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触れられる。
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「で、要件はなんだ?」
甘路の反応は、あんずにとって予想外だった。
もっと取り乱すだろうと踏んでいたのに、あまりにあっさりした第一声に顔を顰める。
「まさか付き合えとか言うんじゃないだろうな、冗談じゃない、お前と付き合うくらいなら、ゴキブリにキスした方がまだマシだ」
「ハッ……ゴ、ゴキ……!?」
まさかの発言にあんずは衝撃を受ける。
今まで男性陣には、散々もてはやされてきた。付き合った先はともかく、まずは見た目を褒められることから始まる。
それなのにゴキブリ以下なんて、怒りを通り越して屈辱だ。
「なに寝ぼけたこと言ってんのよ! アンタみたいな病気持ち、こっちから願い下げだわ!」
「そうか、ならよかった」
あんずは病院の出入りを見ただけで、甘路の実際の状態を知らない。勝手に身体的な病だと思い込んでいるだけだ。
相変わらず余裕な甘路に、あんずはショルダーバッグから取り出したスマホを提示する。
「すかした顔していられるのも今のうちよ、こっちはきっちり証拠を持ってるんだから。動画を流されたくなかったら、土下座して。それだけアンタは、あたしのことを怒らせたんだから」
甘路はその場で、玄関で息巻くあんずを見ていた。
数秒の静けさの後、甘路はあきれたように深いため息をついた。
「なにを言うかと思えば、てんでガキだな」
「そ、そんなこと言っていいの!? 本当にバラすわよ!」
「言いたきゃ言えばいい、そんなことで潰れる店なら、そこまでだったということだ」
スパッと言い放った甘路は、少し間を置いてあんずに向き直る。
あんなに隠したいと思ってきた秘密も、今となれば恐るるに足らず。
大切な人を得たことで、甘路は真の強さを手に入れつつあった。
「ただ……そんなことをすれば、大好きなお姉ちゃんとの関係は、完全に修復不可能になるけどな」
あんずの尖った瞳が、みるみるうちに丸みを帯びて揺れる。
「だってそうだろ? わざわざ店まで来て挑発したり、俺たちを尾行して弱みを握ろうとするなんて、よっぽど執着してる証拠だ、嫌いなら放っておけばいいだけだからな」
甘路はすべてを見破っていた。
あんずのくるみを意識した言動は、まるでかまってもらいたい子供だと。そしてそれは、行きすぎた甘えの結果ではないかとも。
あんずはしばし茫然として、スマホを掲げていた手もいつの間にか下げていた。
――大好きなお姉ちゃん……?
甘路の台詞が頭をループする。
他者に言われて自覚したあんずは、カアッと顔が熱くなった。
甘路の反応は、あんずにとって予想外だった。
もっと取り乱すだろうと踏んでいたのに、あまりにあっさりした第一声に顔を顰める。
「まさか付き合えとか言うんじゃないだろうな、冗談じゃない、お前と付き合うくらいなら、ゴキブリにキスした方がまだマシだ」
「ハッ……ゴ、ゴキ……!?」
まさかの発言にあんずは衝撃を受ける。
今まで男性陣には、散々もてはやされてきた。付き合った先はともかく、まずは見た目を褒められることから始まる。
それなのにゴキブリ以下なんて、怒りを通り越して屈辱だ。
「なに寝ぼけたこと言ってんのよ! アンタみたいな病気持ち、こっちから願い下げだわ!」
「そうか、ならよかった」
あんずは病院の出入りを見ただけで、甘路の実際の状態を知らない。勝手に身体的な病だと思い込んでいるだけだ。
相変わらず余裕な甘路に、あんずはショルダーバッグから取り出したスマホを提示する。
「すかした顔していられるのも今のうちよ、こっちはきっちり証拠を持ってるんだから。動画を流されたくなかったら、土下座して。それだけアンタは、あたしのことを怒らせたんだから」
甘路はその場で、玄関で息巻くあんずを見ていた。
数秒の静けさの後、甘路はあきれたように深いため息をついた。
「なにを言うかと思えば、てんでガキだな」
「そ、そんなこと言っていいの!? 本当にバラすわよ!」
「言いたきゃ言えばいい、そんなことで潰れる店なら、そこまでだったということだ」
スパッと言い放った甘路は、少し間を置いてあんずに向き直る。
あんなに隠したいと思ってきた秘密も、今となれば恐るるに足らず。
大切な人を得たことで、甘路は真の強さを手に入れつつあった。
「ただ……そんなことをすれば、大好きなお姉ちゃんとの関係は、完全に修復不可能になるけどな」
あんずの尖った瞳が、みるみるうちに丸みを帯びて揺れる。
「だってそうだろ? わざわざ店まで来て挑発したり、俺たちを尾行して弱みを握ろうとするなんて、よっぽど執着してる証拠だ、嫌いなら放っておけばいいだけだからな」
甘路はすべてを見破っていた。
あんずのくるみを意識した言動は、まるでかまってもらいたい子供だと。そしてそれは、行きすぎた甘えの結果ではないかとも。
あんずはしばし茫然として、スマホを掲げていた手もいつの間にか下げていた。
――大好きなお姉ちゃん……?
甘路の台詞が頭をループする。
他者に言われて自覚したあんずは、カアッと顔が熱くなった。
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