オサキ怪異相談所

てくす

文字の大きさ
上 下
25 / 44
第二章

第十七話 幾星霜 館林燐

しおりを挟む
ある夜、一人の男は女に行き会うことあり。

四月一日:誰だ?

命:人の死を身近に感じたことがある
  お前は魅了された人間だね

四月一日:死に魅了されたって?
     んなわけあるか

命:違うよ
  私が言いたいのは、怪異に魅了された人間

四月一日:……誰だ、お前

命:怪異とは人の生き死にだ……と
  私に言い聞かせたヤツがいる
  お前の目は、とても濁っていて……綺麗だ

四月一日:殺すぞ、女
     俺の質問に答えろよ

命:私は命
  みことの名の下に、めいを下し
  いのちを、与える……怪異にね
  それで?お前の名は何だ?

四月一日:俺、は……



【間】



二十数年前ーー


義明:失敗作

八尾:お前は手厳しいナァ、義明

義明:もう5年だ
   この餓鬼が産まれて

八尾:自分の子を餓鬼と
   まだ是非善悪も解らんだろうに

義明:是非善悪だ?悪だろう
   蛍の倅は、もう霊を見、対話したそうだ

八尾:アレは狐に呪われとるからな
   中身は何か解らん

燐:お父さん……

義明:その口で父と呼ぶな!

燐:ヒッ……

義明:憑物筋でこうも違うものか

八尾:お前は自分を卑下しているのか
   尾先に対して何を

義明:私が卑下しているだと?
   親父の時代はどうだか知らんが
   今は尾先と館林に差などない

八尾:お前は五つの時に何を見ていた
   特段変わらんだろう

義明:忘れたか?
   その時には、大かむろを使役した

八尾:大かむろ、大かむろネェ
   驚かすだけの妖怪だ

義明:私が言いたいのは
   この歳では、もう使役も済ませていたということだ
   この失敗作は使役どころか、何も見えん
   なぁ、本当に霊感がないのか?

八尾:あぁ、何も感じん

義明:……チッ

そう言い、義明は部屋を出て行く

燐:……ごめんなさい

八尾:何を謝ることがある
   持って生まれなかったのは
   お前のせいではない

燐:だけど、そのせいでお父さんは

八尾:子供が気を遣うな
   アレはワシがなんとかしよう

燐:ありがとう、じいちゃん

八尾:お前は霊感は無いが頭が良い
   いつか……まぁ、それはいい

燐:……?

八尾:見えないものを見る必要は無い
   お前はお前のままでな



【間】



義明:怪異が見えないなら教えても無意味だが
   ……やれ

燐: 元柱固具がんちゅうこしん 八隅八気はちぐうはつき 五陽五神ごようごしん 陽動二衝厳神おんみょうにしょうげんしん
  害気を 攘払ゆずりはらいし、四柱神しちゅうしんを鎮護し、 五神開衢ごしんかいえい
  悪鬼をはらい、 奇動霊光四隅きどうれいこうしぐう 衝徹しょうてつし、 元柱固具がんちゅうこしん
  安鎮あんちんを得んことを、つとみて五陽霊神ごようれいしんに願いたてまつ

義明:どうだ、何か感じるか?

燐:……何も……

義明:……やはり、コレは

八尾:陰陽師の真似事か、義明

義明:これを続けても無意味だった
   もう、私にも手立てが無い

八尾:何故そこまで拘る?

義明:館林がついえるぞ
   コレ以外に子供はいない
   何とかしなければ

八尾:なんだ?お前は死ぬのか?
   そして、ワシも死ぬのか?

義明:……いや、数十年後の話だ

八尾:そんな先のことを憂いてどうなる
   それに、憑物筋でなくなろうと
   それが何なのだ?

義明:……では、今までの私の苦労はなんだったのだ!
   この家に生まれ、責務を果たした!
   それの最後は全てを無に帰すことなのか!?

燐:ごめんなさい!僕が、僕が見えないから!

義明:ッ……!
   部屋で休む

義明、部屋を出ていく

燐:っ!

燐、後を追って出て行く


義明の部屋の前にて
燐は聞き耳を立てていた

義明:仁狐、仁狐
   何故、お前は名を与えられたのだ
   蛍、お前は何を産んだんだ

燐:(仁狐……尾先仁狐……)




【間】




燐:仁狐くんは何を見てるんだろう
  幽霊って何だろう
  なんで僕は見えないんだろう
  見えなくていいってじいちゃんは言うけど
  見えないとお父さんに怒られるし……
  見て、みたいな……僕も

少し離れたところで燐を見る八尾


八尾:……不憫、だなァ
   憑物筋と言えど、こうなる
   時代が変わったのだろうな
   見える者は、どんどん減っていく

義明:おい

八尾:なんだ?

義明:話がある

八尾:……解った




【間】




八尾:それは……本当か

義明:あぁ、話がきた
   蛍は親戚中に話をしているようだ

八尾:どうしてこっちに話が?

義明:旧友とでも思っているんだろう

八尾:フハハ、天才は違うな

義明:怪物は怪物を産むのだろうな
   それでだ

八尾:ふむ……

義明:数十年後が直近に変わるな

八尾:死ぬ、と

義明:解らん

八尾:判断はお前に任せる
   ワシはもう引いた身だ

義明:……見てみたいと思うことは悪だろうか

八尾:……

義明:怪異を見てみたいと、触れてみたい
   言葉を交わしてみたい、と
   ……そして、自分の中に生まれたコレを
   怪異として生み出すことはできるのだろうか

八尾:お前の中に怪異はいない

義明:それは憑いたモノだろう?
   俺のこの、息子を殺したいと思う気持ちは
   怪異なり得るのか

八尾:義明、お前……堕ちたか?

義明:……この黒は怪異が好むだろう
   ならいっその事、怪異として生まれないだろうか

八尾:そうしたら、その場でワシが殺してやろう

義明:アイツが潰すなら俺が潰しても問題は無い
   そうだろう?俺はもう、疲れた

八尾:……行くということだな

義明:道連れにして悪いな、親父

八尾:死ぬつもりはない

義明:……そうか




【間】



ーー数日後

燐:どこに行くの?

八尾:あぁ、依頼が来てなぁ

燐:……帰ってくる?

八尾:……あぁ

燐:嫌な感じがするんだ

八尾:フフ、そういうところは
   霊能者の血か

燐:え?

八尾:必要であれば死に、必要であれば生きる

燐:なにそれ?

八尾:運命というものだ

燐:よく分からない

義明:なにをしている

燐:あっ……っ

義明:お前は

燐:……?

義明:生きれると、いいな

燐:えっ

義明:行くぞ、親父

八尾:……あぁ



四月一日:(それは、呪いの言葉だろうか
     生きるというのは
     自分がいない世界での話なのか
     それとも、お前の影からだったのか
     それはもう、文字通り
     闇の中で見えはしない)



【間】





四月一日:(知らせが来たのは
     二人が依頼に出て三日後だった
     親父の遺体は戻ってきたが
     八尾の遺体は見つからなかったらしい
     喰われた、と他の奴らは話していた)



燐:っ!?アァ、ぁぁあぁぁぁぁあ!!
  な、………に…………こ、れ……



四月一日:(そして、俺は
     全てを理解した)




【間】





数年後、燐 **歳

四月一日:見つけた

八尾:……まさか、な

四月一日:お前が俺に封をしていたな?
     今更惚けても無駄だ
     今の俺は、違う

八尾:見えたか

四月一日:親父が戻ってきたあの日
     死に顔を見た瞬間、解ったよ
     

八尾:予想外だった
   まさか、九尾があそこまで力を持って
   現代に蘇っていたとは
   傷を癒すのに時間をかけ過ぎた

四月一日:何でお前は俺に封をした?
     何が目的だ

八尾:……フフ、フハハ!
   人とは皆、全て
   塵に等しく、 鏖みなごろし
   ……であれば、人とは、ワシにとって
   皆等しく、実験動物だ

四月一日:俺で何をした

八尾:憑物筋に産まれながら霊感がなく
   父親に殺意まで抱かせる存在
   怪異として、これほどの旨味はない
   霊を見ずとも愛されれば
   それはそれで一興

四月一日:それが目的か
      隠神いぬがみ

八尾:……ワシのことまで見えるか
   封をしなければ天才と言われても過言ではない
   ハハッ!そのような存在に封を!ハハハ!

四月一日:……最初は霊だった

八尾:……

四月一日:次は、呪いに違和感を覚えた
     霊とは違う気配を感じたんだ
     今まで見えなかったからな……
     空想や妄想の霊にも怪物にも
     なんなら、宇宙人にも興味が湧いたよ

八尾:それで?

四月一日:見たい、知りたい、喋りたい、触れたい……
     見てみたいから会いたいに変わった
     なぁ、次はどうなると思う?

八尾:それを怪異に聞くか?

