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第2章 リネア王国 ― 【王都リストニア編】

余波

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 セナの帰還に始まった、激動の1日を終え、翌日。

 ブレイダー公爵邸では…。

 「あ…あの?俺の朝食は…これだけか?」

 「はい。奥様からの指示ですが?」

 ブレイダー公爵家、現当主 ギルス=ブレイダーの前には、サラダ1皿、パン一切れが置かれていた。

 「そ、そうか…俺は朝から肉をがっつりいきたい派なんだがな…エミル?」

 ギルスが、ブツブツと呟き、探るように隣に座るエミルへと声をかけた。

 「なにか?…ちなみに我が家に肉はありません」

 「へっ!?オ、オーク肉はっ!?ジェネラルもあるだろう!?」

 ギルスの声に自身の朝食から目を離さず、エミルが淡々と答えると、ギルスが興奮し立ち上がった。

 「ありませんわ。すべて、差し上げましたもの」

 「なっ…!?誰にだっ!?」

 「……」

 「うっ!」

 エミルの言葉に耳を疑ったのか、ギルスがエミルの肩を抑え聞くと、エミルは、冷酷な目をし、ギルスを睨みつけた。

 「…はぁ~。昨日、セナ様や迅風のため、尽力してくれた方々や、東の森の調査から帰ってきた、冒険者の方々へ、せめてもの礼として、料理長に頼んで差し入れを作り、今朝早く、セバス達に届けさせましたが?」

 「うっ!?」

 ギルスの手を払いのけ、流し目でギルスを見ながら、食事を続けるエミルの言葉に、ギルスは思わず、気まずそうに、言葉を詰まらせた。

 「それとも?日ごろ、セナ様のお人柄のおかげで上がった、当家の株に対して、当主としての対応は…まさか、知らぬ存ぜぬというわけでは…ありませんでしょうね?」

 「と!当然だっ!冒険者や協力してくれた者たちには、きちんと当家として、報酬を用意しておるわ!」

 「そうですか…さすがですわ。これでメイリーと実家に帰らなくても、すみそうですわね」

 「なっ!?」

 ギルスの言葉に、未だ冷たい笑顔を浮かべたエミルの答えに、今回の件について、今後も選択ミスは許されないというプレッシャーを与えられ、ギルスは朝から汗まみれになり、わびしい朝食を食べた。

 一方、迅風の治療を終えた、メディーとマーカス、それと錬金術師たちが、ブレイダー家から届けられた朝食を食べ、未だ目覚めない迅風の様子を見ていた。

 「おじい様…ご協力ありがとうございました。」

 「いや、素人で、足を引っ張り申し訳なかったの」

 頭を深々とさげた孫に対し、マーカスが柔らかい笑顔で答えた。

 「いえ、そんな…魔物専門の獣医は、私のほかに冒険者ギルドと、王城に1人ずつしかいませんし…設備も王城以外は…なので、本当に助かりました」

 「ほっほっほ。そういってもらえると嬉しいの」

 メディーが目線を伏せ気味にいうと、優しく頭を撫でながら、マーカスが答えた。そして、会話が途切れた二人の目は、自然と迅風へと移った。

 今だ鎮痛剤入りの眠草を食べた迅風は、元々の消耗もあり、深い眠りについてた。また、その容姿は、天井から伸びるチェーンに釣り上げられ、4本の足で立ってはいるが、足には体重がかかっていない状態で、顔にも補助器具がつけられ、まっすぐ立ったようにみえるが、全身に巻かれている包帯からは、血が滲み、何度か交換させれていた。

