めていた。

 透さんと会っていたあの頃から、時間はどんどん遠ざかるのに、記憶だけは鮮明で色褪せる事もなく。

 忘れなきゃと思うけど……、そう思うだけで胸が苦しくなるから。

 透さんが居なくなってしまったと知ったバレンタインデーのあの夜、みっきーと別れて自分の部屋に戻ってシャワーを浴び、すぐにベッドに入った。

 何も考えずに、ただ眠りたかった。でも、身体は疲れているのに、目を閉じていても、なかなか寝付けなくて。

 何度も寝返りを繰り返し、考えるのを止めた筈なのに、浮かぶのは透さんの事ばかり。

 もう会えないと思うと、苦しくて、痛くて、辛い。

 新聞配達のバイクの音が聞こえる頃に、ベッドから抜け出てキッチンへと向かう。なんだかすごく喉が渇いていて、冷蔵庫の中からペットボトルの水を取り出して、一気に喉に流し込んだ。

 そのまま小さな冷蔵庫を背もたれにして、床に座り込んでしまうと動くのも面倒で。

 もう会えないと思うと辛い、忘れなきゃと思うのも辛い。

 じゃあ透さんに迷惑はかけないから、勝手にまだ好きでいてもいいかな。

 そう考えると、少しだけ気持ちが楽になった気がした。

 膝を抱えて目を閉じると漸く眠気を感じて、少しの間、冷蔵庫に凭れたまま微睡んでいたと思う。

 東の空が少し明るくなった頃、啓太が部屋に尋ねてきた。ドロドロに酔っ払って。

 どうしたのかと話を訊けば、14日のバレンタインは、ゆり先輩にチョコレートを貰ったらしい。

 良かったじゃないかと言えば、貰ったのは自分だけじゃなくて、その時同じ場所にいた他の男5人も同じチョコレートを貰ったそうだ。

 ……つまり……?

 それで泥酔したのかと思ったら、違った。

 その時、ゆり先輩は今夜誰と夜を過ごすかって話になって、みんなでクジを引いたらしい。

 ……なんだそれ……?

 とにかく、啓太はクジには外れて、他の残った男共と明け方まで仲良く呑んでいたらしい。

 それで啓太は、ゆり先輩を諦めるのかと思ったら、今も果敢にアタックをかけている。

 ゆり先輩が、啓太含めて6人に渡したチョコレートって、義理チョコなのかと俺は思っていたんだけど……、実は全部本命のつもりだったそうだ。

 それでいいのか、啓太……って思うけど、それでも好きだから……って、啓太は言った。

 ――好きっていう自分の気持ちは、誤魔化せない。
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