オサキ怪異相談所

てくす

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第一章

第二話 揺れる心

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茜:『ゆれる ゆれる』
『私は ゆれる』
『ゆれる ゆれる』


【間】


尾先:今回はこれで済んだからいいが
自分の行動に責任を持つんだな
それが分かればそれでいい

茜:……

尾先:それじゃ、この口座に振り込んでおいてくれ
じゃあな

茜:あ!気をつけてお帰りください!
…ちょっと!もっと優しく応対できないんですか!?

尾先:はぁ?

茜:趣味は人助けなんでしょ!?

尾先:…あのな、誰彼構わず助けるわけじゃない
さっきのやつは自業自得だ
それに、人助けで言えば助けただろ?
嘘の除霊もできたわけだ

茜:それはそうですけど!
一応、お金を貰ってるんですよ?

尾先:自分がやったことに対して責任を取れないから
俺が尻拭いをしたんだろ?対価だよ、対価

茜:はぁ…

尾先:いいか?
幽霊…怪異現象なんでもいいが
相手から取り憑かれたのなら仕方ないが
自分から、取り憑いてくださいって言ってるような行動をする奴は、俺は嫌いなんだよ
お前も分かるだろ?呪われ女

茜:ちょ!酷いと思います!その言い方は!

尾先:この前のお前の場合は、相手が異常だった
だが、アレがお前の責任であぁなっていたなら、俺はお前を助けるなんて思わなかったかもな

茜:それは…そうかもしれませんけど…

尾先:子どもじゃないんだ
俺…いや、怪異に関わる以上、時には非情になることもある
命に関わるからな

茜:…はい…

骸:オサキの言っていることは間違ってないよ
僕も彼と同意見だ

茜:へ!?

尾先:骸!?

骸:やぁ、随分と賑やかになったね
ふーん、君が噂の子かな?

茜:噂…?

骸:うん、呪われたんでしょ?
今時、珍しいよ
僕は骸…あぁ
これはあだ名であり、ハンドルネームであり、二つ名だったり、通り名だったり、異名と……
まぁ、そんなもんだよ

茜:あっ、えっと私は、あか…
い、苺です

骸:ははっ!偽名だね?
僕と同じだ、オサキはよく教育してるね

尾先:まぁな

骸:だけど、大丈夫だよ

尾先:あぁ、コイツは同業だ

茜:え!?そうなんですか!?

尾先:怪異屋、前に少し話題にしたか

茜:あっ!そう言えば…
えっと、山本 茜です!はじめまして!

骸:僕は事情で本当の名前は言えないからすまないね

茜:大丈夫です
それで、骸さんは何しにここに?

骸:あ、そうだった
貸したものを取りに来たのと報酬を貰いにね

茜:貸したもの?

尾先:お前の件だよ
呪いのことを色々準備したって言ったろ?

茜:そういえばそんなこと言ってましたね

尾先:コレだよ

茜:舌?…に何か書いてる…?

骸:へぇ、見えるんだ
てことは覚醒したんだね、呪いで

尾先:察しがいいようで

骸:此処に居る理由も分かった
なるほど、面白いね
この情報も含んで計算してあげる

尾先:気前がいいんだな
(舌を出しながら)ほら、早くしてくれ

骸:もっと舌、出して

尾先:無理言うな!

茜:あの…これって一体

骸:僕が貸したのは呪言だよ
正確に言えば、言霊を操れるように舌に呪文を書いた
所謂、目には目を歯には歯を、だ
呪いには呪いをってね
この状態で言霊を使うと、それが呪言になり、謳えば呪歌になる

茜:呪言…呪歌…

骸:フフ、色々オサキに聞くといいよ
こう見えて面倒見は良さそうだから

尾先:さっさとしてくれないか?

骸:はいはい……3回か
4回分だったけど間に合ったね

尾先:あぁ、コイツの呪い、俺への呪い
それと、呪いに対してで3回だな

骸:それじゃ、差し引いて…はい、終わり

茜:え?もう終わりですか?

骸:うん、終わったよ

茜:…あの、一つ聞きたいんですけど
呪いって、そんなに簡単にできるものなんですか?