四月一日:俺のモノになれよ

八尾:憑物筋……

四月一日:取り憑いた霊を使役する
     お前の為にこの力は使ってないんだ
     お前を最初の霊にしてやるよ

八尾:ハハ!不遜!
   思い上がるな、人間風情が

四月一日:戦ってみたい、も一つだ

八尾:館林 燐

四月一日:あぁ、その名は捨ててやるよ
     俺はもう
     何者にも縛られない



【間】



四月一日:……使役、ね
     お前は切り札だ
     俺の中で眠ってろ
     ……じゃあ、会いに行くか
     尾先 仁狐


【間】


ーーー数年後

四月一日:俺は名を捨てた
     なのにお前はその名を捨てずにいる
     そして、まだこの世界にいる
     何が目的だ?何がお前を引き留める?
     全てを殺したんだろう?
     それを見たんだろう?
     お前は
     怪異に成ったのか?尾先
     それに……あれは別の
     ……誰だ?

命:人の死を身近に感じたことがある
  お前は魅了された人間だね

四月一日:死に魅了されたって?
     んなわけあるか

命:違うよ
  私が言いたいのは、怪異に魅了された人間

四月一日:……誰だ、お前

命:怪異とは人の生き死にだ……と
  私に言い聞かせたヤツがいる
  お前の目は、とても濁っていて……綺麗だ

四月一日:殺すぞ、女
     俺の質問に答えろよ

命:私は命
  みことの名の下に、めいを下し
  いのちを、与える……怪異にね
  それで?お前の名は何だ?

四月一日:俺、は……

命:あぁ、縛るつもりはないよ

四月一日:……

義明:(失敗作
   憑物筋でこうも違うものか
   今までの私の苦労はなんだったのだ!
   この家に生まれ、責務を果たした!
   それの最後は全てを無に帰すことなのか!?)

八尾:(父親に殺意まで抱かせる存在
   怪異として、これほどの旨味はない)

四月一日:(お前は俺を殺したかったんだな、親父)

義明:お前は……生きれると、いいな

四月一日:フフ、アッハハハ!
     あぁ、あぁ!!生きてやるよ!!
     俺はお前とは違うからなァ!
     俺はナナシだ!名前なんて無い!

命:ナナシ、か

四月一日:なぁ、一ついいか?

命:なんだ?

四月一日:俺はずっと憧れていた、夢に見ていた
     いつか必ず出逢ってやろう、見つけてやろうって
     最初はツチノコか?いや、ネッシーでもいい
     口裂け女もいいな、きさらぎ駅にも行ってみたい
     そう考えていたら霊が見えるようになった
     おお!次は呪いだ!…ってな

命:それで?

四月一日:見たい、知りたい、喋りたい、触れたい……
     見てみたいから会いたいに変わった
     なぁ、次はどうなると思う?

命:それならいい話がある
  その前にその問いに答えを与えようか?ナナシ
  見て、会えたなら
  次は、生み出してみたくなったんだろう?

四月一日:そうだ
     逢いたいから作りたいになったのはいつかな
     いや、最初からかも知れない
     自分だけの怪異を作ってみたい
     それが止まらない、止まらない止まらない止まらない!!

命:私はお前の様な人間を集めている
  怪異に命を与えると言ったな
  私は怪異を生み出す人間が欲しい
  そして、生み出した怪異に命を与えることが
  私の使命なんだ

四月一日:みこと、って言ってたな
     その話、詳しく聞かせてくれよ
     俺は、使えるぞ

命:あぁ、新解釈怪異譚
  それを話そうじゃないか



【間】




四月一日:まぁ、最初はこんなもんだろ

命:くねくねは、知名度もあるから
  うん、これでいい?

四月一日:あぁ、問題ない

命:余分なモノを排除して
  より誰にでも機会を与えるか

四月一日:怪異のルールみたいなものは
     ある程度、理解しているつもりだ
     だが、限定条件も多い
     まぁ……だから強力ってのもあるが

命:それを私の力で強制的に強くすれば
  全く問題はないわけだけどね

四月一日:場所、時間帯、対象の人物
    ここを緩めるのが一番だな

命:それで、誰にやる?

四月一日:一人、実験的な意味も含めて

命:誰?

四月一日:山本茜っていう女がいる

命:私怨?元カノとか?

四月一日:はっ!笑わせるなよ
     お前の口から元カノとか出るのか

命:……誰?

四月一日:言ってなかったな
     俺は殺したい奴がいる

命:それが、山本茜?

四月一日:を、匿ってる男
     尾先仁狐

命:狐憑きか
  怪異屋と関わり出してから
  妙に名を聞く様になった
  知り合いだったんだ

四月一日:いや、向こうは一切知らないだろうな
     初めにくねくねを提出したが
     別に他のも使うなら使ってくれ
     それから今日からまがりで通す

命:偽名か

四月一日:あぁ、ナナシは名が無いから
     まぁ、新しい人生と思ってな
     気に入ったらそのまま使うわ


命:くねくねでまがり、か
  安直ではあるが、怪異の親としては
  いいんじゃないか?

