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制覇行進

91 無慈悲な心

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 ゴールドル伯爵邸宅で作戦会議が行われている頃、元トンズラコ伯爵領地で広範囲な掠奪行為が行われ出したと、C-003号機からの連絡があり、鹿島はサニーと近習者筋肉ムキムキ娘たちと共に、略式戴冠式を終えたイザベラ女王を残して、急いで元トンズラコ伯爵領地へ向かった。

 元トンズラコ伯爵領地では、領主が息子の私闘に加担してすでに亡くなっていたために、急に管理者のいなくなった事で急遽国境警備隊が管理していたが、人手不足のためか治安巡回がおろそかになっていた。
元トンズラコ伯爵領の治安維持補佐的な冒険者傭兵ギルドは、タイガー聖騎士団に暗殺団を送った報復の為に上層幹部を全てタイガー聖騎士団が壊滅していた。
維持衛士兵のいない自営団だけの領地は、盗賊たちの格好の獲物であった。

 C-003号機に乗っている鹿島は、デンシャ車両に乗って元トンズラコ伯爵領地に向かっているタイガーと連絡し合い、広範に出没している野盗の討伐地域を割振りし、それぞれの担当地域に向かった。

 鹿島達は月明かりの眼下で、燃え盛る小規模な五百棟程の街並みに降下した。
月明かりの中、通りでは抵抗したのであろう、胸や腹から血を流した多数の自営団と思える男たちが倒れていた。
鹿島はすぐに抱き起こすが、すでに全員がこと切れていた。

 鹿島は怒りがこみ上げると同時に、A―110号の無慈悲な心が沸き起こるのを感じたが、それを押し込むことなく走り出した。
鹿島からの最初の犠牲者は幼い子供の髪の毛を引っ張りながら、荷車に乗せようとしていた年若い少年であった。
少年は突然の襲撃に抵抗する間もなく、袈裟懸けに血吹雪を上げて身二つになった。

 サニーは荷車に乗った泣き叫ぶ少女たちに近寄り、それぞれに飴を与えたのちにケガの具合を調べ出した。
一棟の家から女性の悲鳴がすると、筋肉ムキムキ娘達が薙刀を青く輝かせて、ドアを蹴破って中に入っていった。

 家の中から罵声と悲鳴が響いたがすぐに静かになると、筋肉ムキムキ娘達は破れた衣服をまとった二人の女性を伴い、サニーのもとへ案内してきた。

 怒り顔になった筋肉ムキムキ娘達は、二人一組になって各家を捜索しだした。
鹿島は罵声響く場所方向に走りだすと、血刀を持って騒ぎ立てている集団に切り込んでいった。
血刀を持った集団から腕や首が宙に飛び上がると、血だまりの中に五人の切り分かれた体の各部分が転がっていた。
酒場の看板のあるドアの向こうから騒がしい声がしているのに気づいた鹿島は、ドアの丁番横からドアを切り倒し、ゆっくりとした足取りで小さな明かり窓とほのかな灯で照らされた薄暗い内側に入っていった。

 ドアから差し込む月明かりで薄明るくなった酒場では、月明かりの陰になっている鹿島の正体を確認しようと全員が鹿島に注目した。
「おい。お前はだれだ?もう抵抗するやつはいないだろう。ここへきて酒でも飲んで、女をいたぶれ。」
と、この場のリーダー格らしい武骨な男が鹿島に声がけした。

 鹿島の神剣がきらりと月明かりを反射させると、
「まだ、逆らう気力のあるやつが居やがったか?」
と言って、鹿島に酒瓶を投げつけた。

 鹿島が閃光をユラリユラリと残景させて室内を一周すると一瞬の静寂が訪れたが、酒瓶とカップを落としたにぶい割れ音と、うめき声が起きて喧騒としだした。
何かが起こったと、いたぶられていた女性たちは感じた。
鹿島はテーブルの並んでいる場所をゆっくりと徘徊した。