尾先:んなわけないだろ、コイツが特別なんだよ
あと、これだ

茜:えっ…それって…

骸:へぇ…純度が高いね
藁人形じゃないところも良い
現代の呪いって感じがする
肝心の中身が弱かっただけで相応のモノだったら……
フフ、苺ちゃん死んでたかもね

茜:やっぱり…

尾先:ん?どうした?

茜:…ずっと気になってたんです、あの後から

尾先:何をだ?

茜:詩織はコレをどこで手に入れたのかなって
私、この人形知ってるんです
ゲームセンターで今取れるやつで

骸:人形は関係ないかな
何処の誰かは知らないけど、この人形を呪具にした人がいる
僕たちと同業、または逆か

茜:逆…ですか?

尾先:俺たちが怪異から守る側だとすれば、怪異をばら撒く側と言えばわかりやすいか
一定の需要はあるんだろうな
お前の友達もそうだっただろ?
今回の件はお前と同じだろうな
お前は除霊の方法を探して俺を見つけた、町田詩織は呪う方法を探してコレを見つけた

骸:需要と供給が合うとね…どうしても見つかるから
ま、大半は紛い物だけど、これは本物
うん、これも買い取るよ
それとそのペンも、紙は要らないかな

尾先:処分しておくよ

茜:え?ペンは要るのに紙は要らない…
全部使ってたものですけど大丈夫なんですか?

骸:紙からは何も見えないから大丈夫

茜:見えない?

骸:うん、茜ちゃん…僕って結構、見えるだ

茜:ひっ…!…あっ…えっ…
(怖い…けど目が離せない…なにこれ…)

尾先:そのくらいでいいだろ、骸

骸:ははは、つい

尾先:コイツの眼は特別だ
あんまり見ると廃人になるぞ

茜:…はぁ、はぁ…え…?

骸:六ノ眼(りくのめ)って言うんだ
僕はね、全部見える

茜:…全部?

骸:死者も、呪いも、怪異って言われているモノ、生きてる者も全部…全部見れるんだ
六道って分かるかい?

茜:いえ…分からないです

尾先:仏教における六つの世界だ
そこは勉強しておけ

骸:と、簡単に言えばその世界が全部映るんだ
映るということは、相手にも映せるからね
オサキが言ってたのは、僕がその気になれば…ってこと

茜:…あまり、見ないようにします…

骸:残念、可愛い子の顔が見られないのは、僕としては損失なんだけど?オサキ?

尾先:揶揄うな

茜:私、まだ全然わかんない事だらけで
本当に大丈夫なんですかね?

尾先:安心しろ、家にいる間は大丈夫だ

茜:尾先さん…

骸:はいはい、いい雰囲気壊して悪いけど
呪文と身代わり用の護符、それに相談料…
呪文一回分と護符は使わなかったから無しでいい
それとー、この人形とペンを買い取ってその差額、はい4万円

尾先:…はぁ…やっぱこのくらいか

骸:人形の中身は空のようだからね

尾先:あぁ…もしかしたら

骸:その時はアフターサービスとして、無料でやっておくよ

茜:中身?…もしかして呪いのことですか?

尾先:あの馬鹿、まだ反省してないみたいだな

茜:っ…

骸:そこに関しては僕は関わらないからね
それでいいんでしょ?
やってあげてもいいんだけど

尾先:なんだ?今日はやけに気前がいいな

骸:…あぁ、つい先日、面白いモノが見られてね?
海外の都市伝説系怪異だったんだけど、中々に素晴らしかった
連れの人間はクズだったけどね
だから、気分が良いんだ

尾先:都市伝説…ねぇ

茜:あの!詩織を助けられるんですか?

尾先:……

骸:助ける、とは言わないけど
呪いを消すことはできるよ

茜:本当ですか!?だったら!
…あっ、いえ…何でもないです

尾先:…ふぅ

骸:うん、正しい選択だよ
一度でもこういうモノを使うと、人は人でなくなるものだよ
今回は幸運な方だと思った方がいい
オサキがいなければ君は死んでいたし、君の友達も死んでいたかもしれない

茜:…え?詩織も…?

骸:そういうモノなんだよ
怪異も呪いも何が起こるか解らない
解らないから怖いんだ

茜:…覚えておきます

尾先:んじゃ、用事は済んだな
あぁ、そうだ…骸、暇か?

