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第三章 ダンジョン社長と、魔王の力を得たクラスメイト

第29話 天空城へ

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「クソが! 仕切り直しだ!」

 ダンタリオンの映像が、消えた。

 建物が、崩れ始める。

 カトウアウゴの亡骸を残して、ボクは飛び去った。

 しかし、ビルがボクの逃げた先に迫る。

「ナオトさん! こっちへ!」

 ルゥさんの馬車が、迎えに来てくれた。

 空を飛ぶ馬車に乗り込んだ瞬間、ビルが倒壊する。

「羽鳥社長の死体も、回収できませんでした」

 倒れたビルに、ボクは視線を移す。
 
「構いませんよ。自社ビルが、墓標になってくれています。彼女も、本望でしょう」

 そう考えるしか、ないか……。



 チョーコ博士の屋敷に、帰宅する。

 こちらは、まだモンスターの襲撃は受けていないようだ。

「よく帰ってきたでち、菜音ナオト緋依ヒヨリ

「生きて帰ってきたって言える状況では、ありませんけど」

「まあ、生まれ変わったと言った方が、いいかもしれないでちね」
 
 ひとまず、ルゥさんが淹れてくれたお茶で、一息入れる。

 味わうこともなく、ボクは一気に飲み干した。
 
「ごちそうさまでした。今すぐにでも、天空城に乗り込まないと」

 立ち上がろうとしたボクを、チョーコ博士が制する。
 
「焦ってはダメでち。敵の思うツボでちよ」

 相手は、こちらの判断力を奪うために、あれこれと畳み掛けていた。
 そんな中で敵地に飛び込めば、罠にかかりに行くようなものである。

「ところで、キバガミさんは?」
 
「キバガミには魔物の討伐と、住民の避難に行かせたでち」
 
 テレビやネットでは、海外の軍隊が天空城に攻撃を開始していた。ヘリでの突撃が、逆に作用してしまったらしい。近代兵器でも勝てるのだと、近隣国家に誤認させたか。

「アホどもでち。いくら言っても、聞かなかったでち。あのヘリには、最大レベルのフォトンを積んでいたでち。だからこそ、風穴が空いたでち……。最大レベルの、フォトンを」

  チョーコ博士のトーンが、下がった。
 
「まさか、フォトンていうのは?」

「そうでち、自分の身体でちよ」


 羽鳥社長は戦闘タイプでもないのに、大量のフォトンを身体に搭載していたらしい。

 理由は博士にもわからなかったが、天空城のトラップを壊したことでようやく意図に気づいたという。
 
 不測の事態になったら、自分ごと破壊するつもりだったようだ。

「『経営者にリスクはつきもの』って、羽鳥は言っていたでち。我々が地上の混乱に対処している間に、あいつは一人で、自分のなすべきことをしたんでち」

 チョーコ博士が、ヒザの上で手を握りしめる。

「友だちを失って、辛いですよね」

「辛いとか、言っている場合ではないでち。けど、今はただ虚しいでちね」

「休みが必要なのは、博士の方です」

「そう言って! お前までアタチの前からいなくならないでほしいでち!」

「ボクが、切り札だからですよね?」

「違うでち! こんな過去の遺物より、未来を生きるお前たちに、生きていてほしいんでち! ダンジョンは、未来のために作ったはずでち! それを、ダンタリオンはすべて踏みにじったんでち!」
 
 博士は両手で、顔を覆った。歯を食いしばる。

「ダンタリオンは必ず、ボクが倒します。博士は、地上の混乱をどうにかしてください」

「でち」

 どうやら、博士も落ち着いたようである。

「ダルデンヌ! カトウアウゴは、どうなったでち?」
 
「天に昇っていったお。でも大丈夫だお。オイラはダンタリオンの支配からは、完全に開放されたお」

 もうダンヌさんは、ダンタリオンの一部ではない。
 ボクでも、わかる。

「よかったでち。裏切りの心配は、なさそうでち」

「オイラも、気分がいいお」

「ではアタチも、お前を『ダンヌ』と呼ぶでち」

「いいおー」

「ではダンヌよ。天空城へ行くには、羽鳥が開けた穴から向かうといいでち」
 
 そこだけ、フォトンノードが不安定だという。
 ルゥさんの馬車で、向かえばいいと告げた。
 
「ナオト。コイツを、持って行くでち」

 博士が、自分のアホ毛を抜く。
 ひときわ大きな丸いアンテナがついている、例のアホ毛だ。

「これは、アタチの魔力がこもったフォトンでち。これをお前に上げるでち」
 
「そんな大切なもの、いいんですか?」

「いいでち。そのために、保管していたんでちから」

 元々人にあげるために、ずっと持っていたという。信頼できる相手に、自分の知識を託すためだったらしい。
 
「これで、天空城の機能を止められるはずでち」

 博士特製のフォトンらしく、天空城くらいのフォトンノードなら、軽く機能停止できるそうだ。

「ありがとうございます。行ってきます」

 だが、緋依ヒヨリさんはおいていかないと。

「さようなら、緋依さん」

「何を言っているの? 私も行くわ」

「でも、危険だ。キミは狙われている」

「だからこそ、行くのよ。私が地上にいたら、地上の方に敵が密集してしまうわ」

 あえて自分をオトリにして、地上を守りたいと、緋依さんは語る。

「守りきれる保証は、ないよ」

「構わないわ。私だって、勇者の生まれ変わりなのよ」

「わかった。ありがとう。緋依さん」

 ボクは緋依さんに、拳を突き出した。

「ほんとは、心強かった」
 
「もっと素直になりなさいよね」
 
 緋依さんと、互いの拳をコツンと突き合わせる。

(第三章 完)
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