オサキ怪異相談所

てくす

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第一章

第三話 業漂う水

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美紅:『おちて ながれて 水の底』
『くらい みえない』
『光は何処に』


【間】


【電話中の尾先】
尾先:あぁ、わかった…
すまなかったな、色々と
一先ずこれで一件落着だ
また何かあれば連絡する、あぁ、それじゃ
……ふぅ


【尾先の家に、急いで来た茜】

茜:はぁ、はぁ……
尾先さん!聞いてください!

尾先:あぁ、俺も今聞いたところだ

茜:え?

尾先:コレだよ

茜:電話…?あ!骸さん!

尾先:そういうことだ
今回の件は、これで正式に一件落着だな

茜:よかった…詩織…

尾先:今は病院らしいな

茜:はい、聞いてます
今度、お見舞いに行こうかと

尾先:やめておけ

茜:え?どうしてですか!?

尾先:……はぁ
相手の気持ちも考えろ
会いたくないはずだろ?

茜:そ、それは…そうかもしれませんけど

尾先:…お前のその異常性は何なんだ?

茜:異常…?私が?

尾先:過去に何があったか知らない
必要以上に聞くつもりもないが
普通は自分を殺そうとした相手に情けも容赦もしないものだろう
この人はヤバい人だ、って距離をとる

茜:……

尾先:その執着心と言ってもいいほどの異常性がお前には見える
……単に友達思いの優しい子じゃない
お前のそれは異常だ

茜:…私、は…おかしい…ですか?

尾先:…あぁ

茜:…そうですよね
本当はわかってるんです
だけど…

尾先:まぁ、その話は追々な
とりあえず会うのはやめておけ
助かっただけありがたいと思ってそっとしておいてやれ

茜:わかりました…
あ、それで今日は

尾先:今日はもう帰っていい
俺も用事があってな

茜:それじゃあ、今日は怪異相談所はお休みですね

尾先:そのふざけた名前もどうにかならないのか?

茜:だって、尾先さんのやってること
そのまんまじゃないですか!

尾先:お前のネーミングセンスには頭を抱えるな
偽名の苺も字が似てるって理由で安直
凪は、まぐれで当たったが

茜:酷くないですか!?一生懸命考えたのに!
尾先さんだって、安直じゃないですか!
長い木でオサキ!って字変えただけじゃないですか!

尾先:勉強不足、出直してこい

茜:はぁ!?

尾先:じゃあな、気をつけて帰れよ

茜:あ!ちょっと!言い逃げだ!パワハラだー!


【次の日、学校】


美紅:おはよー!茜!

茜:おはよう、美紅

美紅:あれ?イライラしてる?

茜:え!?あー、うん、ちょっと

美紅:珍しいね?茜がそんな顔してるの

茜:バイト先でちょっとね…

美紅:あれ?茜ってバイトしてたんだっけ?

茜:え!?あー!そうそう、最近ね

美紅:どんなとこ?

茜:う、うーん…怪しいお店?

美紅:え…もしかして茜…夜の蝶に!?

茜:違う違う!そういうのじゃなくて!
ほら最近、幽霊に悩んでたでしょ?

美紅:あぁ!そういえば詩織から聞いたよー
あ、そういえば詩織入院してるらしいね
大丈夫かな?

茜:う、うん!大丈夫みたいだよ
あ、でね?その関係で知り合った人がいて
そのお店って言うのかな
幽霊専門の相談所みたいなところでお世話になってるの

美紅:本当に怪しいお店だった

茜:あはは…けど、私も相談して楽になったから、腕は確かかも

美紅:心理士みたいな人なのかな?
ふーん、じゃあ私も相談してみようかな

茜:え?美紅が?

美紅:うん
幽霊が見えるわけじゃないんだけどね
最近ちょっとおかしくて

茜:どんなふうに?

美紅:腰が痛くて、肩も凝ってる

茜:それは、整体に行った方がいいんじゃない?

美紅:そうなんだけどね
胸の張りが時々あるの
あと、気分が悪くなることもちょっと

茜:…その人は、男の人だから
別のところに行くべきじゃないかな…?