骸:僕は予定はないけど

尾先:ほーう、じゃあ新人研修ということで、暇潰しに怪談話でもするか

茜:なんですかそれ!新人研修が怪談って!

骸:今までも結構教えた方だと思うけど
面白いね、いいよ
と言っても、僕もこんなの持ってるし、早く帰らなきゃ行けないことは確かなんだよね
うーん…よし、じゃあ質問しようかな

茜:質問…ですか?
私そんなに怖い話知らないですよ?

骸:ううん、そういうのじゃなくて
霊感が覚醒してから、何が見える?

尾先:良い質問だな、骸
よし、それについて話そうか

茜:見える…ですか、そうですね…
幽霊かそうじゃないかの区別は、尾先さんに聞きました
えっと、確か霊糸ですよね?

尾先:そうだ、糸だったり紐だったり
種類は色々あるが霊界との繋がりが見える

骸:厳密に言えば霊界じゃないんだけど
わかりやすくする為にそれでいいかもね

茜:ただ、私はそれも見えるんですけど
あんまり人の幽霊はちゃんと見えなくて
視界の隅に何かいた気がするような、モヤが見えたような…そんなことが多いです
けど、時々はっきり見えることもあります

骸:それが普通だから気にしなくて良いよ
僕やオサキが見え過ぎるだけ、だからね

尾先:お前程じゃないけどな

茜:ただ、クダ様ははっきり見えるし
多分、幽霊なんだろうなっていう動物?っていうのかな…、それははっきりと見えます

骸:クダに関して言えば霊体の格が違うからね
はっきり見させてもらってるが正しいかな

尾先:霊にも序列みたいなもんがあってな
クダくらいの霊体なら自分の意思で、相手に自分を認識させることができる
最初、呪いからお前を守るようクダに頼んだ時は、お前が見て、触れらるようにクダ自身が認識させたんだ

茜:す、凄いんですね…ありがとうございます!クダ様!

骸:この子、面白いね

尾先:…まぁな

骸:うん、大体分かった
霊能力者的性格判断~

茜:へ!?

骸:フフ、君は動物霊に好かれる傾向がある
そんな君は、優しい性格の持ち主!
ってそんなことは今回の件で分かっていることだけど
信念を曲げないタイプ、意外に頑固者だね
あと、危険な部分もあるけど善悪の区別がしっかりしてる
だけど、この世界と関わるならもっと柔軟な考え方も必要だよ
それからアドバイス、大切にした方がいい

茜:大切にする?何をですか?

骸:君が見える動物たち
動物霊っていうのは妖怪にも居るけど
悪意を持って見える霊はまた見え方が違う
そこはオサキに聞くといいよ
今、君が見ている動物たちはいい子たちだ
人を護るタイプの霊だね
だから、大切にしたほうがいい

尾先:だな、だからといって関わるなよ
自分から関わるんじゃない
相手から関わってきた時に、いい関係を築くんだ

茜:相手から…ですか

尾先:悪意を持った霊、怪異に関しては
見れば解ると言ってもいいだろう
本能が教えてくれる
コイツの目を見た時、何か感じただろ?

茜:あっ…

尾先:まぁ、他のことはまた追々な

茜:自分から関わるんじゃなくて相手から
それでいいんですね

尾先:それでいい、本来見えるはずのないモノだからな
俺も骸も自分から関わろうとはしない

骸:僕の場合は別件で関わったりはするけどね
基本は相手にしない

茜:覚えておきます
けど…そっか、いい子たちなんですね
ちょっと安心しました

骸:それからこれもアドバイス…なのかな
霊糸のこともそうなんだけど、人に霊が取り憑く時…

尾先:それは俺が教えた
…まぁ、覚えていればの話だが

茜:ちょっと!失礼ですよ!ちゃんと覚えてます!
映像が見えるんですよね?
幽霊が何なのか理解できるような

骸:そうそう、絶対じゃないけどね
それじゃあ、これは知ってるかな?

茜:なんですか?

骸:取り憑く時じゃなくて、見える時

茜:見える時?