 「目が覚めて、食欲があってくれればいいのだけれど…」

 「そうじゃの…」

 迅風の状態を見ながら、ため息交じりにいうメディーに、マーカスは同意の言葉を言った。

 「ふむ、専門家もおるし、今のうちに準備を始めてみようかのぉ」

 「おじい様?」

 突然、何かをおもいついたのか、マーカスの言葉にメディーが疑問を口にした。

 「いやな?いつまでも、この街を救った英雄が裸馬にまたがっているのは、さすがに格好悪いじゃろ?」

 「あっ…。はい!」

 いたずら小僧のような顔で笑うマーカスに、何をしようとしているのか、察したメディーが笑顔で答えた。

 「鞍だけじゃなく、防具もいくつか作ってほしいです!」

 「まかせんしゃい!道具づくりこそ!我らが本分!メディーよ!アドバイスを頼むぞ!」

 「はい!」

 「「「 やるぞぉ!! おー!!」」」

 マーカスとメディーの会話をきいていた錬金術師が…。疲労のため床に大の字になっていたもの、一心不乱に差し入れを食べていた者、道具のかたずけをしていたもの、すべての者がマーカスの言葉、錬金術師の本分に触れ、立ち上がり、気合を入れた。

 その後…うるさいと、メディーに小言を言われたが…全員の気持ちは迅風へと向けられていた。

 そして、今回のことで一番の功労者であろう、セナの治療に携わったアディオンと、治療院の面々は…。

 「ふむ、ここまできたら、経過観察に完全に移行してもよさそうだね」

 「はい!師匠!…今回は本当にありがとうございました。師匠が居なければ…セナ様を助けられませんでした」

 「ふふふふっ。セナ君の主治医はボクだからね?当然さ…それより、今日の業務をこなす治療士の配置を考えたほうがいいんじゃないかな?」

 「げっ!ど、どうしよう!!」

 スターシャの感謝の言葉にアディオンが、意地の悪い笑顔でいうと、顔を蒼くし、苦々しい表情をして、頭を抱えたスターシャがオロオロしはじめた。

 コンコン。

 「失礼します。あの…スターシャ様?」

 「へっ?あ、なにかな?」

 「はい、来客者が来ておりますので、ロビーにお越しください」

 治療室に入ってきた治療士の声に、疑問を持ちながら、スターシャがロビーへ向かい、到着すると、そこには。

 「おはようございます。スターシャ様」

 「我々は、王国魔法士団で衛生兵をしておりまして、非番者全員で、来ました。」

 「ん?サーシェスがまたなにかしたの?」

 黒いローブをきた魔法士たち30名ほどがいて、その代表なのか2名が一歩前に出て、スターシャへと声をかけた。

 「いえ、団長はなにも…昨日は我々も色々な準備に追われ手伝うことができませんでしたが、セナ殿は我々にとっても、同じ訓練をし、同じ釜の飯を喰った仲間なのでございます!」

 「なので、神聖魔法を使える我々がなにか力になれることはないかと…はせ参じた次第です…」

 「ご迷惑とは知りながらも…すいません。でも!何でもしますので手伝わせていただきたい!」

 魔法士たちの言葉を聞きスターシャは、嬉しかったが、どう対応していいのかわからず悩んでいると。

 「うんうん!その心意気はよしだね!わかったよ!君たちには色々手伝ってもらおう!」

 突然、スターシャの後ろからアディオンが満足げに話し出した。

 「し、師匠!?いつのまに?それに、王国の人たちですよ?勝手にそれは…」

 「まぁまぁ、いいからいいから!筋肉馬鹿ジェノスと、性悪サーシェスは…まだボクのところにも詫びに来てないしね…。んじゃ、さっそく手伝ってもらおうか!まず、レベルごとに分かれてくれるかい?」

 「はい!」

 驚くスターシャをよそに、アディオンが一瞬盛大な殺気を放ったが、次々と魔法士たちに指示を出し始めた。

 そして、疲れて動けなくなっていた治療士たちの穴埋め要員として、その日1日、魔法士たちはアディオンに、こき使われたのであった。


 ブルルル!

 「どうした?二人とも?」

 「い、いえ」

 「なにか悪寒のようなものが…」

 
 王城では、急に身震いしたサーシェスとジェノスに王が不思議そうな顔で声をかけていた。
 
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