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制覇行進

82 超大型ボーボアとの死闘

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 樹海や森とは呼べないジャングルの中で、
「タローのばか野郎!」
とイザベラ王女の声でサニーが怒鳴っていた。
「こいつは、島が動くと、例えることができる大きさだな!」
と鹿島がおどけた声を出すと
「バカタロー。それは海亀かクジラの場合だ!こいつは山が動くと表現するだろう!」
「山は大袈裟だ、列車が三台重なったに例えよう。」
「レッシャ?意味わからんが、さっさと、尾刃を切り落とせ!邪魔で仕方がない。」
「尾が二股になっていて、尾刃が六本だぞ!」
「タローが選んだ獲物だろう。責任を取って、早く尾刃を切り落とせ!」
と、ジャングル中に二人の罵声が飛び交わっている百メートル先では、

「毒液が来るわ。避難!」
「髭と髪の刺し攻撃が激しすぎて、移動が困難です。」
「連携し、けが人を運びながら、髭の届かない三十メートルまで後退!だれも残すな!」
と、ヒカリ王女の悲鳴に近い指示が響いていた。

 ヒカリ王女は後退しながら、筋肉ムキムキ娘たちに伸びていく髭の先端にレーザー光線を当ててはいるが、髭は弾けるだけで消滅しないで再び筋肉ムキムキ娘たちの方へ向かっていった。
「お前のひげは、ストーカーか!」
と言いながらも、筋肉ムキムキ娘たちの方へ次々と向う先端を、レーザー光線で弾き飛ばしていた。

 時間にして二時間過ぎるまで、討伐隊は成果を上げることができずにいた。

 皆が疲労恨倍の中、ヒカリ王女の死角になる大木を貫いたひげの先端が、筋肉ムキムキ娘たちに向かう髭を払いのけるのに夢中のヒカリ王女に向かってきた。
(万事休す。)と、ひげの先端が自分に向かって来るのに気づくのが遅れたと、悟ったヒカリ王女は鳥肌を立てた。

 ヒカリ王女はひげの先端が胸を貫いたと思った時、目の前を黒い影が通り抜けていった。
「タロー様?」と声を出すと、
「従姉妹殿!貸しだぞ!」
と羽ばたき音と共にイザベラ王女の声が遠ざかっていった。

 髭からの攻撃範囲外に着いたヒカリ王女は、腕と足を負傷した二人の筋肉ムキムキ娘の治療を急いで開始した。

 鹿島は何とか一本の尾刃を切り落としたが、両側から急速な動きで攻め立てる尾刃に対し、どの様に尾刃根元まで行きつけようかと苦慮していた。

「このやろう!へたばりしない絶倫野郎か!」
と言って、神剣で二本の尾刃を受け止めると、残りの三本の尾刃が三方から切り込んで来るたびに、尾の部分から遠ざからなければならなかった。
何とか三本の尾刃を受け止め尾刃の根元まで押し込むが、両側から向かってくる尾刃は力比べを邪魔する様に襲い掛かった。
「畜生!ミンチにするなら簡単だが!」
「タロー!自棄になるな!目的は素材だろう!」
と、鹿島の頭の中でサニ-の怒鳴る声がした。

 だが幸運は訪れた。
二股の尾から飛び出ている青い刃の一本が、片方の尾から伸びている二本の尾刃の間に刺さった。
鹿島は瞬時に尾刃の根元に向かい、前回みたいに中途半端な切り残しがないよう、慎重確実に二本の尾刃を連続切りした。

 鹿島は肩で息をしながらも、二股に分かれた尾の先には、二本の青刃と一本の青刃だけになっていた。

 ヘルメットの中で、「うて!」との声が響いたのちに、鹿島の位置からかなり遠くで歓声が上がった。

 黒ボーボアは、ヒカリ王女達のレーザー銃光線は常に目を狙っていることに気づくと、すべての銀色髪で目を覆いレーザー光線を弾いていたが、レーザー銃光線の攻撃がやんだことで、イザベラ王女の度重なる急降下攻撃に顔中を切り裂かれた怒りから、太くて長い銀色髭と先端鋭い銀色髪を急降下してくるイザベラ王女に向けた。