骸:今は霊感があるから気付きにくいと思うけどね
霊感がない人が見えたり、霊障にあう時
鈴の音がする

茜:鈴の音…ですか

尾先:鈴っていうのは、この世界では
色んなものに使われている
例えば、装飾品、風鈴、インターホンも呼び鈴なんて言って鈴だ
それにお前なら知ってるだろ?
除霊する魔除けや呪い(まじない)なんかにも使われる

骸:そう、色んな意味を持ってるんだ
オサキが言ったように魔除けや音を楽しむもの、人を呼んだり、危険を知らせたり…ね

茜:たしかに色んなところにありますね

骸:ただ、霊界じゃ違う
意味は一つしかない
それが……『呼び鈴』

茜:呼び鈴?…って、もしかして!

尾先:段々分かってきたな
そう、呼んでるんだ

骸:それがどういう意味か…考えると怖いよね

茜:急に聞こえたら気をつけろってこと…ですね

骸:ううん、そうじゃない
そういう意味も含んでるってこと
ただ、普通に呼んでるんだけかもしれないし、違うかもしれない
ただ、近くに霊がいるって解る指標みたいなものかな

茜:けど気をつけるに越したことないですよね

尾先:それでいい、お前はな

骸:…それじゃ、新人研修も終わりってことで、この辺で僕は帰るよ

尾先:あぁ…


【帰る骸を見送くる二人】


茜:不思議な人ですね

尾先:あぁ、だが、深入りはするなよ
同業だから仲良くなろう、関わろうなんて死んでも思うな

茜:えっ、どうしてですか?

尾先:俺は、あいつがどんな怪異より一番怖い

茜:…気持ちは分かる気がします
あの目…見た時、凄く怖かった

尾先:それだけじゃないけどな…
だが、頼れる時は頼るしかない
アイツはそれだけこの世界に関しては、スペシャリストだ…俺なんかよりずっとな
さ、今日はもういい、気をつけて帰れ

茜:ありがとうございました
骸さんと、尾先さんのおかげで濃い日になりました

尾先:ははっ、それが良いのかは分からんが、良しとしよう



【茜、自宅】



茜:なんだか凄い一日だった気がする…
あの日も色々…あったけど…
……やめやめ!悩んでも仕方ない!
柔軟に考える!…ってそんなのできないけど
……うん、テレビでも観ますか!

【ザッピング中】

茜:…うーん、全然頭に入ってこない…
あっ!…!!
(やばっ…声出ちゃった
……うーん…?どう見てもアレ幽霊だよね白い…モヤ…?凄い揺れて…それに、いつもと見え方が…そうだ!霊糸!…ってあれ?無い?)
……あれ?アレって何だろう?私、知ってる?
アレって確か…あれ?アレって…あれ、アレ?アレはアレでアレだから…私…は

【突然、鈴の音がする】

茜:はっ!…はぁ…はぁ…だ…め、ダメだ…
あ、あれ…見ちゃいけないやつだ…
尾先さんが言ってた…本能が教えてくれてる……
身体が…重い…動けない…
見たらダメ、考えちゃダメ…だけど…見たい、知りたい、見たい、理解シたい、知ってル、みタい
見なキゃ、見なイと…

【また鈴の音がする】

茜:はぁ…はぁ…ダメだ…考えるとダメなんだ…
けど、さっきから一瞬だけ頭がスッキリして…
あっ!音!音がしてた!鈴!鈴の…音?

【鈴の音がする】

茜:へっ…?あれ…って…クダ様?
あ!?身体が…動く?
うっ…い、今のうちに…尾先さんのとこに…



【尾先の家へ走る茜】



茜:待って!クダ様!…はぁ…はぁ…
付いてきてる…見ちゃダメ!また動かなくなる
クダ様だけ見てないと…だけど…み、見たい…頭がおかしく…なりそう…
はぁ…はぁ…あ、あれ?着いた…?
っっ!!尾先さん!尾先さん!!

尾先:…茜?なんだ…?どうし…ッ!入れ!!!

茜:はぁ…はぁ…

尾先:お前…どんだけ呪われてんだ…

茜:え…アレって…呪い…なんですか?

尾先:もっとヤバいやつだな
目、見せろ…
ちっ、結構やられてんな

茜:私…大丈夫…ですか?

尾先:あぁ、大丈夫だ
しかし、よくここまで来れたな

茜:クダ様が…助けてくれて

尾先:クダが?…いや、俺のそばを離れてないぞ?

茜:え?…じゃあ…あれは…

尾先:なっ!?…なるほどな、お前…助かったな

茜:助かった…?

