164 / 189
触れられる。
18
しおりを挟む
突然の告白に、甘路は息を止めた。
くるみの口からこぼれた、ずっと言えなかったこと。
確かに死を望んで、当てもなく彷徨った記憶。
「甘路さんと出会ったあの日、あんずが大企業に就職が決まって、母に『もうアンタはいらない』って言われて……なんだかもう、全部どうでもよくなってしまって……ぼんやりしていたら、いつもと違う電車に乗っていて、気づけば……ドゥートンの前にいました。それで、最期くらい、美味しいものを食べようって」
くるみは落ち着いた口調で、時折言葉に詰まりながら話した。
甘路は驚きながらも、納得いく部分があった。
くるみが店に入ってきたあの時、甘路は洋子から「今にも死にそうなお客様がいます」と聞いた。
それで甘路は、試作品を出すことにしたのだ。店側の不備のお詫びよりも、そちらの方が原動力になったかもしれない。
その辛さを自分が作ったスウィーツで、少しでも癒すことができないかと考えたのだ。
「でも、甘路さんのケーキを食べたら……死ぬのがもったいなくなりました。こんなに美味しいものがあるなら、まだこの世で、生きてみたいって」
くるみはふっと、固くなっていた表情を崩した。
甘路は眩しさに目がくらむ。
なんという殺し文句だろう。
くるみはこう言っているのだ。
あの時、考え直せたのはあなたのおかげだと。
あなたの洋菓子は、人の命を救うことができるのだと。
「私みたいな人間にこんなこと言われても、なんの価値もないかもだけど、世界がどんな評価をしても、私の中では甘路さんが一番です。どんな結果でも、待っていま――」
乱暴にぶつかった熱に、くるみの言葉が遮られる。
なにが起きているのかわからない。唇から伝わる甘路の温もりに、考えるより先に溺れそうだった。
名残惜しそうに離れたかと思うと、頬を包んでいた手が背中に移動する。
甘路は絡みつくように、力強くくるみを抱きしめた。
「ありがとう、くるみ……今までで一番、嬉しい言葉だ」
耳元に響く囁きは、スウィーツよりもずっと甘い。
くるみは甘路のたくましい背中に、そっと両手を添えた。嘘のように幸せな時が、壊れてしまわないように。
――甘路さん、私、難しいことはわかりません……ただ、甘路さんのそばにいられたら嬉しいんです……それだけで、涙が出そうなくらい――……。
くるみの口からこぼれた、ずっと言えなかったこと。
確かに死を望んで、当てもなく彷徨った記憶。
「甘路さんと出会ったあの日、あんずが大企業に就職が決まって、母に『もうアンタはいらない』って言われて……なんだかもう、全部どうでもよくなってしまって……ぼんやりしていたら、いつもと違う電車に乗っていて、気づけば……ドゥートンの前にいました。それで、最期くらい、美味しいものを食べようって」
くるみは落ち着いた口調で、時折言葉に詰まりながら話した。
甘路は驚きながらも、納得いく部分があった。
くるみが店に入ってきたあの時、甘路は洋子から「今にも死にそうなお客様がいます」と聞いた。
それで甘路は、試作品を出すことにしたのだ。店側の不備のお詫びよりも、そちらの方が原動力になったかもしれない。
その辛さを自分が作ったスウィーツで、少しでも癒すことができないかと考えたのだ。
「でも、甘路さんのケーキを食べたら……死ぬのがもったいなくなりました。こんなに美味しいものがあるなら、まだこの世で、生きてみたいって」
くるみはふっと、固くなっていた表情を崩した。
甘路は眩しさに目がくらむ。
なんという殺し文句だろう。
くるみはこう言っているのだ。
あの時、考え直せたのはあなたのおかげだと。
あなたの洋菓子は、人の命を救うことができるのだと。
「私みたいな人間にこんなこと言われても、なんの価値もないかもだけど、世界がどんな評価をしても、私の中では甘路さんが一番です。どんな結果でも、待っていま――」
乱暴にぶつかった熱に、くるみの言葉が遮られる。
なにが起きているのかわからない。唇から伝わる甘路の温もりに、考えるより先に溺れそうだった。
名残惜しそうに離れたかと思うと、頬を包んでいた手が背中に移動する。
甘路は絡みつくように、力強くくるみを抱きしめた。
「ありがとう、くるみ……今までで一番、嬉しい言葉だ」
耳元に響く囁きは、スウィーツよりもずっと甘い。
くるみは甘路のたくましい背中に、そっと両手を添えた。嘘のように幸せな時が、壊れてしまわないように。
――甘路さん、私、難しいことはわかりません……ただ、甘路さんのそばにいられたら嬉しいんです……それだけで、涙が出そうなくらい――……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる