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第二章
第十七話 幾星霜 館林燐
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ある夜、一人の男は女に行き会うことあり。
四月一日:誰だ?
命:人の死を身近に感じたことがある
お前は魅了された人間だね
四月一日:死に魅了されたって?
んなわけあるか
命:違うよ
私が言いたいのは、怪異に魅了された人間
四月一日:……誰だ、お前
命:怪異とは人の生き死にだ……と
私に言い聞かせたヤツがいる
お前の目は、とても濁っていて……綺麗だ
四月一日:殺すぞ、女
俺の質問に答えろよ
命:私は命
命の名の下に、命を下し
命を、与える……怪異にね
それで?お前の名は何だ?
四月一日:俺、は……
【間】
二十数年前ーー
義明:失敗作
八尾:お前は手厳しいナァ、義明
義明:もう5年だ
この餓鬼が産まれて
八尾:自分の子を餓鬼と
まだ是非善悪も解らんだろうに
義明:是非善悪だ?悪だろう
蛍の倅は、もう霊を見、対話したそうだ
八尾:アレは狐に呪われとるからな
中身は何か解らん
燐:お父さん……
義明:その口で父と呼ぶな!
燐:ヒッ……
義明:憑物筋でこうも違うものか
八尾:お前は自分を卑下しているのか
尾先に対して何を
義明:私が卑下しているだと?
親父の時代はどうだか知らんが
今は尾先と館林に差などない
八尾:お前は五つの時に何を見ていた
特段変わらんだろう
義明:忘れたか?
その時には、大かむろを使役した
八尾:大かむろ、大かむろネェ
驚かすだけの妖怪だ
義明:私が言いたいのは
この歳では、もう使役も済ませていたということだ
この失敗作は使役どころか、何も見えん
なぁ、本当に霊感がないのか?
八尾:あぁ、何も感じん
義明:……チッ
そう言い、義明は部屋を出て行く
燐:……ごめんなさい
八尾:何を謝ることがある
持って生まれなかったのは
お前のせいではない
燐:だけど、そのせいでお父さんは
八尾:子供が気を遣うな
アレはワシがなんとかしよう
燐:ありがとう、じいちゃん
八尾:お前は霊感は無いが頭が良い
いつか……まぁ、それはいい
燐:……?
八尾:見えないものを見る必要は無い
お前はお前のままでな
【間】
義明:怪異が見えないなら教えても無意味だが
……やれ
燐: 元柱固具、 八隅八気、 五陽五神、 陽動二衝厳神
害気を 攘払し、四柱神を鎮護し、 五神開衢
悪鬼を逐い、 奇動霊光四隅に 衝徹し、 元柱固具
安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る
義明:どうだ、何か感じるか?
燐:……何も……
義明:……やはり、コレは
八尾:陰陽師の真似事か、義明
義明:これを続けても無意味だった
もう、私にも手立てが無い
八尾:何故そこまで拘る?
義明:館林が潰えるぞ
コレ以外に子供はいない
何とかしなければ
八尾:なんだ?お前は死ぬのか?
そして、ワシも死ぬのか?
義明:……いや、数十年後の話だ
八尾:そんな先のことを憂いてどうなる
それに、憑物筋でなくなろうと
それが何なのだ?
義明:……では、今までの私の苦労はなんだったのだ!
この家に生まれ、責務を果たした!
それの最後は全てを無に帰すことなのか!?
燐:ごめんなさい!僕が、僕が見えないから!
義明:ッ……!
部屋で休む
義明、部屋を出ていく
燐:っ!
燐、後を追って出て行く
義明の部屋の前にて
燐は聞き耳を立てていた
義明:仁狐、仁狐
何故、お前は名を与えられたのだ
蛍、お前は何を産んだんだ
燐:(仁狐……尾先仁狐……)
【間】
燐:仁狐くんは何を見てるんだろう
幽霊って何だろう
なんで僕は見えないんだろう
見えなくていいってじいちゃんは言うけど
見えないとお父さんに怒られるし……
見て、みたいな……僕も
少し離れたところで燐を見る八尾
八尾:……不憫、だなァ
憑物筋と言えど、こうなる
時代が変わったのだろうな
見える者は、どんどん減っていく
義明:おい
八尾:なんだ?