美紅:そういうのじゃないよ、絶対
だから不思議なの
別に運動したってわけじゃないのに疲れたりするから

茜:…わかった、私から少し話してみてもいいかな?

美紅:うん!お願いするね
茜、2限は何?

茜:私は空きだよ
ていうか今日はもう、なし!

美紅:そっか、じゃあまたね!

茜:うん、いってらっしゃい
……うーん、尾先さんに話していいものか

凪:茜、茜

茜:…え?誰…?

凪:こっちに来て、茜

茜:幽…霊?だけど嫌な感じはしない

凪:早く

茜:っ…行ってみよう


【間】


茜:誰なの?ねぇ!返事をして!

凪:僕だよ、茜

茜:え!?…子供?

凪:酷いなー、僕だよ
凪、だよ

茜:凪!?え、嘘、だって凪は

凪:狐は人を化かす怪異だよ
これくらいできるさ

茜:びっくりした…でも、どうして急に?

凪:うん、僕は茜以外の人間に興味はないからさ
別にどうでも良かったんだけど
さっきの人、茜の大切な人でしょ?

茜:美紅?そうね、大切な友達だよ

凪:だったら教えてあげる
茜って人間の幽霊は見えづらいんでしょ?
だから、教えてあげる
あの人間にはちゃんと憑いてるよ

茜:え!?憑いてる!?幽霊が?

凪:うん、今はまだ大丈夫そうだけど
病気じゃないから、いつ悪化するか分からない
急いだ方がいいよ
あれは多分、手に負えない

茜:手に負えない…?

凪:あの人間、最悪死ぬかもってこと

茜:えっ…

凪:とりあえず、僕が伝えたかったことは伝えたからね
それじゃあ

茜:あ!待って!
この前はありがとう、凪のおかげで助かったから

凪:ううん、僕は茜を助けられて嬉しいんだ
茜の為なら命を差し出すよ

茜:え…どうしてそこまで

凪:誓いだから

茜:誓い…?

凪:それじゃ、またね

茜:あっ!
…誓いって…何だろう
って、美紅のことが心配だ…
早く尾先さんの所に行こう!


【間】


尾先:なるほどな

茜:見てもらえますか?

尾先:凪、出てこい

茜:え?

凪:僕は茜以外の命令を聞くつもりはないんだけど
あと、様を付けたほうがいいんじゃないかな?僕はキミの狐じゃない

尾先:生憎、俺は大丈夫なもんでな

凪:尾先、ね
真怪にまで影響するのは不服だね

茜:真怪…?

尾先:怪異の分類だ
そこは自分で調べられる
人が勝手に分類して、都合が良いから使ってるだけだ

凪:人間はよく考える生き物だからね
使えるものは使うさ
さて、お前が言いたいことは解っている
だけど、僕が教えることはない
自分でちゃんと見た方がいい

茜:凪は何が取り憑いてるのかわかるの?

凪:僕も幽霊だからね
解る、というより本来見えていないとおかしいんだ
茜が生きているものが見えるように…ね

茜:あっ、そっか…なるほど
すごくわかりやすい

尾先:ま、予想が正しければ対応できるが、腑に落ちないこともある…

茜:腑に落ちない、ですか?

尾先:あぁ…まぁ、いいだろう
明日、連れてこい

茜:いいんですか?

尾先:あぁ、報酬はいただくさ


【次の日】


美紅:てことは、聞いてくれたんだね
ありがとう

茜:ううん!

美紅:で、えっと何だっけ?オサキ?さん?

茜:そう、変な人だけど大丈夫だよ

美紅:少し楽しみ

茜:えっ…

美紅:だって茜がお世話になってる人だし、興味あるじゃん?

茜:べ、別に変な意味はないからね!?

美紅:変な意味って?

茜:もう!からかわないでよ!

美紅:あはは!…って、ここ?

茜:あははー…不気味だよね

美紅:いかにも!って感じ

茜:じゃあ、行こっか



【尾先の家に入る二人】



茜:尾先さーん、連れてきましたー
あれ?尾先さーん?