 片腕を切り落とされた男が壁を背にして、
「命だけは助けろ。金はいくらでも持って行ってよい。」
と残った片腕を鹿島に向けて命乞いをしだした。
「お前が殺した男も、命乞いしただろうが、お前は聞き入れたか?」
と問いかけているそばで、いたぶられていた女性が傍に落ちている剣を握りしめた。
「子供と夫の仇!」
と言って、壁で命乞いしている男の胸を刺した。
ほかの女性たちもまだ息のある賊たちに、反撃の好機が来たとの思いで次々と全体重を剣に乗せ、胸に深々と刺し込んでいった。

 鹿島は女性たちのとぎれとぎれの荒い息を感じながら、
「賊はここ以外にまだ居るのか?」
「町長屋敷に、首領らしい男が入ってくのを見ました。」
「町長屋敷はどこにある?」
「表に出て、右まっすぐに行った大きな屋敷です。」
「広場に治療師がいる。みんなで助け合って、そこで治療を受けるといい。」
といって鹿島は町長屋敷に向いながら、女性たちをそのままにして酒場から出たことを、A―110号の無慈悲な心がすでに支配しだしたと感じていた。

 町長屋敷に着いた鹿島は、玄関口で喉を刺された四十代の引きつった顔は、おそらく顔を合わせた瞬間に、問答無用と喉を刺されたのだろうと推測した。
鹿島は慎重に、こと切れている遺体を避けるように足を運んだ。

 通路奥の部屋扉下から光が漏れているのに鹿島は気付くと、無表情で静かに進んでいった。
部屋扉向こう側の男から、荒い息しながら卑猥な言葉を口に出している声が聞こえてきた。

 鹿島は扉の中央を縦割りにして扉を蹴破って中に飛び込むと、頭から血を流した五歳児くらいの娘がぐったりとしていて、ベッドの上では裸になった男が女性を組みしていた。
「なんだ~お前は!」
と、扉をけ破った音に驚いて固まっていた男は、鹿島に気付くと我に返ったようである。

 鹿島は空を飛び男の顔面に蹴りを入れた。
部屋の中央にあるベッドから男は吹き飛んで壁に激突した。
男は気を失った様子で小動もしなくなっている。

 鹿島が女性に目を向けると、女性はすでに目に涙を一杯浮かべていて、一瞬鹿島を見たが裸体のまま頭から血を流した子供の方へ駆け出し、鳴き声を上げながら、
「ミーミ。ミーミ。」と叫ぶが、子供はぐったりとしたままである。

 鹿島は壁に立てかけてある剣を女性の脇に蹴飛ばした。
女性は剣が落ちてこすれ合う音に気付きじっと剣を見つめていたが、鹿島に涙顔を向けると頷いて剣を握った。
女性は裸体のまま剣を抜くとベッドを迂回し、気を失っている男に向かって走っていった。

 気を失っている男は女性の殺気を感じたのか、目を覚まして女性に手を伸ばした。

 鹿島は男が手を伸ばしたのに気付くと、ベッドを飛び越えて男の両腕をたたき切った。
女性はすでに涙が枯れていて、目は真っ赤に血走っていた。

 裸体女性は男の両腕から噴き出る血吹雪を気にする様子もなく、男の目を見据えて肩に剣をたたきつけた。
肩に振り落とした剣をさらに持ち上げ、所選ばないたたき方を始めた。

 裸体女性は男の悲鳴が途切れて首がだらりと下がったのに気づいた様子で、思いっきりの力を込めて首に剣をたたきつけ、そのまま静に男がこと切れたと確認するまで、首に食い込んだ剣はそのままにしていた。
首に食い込んだ剣を抜いた裸体女性は血吹雪の中、静かに剣先を自分の首に当て鹿島に微笑んだ。
鹿島は止める祖振りもなく剣先を眺めていた。

 剣先が裸体女性の首に刺し込まれた瞬間に、「ゴボッツ。」との吐き出す音に続き子供が微かなうめき声を発した。

 子供のうめき声を聞いた鹿島は咄嗟に女性の剣を取り上げたが、すでに首から血がトクトクとにじみ出ていることで、鹿島はすぐに首の出血を止めようと血がにじみ出す個所を抑え、ベッドのシーツで女性をぐるぐる巻きにした。