尾先:お前を助けてくれたんだ、こいつがな

茜:あっ…そこにいたんだ…本当だ、よく見ると…クダ様じゃない…

尾先:こいつの話は後だ、しっかり抱いとけ
頼りたくねーが、頼りに行くぞ

茜:ど、どこに…

尾先:いいか?絶対に見るな、目を閉じろ、何も考えんな、頭を空にしろ

茜:む、無理です…

尾先:じゃあ思い切り走れ!



【尾先、茜、家を出て走り出す】


【そして、ある家に辿り着く】


尾先:はぁ…はぁ…今回は近くて助かった…

茜:ここ…って…

尾先:怪異屋だ、行くぞ!
骸!開けろ!

骸:……入れーー"閂(かんぬき)"

尾先:はぁ…はぁ…

骸:やぁ、先刻ぶり
また面白いもの連れてきたね

尾先:あぁ…久しぶりに走った…

骸:ふーん、まさかあれ…

尾先:(遮るように)言うな!
こいつが理解してしまう

骸:…なるほど、茜ちゃん…目、見せて

茜:はぁ…はぁ…

骸:これは酷いね、どうする?

尾先:頼む!

骸:対価は?

尾先:アイツの権利全部だ

骸:…悪くないね
けど、オサキと相性の悪い奴ばっかりだね
アレは…対処できないだろうから

茜:権利…?対処できない…?

尾先:お前はとりあえず休め
……いけるか?

骸:アハハ!…大丈夫だ
少し張り切るかもしれないけどね
じゃあ、行ってきます


【外に出て行く骸】


尾先:……はぁ…お前、何したんだ?

茜:え…?別に何もしてません…ただ、テレビを観てたら、端にアレが…あれ?さっきまでの感覚が

尾先:あぁ、骸のおかげだ
もう、大丈夫
しかし、なんでアレが出るんだ…
アレは存在して…いや、なぜ茜の家なんだ…?違う存在…?

茜:尾先さん?

尾先:あ、あぁ、気にするな
はぁ…疲れた…

【戻ってくる骸】

骸:あははは!凄いね!これは凄いよ!

茜:なんですか…それ?

骸:あぁ、これ?アレの核だよ

尾先:山本茜から少し話を聞いた
…普通じゃない

骸:あぁ、普通じゃない

茜:何なんですか?普通じゃないって
さっきのも何か分からないし

尾先:アレは俗に言う、くねくねだ

茜:…くねくね?

骸:インターネットで流行った怪異だ
もちろん、都市伝説でそんなもの存在しない

茜:あっ!私、見たことあるかも

尾先:あぁ、似たところで言えば口裂け女は有名だな
それと一緒で嘘、妄想、作り話の類だ
だがな、人が信じれば信じるほど、それは形を持つんだ

骸:そうして生まれるのが都市伝説の怪異
原因は人の脳の優秀さゆえだ
あまりに信じすぎたものは現実になる
実際、海外ではスレンダーマンという怪異が有名だ
そして、それに陶酔し、愛し、憧れ……人を殺そうとした人もいるという
僕が昼間に話したのはこの怪異だ

尾先:だが、今回の件は話が違う

骸:現実になった怪異は本来と別の意味を持つこともある
だが、物語の核になる部分は違えない

茜:物語の核…確か、くねくねは
田舎…田んぼとかに出る白い妖怪で
それを見た人が別のくねくねになる…だったような

尾先:そうだ
もっと言えば見た人、ではなく理解した人が、くねくねになる
そして、ここは田んぼなんて一つもない住宅地
くねくねが出る場所じゃない

骸:そうして考えられることは一つ

尾先:どこかの馬鹿が捻じ曲げて作った
全く新しい怪異だってことだ

骸:これが世に広まるとマズイよね
なんせ、くねくねは都会にも出て
問答無用で理解させようとする…なんて
恐ろしい怪異の出来上がりだ

茜:じゃ、じゃあ私、あのまま見てたら…今頃

骸:君がくねくねになって新しい犠牲者を生んでいた
…ってことになるね

茜:そ、そんな…

尾先:危なかったぜ…目はもう人のソレじゃ無かったからな

茜:よかった…ほんとに…よかった…

骸:にしても、格があるとはね
新しい都市伝説にしては強すぎるよ
強制的に認識させることもそうだけど
これは本格的に僕の方でも調べてみようかな

尾先:あぁ…俺も出来るだけ調べるが
対処できねーんだよなぁ…

骸:そろそろオサキも考える頃合いかな?

