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第三章 ダンジョン社長と、魔王の力を得たクラスメイト
第22話 あこがれの推しと会話
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空を飛ぶ馬車に、乗り込んだ。博士の屋敷まで、帰る。
「お客さんが、お見えになっているようですぅ。帰ったら、お菓子でも焼きましょ~」
ルゥさんが、ウキウキで馬車を走らせた。
だが、馬車内の空気が気まずい。
あこがれのVである、ファム・アルファちゃん。
その中の人が、まさか知り合いだったなんて。しかも、一緒に戦ってきた、戦友とは。
ボクはよく今まで、緋依さんと軽々しく話せたものだ。
相手が推しVだとわかったとき、ボクは変に意識をしてしまう。
「菜音くん、どうして私を避けるの?」
緋依さんが、沈黙を破った。
「避けてません! ちょっと、どうやって接していいか、わからないだけで」
「そういうのを、避けてるって言うのよ」
窓枠に頬杖をついて、緋依さんがため息をつく。
「本当に、緊張して話しかけられないだけなんだよ。信じてほしい」
「好きなVTuberの正体が私だから、幻滅したかしら?」
緋依さんが、少し悲しげな顔をする。
「とんでもない! ボクの気持ちは変わらないよ。ファムちゃんは今でも推しだ。緋依さんだって、大切な人だよ。ただその、好き! って気持ちが強すぎて、整理できていない!」
言葉をまくし立てながら、自分でも何を言っているのかわからなくなっていった。
「プッ! ウフフ」
口を抑えながら、緋依さんが吹き出す。
「ゴメンゴメン。気持ち悪いよね。あーもう、なんていうんだろうなあ!」
「いいわよ。充分伝わったわ。ありがとう。菜音くん」
「気持ち悪かったら、言ってね。緋依さん」
はたから見ると、ボクって結構キモいと思うんだよね。
「そんなこと、思ってないわ。ここまで応援してくれる人が身近にいて、続けてよかったって思っているわよ。本当は、すぐにでもやめるつもりだったから」
「そうなの?」
ボクが尋ねると、緋依さんはうなずく。
「ずっと悩んでいたわ。どうしてこんなことを、しているんだろうって。カトウ アウゴを倒す使命を持って生まれて、力も勇者から引き継いで」
「アウゴは、どうして緋依さんを自分の仲間に引き込もうとしているの?」
「勇者とアウゴは、かつて親友同士だったみたい。でも、魔王を倒しても変わらない人類に幻滅して、自分が支配者になったわ」
それで、緋依さんの前世である勇者に倒されたと。
「私は明日葉 緋依であると同時に、勇者でもあるの」
緋依さんが、スマホをボクに見せてきた。
画面には、ファム・アルファちゃんの姿が。
「ファム・アルファは、かつての勇者の姿をデフォルメしたものよ」
VTuber界隈には、「前世」という用語がある。中の人が以前に活動していた姿をそう呼ぶのだ。
緋依さんの場合、ファムちゃんのほうが前世に当たるのか。
「今の緋依さんは、どっちの人格が上位にいるの?」
「私の方が強いわね。やはり魔力がないと、人格の維持も難しいみたいなのよ」
緋依さんの中には、本来の人格と、勇者ファム・アルファとしての人格が、混ざり合っているらしい。
「ダンヌさん、本当なの?」
「ヒヨリ氏の言っていることは、本当かもしれないお。ファム・アルファ氏を間近に見たとき、わずかに懐かしさを感じたお」
ダンヌさんが言うなら、本当なんだろう。
「おそらくヒヨリがファムアルファとして活動していたのは、アウゴの注意を自分に向けさせるためだお。そうだおね?」
「そうよ」
緋依さんは、ダンヌさんの言葉を肯定した。
「そんな危ない仕事だったんだね」
「でも、恥ずかしかったわ。キャラクターが全然、違うんですもの」
たしかに、熱血少女なファムちゃんと違って、緋依さんはクールビューティである。
「何度もやめようと思ったけど、菜音くんみたいにずっと応援してくれている人がいると、私が彼らを支えるんだって意思が芽生えたのよね。ありがとう、菜音くん」
「ボクは、なんの力にもなれないよ」
ただボクにできることは、緋依さんを守ることだけ。
だから、全力を尽くす。
緋依さんが、ボクに手を差し伸べてきた。
「ん?」
「サイン。ほしいんじゃないの?」
どうやら、ボクがファムちゃんのサインを欲しがっているように思われたっぽい。
「……遠慮しておくよ」
「どうして?」
「だって、サインなんてもらったらさ、今度こそ緋依さんを、ファムちゃんとしてしか見られなくなるから」
緋依さんが、手を引っ込める。
「ボクはファムちゃんのファンじゃなくて、緋依さんの友だちとして、接したいんだよ。ダメかな?」
「菜音くん。ありがとう」
よかった。拒絶されたら、立ち直れなかったよ。
「到着でぇす」
ドキドキする中、ボクらを乗せた馬車がお屋敷に到着した。
駐車場に、やたらと禍々しいスポーツカーが止まっている。近未来的というか、SFに出てきそうなメタリックブルーの車だ。
この車は、よくテレビやネットで見るやつである。
あの社長が乗っている、最新式の空を飛ぶスポーツカーだ。
まさか、この家に来ているのか?