四月一日:……俺の父親は怪異に成りたかったらしい

命:それで?

四月一日:まぁ、成れずに死んだわけだ
     誰に憑いて何をしたかったのかは

命:お前に取り憑いて殺す為、でしょ?

四月一日:……敵わないなァ、命

命:父親から聞いていたのか?

四月一日:いや……祖父が言っていたことだ
     最後のあの遺言は、呪いだったんだろうな
     生きれるといいな、だと
     アイツが守りたかったモノは俺が全部、壊した
     名も捨て、家を捨て、俺はもう縛られない
     家も名も、俺自身も
     全部、無だ

命:そして、今では怪異を生み出す親と成った、か

四月一日:あぁ、もうそれは既に、怪異だろ?
     成れなかった者に俺は成った
     だから、俺は尾先仁狐を殺したい

命:父親を殺された復讐でもないのに?

四月一日:殺されたことは何も恨んじゃいない
     むしろ、解放してくれて感謝しているさ
     俺がアイツを殺したいのは
     今でも名を捨てず、誰かに守られて生きていて
     なのに、この世界で生き続けていることが
     気になるんだよ
     俺とは違う、別の俺だ
     だったら会話するしかないだろ?

命:あぁ、そうだな
  だけど、言葉はいらない

四月一日:そうだ
     この世界で生きているなら
     呪い合いでも取り憑き合いでも
     大切な人を殺し合って話すべきだ

命:それこそ、人の生き死に……怪異だね
  では、私は見守ることにするよ
  怪異譚は続けてくれれば問題はない

四月一日:あぁ、止める気はない

命:あぁ、そうだった
  お前が作った怪異の謳
  使えそうだったから幾つか作っておいたよ

四月一日:……あぁ、あれな
     一応言っておくが、あれは
     『逆祓詞さかはらえのことば
     俺が唯一、消してないモノだ

命:そう
  じゃあね、まがり

四月一日:……



【間】


ーーー数ヶ月後

四月一日:なんや、呼び出して

命:次は四月一日か
  安直なのは変わらずだな

四月一日:別にええやろ、なんでも

命:人格まで変えるほどに徹底するのは
  正直、恐れ入ったよ

四月一日:なんや、命ちゃんから褒められたら
     えらい嬉しいなァ
     怪異屋からは酷評やったけど

命:どうだ?狐憑きに会った感想は

四月一日:……正直、期待外れ

命:ふぅん?

四月一日:ま、認めてやらんこともないなぁ
     せやけど、まだまだや
     あー、四月一日気に入ったから
     このまま使うかもなー

命:そう

四月一日:煽りがペラペラ口から出てくるんや
     参考にしたキャラがハマってるんやろなぁ

命:私は阿僧祇あそうぎ 梵そよぎの件で数日離れる
  他に揺蕩娜たゆたは留まると思うけど

四月一日:なら二人でイチャついとくわ

命:殺されない程度に、ね

命、ある場所から出ていく

四月一日:……本当、期待外れだよ
     天才、化物とか言われてなかったか?
     けど、殺すことは変わらない
     ……いや、殺すことで始まるんだろうな
     あれが本気なら……問題は無い、な

八尾:九尾の行方が気になる

四月一日:あの中身は?

八尾:残りかすみたいなモノだろうな

四月一日:……厄介、だな

八尾:フフ、見届けるぞ燐

四月一日:お前の存在は誰にも気づかれていない
     さっさと消えてろ、八尾
     ……そうだな
     一度、コンプレックスを消しとくか



【間】



そして、時間は戻り、現在

命:なんだ?話って

四月一日:色々訂正させてもらうわ
     俺は一から百を生み出す言うたな?
     残念、あれは嘘だ

命:巫山戯るな
  時間の無駄か

四月一日:俺は零から百を生み出す

命:……作ったのか?

四月一日:あぁ、因縁込み込みで
     私怨も多少のスパイスかもな

命:フフッ、じゃあ聞かせてもらうか
  四月一日

四月一日:あぁ、次の怪異譚は
     『大噛鹵おおかむろ
     それじゃ、怪異譚を話そうか




幾星霜 館林燐 終
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:355pt お気に入り:239

最優秀な双子の妹に婚約者を奪われました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:825

888字 物 語

ホラー / 連載中 24h.ポイント:455pt お気に入り:2

殿下、もう終わったので心配いりません。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:6

八尺様

ホラー / 連載中 24h.ポイント:468pt お気に入り:4

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:27,840pt お気に入り:1,446

鳳月眠人の声劇シナリオ台本

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:397pt お気に入り:5

処理中です...