義明:話がある
八尾:……解った
【間】
八尾:それは……本当か
義明:あぁ、話がきた
蛍は親戚中に話をしているようだ
八尾:どうしてこっちに話が?
義明:旧友とでも思っているんだろう
八尾:フハハ、天才は違うな
義明:怪物は怪物を産むのだろうな
それでだ
八尾:ふむ……
義明:数十年後が直近に変わるな
八尾:死ぬ、と
義明:解らん
八尾:判断はお前に任せる
ワシはもう引いた身だ
義明:……見てみたいと思うことは悪だろうか
八尾:……
義明:怪異を見てみたいと、触れてみたい
言葉を交わしてみたい、と
……そして、自分の中に生まれたコレを
怪異として生み出すことはできるのだろうか
八尾:お前の中に怪異はいない
義明:それは憑いたモノだろう?
俺のこの、息子を殺したいと思う気持ちは
怪異なり得るのか
八尾:義明、お前……堕ちたか?
義明:……この黒は怪異が好むだろう
ならいっその事、怪異として生まれないだろうか
八尾:そうしたら、その場でワシが殺してやろう
義明:アイツが潰すなら俺が潰しても問題は無い
そうだろう?俺はもう、疲れた
八尾:……行くということだな
義明:道連れにして悪いな、親父
八尾:死ぬつもりはない
義明:……そうか
【間】
ーー数日後
燐:どこに行くの?
八尾:あぁ、依頼が来てなぁ
燐:……帰ってくる?
八尾:……あぁ
燐:嫌な感じがするんだ
八尾:フフ、そういうところは
霊能者の血か
燐:え?
八尾:必要であれば死に、必要であれば生きる
燐:なにそれ?
八尾:運命というものだ
燐:よく分からない
義明:なにをしている
燐:あっ……っ
義明:お前は
燐:……?
義明:生きれると、いいな
燐:えっ
義明:行くぞ、親父
八尾:……あぁ
四月一日:(それは、呪いの言葉だろうか
生きるというのは
自分がいない世界での話なのか
それとも、お前の影からだったのか
それはもう、文字通り
闇の中で見えはしない)
【間】
四月一日:(知らせが来たのは
二人が依頼に出て三日後だった
親父の遺体は戻ってきたが
八尾の遺体は見つからなかったらしい
喰われた、と他の奴らは話していた)
燐:っ!?アァ、ぁぁあぁぁぁぁあ!!
な、………に…………こ、れ……
四月一日:(そして、俺は
全てを理解した)
【間】
数年後、燐 **歳
四月一日:見つけた
八尾:……まさか、な
四月一日:お前が俺に封をしていたな?
今更惚けても無駄だ
今の俺は、違う
八尾:見えたか
四月一日:親父が戻ってきたあの日
死に顔を見た瞬間、解ったよ
八尾:予想外だった
まさか、九尾があそこまで力を持って
現代に蘇っていたとは
傷を癒すのに時間をかけ過ぎた
四月一日:何でお前は俺に封をした?
何が目的だ
八尾:……フフ、フハハ!
人とは皆、全て
塵に等しく、 鏖だ
……であれば、人とは、ワシにとって
皆等しく、実験動物だ
四月一日:俺で何をした
八尾:憑物筋に産まれながら霊感がなく
父親に殺意まで抱かせる存在
怪異として、これほどの旨味はない
霊を見ずとも愛されれば
それはそれで一興
四月一日:それが目的か
隠神
八尾:……ワシのことまで見えるか
封をしなければ天才と言われても過言ではない
ハハッ!そのような存在に封を!ハハハ!
四月一日:……最初は霊だった
八尾:……
四月一日:次は、呪いに違和感を覚えた
霊とは違う気配を感じたんだ
今まで見えなかったからな……
空想や妄想の霊にも怪物にも
なんなら、宇宙人にも興味が湧いたよ
八尾:それで?
四月一日:見たい、知りたい、喋りたい、触れたい……
見てみたいから会いたいに変わった
なぁ、次はどうなると思う?
八尾:それを怪異に聞くか?
四月一日:俺のモノになれよ
八尾:憑物筋……
四月一日:取り憑いた霊を使役する
お前の為にこの力は使ってないんだ
お前を最初の霊にしてやるよ
八尾:ハハ!不遜!