美紅:入って大丈夫?
もしかして、留守だった?

茜:いや、そんなはずは

美紅:あれ?

茜:ん?どうしたの?

美紅:え、いや…なんだか身体が軽くなったような

尾先:それは魔除けのお香のおかげかな

美紅:え!?

茜:ちょっと、尾先さん!それやめてください!

尾先:俺は何もしてない

茜:えっと、この人が尾先さん
で、この子が友達の

尾先:名前

美紅:あ、川原美紅です

尾先:ふーん、なるほどね
さて、俺のことはどこまで聞いてる?

美紅:変な人だって聞いてます

尾先:…山本茜…?

茜:違っ!だってどこまで説明していいか分からなかったんですもん!

尾先:お前な…まぁ、いい
とりあえず話を聞かせてくれ

凪:(茜)

茜:え!?

美紅:え?どうしたの急に

茜:あ、ごめん!なんでもない
(…凪?これはどういうこと?)

凪:(テレパシーみたいなものだと思っていいよ、頭の中で会話してる
今、何か見える?)

茜:(ううん、やっぱり私には見えなかったよ)

凪:(僕は茜の守護霊のような立ち位置だから、ここの臭いに耐えれるんだけど
普通の霊は入って来れないみたいだ)

茜:(そうなの?)

凪:(あの男、気に食わないけど本物だね
とりあえず、今お友達には霊はいない
身体が軽くなったのはそのせいだね)

茜:(そうなんだ、けど凪が大丈夫で良かった)

凪:(だけど、注意して)

茜:(え?何を?)

凪:(扉の前にずっといる、出てくるのを待ってる)

茜:(あっ…!!)

凪:(見えた?)

茜:(扉の前が…なんかぐにゃぐにゃしてる…?)

凪:(なるほど、そう見えるのか
その感覚、普通の霊じゃなくて悪い霊って覚えておいて
生き物に悪影響を及ぼす霊体の感覚)

茜:(わかった…ありがとう、凪)


【間】


尾先:それは整体に行った方がいいんじゃないか?

美紅:茜にも言われました、けどそうじゃないですよね?

尾先:幽霊でも見えるのか?

美紅:いえ、見えません

尾先:なら、どうしてそう思う

美紅:茜がここを紹介してくれたからです

尾先:胡散臭いと思わないのか?

美紅:だけど、茜はそれで元気になりましたし
感覚…ですけど、そういう病気とかじゃないとわかるんです

尾先:山本茜より、随分頭が良いな
見た目は天然そうなのにな

美紅:ギャップ萌えってやつですね

尾先:ハハッ、気に入った
それに、色々経験値もありそうだ

美紅:経験値?ですか

尾先:あぁ…茜、そろそろお前も参加しろ

茜:あっ、ごめんなさい
何かわかったんですか?

尾先:あぁ、予想通りだ
川原美紅、お前に取り憑いている霊は子供の霊だ

茜:子ども…ですか?

美紅:こ…ども…

茜:美紅?

尾先:……
それで、何か心当たりはあるか?
話によれば、最近違和感を感じだしたんだろ?
それを感じる前、心霊スポットに行った…とか、いつもと変わったことをしてないか?

美紅:いえ…別に…

尾先:旅行でもいい
普段と違うことをしていないか?

美紅:あっ、そういえば
彼氏と釣りに行きました
私は近くで見ていただけですけど

尾先:場所は?

美紅:えっと…どこだっけ
ちょっと、聞いてきていいですか?

尾先:あぁ、構わない

茜:子どもの霊ですか

尾先:…あぁ

茜:尾先さん?

尾先:厄介にならなきゃいいが

茜:そんなにヤバい霊なんですか?

尾先:いいや、本来その霊は…
いや、この話は後にしておこう

茜:え?

尾先:場所が近ければ今から行くぞ
早く終わらせてしまおう

茜:あ、はい
ありがとうございます

尾先:……あぁ

美紅:お待たせしました
場所は…ここです

尾先:仔攬池ことりいけ…なるほどな

茜:ここから30分くらいですね
中学の頃、男子がよく行ってました

美紅:あ、私の中学もそうだったよ
彼氏も結構行ってたみたい

茜:私は釣りしたことないな

美紅:私も実際にしたことはないよ

茜:ついて行くだけ?

美紅:うん、そうだよ

茜:それ、楽しいの?

美紅:うーん、ついて行ったの、この一回だけだから
どんな感じか見てみたいって私が言ったし

茜:そうなんだ

凪:(尾先、茜を巻き込むなよ)

尾先:(凪か…あぁ、そのつもりだが)

凪:(僕は茜さえ無事ならそれでいい
他の人間は知らないからな)

尾先:(お前が自分で見ろと言った意味が解ったよ
あれは…業が重すぎる……今回の場合、特にな)

凪:(人間は愚かだよ、全く)

尾先:(あぁ、そうだな)
よし、今から行くぞ

美紅:池にですか?今から?

尾先:あぁ、今すぐ行って除霊する

茜:大丈夫そうなんですか?

尾先:待ってろ、準備してくる

美紅:また、あそこに行くんだ

茜:どうしたの?

美紅:ううん、ここで除霊?っていうの?
お祓いみたいなことすると思ってたから

茜:私もそう思ってたんだけど
時々、現地に行くこともあるんだ
そこじゃないとダメな時があるらしくて

美紅:じゃあ、私はそのパターンだったってことね

茜:そうみたい
私もよくわかってないんだけどね

美紅:けど、いい人そうじゃない?オサキさん

茜:え!?どこが!?

美紅:ちゃんと人を見てる
気配りも上手そう

茜:ぜっんぜん!そなことないから!

美紅:あはは!

尾先:待たせたな、行こうか

茜:あっ!尾先さん!

尾先:なんだ?

茜:ちょっと、こっちに…
……あの扉の前どうするんですか?

尾先:あぁ、クダに頼んである
出ても大丈夫だ

茜:よかった…

尾先:見えるのか?

茜:いえ、雰囲気しか分からないです
あとは凪に聞きました

尾先:さっきのコソコソ話はそれか
……茜、…友達の力になってやれよ

茜:え?それってどういう…

尾先:よし、行くぞ



【池へと向かう3人】



茜:(友達の力になるってどういうこと?
もしかして、何かよくないモノが)

美紅:茜?

茜:え…?

美紅:どうしたの?眉間に…シワ!

茜:あ痛っ、…ごめんごめん、考え事

美紅:私のこと?

茜:へ?

美紅:ふふっ、なんでもなーい!

茜:あっ!美紅、待って!

凪:(へぇ、勘が鋭い子だ
確信を持って言ったよね、今の言葉
なんだろうね、この感じ
全部分かってるような雰囲気も…
尾先も、なーんか感じてるみたいだし
ま、いいか…僕は僕の使命を果たせばそれでいい)


【間】


尾先:よし、ここでいい
今から除霊をするが、確認しつつ行う
答えたくないものには答えなくていい

美紅:…はい

尾先:まずは、場所はここでいいな?

美紅:釣りをしてたのは少し奥ですけど

尾先:その時に何かしなかったか?
ゴミのポイ捨てや池を荒らしたり

美紅:してないです
逆にゴミを拾ったくらいですよ

尾先:わかった
今、体調の変化はあるか?

美紅:お店に行ってからは調子がいいくらいです

尾先:あそこは店じゃなくて俺の家なんだがな
…お前に憑いている霊は、水子の霊だ

美紅:っ……

茜:水子…?

凪:(堕胎や、流産、死産…生まれてきて間もなく死んだ……そんな霊を水子として纏めるんだ)

尾先:さらにこの場所、仔攬池ことりいけ
名の通り、子を取る池だ

茜:子を取る?

尾先:姥捨山うばすてやまは分かるか?