「ボーボアの髭と髪が、従姉妹殿に向かうわ。」
「分かった!方向転換するから、その時よろしく!」
打合せ通りの会話で、互いの気持ちが重なった。

「うて!」
と、筋肉ムキムキ娘たちのヘルメットが割れるくらいの声が響いた。

 六本の光線と五本の光線はそれぞれに両目から狼煙を上げた。
狼煙は黒ボーボアの目をレーザー光線で潰した印で水分の蒸発現象である。

 イザベラ王女は方向転換後に再び上昇して背中の翅を一本にまとめると、黒ボーボアの首に向かった。

 ヒカリ王女は毒液が口から飛び出るのを感知すると。
「口中を一斉同時に狙い撃つ!セット!ゴー!」と叫ぶと、
「退避!」と続けて怒鳴った。
黒ボーボアの口から広範に毒液が飛び散ったが、吐き出す勢いをレーザー光線が削いだ為にヒカリ王女たちまでは届かなかった。

 イザベラ王女の急降下は、毒液を吐きだした体制の黒ボーボアの頭が微動しないことで、降下コースを変更することなく勢いそのまま首に尾刃剣を差し込んだ。
青く輝く尾刃剣は落下速度を維持したまま、勢い良く首の半分を切り裂いたが、骨まではとどいていなかった。

 イザベラ王女は急上昇し、再び急降下しながら翅をはばたかせた。
落下距離が延びるたび加速は続いていて、地上にそのまま刺さる勢いであったが、すでに切り裂いた肉に突っ込んだ。
黒ボーボアの骨はイザベラ王女の予想よりも堅かったようで、骨は切り落としたが、勢いは軽減してしまったようで首下の肉と鱗表皮が残っていた。

 黒ボーボアはイザベラ王女が骨を切断すると、鹿島が抑え込んでいた三本の尾刃は、二股に分かれた尾刃を胴体の両側から頭部の方へ向きを変えようと後ろに引いた為に、鹿島の足元に尾刃根元をすべて晒してしまった。
「うお~!」と鹿島は咆哮を上げて、ひと股から伸びている二本の尾刃根元をたたき切り、もうひと股に残っている尾刃は、鹿島の脇を通り抜けようと胴体すれすれを頭部に向かったが、尾刃の刃しのぎ筋に神剣を滑らせて尾の根元を切り下げた。

 鹿島は神剣を尾に食い込ませたまま、丸太尻尾との力比べになった。
黒ボーボアの尾刃は頭まで五十メートルまで近寄ったが、神剣が尾に食い込んでるためにそれ以上先に行けないと判断したのか、尾刃の向きは再び鹿島に向かった。

「やったぜベイビー!」と鹿島は叫んで、尾に食い込ませていた神剣を引き抜き、向かってくる尾刃を跳ね飛ばすと、尾刃根元へ飛び込んだ。

 黒ボーボアの頭部では、切り仕損じたイザベラ王女は何とか肉壁から飛び出たが、一斉に銀色の先端鋭い髭や髪先が襲ってきた。
「従姉妹殿‼借りは返す!」
との声とともに、十一本の光線は一本となり、先端鋭い髭や髪先を弾いた。

 突然の攻撃で、イザベラ王女は体勢を崩したまま地上に落下しだした。
イザベラ王女は突然柔らかい地面に落ちたと感じたが、鹿島がすでに落下地点に来ていて受け止めていた。
イザベラ王女は柔らかい地面ではなく、鹿島にお姫様抱っこされていると気がつくと胸が急にときめきだした。

(イザベラ!自信過剰になるな!残りを切り裂くわよ!)と体中からサニーが叫んだ。
自信過剰になるな!との叫びを理解できなかったが、
「ガッテン!」と、心の動揺を隠すように叫んだ。
イザベラ王女は上段から青色尾刃剣で顎下の肉と鱗表皮が残っている部分を裂いていった。
先端鋭い髭や髪先は再びイザベラ王女に向かってきたが、鹿島の神剣により伸びた髭や髪は根元から切断された。
胴体から首が落ちると、残りの髭や髪の目標先はあらぬ方向に伸びて行った。

「タローのばきゃ野郎~。」といってイザベラ王女はむき出しの土に寝ころんだ。
それを合図に女性陣全員もその場でへたり込んだ。
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