思い上がるな、人間風情が
四月一日:戦ってみたい、も一つだ
八尾:館林 燐
四月一日:あぁ、その名は捨ててやるよ
俺はもう
何者にも縛られない
【間】
四月一日:……使役、ね
お前は切り札だ
俺の中で眠ってろ
……じゃあ、会いに行くか
尾先 仁狐
【間】
ーーー数年後
四月一日:俺は名を捨てた
なのにお前はその名を捨てずにいる
そして、まだこの世界にいる
何が目的だ?何がお前を引き留める?
全てを殺したんだろう?
それを見たんだろう?
お前は
怪異に成ったのか?尾先
それに……あれは別の
……誰だ?
命:人の死を身近に感じたことがある
お前は魅了された人間だね
四月一日:死に魅了されたって?
んなわけあるか
命:違うよ
私が言いたいのは、怪異に魅了された人間
四月一日:……誰だ、お前
命:怪異とは人の生き死にだ……と
私に言い聞かせたヤツがいる
お前の目は、とても濁っていて……綺麗だ
四月一日:殺すぞ、女
俺の質問に答えろよ
命:私は命
命の名の下に、命を下し
命を、与える……怪異にね
それで?お前の名は何だ?
四月一日:俺、は……
命:あぁ、縛るつもりはないよ
四月一日:……
義明:(失敗作
憑物筋でこうも違うものか
今までの私の苦労はなんだったのだ!
この家に生まれ、責務を果たした!
それの最後は全てを無に帰すことなのか!?)
八尾:(父親に殺意まで抱かせる存在
怪異として、これほどの旨味はない)
四月一日:(お前は俺を殺したかったんだな、親父)
義明:お前は……生きれると、いいな
四月一日:フフ、アッハハハ!
あぁ、あぁ!!生きてやるよ!!
俺はお前とは違うからなァ!
俺はナナシだ!名前なんて無い!
命:ナナシ、か
四月一日:なぁ、一ついいか?
命:なんだ?
四月一日:俺はずっと憧れていた、夢に見ていた
いつか必ず出逢ってやろう、見つけてやろうって
最初はツチノコか?いや、ネッシーでもいい
口裂け女もいいな、きさらぎ駅にも行ってみたい
そう考えていたら霊が見えるようになった
おお!次は呪いだ!…ってな
命:それで?
四月一日:見たい、知りたい、喋りたい、触れたい……
見てみたいから会いたいに変わった
なぁ、次はどうなると思う?
命:それならいい話がある
その前にその問いに答えを与えようか?ナナシ
見て、会えたなら
次は、生み出してみたくなったんだろう?
四月一日:そうだ
逢いたいから作りたいになったのはいつかな
いや、最初からかも知れない
自分だけの怪異を作ってみたい
それが止まらない、止まらない止まらない止まらない!!
命:私はお前の様な人間を集めている
怪異に命を与えると言ったな
私は怪異を生み出す人間が欲しい
そして、生み出した怪異に命を与えることが
私の使命なんだ
四月一日:命、って言ってたな
その話、詳しく聞かせてくれよ
俺は、使えるぞ
命:あぁ、新解釈怪異譚
それを話そうじゃないか
【間】
四月一日:まぁ、最初はこんなもんだろ
命:くねくねは、知名度もあるから
うん、これでいい?
四月一日:あぁ、問題ない
命:余分なモノを排除して
より誰にでも機会を与えるか
四月一日:怪異のルールみたいなものは
ある程度、理解しているつもりだ
だが、限定条件も多い
まぁ……だから強力ってのもあるが
命:それを私の力で強制的に強くすれば
全く問題はないわけだけどね
四月一日:場所、時間帯、対象の人物
ここを緩めるのが一番だな
命:それで、誰にやる?
四月一日:一人、実験的な意味も含めて
命:誰?
四月一日:山本茜っていう女がいる
命:私怨?元カノとか?
四月一日:はっ!笑わせるなよ
お前の口から元カノとか出るのか
命:……誰?
四月一日:言ってなかったな
俺は殺したい奴がいる
命:それが、山本茜?