茜:はい、聞いたことはあります

尾先:その逆だ
子を池に捨てたんだろう
事実か伝承かは知らんが、名は何か意味を持っているからな
事実、ここで大飢饉だいききんが起こったこともある
何百年も前に、育てられなくなった子を捨てる
なんて当たり前にあった話かもしれない

茜:そんな…酷い…

尾先:話だけ聞けばな
実際に体験してみないと、その時の苦しみなんてわからんだろ?

茜:それは…そうかもしれませんけど

美紅:……私に憑いてる霊はその時、捨てられた子ですか?

尾先:そこまでは俺も解らん
ただ、3人だ
腕、足、そして腹…

美紅:…今はどこに

尾先:気にするな、もう除霊するんだ

美紅:わ…私…

茜:美紅、大丈夫?

美紅:あ、あか…ね、私…

茜:美紅?

美紅:ウッ…うぇっぇぇ…

【何かを嘔吐する美紅】

茜:えっ…?

尾先:何!?茜!そいつから離れろ!

茜:で、でも美紅が

尾先:いいから離れろ!!

茜:っ…

美紅:はぁ…はぁ…ウッゲェぇえ…
あっ…お腹…痛っ…痛いぃ…!

尾先:クダ!凪!

凪:はぁ?なんで僕が呼ばれるんだ?尾先、言ったよね?僕は

茜:凪!お願い!美紅を助けて!

凪:……
茜に言われたら拒否できないよ…
ほら、クダさん尻尾貸して

九ツ尾重ここのつおかさね

茜:美紅!美紅!

尾先:触るな!

茜:尾先さん、どうしよう、美紅が!

尾先:目から大量の涙、腹の痛みは陣痛だろうな
耳から血が出ているが…これは別か
口から吐いているのは羊水か?

茜:なんなんですか!?一体これは!

尾先:出産時の現象が起きている
泣くのは生まれてくる子ども
耳の血はその生まれてくる子についたモノだろう
陣痛と羊水に関しては霊障だな

茜:なんでこんなことに…

尾先:話の最中に、もう霊は除霊していた
あとは川原美紅の気持ち次第だったんだが
それにここまでの霊障があるわけ…!?それか!

茜:何かわかったんですか?

尾先:付喪神だ

茜:付喪神?

尾先:物に魂が宿るとそれは付喪神になる
だが本来、付喪神ってのは百年の歳月を要する
だからアレは付喪神に似た別の呪具だ

凪:尾先、早く何とかしないと死ぬよ
嘔吐のしすぎで脱水起こしてる
それにこれ、死ぬまで続くでしょ?

美紅:痛ぁぁ!ぅッッ…はぁ…はぁ…

茜:美紅!……尾先さん!

尾先:川原美紅の腕に付いているアレを切れ

茜:え?…アレってブレスレット?
けど、確か彼氏から貰ったって
外すだけでいいんですよね!?

尾先:命とどっちが大切か考えろ!
いいか、外すんじゃない!切るんだ!

茜:けど、切るって…

尾先:クダと凪の結界の中なら切れる
やれ!

茜:っ!!美紅、ごめんね?切るね?

美紅:ぁあっ…痛ぃ…痛いの!

茜:ごめんーーーー

【ブレスレットを切る】

尾先:こっちに投げろ!

茜:は、はい!

尾先:クダ!

凪:はぁ、疲れた
付喪神なんて、また趣味の悪いものを

茜:美紅!美紅!

美紅:あ…か…ね…

茜:よかった…大丈夫?もう痛くない?

美紅:うん…大丈夫…はぁ…はぁ…
……あっ…!

尾先:4人憑いていたってわけか
除霊の時の霊力で覚醒したか…

美紅:あっ、あの…そのブレスレット…

尾先:すまないがコレはもう呪具の一種だ
取り憑いた霊は除霊するが、これは返せない

美紅:赤ちゃん…が入っているんですよね?

尾先:……あぁ

美紅:返してもらえませんか?

茜:美紅?何言ってるの?
あれを持ってたら、また美紅が!

美紅:ごめん…ごめんね、茜
私…ね、昔

尾先:言うな
言わなくていい

美紅:……

尾先:…責任は取らない

美紅:え?

