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第二十六話 「二人目」
しおりを挟む魔女の誘拐クエストを終えた後。
無事にドーラを連れて町に戻ると、僕らは闇ギルドの入口前で立ち止まった。
「じゃあ今から闇ギルドの中にお前を連れて行くけど、くれぐれも悪さはしないようにな」
「悪さ?」
ドーラは不思議そうに首を傾げる。
その疑問の視線には、『悪さ? 私が悪さなんてするはずない』みたいな意味が込められていて、思わず呆れてしまうが。
僕は今の前置きの意味をわからせるように続けた。
「あの危ない毒魔法とか撃つなってことだよ。お前、所構わず魔法とか撃ちそうだし、怖いもの知らずっぽいし。ただでさえ闇冒険者の人たちって怖いんだから、怒らせるようなこと絶対にしないでくれ」
「わかった」
ドーラは変わらずの無表情で頷く。
本当にわかったのだろうか?
わかったのならわかったなりの顔をしてほしいものだ。
いまだに僅かな不安が残るが、とりあえずはこれで準備万端。
僕らは依頼の報告を済ませるべく、ようやく闇ギルドの中に入った。
そして、「へぇ」とか「ほぉ」とか物珍し気に視線を泳がすドーラを連れて、受付のところまで行く。
「ただいま戻りましたクロムさん」
「あぁ、おかえりアサト君」
見慣れた黒髪の受付さんに声を掛けると、事務作業中にもかかわらず顔を上げて迎えてくれた。
僕の担当のクロムさん。
今回の誘拐クエストを設定したのも彼女だ。
クロムさんは次いで、僕の後方にいるドーラに目を向けてにこりと微笑をたたえる。
「うむ、依頼通りちゃんと魔女を連れてきてくれたみたいだな。期待通りの成果だ」
「い、いえ。それなりに苦労しましたけど」
不意な称賛に苦笑を浮かべてしまう。
そう、褒められるような成績ではない。それなりに苦労はした。
毒の森で毒殺されかけるし、冒険者に追いかけられるし。
もしやあれが、クロムさんの期待通りの展開なのだろうか?
何か含みのあるような笑みを見ていると、そうなのではないかと疑ってしまう。
とにもかくにも誘拐対象のドーラを見せると、クロムさんは依頼の達成を宣言してくれた。
「宝剣奪取に続いて、此度の誘拐クエストもご苦労であった。報酬の80万ギルを受け取りたまえ」
すでに用意してあったのか、受付カウンターの下からでかい袋を取り出す。
ドサッと卓上に置かれたそれは、前にも見た報酬金袋だ。
相変わらずとんでもない報酬額だな。
すると、それを見たドーラが、僕の後方で何やら言い始めた。
「おぉ……。これで私も大金持ち」
「いや、お前に渡したわけじゃないからな」
この報酬は僕とリスカのものだ。
山分けで40万ギルずつもらうつもりなんだから、そんな物欲しそうな目でお金を見ないでほしい。
半ば庇うように報酬袋を受け取ると、ドーラが不満そうな声を漏らした。
「でもこれ、私をここまで連れてきて手に入れた報酬だから、実質これは私のもの」
「どういう理屈だよそれ。お前にあげるお金は1ギルだってありはしない。ここでジュースでも奢ってやるからそれでいいだろ」
「ん~……なんか納得いかない」
いまだに彼女は不服そうに頬を膨らませている。
まあ、言わんとすることはわからないでもない。
リスカがいなければ依頼が達成できなかったのと同じように、こいつもいなければ依頼の報告ができなかったわけだからな。
しかし、あくまでドーラは誘拐対象。
リスカと同じように報酬を分け与えてやる義務はない。
代わりに僕は闇ギルド内で提供されている食事のメニューをドーラに渡し、次いでクロムさんに気になっていたことを尋ねた。
「ところで、ドーラを連れてきたのはいいんですけど、これからこいつをどうするつもりですか?」
渋々といった感じでドリンクのメニューを眺めるドーラ。
そんな彼女を指差して聞いてみると、クロムさんはきょとんとした顔で答えてくれた。
「どうするって、それはもちろん闇ギルドに勧誘するのさ。だからこそここに連れてきてもらったのだ。……魔女ドーラ、闇冒険者に興味はないか?」
「いや、興味はないかって、いくらなんでもそれはいきなりすぎるんじゃ……」
呆れながらドーラに視線を移すと、彼女はメニューから顔を上げて即答した。
「興味ある」
「えっ!?」
「あんなにいっぱいお金がもらえるなら、私もなってみたい。それで大金持ちになって、たくさんの毒物を爆買いする」
「志が斜めすぎるだろ。いいのかよそんなに軽く決めちゃって」
呆れながら問いかけると、ドーラは真剣な眼差しを僕に返してきた。
冗談を言っているようには見えない。
マジで毒物を爆買いするという意気込みで、闇冒険者になると言っているのだ。
