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死がふたりを分かつまで
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〈倉知編〉
日曜の十一時過ぎ。父と母と二人の姉がやってきた。
出迎えた加賀さんに全員で「お誕生日おめでとうございます!」と声を揃えた。
「ありがとうございます。今日はわざわざすいません」
「いえいえ、こちらこそ二人の邪魔してごめんよ」
父がすまなそうに言ってから、俺に向かって「元気そうだな」と笑った。父に会うのは久しぶりだ。
「大きくなったんじゃない?」
母が言った。会うたびに同じことを言うが、俺は縦にも横にも大きくなってはいない。
「どうぞ上がってください」
加賀さんが促すと、持っていた座布団を俺に押しつけて、二人の姉が靴を脱いで部屋に上がる。
「お邪魔しまーす」
「キャー、すっごくいい部屋! 広い! 綺麗! 羨ましい!」
あとに続いた父が、両手に荷物を抱えてキョロキョロしている。
「光太郎さんはまだ?」
「光太郎さん?」
「加賀さんのお父さんだよ」
平然と答える父。驚いた。いつの間に下の名前で呼ぶようになったのか。
「父は少し遅れると連絡がありました」
加賀さんが言った。
「ほんと忙しい人だよなあ。土日も無関係だし」
言葉の端々に親しみが込められている。父親同士が仲良くしてくれるなら、それにこしたことはない。ありがたく思わなくては。
「お風呂場とか見せてよ」
「寝室もね」
五月が言うと、六花が付け足した。
「いいですか?」
加賀さんに訊くと、いいよ、と簡単に返ってきた。いつも掃除は完璧にしてあるし、見られて困るものもない。ないというか隠してある。
「私も見たい」
母も混ざってきた。三人を引き連れて部屋の中を案内する。
五月は単純に羨ましがり、六花は下心満載の顔でにやついて、母は魂の抜けたような声を出して感心していた。
「こんなマンション、ドラマでしか見たことない。本当に存在するんだねえ」
「いいなあ、この開放感。あたしもこういうとこ住みたい」
「ねえ、ちょっと、寝室が予想以上にエロいんだけど」
三人が興奮してまくしたてていると、父が呼びにきた。
「お母さん、料理の準備とかどうすんの? 皿とかは並べといたけど」
「あ、するする、ごめん。ほとんど作ってきたんだけど、七世、手伝って」
キッチンに母を案内すると、動きを止めて嘆息した。
「ハリウッド映画みたい、このキッチン」
確かに、アイランドキッチンはなんとなく日本らしくない。スペースも広く、料理もしやすいから俺も気に入っている。
「はあー、換気扇が浮かんでる。照明がスポットライト浴びてるみたい」
いちいち感動する母が、作業台を抱きしめて「持って帰りたい」と呟いた。
「お母さん、この刺身冷蔵庫入れておくよ」
冷蔵庫を開けようとする俺の手を、がし、と誰かにつかまれた。六花だ。
「七世、あんたこれ」
キャー! とリビングのほうから悲鳴が上がる。五月だ。
「やだ、加賀さんが結婚した! 薬指に! 指輪!」
六花がハッとなる。
「ペアリング? これもしかして加賀さんの誕生日プレゼント?」
「う、うん」
六花が泣き顔になって、下を向く。すぐに顔を上げて眉尻を下げて微笑んだ。
「尊い」
「はあ?」
よくわからないが嬉しそうだ。
「お互いに俺のものだっていうマーキングでしょ。ああもう、……描いていい?」
「お好きにどうぞ」
「指輪? 見せて」
母が俺の手を引っ張ってくる。食い入るように間近で見つめて、何度も手をひっくり返しながら「綺麗だね」と言った。
「七世が買ったの?」
「うん」
「こんな立派なもの、買えるようになったんだ」
子ども扱いする母が涙目で精一杯背伸びすると、俺の頭を撫でた。
「バイトしたいって言うから何か欲しいものがあるのかと思ったら、こういうことか」
リビングのソファに座った父が、にやけながら言った。
「あたし、ぬけがけでプレゼント用意しようと思ったんだけど」
誕生日パーティを開くのはいいが、プレゼントは絶対に買わないでほしいと加賀さんが前もってお願いしていた。気を遣わせるのと金を使わせるのを嫌がったのだ。
「何買っても霞んじゃいそう。加賀さんが一段とキラキラしてるように見えるのは気のせい?」
五月が目をこすって加賀さんを見て言った。父はニヤニヤ笑いをやめない。両脇から父と五月が加賀さんを観察している。
「いや、俺から見てもキラキラしてる。キラキラっつーかツヤツヤ? なんだ? 指輪効果か?」