尾先:これを返して、また霊障があっても
俺は手出ししない、それでいいか?

茜:尾先さん!?ちょっと、どういう

凪:茜、大丈夫

茜:凪…

凪:あの中にはもう…何もいない

茜:えっ…何もいない?

凪:クダの結界に入れたあと別に移し替えたみたいだ
本当、嫌になるほど本物だね

尾先:お前の考えている人じゃないかもしれんぞ

美紅:はい、それでいいです
責任は私が

尾先:軽々しく背負うものでもないぞ?

美紅:それでも背負わないといけないものなので

尾先:…わかった、これは返す

美紅:っ!!ごめんね…ごめんね…

茜:美紅…


【回想】


尾先:さっきのコソコソ話はそれか
…茜、…友達の力になってやれよ

茜:え?それってどういう…


【現在】


茜:(尾先さんが言ってたのって、もしかして…)
っ!美紅!

美紅:茜…

茜:大丈夫だから、言わなくてもいいから
だから…

美紅:うっ…茜…うわぁぁん…あぁっ…

尾先:ふぅ…


【間】



尾先:それで、あれからはいつも通りってか

茜:はい、ありがとうございました
美紅のことも、それから、あの子のことも

尾先:川原美紅にも言ったが、お前たちが考えているそれとはまた別かもしれないぞ

茜:それでも、美紅が選んだので
少しは救われたんだと思います

尾先:川原美紅はずっと悩んでいたんだろうな
そういうタイプの子だ
全部忘れた方がいいってこともあるが、俺は嫌いじゃない

茜:はい…あっ、移し替えた水子はどうしたんですか?

尾先:あぁ、報酬だからな

茜:なるほど、骸さんですね

尾先:そういうことだ、付喪神になった水子なんて聞かないからな
今回の話もしてやったら、喜んで聞いていたよ、悪趣味な奴だ

茜:あはは…骸さんらしいですね
……私、ちょっと怖かったです

尾先:何がだ?

茜:凪からは手に負えないって言われてたし、尾先さんも腑に落ちないとか言って
みんな煽ってましたから

尾先:煽ってるわけじゃない
そうだな…
お前は子どもと聞いて何を思い浮かべる?

茜:え?子どもですか?
可愛いとか…あと無邪気ですかね?

尾先:そうだ、子どもは無邪気なんだ
字の通り、邪気が無いんだよ

茜:邪気が無い?

尾先:辞書に載っている素直とかの意味じゃなく、字の意味として、な
水子の霊ってのは邪気が無い
だから、霊障なんて起こらないんだ
取り憑くことはあるが、親と間違えたり
ただ、遊んで欲しいだけだったりな

茜:じゃあ、なんで美紅はあんなことに?

尾先:付喪神化した奴がいたことだろうな
元から憑いていた3人はすぐに消えたし
凪が手に負えないって言ったのは、解っていたからだろう

茜:そうなの?

凪:茜には悪いけど、僕は茜以外の人間はどうでもいいんだ
だがら、僕じゃなくて尾先に対応させた

尾先:全く迷惑な話だな

凪:その割には、しっかり面倒見てるくせに

尾先:人助けが趣味だからな
川原美紅が少しでも助かったなら
それでいいってことだな

茜:尾先さんらしいです

尾先:本当は全部忘れる方が幸せかもしれない
だが、背負うことに決めた選択を尊重したくなっただけだ

茜:そうですね…
私も美紅の決めたことは間違ってないと思います
あの、尾先さん

尾先:なんだ?

茜:…いえ、なんでもないです
(この人になら、私のことを話してもいいのかな……美紅が勇気を出したように…私も…)

尾先:…ははっ
その話は、追々でいい

茜:えっ…
…はい!追々話します!



【間】



美紅:『おちて ながれて 水の底』
『くらい みえない』
『光は何処に』

美紅:じゃあ、お母さん行ってきます!
……行ってくるね

【飾ってあるブレスレットに笑いかける美紅】

美紅:『光は此処に』
『あなたのそばに』


業漂う水 終
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