四月一日:を、匿ってる男
尾先仁狐
命:狐憑きか
怪異屋と関わり出してから
妙に名を聞く様になった
知り合いだったんだ
四月一日:いや、向こうは一切知らないだろうな
初めにくねくねを提出したが
別に他のも使うなら使ってくれ
それから今日から曲で通す
命:偽名か
四月一日:あぁ、ナナシは名が無いから
まぁ、新しい人生と思ってな
気に入ったらそのまま使うわ
命:くねくねで曲、か
安直ではあるが、怪異の親としては
いいんじゃないか?
四月一日:……俺の父親は怪異に成りたかったらしい
命:それで?
四月一日:まぁ、成れずに死んだわけだ
誰に憑いて何をしたかったのかは
命:お前に取り憑いて殺す為、でしょ?
四月一日:……敵わないなァ、命
命:父親から聞いていたのか?
四月一日:いや……祖父が言っていたことだ
最後のあの遺言は、呪いだったんだろうな
生きれるといいな、だと
アイツが守りたかったモノは俺が全部、壊した
名も捨て、家を捨て、俺はもう縛られない
家も名も、俺自身も
全部、無だ
命:そして、今では怪異を生み出す親と成った、か
四月一日:あぁ、もうそれは既に、怪異だろ?
成れなかった者に俺は成った
だから、俺は尾先仁狐を殺したい
命:父親を殺された復讐でもないのに?
四月一日:殺されたことは何も恨んじゃいない
むしろ、解放してくれて感謝しているさ
俺がアイツを殺したいのは
今でも名を捨てず、誰かに守られて生きていて
なのに、この世界で生き続けていることが
気になるんだよ
俺とは違う、別の俺だ
だったら会話するしかないだろ?
命:あぁ、そうだな
だけど、言葉はいらない
四月一日:そうだ
この世界で生きているなら
呪い合いでも取り憑き合いでも
大切な人を殺し合って話すべきだ
命:それこそ、人の生き死に……怪異だね
では、私は見守ることにするよ
怪異譚は続けてくれれば問題はない
四月一日:あぁ、止める気はない
命:あぁ、そうだった
お前が作った怪異の謳
使えそうだったから幾つか作っておいたよ
四月一日:……あぁ、あれな
一応言っておくが、あれは
『逆祓詞』
俺が唯一、消してないモノだ
命:そう
じゃあね、曲
四月一日:……
【間】
ーーー数ヶ月後
四月一日:なんや、呼び出して
命:次は四月一日か
安直なのは変わらずだな
四月一日:別にええやろ、なんでも
命:人格まで変えるほどに徹底するのは
正直、恐れ入ったよ
四月一日:なんや、命ちゃんから褒められたら
えらい嬉しいなァ
怪異屋からは酷評やったけど
命:どうだ?狐憑きに会った感想は
四月一日:……正直、期待外れ
命:ふぅん?
四月一日:ま、認めてやらんこともないなぁ
せやけど、まだまだや
あー、四月一日気に入ったから
このまま使うかもなー
命:そう
四月一日:煽りがペラペラ口から出てくるんや
参考にしたキャラがハマってるんやろなぁ
命:私は阿僧祇と 梵の件で数日離れる
他に揺蕩娜は留まると思うけど
四月一日:なら二人でイチャついとくわ
命:殺されない程度に、ね
命、ある場所から出ていく
四月一日:……本当、期待外れだよ
天才、化物とか言われてなかったか?
けど、殺すことは変わらない
……いや、殺すことで始まるんだろうな
あれが本気なら……問題は無い、な
八尾:九尾の行方が気になる
四月一日:あの中身は?
八尾:残り滓みたいなモノだろうな
四月一日:……厄介、だな
八尾:フフ、見届けるぞ燐
四月一日:お前の存在は誰にも気づかれていない
さっさと消えてろ、八尾
……そうだな
一度、コンプレックスを消しとくか
【間】
そして、時間は戻り、現在
命:なんだ?話って
四月一日:色々訂正させてもらうわ
俺は一から百を生み出す言うたな?
残念、あれは嘘だ
命:巫山戯るな
時間の無駄か
四月一日:俺は零から百を生み出す
命:……作ったのか?
四月一日:あぁ、因縁込み込みで
私怨も多少のスパイスかもな
命:フフッ、じゃあ聞かせてもらうか
四月一日
四月一日:あぁ、次の怪異譚は
『大噛鹵』
それじゃ、怪異譚を話そうか
幾星霜 館林燐 終
四月一日:誰だ?
