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尽くされる。

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「……美味しそうだな」
「なんだか、すごく質素なメニューになってしまって……」
「そうなのか? うちも似たようなメニューが出てきたぞ」

 甘路が不思議そうに、後ろにいるくるみを振り返った。
 その言葉を聞いたくるみは意外だと思う。洋菓子屋のイメージのせいか、甘音の料理は洋食中心だと思い込んでいたからだ。

「そうなんですか、甘音さん、和食がお好きで?」
「母さんは出されたものを食べていただけだ、料理をしていたのは父さんだからな」

 これもまた、くるみの勝手な思い込みだった。必ずしも母親が料理をするとは限らない。くるみ自身も、そんなことは知っていたはずなのに。
 掃除や片付けに料理まで……どうやら佐藤家の家事全般は、父親が担っていたようだ。

「お父さん……お料理もされていたんですね」
「父さんは和食が好きだな、和菓子屋の息子だったしな」
「へえ……!」

 夜の帝王でありながら、家事全般を担う、和菓子屋の息子……?
 いよいよ想像すら厳しくなってきた甘路父だが、家族のために毎日手料理を振る舞うくらいだ、きっと悪い人ではないはずとくるみは思った。

「せっかく作ってくれたんだ、朝飯にいただくとするか」
「そうですね、朝ご飯に――」

 そう言ってなんとなく時計を見たくるみは、目ん玉を落っことしそうになった。
 リビングの壁かけテレビの上、設置された時計の針は、朝食の時間にしては進みすぎていた。

「うわああっ! 佐藤さん、どうしましょう!? もう九時を過ぎてます!」
「おお、ほんとだな、まぁ、今日は休みだから心配ない。火曜日が定休日だからな」

 開店時間に間に合わないのではと、慌てふためくくるみに、甘路が冷静に対応した。
 それもそのはず、オーナーである甘路が、営業日の朝に寝坊なんてするはずがないのだから。
 遅刻ではないとわかったくるみは、ハーッと深く息を吐き胸をなで下ろした。

「あ、あ……そ、うでしたか、よ、よかったぁぁ……」

 心底安堵した様子のくるみに、甘路は責任感の強さを感じる。
 しかし、朝の九時まで一度も気がつかなかったとは、よほど熟睡していたのだろう。
 どれだけ疲れていても、早起きが癖になっていたくるみは、自分自身に驚いていた。
 そして、それは甘路も同じだった。
 ダイニングやソファーでなんて、寝心地がいいはずがないのに、二人は深い眠りについていた。
 ついこの間知り合ったばかりの人間と、同じ空間で夜を明かすのに、くるみと甘路は違和感を覚えていなかった。

「ここまでぐっすり寝たの、久しぶりです」
「奇遇だな、俺もだ」

 目を合わせる二人の間に、ほんわか温かな空気が流れた。
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