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尽くされる。

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 とりとめのない話をしながら、エレベーターの前に着くと、くるみは今後の行き先を考えた。

「私、これからユニシロに行こうと思うんですが、この辺にありますかね?」
「服を買うのか?」
「はい、綺麗なお店で働かせていただくので、新しいのを買おうかと」

 言葉の端々に滲む店への敬意と好意に、また甘路の可愛がりゲージがググッと上がる。

「服にこだわりはないのか?」
「まったくありません」
「ならここでもいいだろ、今からまた車を動かすのもなんだしな」

 車のことを言い訳に引き止める甘路だったが、当然それをすんなり聞き入れるくるみではない。

「ですが、私本当に手持ちがなくて、カードも――……」

 甘路を納得させるために理由を述べようとしたくるみは、自分が口にした言葉に動きを止める。
 カード……そう言った直後、クレジットカードのことを思い出した。それが今、どこにあるかということも。
 そしてカードの件に付随して、家賃や光熱費などの引き落としが、自分の口座のままになっていたことも思い出す。
 急いで家を出たので、銀行のカードと通帳、印鑑だけに気を取られて、他のことまで気が回っていなかった。

「……どうした、くるみ?」

 様子が急変したくるみに、甘路が心配そうに声をかける。
 ――どうしよう、あんずにカード返してもらわなきゃ……ああ、でも、すんなり返してくれるかな……生活費も、ちゃんとしておかないと、これから先もずっと引かれ続けるかも――……。
 自分の詰めの甘さに絶望したくるみは、静かに血の気が引いていくのを感じた。

「……ちょっと、急用を思い出してしまって」

 カラカラに乾いた喉で、か細い声を押し出す。
 真っ白な顔に動揺を隠せない瞳が、くるみの一大事を示していた。
 プライベートなことに口を出すべきか、そっとしておくべきか、甘路の中にある二つの考えがせめぎ合う。
 最良、なんてものはない。結局悩んだ時は、自分がどうしたいのか、そこに選択を委ねるしかないのだ。
 ――本当にこのまま行かせていいのか……いや、ダメだろ。
 明らかにくるみになにかが起きているのに、見過ごすなんてできない。
 そう思った甘路は、一歩踏み込むことに決めた。

「……言いたくないなら言わなくていい、と言ってやりたいところだが、正直、俺は気になっている」

 誰もいないエレベーターホールで、甘路の声だけがやけに響く。

「これから一緒に暮らすんだ、苦しくなるような隠し事はない方がいいと思わないか?」

 どの口が言うのだと思いつつも、甘路はくるみにそう問いかけた。それは、甘路が自分自身に向けた言葉でもあったかもしれない。
 時間が経つとともに、エレベーターホールに人が増えていく。
 甘路は俯いたままのくるみの肩を抱くと、隅にある二人がけのベンチに連れていった。
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