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第5話
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「アシャード伯爵家からの縁談は私のものにしてもいいでしょう?今の婚約なんて破棄すればいいし」
カトナの提案を聞いたお父様は頭を抱えてしまった。
「正当な理由もなく婚約破棄したらコルガー子爵家の面子が丸潰れになるだろう。それに不当に婚約破棄したなら慰謝料だって請求されるに決まっている。何よりもカトナ自身の評判だって悪くなってしまうぞ」
「そんなの相手にも責任があるだから婚約破棄されて当然よ。私だけが悪いはずないもの。むしろ悪いのは相手のほうだから私の評判が悪くなるほうが間違いなの。何より私は子爵家よりも伯爵家に嫁ぐべきでしょ?」
「…どうしても今の婚約者では不満というのだな?」
「当たり前じゃない。だって子爵家なのよ?私には釣り合わないわ」
男爵家の、しかも養女であるカトナが言うべき言葉ではない。
私は怒りを抑える。
だってこんなところで怒りを爆発させてしまっては計画が台無しになってしまうから。
もう少しの我慢。
もう少しの我慢で上手くいくのだから。
「今度もまた相手が気に入らないと言い出したら次はないぞ。それでもいいのか?」
「いいわ」
「そうか……。ならばこれにサインしてくれ」
お父様が取り出したのは養子の解消に関する契約書だと思う。
きっと問題を起こしたら養子を解消するという内容のはず。
養子を迎えるよう義務化された後、虐待等の可能性が考慮され、養子から一方的に養子関係を解消できるよう法も作られた。
この権利を行使されれば養親に問題があったと見なされるため、そうでないことを証明するために事前に条件を提示し、相手がそれを受け入れたことの証明とするはず。
それにカトナがサインしてしまえば何を言おうが当家の問題ではない。
その点、抜かるようなお父様ではないからサインさえさせてしまえば大丈夫。
カトナは内容もろくに確認せずにサインした。
「これでいい?」
「ああ。アシャード家からの縁談はカトナのものとする。エイリアもそれで異論はないな?」
「はい、ありません」
「また縁がなくて残念だったわね。伯爵家との縁だったのに、本当に残念ね」
わざわざ私を馬鹿にするように言うけど、本当に残念なのはカトナのほうなのに。
でもここで真実を明かしてしまったらカトナが絶望する表情を見ることができないし、何よりも当家から追い出せなくなってしまうかもしれない。
私はカトナのように感情的で考えなしではないから我慢すべきところは我慢できる。
「もしまた婚約破棄するようなことがあれば養子縁組を解消して当家とは無関係になる。カトナもそのことを忘れないように」
「わかったわよ。伯爵家との縁談だもの。今度こそ私に相応しい相手に決まっているから問題ないわよ」
どうしてカトナはこうも自信だけは過剰なほどになってしまったのだろう。
生まれつきなのか、貴族家の養女として迎えられるという幸運を勘違いしてしまったのか。
きっとその謎は解けないと思うけど。
それにコルガー子爵家への慰謝料の支払いもどうするのだろう。
決して小さな負担ではないだろうし、カトナのせいで余計な支出が増えてしまった。
ただでさえ厳しい当家の財政事情に余計な負担を強いるなんて、カトナは疫病神みたいなものじゃない。
カトナを養女にしてから何もかもが悪い方向へと転がり落ちるようだった。
でもこれでカトナとの縁が切れれば転がり落ちるのはカトナだけ。
地の底まで転がり落ちていけばいいわ。
* * * * * * * * * *
後日、コルガー子爵家と婚約破棄の件で決着がついた。
カトナの一方的な婚約破棄に思えたけど、実は婚約者のほうにも問題があったらしく、お父様はそこを追及して大幅に慰謝料を減額させることに成功していた。
お父様の手腕がなければ身勝手なカトナのせいで当家は破産間近に追い込まれていたかもしれない。
やはりカトナは疫病神だと思った。
カトナの提案を聞いたお父様は頭を抱えてしまった。
「正当な理由もなく婚約破棄したらコルガー子爵家の面子が丸潰れになるだろう。それに不当に婚約破棄したなら慰謝料だって請求されるに決まっている。何よりもカトナ自身の評判だって悪くなってしまうぞ」
「そんなの相手にも責任があるだから婚約破棄されて当然よ。私だけが悪いはずないもの。むしろ悪いのは相手のほうだから私の評判が悪くなるほうが間違いなの。何より私は子爵家よりも伯爵家に嫁ぐべきでしょ?」
「…どうしても今の婚約者では不満というのだな?」
「当たり前じゃない。だって子爵家なのよ?私には釣り合わないわ」
男爵家の、しかも養女であるカトナが言うべき言葉ではない。
私は怒りを抑える。
だってこんなところで怒りを爆発させてしまっては計画が台無しになってしまうから。
もう少しの我慢。
もう少しの我慢で上手くいくのだから。
「今度もまた相手が気に入らないと言い出したら次はないぞ。それでもいいのか?」
「いいわ」
「そうか……。ならばこれにサインしてくれ」
お父様が取り出したのは養子の解消に関する契約書だと思う。
きっと問題を起こしたら養子を解消するという内容のはず。
養子を迎えるよう義務化された後、虐待等の可能性が考慮され、養子から一方的に養子関係を解消できるよう法も作られた。
この権利を行使されれば養親に問題があったと見なされるため、そうでないことを証明するために事前に条件を提示し、相手がそれを受け入れたことの証明とするはず。
それにカトナがサインしてしまえば何を言おうが当家の問題ではない。
その点、抜かるようなお父様ではないからサインさえさせてしまえば大丈夫。
カトナは内容もろくに確認せずにサインした。
「これでいい?」
「ああ。アシャード家からの縁談はカトナのものとする。エイリアもそれで異論はないな?」
「はい、ありません」
「また縁がなくて残念だったわね。伯爵家との縁だったのに、本当に残念ね」
わざわざ私を馬鹿にするように言うけど、本当に残念なのはカトナのほうなのに。
でもここで真実を明かしてしまったらカトナが絶望する表情を見ることができないし、何よりも当家から追い出せなくなってしまうかもしれない。
私はカトナのように感情的で考えなしではないから我慢すべきところは我慢できる。
「もしまた婚約破棄するようなことがあれば養子縁組を解消して当家とは無関係になる。カトナもそのことを忘れないように」
「わかったわよ。伯爵家との縁談だもの。今度こそ私に相応しい相手に決まっているから問題ないわよ」
どうしてカトナはこうも自信だけは過剰なほどになってしまったのだろう。
生まれつきなのか、貴族家の養女として迎えられるという幸運を勘違いしてしまったのか。
きっとその謎は解けないと思うけど。
それにコルガー子爵家への慰謝料の支払いもどうするのだろう。
決して小さな負担ではないだろうし、カトナのせいで余計な支出が増えてしまった。
ただでさえ厳しい当家の財政事情に余計な負担を強いるなんて、カトナは疫病神みたいなものじゃない。
カトナを養女にしてから何もかもが悪い方向へと転がり落ちるようだった。
でもこれでカトナとの縁が切れれば転がり落ちるのはカトナだけ。
地の底まで転がり落ちていけばいいわ。
* * * * * * * * * *
後日、コルガー子爵家と婚約破棄の件で決着がついた。
カトナの一方的な婚約破棄に思えたけど、実は婚約者のほうにも問題があったらしく、お父様はそこを追及して大幅に慰謝料を減額させることに成功していた。
お父様の手腕がなければ身勝手なカトナのせいで当家は破産間近に追い込まれていたかもしれない。
やはりカトナは疫病神だと思った。
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