「俺は二度と、A―110号の無慈悲な心に囚われ無いぞ!」
と鹿島は涙声で叫びながら子供を小脇に抱え、女性を肩に担ぎながらもしっかりと首を抑えたまま、サニーの居る場所へ駆け出した。

 サニーは鹿島の血相を変えて向かって来ると、急いで荷車から子供たちを降ろしだした。
鹿島は、急いで二人を荷台に並べ寝かせながら、
「サニー!二人を助けてくれ!」と、顔をしわくちゃにして叫んだ。

「タロー!私に抱き着いて、魔素を送りなさい!」
といって寝かせた二人の間に座り込むと左手を子供も頭にかざし、右手を女性の首に当てた。
「完治、完治、完治、完治。」
とサニーは何度も唱え続けた。
鹿島は、サニー後ろから腕の下に手を差し込んで胸を強く抱いて、
「魔力の流れ、魔力の流れ、魔力の流れ、魔力の流れ。」
と涙声でサニーの呪文声に合わせながらつぶやき続けた。

 鹿島とサニーの呪文は十分以上続き、サニの力が抜けると同時に二人の目が開いた。
鹿島は自分の手がサニーの柔らかい胸を押さえていることに気付き、つい大きさを確認しだした。
「おお、発達したな、、、、、。」
鹿島の手がサニーの胸を押しているのに、サニーが微動しないことで慌ててポケットのチョコレート探した。

 鹿島は口の中でチョコレートを溶かし、サニーののどへ流し込み始めた。
五度目の流し込みが終わると、サニーは片目を開けて、
「大きくなったでしょう。」
と問い詰めながらも、開いた片目は微笑んでいた。
「な、な、何のことだか、覚えがございません。」
と鹿島はどもりながら、サニーの目から逃げるように満月を眺めた。

 シーツにくるまった女性は子供を抱いて、
「夫も子供も居無くなり、絶望して自決しようと剣を首に当てたときに、見守っていただき心強かったです。意識が薄れだしたとき子供の声を聴いた気がしたがすぐに意識がなくなりました。気が付いた時は、私も子供も生きているのではなく、二人で黄泉の世界に来たと思いました。二人のやり取りを見ていて、生き返ったと安心できました。有り難うございます。」
と言って、子供を強く抱きしめながら涙を流し続けた。

「まだ養生が必要です。ので、タローは荷車を彼女の家まで引きなさ~い。」
と、サニーは上機嫌で鹿島に微笑んでいた。

 町長屋敷は筋肉ムキムキ娘達によってきれいに片づけられ、女性と子供はちっさな子供のベッドで寝ていた。
「貴方には、心のケアが必要です。ここを引き払い、神降臨街へお越しなさい。」
とサニーは、すやすやと寝ている子供の脇で、小さなベッドから足をはみ出し、けだるい感じで横になっている女性に声がけした。
「天国との噂の神降臨街ですか?行ってみたいですが、遠すぎます。」
「距離の心配はないわ。すぐに着きますわ。」

 女性は気力を振り絞るように起き出して子供に微笑みを向け、安心したようにサニーの方を向いた。
「私は、タカメといいます。娘の名はミーミイです。この度は、お救い頂有難うございました。」
と言って、タカメはサニーの正体を尋ねる様に、目を合わせてじっと見つめた。
「私は、サニーよ。よろしくね。」
とサニーは微笑んだ。
「サニー、サ、、、ニー、、、様?タロー様とサニー様、、、。大精霊様で、女神様の眷属サニー大精霊様でしょうか?」
「あら、詳しいわね。」
「私を救い出した方を、タローと呼んでいましたし、タロー様とサニー様の連携名はこの領地にも広がっています。私は、チンジュ女神教の教えに感服しています。出来れば、その教えを学びたいと思っています。」
「なら、神降臨街への避難は可能かしら?」
「お願いします。」

 後に、大陸中に開校した女性専用塾長で、鹿島は二重人格者だとの噂を広める、片想い恋愛小説家になるタカメの第一歩がここからであった。
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