命:人の死を身近に感じたことがある
お前は魅了された人間だね
四月一日:死に魅了されたって?
んなわけあるか
命:違うよ
私が言いたいのは、怪異に魅了された人間
四月一日:……誰だ、お前
命:怪異とは人の生き死にだ……と
私に言い聞かせたヤツがいる
お前の目は、とても濁っていて……綺麗だ
四月一日:殺すぞ、女
俺の質問に答えろよ
命:私は命
命の名の下に、命を下し
命を、与える……怪異にね
それで?お前の名は何だ?
四月一日:俺、は……
【間】
二十数年前ーー
義明:失敗作
八尾:お前は手厳しいナァ、義明
義明:もう5年だ
この餓鬼が産まれて
八尾:自分の子を餓鬼と
まだ是非善悪も解らんだろうに
義明:是非善悪だ?悪だろう
蛍の倅は、もう霊を見、対話したそうだ
八尾:アレは狐に呪われとるからな
中身は何か解らん
燐:お父さん……
義明:その口で父と呼ぶな!
燐:ヒッ……
義明:憑物筋でこうも違うものか
八尾:お前は自分を卑下しているのか
尾先に対して何を
義明:私が卑下しているだと?
親父の時代はどうだか知らんが
今は尾先と館林に差などない
八尾:お前は五つの時に何を見ていた
特段変わらんだろう
義明:忘れたか?
その時には、大かむろを使役した
八尾:大かむろ、大かむろネェ
驚かすだけの妖怪だ
義明:私が言いたいのは
この歳では、もう使役も済ませていたということだ
この失敗作は使役どころか、何も見えん
なぁ、本当に霊感がないのか?
八尾:あぁ、何も感じん
義明:……チッ
そう言い、義明は部屋を出て行く
燐:……ごめんなさい
八尾:何を謝ることがある
持って生まれなかったのは
お前のせいではない
燐:だけど、そのせいでお父さんは
八尾:子供が気を遣うな
アレはワシがなんとかしよう
燐:ありがとう、じいちゃん
八尾:お前は霊感は無いが頭が良い
いつか……まぁ、それはいい
燐:……?
八尾:見えないものを見る必要は無い
お前はお前のままでな
【間】
義明:怪異が見えないなら教えても無意味だが
……やれ
燐: 元柱固具、 八隅八気、 五陽五神、 陽動二衝厳神
害気を 攘払し、四柱神を鎮護し、 五神開衢
悪鬼を逐い、 奇動霊光四隅に 衝徹し、 元柱固具
安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る
義明:どうだ、何か感じるか?
燐:……何も……
義明:……やはり、コレは
八尾:陰陽師の真似事か、義明
義明:これを続けても無意味だった
もう、私にも手立てが無い
八尾:何故そこまで拘る?
義明:館林が潰えるぞ
コレ以外に子供はいない
何とかしなければ
八尾:なんだ?お前は死ぬのか?
そして、ワシも死ぬのか?
義明:……いや、数十年後の話だ
八尾:そんな先のことを憂いてどうなる
それに、憑物筋でなくなろうと
それが何なのだ?
義明:……では、今までの私の苦労はなんだったのだ!
この家に生まれ、責務を果たした!
それの最後は全てを無に帰すことなのか!?
燐:ごめんなさい!僕が、僕が見えないから!
義明:ッ……!
部屋で休む
義明、部屋を出ていく
燐:っ!
燐、後を追って出て行く
義明の部屋の前にて
燐は聞き耳を立てていた
義明:仁狐、仁狐
何故、お前は名を与えられたのだ
蛍、お前は何を産んだんだ
燐:(仁狐……尾先仁狐……)
【間】
燐:仁狐くんは何を見てるんだろう
幽霊って何だろう
なんで僕は見えないんだろう
見えなくていいってじいちゃんは言うけど
見えないとお父さんに怒られるし……
見て、みたいな……僕も
少し離れたところで燐を見る八尾
八尾:……不憫、だなァ
憑物筋と言えど、こうなる
時代が変わったのだろうな
見える者は、どんどん減っていく
義明:おい
八尾:なんだ?