尾先:…あぁ、そうかもな

骸:それにしても、よく無事だったね

茜:あっ!そうだ!この子、この子が私を守ってくれたんです!

骸:狐…?へぇ、今日の話が役に立ったね

茜:そうだ、…そうなんです!鈴の音が聞こえて!そしたら、窓にこの子が居て!

尾先:狐の霊は神様に近い存在が多いからな
守り神ってやつだ

骸:2人に謝ろうかな
ごめんね、多分君のところにコイツが来たのは、僕が都市伝説の話をしたからだと思うんだ

茜:え?それだけ?
たった一言くらいで幽霊…怪異って出るんですか?

骸:キッカケなんていうのは、本当に些細なものだよ
解らないから怖い、何がキッカケかも解らない
だけど、少なからず関係してそうだから…
と、いうことでそれを差し引いてお釣りが出るから、オサキには臨時収入が入るね

尾先:あぁ…ここまで走ったんだ
出ないと困るな

骸:なるほど、こうなると分かってて来たね?

尾先:ハハ、持つべきものは親友だな
…山本茜

茜:はい?

尾先:その狐、どうやらお前に取り憑いたようだ

茜:え、…えぇ!?

尾先:心配するな、守護霊だと思え
危険が去ったのにお前のそばを離れない
ということは、そういうことだ

茜:そっか、ありがとうございます
あなたのおかげで助かりました

尾先:敬語はやめろ
たしかに神に近いとは言ったが、お前に取り憑いたということは、お前と同列だと思って接しろ
この先も守ってもらいたいならな
それから…

茜:えっ?

尾先:名前を付けてやれ

茜:名前…

骸:一種の契約みたいなものだよ

茜:意味の無いモノに意味を与える…?

尾先:あぁ、今のままじゃ、そいつはただの狐の霊だ
お前が意味を持たせろ

茜:…凪…あなたの名前、凪でいい?

【頷き、消えていく凪】


茜:あれ?消えちゃった?

尾先:そいつも疲れたんだろ
で、なんで凪なんだ?

茜:凪に助けてもらった時、頭の中がぐちゃぐちゃで
私、どうなってたのかも分からなくて
ただ、鈴の音が聞こえた時だけ
頭の中がスッキリして、澄み渡ってたような……そんな気がして

骸:良い名前だ、別で和という字も当てられる
重ねて守り神に相応しいかもしれないね

尾先:お前にしては上出来な答えだな
そこまで考えてなかっただろうが

茜:酷くないですか!?
…たしかに考えてませんけど
骸さんのおかげで愛着もわきました!

骸:それは良かった

尾先:さ、帰るとするか

骸:あぁ、棚には触らないようにね
危険なモノもあるからね

茜:は、はい…気をつけます…


【帰り道】


茜:あの…

尾先:なんだ?

茜:権利ってなんだったんですか?

尾先:あぁ、アイツの商売みたいなもんだ
怪異屋、名前の通り、怪異の店だ
だからさっきのくねくねの核含めて、アイツのモノにしていいってことだ

茜:よくわからないんですけど?

尾先:まぁ、追々な

茜:そればっかりじゃないですか?

尾先:生き急ぐな、ゆっくり知ればいいだろー?

茜:教える気あります?

尾先:さぁ、どうだろうな

茜:もう…けど、ありがとうございました

尾先:俺は何もしてねーよ

茜:いいえ、居場所でしたから

尾先:居場所?

茜:人助けをしてくれる優しい人がいる場所
尾先さんに言えば助けてくれるって信じてました

尾先:…人を便利屋だと思ってんのか?

茜:こういうことに関しては、ですけど

尾先:お前な…

茜:柔軟に考えろって言ったじゃないですか

尾先:それは俺じゃない…
ハハ、まぁいい
報酬はしっかり貰ったからな

茜:『ゆれる ゆれる』
『私は ゆれる』
『現世と黄泉の合間を』

茜:尾先さん、また何あったら助けてくださいね

尾先:暇潰し程度には…な

茜:『あなたと ゆれる』


揺れる心 終
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