やっぱりここに来る人たちって変人が多いな、なんて思いながら、僕はドーラに背を向けた。
「まあ、お前がそのつもりなら好きにすればいいよ。じゃあ、闇試験がんばってな」
その流れでこの場を立ち去ろうとすると、不意に後方からクロムさんに呼び止められた。
「んっ? 手伝ってはやらんのか?」
「ギクッ」
「手伝う? それってどういうこと?」
「闇冒険者になるための闇試験は、基本的にどのような手段を用いてもいいという決まりになっているのだ。誰かに協力してもらってクリアしても試験は合格になる。だからてっきりアサト君は、魔女ドーラの闇試験を手伝うと思ったのだがな」
「……」
背中にドーラの視線を感じる。
なんかそうなる気がしたから、自然な感じで退散しようと思ったんだけど。
まさかクロムさんが余計なことを言うとは思わなかった。
ドーラの闇試験を手伝うなんて面倒すぎる。
そもそも僕とこいつは別にお仲間同士というわけではない。
むしろ天敵と言ってもいいくらいなのだ。
こんな、食べた分だけの毒を口から吐くような、超が付くほど口汚いこいつと一緒にいるなんて、どれだけ心を傷つけられるかわかったもんじゃないぞ。
というわけで早々に姿をくらまそうとすると、それより早くドーラに腕を掴まれた。
「よし、一緒に行こう」
「いや行かないっつーの! 勝手に決めるな!」
「私をここまで誘拐してきて、そのまま放置するつもり? 鬼畜なロリコン変質者って言いふらしてやる」
「お、おいやめろ。滅多なこと口にするな」
これだからこのロリ魔女は……。
ぐぬぬと憎々し気な目を向けていると、不意にその後ろにもう一人の姿を捉えた。
さっきからずっと静かにしていると思ってたけど……
「……というか、リスカはどうしてさっきから、そんな光のない目で僕を見てるの?」
「いえ別に」
リスカは変わらずの暗い目で僕を見つめ続ける。
前にも一度だけ見たことがあるけど、その目はやめていただきたい。
なんか湿った視線が体にまとわりつく。
するとリスカは、僕に固定していた視線をほんのわずかに逸らし、ドーラに掴まれている腕をちらりと見ると、にこっと明らかな作り笑いを浮かべた。
「私とお話するよりも楽しそうだなぁとか、かなり砕けた喋り方で仲良しだなぁなんて、別にそんなこと全然思ってませんから」
「……あっ、そう」
思ってないんだよね。そうなんだよね。
実際そんなことは全然ないんだから。
一切瞬きをしない彼女の視線に晒されながら、僕は一刻も早くこの状況から脱するべく、ドーラの腕を振り払った。
「と、とにかく、僕はもう疲れて眠いから、手伝ってもらうなら他の人に頼めよ」
「……」
そのまま僕は背を向け、受付前を後にしようとする。
連続の闇クエストで体力を削られているのだ。そろそろ帰って休みたい。
別に闇試験の一つを手伝うくらいの体力は普通に残っているが、それでもここで甘やかしたらまたぞろ我儘を言われるに決まっているのだ。
だからここは心を鬼にしてドーラの願いを断る。
そう、思っていたはずなんだけど……
不意にドーラの声が耳を打った。
「じゃあリスカ、一緒に行こう」
「「えっ?」」
思わず足を止めて振り返ってしまう。
まさかリスカに頼むのか。それは想定していなかった。
しかしまあ、僕に断られたらあと頼れる人なんて限られているからな。
それに誘拐クエストの時は、僕以上にすごい活躍を見せてくれたし、リスカに闇試験の手伝いを頼むのは当然と言える。
するとリスカは、ドーラの無垢で無感情な目に見つめられて、おろおろと困惑し始めた。
「あっ、えっと、その……」
ついには僕に視線で助けを求めてくる。
優しい性格の彼女なら断れないだろうな。
リスカも相当疲れているだろうに。
それは何より、僕の闇クエストを連続で手伝ってくれたからだ。
もしこれで彼女だけ闇試験の手伝いに行かせてしまったら、男として何か大切なものを失ってしまう気がする。
そう思った僕は仕方がないとばかりに、ため息まじりにドーラに言った。
「はぁ、わかったよ」
「えっ?」
「しょうがないから僕も手伝ってやる。三人で行けばもっと早く終わるだろ。さっさと片付けて宿で休もう」
「「……」」
リスカとドーラの驚いた視線が集中する。
別に、ドーラの手伝いをしたいと思ったわけじゃない。
恩人のリスカが困っている様子だったから、それに手を貸すまでなのだ。
すると僕らのその様子を傍らから見たクロムさんが、先刻と似た微笑をたたえた。
「決まったみたいだな。ではこれより魔女ドーラの闇試験を開始する。その内容についてだが……」
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