義明:話がある
八尾:……解った
【間】
八尾:それは……本当か
義明:あぁ、話がきた
蛍は親戚中に話をしているようだ
八尾:どうしてこっちに話が?
義明:旧友とでも思っているんだろう
八尾:フハハ、天才は違うな
義明:怪物は怪物を産むのだろうな
それでだ
八尾:ふむ……
義明:数十年後が直近に変わるな
八尾:死ぬ、と
義明:解らん
八尾:判断はお前に任せる
ワシはもう引いた身だ
義明:……見てみたいと思うことは悪だろうか
八尾:……
義明:怪異を見てみたいと、触れてみたい
言葉を交わしてみたい、と
……そして、自分の中に生まれたコレを
怪異として生み出すことはできるのだろうか
八尾:お前の中に怪異はいない
義明:それは憑いたモノだろう?
俺のこの、息子を殺したいと思う気持ちは
怪異なり得るのか
八尾:義明、お前……堕ちたか?
義明:……この黒は怪異が好むだろう
ならいっその事、怪異として生まれないだろうか
八尾:そうしたら、その場でワシが殺してやろう
義明:アイツが潰すなら俺が潰しても問題は無い
そうだろう?俺はもう、疲れた
八尾:……行くということだな
義明:道連れにして悪いな、親父
八尾:死ぬつもりはない
義明:……そうか
【間】
ーー数日後
燐:どこに行くの?
八尾:あぁ、依頼が来てなぁ
燐:……帰ってくる?
八尾:……あぁ
燐:嫌な感じがするんだ
八尾:フフ、そういうところは
霊能者の血か
燐:え?
八尾:必要であれば死に、必要であれば生きる
燐:なにそれ?
八尾:運命というものだ
燐:よく分からない
義明:なにをしている
燐:あっ……っ
義明:お前は
燐:……?
義明:生きれると、いいな
燐:えっ
義明:行くぞ、親父
八尾:……あぁ
四月一日:(それは、呪いの言葉だろうか
生きるというのは
自分がいない世界での話なのか
それとも、お前の影からだったのか
それはもう、文字通り
闇の中で見えはしない)
【間】
四月一日:(知らせが来たのは
二人が依頼に出て三日後だった
親父の遺体は戻ってきたが
八尾の遺体は見つからなかったらしい
喰われた、と他の奴らは話していた)
燐:っ!?アァ、ぁぁあぁぁぁぁあ!!
な、………に…………こ、れ……
四月一日:(そして、俺は
全てを理解した)
【間】
数年後、燐 **歳
四月一日:見つけた
八尾:……まさか、な
四月一日:お前が俺に封をしていたな?
今更惚けても無駄だ
今の俺は、違う
八尾:見えたか
四月一日:親父が戻ってきたあの日
死に顔を見た瞬間、解ったよ
八尾:予想外だった
まさか、九尾があそこまで力を持って
現代に蘇っていたとは
傷を癒すのに時間をかけ過ぎた
四月一日:何でお前は俺に封をした?
何が目的だ
八尾:……フフ、フハハ!
人とは皆、全て
塵に等しく、 鏖だ
……であれば、人とは、ワシにとって
皆等しく、実験動物だ
四月一日:俺で何をした
八尾:憑物筋に産まれながら霊感がなく
父親に殺意まで抱かせる存在
怪異として、これほどの旨味はない
霊を見ずとも愛されれば
それはそれで一興
四月一日:それが目的か
隠神
八尾:……ワシのことまで見えるか
封をしなければ天才と言われても過言ではない
ハハッ!そのような存在に封を!ハハハ!
四月一日:……最初は霊だった
八尾:……
四月一日:次は、呪いに違和感を覚えた
霊とは違う気配を感じたんだ
今まで見えなかったからな……
空想や妄想の霊にも怪物にも
なんなら、宇宙人にも興味が湧いたよ
八尾:それで?
四月一日:見たい、知りたい、喋りたい、触れたい……
見てみたいから会いたいに変わった
なぁ、次はどうなると思う?
八尾:それを怪異に聞くか?
四月一日:俺のモノになれよ
八尾:憑物筋……
四月一日:取り憑いた霊を使役する
お前の為にこの力は使ってないんだ
お前を最初の霊にしてやるよ
八尾:ハハ!不遜!