屋敷の広間に、マニッシュないでたちの女性が立っていた。サイドスリットの入ったキュロットスカートをはいている。
「はじめまして。羽鳥 真清だ。キミたちには『ダンジョン王子』って言えば通じるかな?」
「お客さんが、お見えになっているようですぅ。帰ったら、お菓子でも焼きましょ~」
ルゥさんが、ウキウキで馬車を走らせた。
だが、馬車内の空気が気まずい。
あこがれのVである、ファム・アルファちゃん。
その中の人が、まさか知り合いだったなんて。しかも、一緒に戦ってきた、戦友とは。
ボクはよく今まで、緋依さんと軽々しく話せたものだ。
相手が推しVだとわかったとき、ボクは変に意識をしてしまう。
「菜音くん、どうして私を避けるの?」
緋依さんが、沈黙を破った。
「避けてません! ちょっと、どうやって接していいか、わからないだけで」
「そういうのを、避けてるって言うのよ」
窓枠に頬杖をついて、緋依さんがため息をつく。
「本当に、緊張して話しかけられないだけなんだよ。信じてほしい」
「好きなVTuberの正体が私だから、幻滅したかしら?」
緋依さんが、少し悲しげな顔をする。
「とんでもない! ボクの気持ちは変わらないよ。ファムちゃんは今でも推しだ。緋依さんだって、大切な人だよ。ただその、好き! って気持ちが強すぎて、整理できていない!」
言葉をまくし立てながら、自分でも何を言っているのかわからなくなっていった。
「プッ! ウフフ」
口を抑えながら、緋依さんが吹き出す。
「ゴメンゴメン。気持ち悪いよね。あーもう、なんていうんだろうなあ!」
「いいわよ。充分伝わったわ。ありがとう。菜音くん」
「気持ち悪かったら、言ってね。緋依さん」
はたから見ると、ボクって結構キモいと思うんだよね。
「そんなこと、思ってないわ。ここまで応援してくれる人が身近にいて、続けてよかったって思っているわよ。本当は、すぐにでもやめるつもりだったから」
「そうなの?」
ボクが尋ねると、緋依さんはうなずく。
「ずっと悩んでいたわ。どうしてこんなことを、しているんだろうって。カトウ アウゴを倒す使命を持って生まれて、力も勇者から引き継いで」
「アウゴは、どうして緋依さんを自分の仲間に引き込もうとしているの?」
「勇者とアウゴは、かつて親友同士だったみたい。でも、魔王を倒しても変わらない人類に幻滅して、自分が支配者になったわ」
それで、緋依さんの前世である勇者に倒されたと。
「私は明日葉 緋依であると同時に、勇者でもあるの」
緋依さんが、スマホをボクに見せてきた。
画面には、ファム・アルファちゃんの姿が。
「ファム・アルファは、かつての勇者の姿をデフォルメしたものよ」
VTuber界隈には、「前世」という用語がある。中の人が以前に活動していた姿をそう呼ぶのだ。
緋依さんの場合、ファムちゃんのほうが前世に当たるのか。
「今の緋依さんは、どっちの人格が上位にいるの?」
「私の方が強いわね。やはり魔力がないと、人格の維持も難しいみたいなのよ」
緋依さんの中には、本来の人格と、勇者ファム・アルファとしての人格が、混ざり合っているらしい。
「ダンヌさん、本当なの?」
「ヒヨリ氏の言っていることは、本当かもしれないお。ファム・アルファ氏を間近に見たとき、わずかに懐かしさを感じたお」
ダンヌさんが言うなら、本当なんだろう。
「おそらくヒヨリがファムアルファとして活動していたのは、アウゴの注意を自分に向けさせるためだお。そうだおね?」
「そうよ」
緋依さんは、ダンヌさんの言葉を肯定した。
「そんな危ない仕事だったんだね」
「でも、恥ずかしかったわ。キャラクターが全然、違うんですもの」
たしかに、熱血少女なファムちゃんと違って、緋依さんはクールビューティである。
「何度もやめようと思ったけど、菜音くんみたいにずっと応援してくれている人がいると、私が彼らを支えるんだって意思が芽生えたのよね。ありがとう、菜音くん」
「ボクは、なんの力にもなれないよ」
ただボクにできることは、緋依さんを守ることだけ。
だから、全力を尽くす。
緋依さんが、ボクに手を差し伸べてきた。
「ん?」
「サイン。ほしいんじゃないの?」
どうやら、ボクがファムちゃんのサインを欲しがっているように思われたっぽい。
「……遠慮しておくよ」
「どうして?」
「だって、サインなんてもらったらさ、今度こそ緋依さんを、ファムちゃんとしてしか見られなくなるから」
緋依さんが、手を引っ込める。
「ボクはファムちゃんのファンじゃなくて、緋依さんの友だちとして、接したいんだよ。ダメかな?」
「菜音くん。ありがとう」
よかった。拒絶されたら、立ち直れなかったよ。
「到着でぇす」
ドキドキする中、ボクらを乗せた馬車がお屋敷に到着した。
駐車場に、やたらと禍々しいスポーツカーが止まっている。近未来的というか、SFに出てきそうなメタリックブルーの車だ。
この車は、よくテレビやネットで見るやつである。
あの社長が乗っている、最新式の空を飛ぶスポーツカーだ。
まさか、この家に来ているのか?
屋敷の広間に、マニッシュないでたちの女性が立っていた。サイドスリットの入ったキュロットスカートをはいている。
「はじめまして。羽鳥 真清だ。キミたちには『ダンジョン王子』って言えば通じるかな?」
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