思い上がるな、人間風情が
四月一日:戦ってみたい、も一つだ
八尾:館林 燐
四月一日:あぁ、その名は捨ててやるよ
俺はもう
何者にも縛られない
【間】
四月一日:……使役、ね
お前は切り札だ
俺の中で眠ってろ
……じゃあ、会いに行くか
尾先 仁狐
【間】
ーーー数年後
四月一日:俺は名を捨てた
なのにお前はその名を捨てずにいる
そして、まだこの世界にいる
何が目的だ?何がお前を引き留める?
全てを殺したんだろう?
それを見たんだろう?
お前は
怪異に成ったのか?尾先
それに……あれは別の
……誰だ?
命:人の死を身近に感じたことがある
お前は魅了された人間だね
四月一日:死に魅了されたって?
んなわけあるか
命:違うよ
私が言いたいのは、怪異に魅了された人間
四月一日:……誰だ、お前
命:怪異とは人の生き死にだ……と
私に言い聞かせたヤツがいる
お前の目は、とても濁っていて……綺麗だ
四月一日:殺すぞ、女
俺の質問に答えろよ
命:私は命
命の名の下に、命を下し
命を、与える……怪異にね
それで?お前の名は何だ?
四月一日:俺、は……
命:あぁ、縛るつもりはないよ
四月一日:……
義明:(失敗作
憑物筋でこうも違うものか
今までの私の苦労はなんだったのだ!
この家に生まれ、責務を果たした!
それの最後は全てを無に帰すことなのか!?)
八尾:(父親に殺意まで抱かせる存在
怪異として、これほどの旨味はない)
四月一日:(お前は俺を殺したかったんだな、親父)
義明:お前は……生きれると、いいな
四月一日:フフ、アッハハハ!
あぁ、あぁ!!生きてやるよ!!
俺はお前とは違うからなァ!
俺はナナシだ!名前なんて無い!
命:ナナシ、か
四月一日:なぁ、一ついいか?
命:なんだ?
四月一日:俺はずっと憧れていた、夢に見ていた
いつか必ず出逢ってやろう、見つけてやろうって
最初はツチノコか?いや、ネッシーでもいい
口裂け女もいいな、きさらぎ駅にも行ってみたい
そう考えていたら霊が見えるようになった
おお!次は呪いだ!…ってな
命:それで?
四月一日:見たい、知りたい、喋りたい、触れたい……
見てみたいから会いたいに変わった
なぁ、次はどうなると思う?
命:それならいい話がある
その前にその問いに答えを与えようか?ナナシ
見て、会えたなら
次は、生み出してみたくなったんだろう?
四月一日:そうだ
逢いたいから作りたいになったのはいつかな
いや、最初からかも知れない
自分だけの怪異を作ってみたい
それが止まらない、止まらない止まらない止まらない!!
命:私はお前の様な人間を集めている
怪異に命を与えると言ったな
私は怪異を生み出す人間が欲しい
そして、生み出した怪異に命を与えることが
私の使命なんだ
四月一日:命、って言ってたな
その話、詳しく聞かせてくれよ
俺は、使えるぞ
命:あぁ、新解釈怪異譚
それを話そうじゃないか
【間】
四月一日:まぁ、最初はこんなもんだろ
命:くねくねは、知名度もあるから
うん、これでいい?
四月一日:あぁ、問題ない
命:余分なモノを排除して
より誰にでも機会を与えるか
四月一日:怪異のルールみたいなものは
ある程度、理解しているつもりだ
だが、限定条件も多い
まぁ……だから強力ってのもあるが
命:それを私の力で強制的に強くすれば
全く問題はないわけだけどね
四月一日:場所、時間帯、対象の人物
ここを緩めるのが一番だな
命:それで、誰にやる?
四月一日:一人、実験的な意味も含めて
命:誰?
四月一日:山本茜っていう女がいる
命:私怨?元カノとか?
四月一日:はっ!笑わせるなよ
お前の口から元カノとか出るのか
命:……誰?
四月一日:言ってなかったな
俺は殺したい奴がいる
命:それが、山本茜?
四月一日:を、匿ってる男
尾先仁狐
命:狐憑きか
怪異屋と関わり出してから
妙に名を聞く様になった
知り合いだったんだ
四月一日:いや、向こうは一切知らないだろうな
初めにくねくねを提出したが
別に他のも使うなら使ってくれ
それから今日から曲で通す
命:偽名か
四月一日:あぁ、ナナシは名が無いから
まぁ、新しい人生と思ってな
気に入ったらそのまま使うわ
命:くねくねで曲、か
安直ではあるが、怪異の親としては
いいんじゃないか?
四月一日:……俺の父親は怪異に成りたかったらしい
命:それで?
四月一日:まぁ、成れずに死んだわけだ
誰に憑いて何をしたかったのかは
命:お前に取り憑いて殺す為、でしょ?
四月一日:……敵わないなァ、命
命:父親から聞いていたのか?
四月一日:いや……祖父が言っていたことだ
最後のあの遺言は、呪いだったんだろうな
生きれるといいな、だと
アイツが守りたかったモノは俺が全部、壊した
名も捨て、家を捨て、俺はもう縛られない
家も名も、俺自身も
全部、無だ
命:そして、今では怪異を生み出す親と成った、か
四月一日:あぁ、もうそれは既に、怪異だろ?
成れなかった者に俺は成った
だから、俺は尾先仁狐を殺したい
命:父親を殺された復讐でもないのに?
四月一日:殺されたことは何も恨んじゃいない
むしろ、解放してくれて感謝しているさ
俺がアイツを殺したいのは
今でも名を捨てず、誰かに守られて生きていて
なのに、この世界で生き続けていることが
気になるんだよ
俺とは違う、別の俺だ
だったら会話するしかないだろ?
命:あぁ、そうだな
だけど、言葉はいらない
四月一日:そうだ
この世界で生きているなら
呪い合いでも取り憑き合いでも
大切な人を殺し合って話すべきだ
命:それこそ、人の生き死に……怪異だね
では、私は見守ることにするよ
怪異譚は続けてくれれば問題はない
四月一日:あぁ、止める気はない
命:あぁ、そうだった
お前が作った怪異の謳
使えそうだったから幾つか作っておいたよ
四月一日:……あぁ、あれな
一応言っておくが、あれは
『逆祓詞』
俺が唯一、消してないモノだ
命:そう
じゃあね、曲
四月一日:……
【間】
ーーー数ヶ月後
四月一日:なんや、呼び出して
命:次は四月一日か
安直なのは変わらずだな
四月一日:別にええやろ、なんでも
命:人格まで変えるほどに徹底するのは
正直、恐れ入ったよ
四月一日:なんや、命ちゃんから褒められたら
えらい嬉しいなァ
怪異屋からは酷評やったけど
命:どうだ?狐憑きに会った感想は
四月一日:……正直、期待外れ
命:ふぅん?
四月一日:ま、認めてやらんこともないなぁ
せやけど、まだまだや
あー、四月一日気に入ったから
このまま使うかもなー
命:そう
四月一日:煽りがペラペラ口から出てくるんや
参考にしたキャラがハマってるんやろなぁ
命:私は阿僧祇と 梵の件で数日離れる
他に揺蕩娜は留まると思うけど
四月一日:なら二人でイチャついとくわ
命:殺されない程度に、ね
命、ある場所から出ていく
四月一日:……本当、期待外れだよ
天才、化物とか言われてなかったか?
けど、殺すことは変わらない
……いや、殺すことで始まるんだろうな
あれが本気なら……問題は無い、な
八尾:九尾の行方が気になる
四月一日:あの中身は?
八尾:残り滓みたいなモノだろうな
四月一日:……厄介、だな
八尾:フフ、見届けるぞ燐
四月一日:お前の存在は誰にも気づかれていない
さっさと消えてろ、八尾
……そうだな
一度、コンプレックスを消しとくか
【間】
そして、時間は戻り、現在
命:なんだ?話って
四月一日:色々訂正させてもらうわ
俺は一から百を生み出す言うたな?
残念、あれは嘘だ
命:巫山戯るな
時間の無駄か
四月一日:俺は零から百を生み出す
命:……作ったのか?
四月一日:あぁ、因縁込み込みで
私怨も多少のスパイスかもな
命:フフッ、じゃあ聞かせてもらうか
四月一日
四月一日:あぁ、次の怪異譚は
『大噛鹵』
それじゃ、怪異譚を話そうか
幾星霜 館林燐 終
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