サラダの大皿をテーブルに置いて、咳払いをする。
「あんまりジロジロ見ないでよ」
「俺のだからって?」
「うん」
「見るくらいいいじゃん、けち」
五月が口を尖らせる。ヒュー、と口笛を吹いて囃し立てる父に、顔をしかめてみせた。
「それより加賀さんのお父さんのこと名前で呼んだりして、失礼な真似してないよね?」
「名前で呼べって言ったのは光太郎さんだぞ」
それならいいが、なんとなく、父とあの人が同じ目線で会話ができるとは思えなかった。
「で、お前らはそろそろ名前で呼び合ったりしないの?」
突然父から振られて内心で悲鳴を上げた。ちら、と加賀さんを見る。加賀さんは一瞬
笑いだしそうな顔をしてから平然として答えた。
「たまに呼びますよ、七世って。な?」
油断していた。膝に力が入らなくなって、その場で崩れ落ちる俺を、父が不思議そうに横目で見る。
「あたしも加賀さんのこと、定光さんって呼びたいな」
五月がうっとりとした表情で言った。
「いやいや、やめて。俺、親にも加賀って呼ばせてるんだ」
わけのわからないことを言う加賀さんに、なぜか父が「おおっ」と感嘆の声を上げて手のひらを差し出した。二人が握手を交わす。よくわからないが多分映画か何かのネタだろう。
「えー? 何、意味わかんない、呼んじゃ駄目なの?」
「別に駄目じゃないけど。倉知君でさえ加賀さんだよ?」
加賀さんが自分の名前をあまり好きじゃないのは知っている。俺も名前にコンプレックスがあって、子どもの頃に散々からかわれてきたから気持ちはわかる。呼んでと言われない限り、呼びたいと言わないことに決めている。
「呼ばせりゃいいじゃん」
父が簡単に言う。加賀さんがあっけらかんとして答えた。
「四文字から六文字になるから、長ったらしくてめんどくさいかなって」
「面白いこと言うね。光太郎さんはどうなるんだよ、すげえ長いよ」
「そういやそうですね」
はは、と笑って、加賀さんが俺を見る。
「呼びたい?」
「え」
「定光さんって」
「あ、いえ、俺はどっちでも」
「お前がそう呼ぶなら俺も七世って呼ぶわ」
「う」
それは暗に、名前で呼ぶなという意味だろうか。
「あんたまさか加賀さんに名前で呼ばれたら興奮するとか、ないよね?」
五月が疑わしそうに訊いた。ぎく、として思わず目を背ける。
「図星? やだ、なんか変態っぽい」
「楽しそうな話だね」
六花が大皿を抱えて満面の笑みで登場した。倉知家から持参した折り畳みのテーブルにサーモンとアボカドのマリネを置くと、俺の顔を覗き込んでくる。
「七世って呼ばれるとぞくぞくするとか?」
勃起する、とは言えずに黙っていると、六花が恍惚とした表情で「いいね」と親指を立てた。
「ちょっと加賀さん、呼んでみて」
「えっ」
六花の無茶ぶりに裏返った声が出た。
「俺はいいけど、いいの?」
加賀さんがおかしそうに訊いた。俺は必死で首を横に振る。
「駄目です、危険です」
「え、何、どうなんの? 呼んでみてよ」
父も乗っかってくる。今ここに俺の味方は存在しない。全員が、加賀さんに名前呼びを要求している。たじろぐ俺を見つめると、容赦なく、やけに甘ったるい声色で名前を呼んだ。
「七世」
快感が、背筋を這いあがっていく。フラッシュバックする、数日前のベッドでの出来事。体が熱くなり、身震いが止まらなくなった。顔を覆って背中を丸める。
「なんだよお前、首まで真っ赤じゃん。なんで名前呼んだだけでそうなる?」
父が呆れて言った。六花がすかさずフォローを入れる。
「今のは仕方ないよ。加賀さん狙ったでしょ」
「わかった? ちょっと意地悪したくなって」
「ねえねえ、あたしも呼び捨てで呼んでみて? 今みたいに色っぽいの希望!」
五月が変なことを言い出した。指の隙間から加賀さんを見る。あんまり呼んで欲しくない、と思ったが、加賀さんはこういうところは無頓着だ。
「五月」
「……っ、キャー! セクスィー!」
悶絶する五月。
「ずるいぞ五月。加賀さん、俺も呼んでよ。英二(えいじ)ね」
「英二」
「うはー、やられたー」
父が胸を押さえてのけ反った。
「何これ」
五月と父がソファの上でのたうち回るのを、六花が半笑いで眺めている。
「お母さんはね、三穂(みほ)です」
今度は母が現れた。彩りの鮮やかな一口サイズの寿司が並んだ皿を置いて、名前を呼ばれるのを待っている。加賀さんが笑いながら母の名を呼ぶ。
「三穂」
母が照れ笑いを浮かべる。
「なんだか若返った気がする」
「みんないい加減にしなよ。こうなったら私も呼んでください」
ついに六花まで言い出した。加賀さんが色っぽく六花の名前を呼ぶ。
「六花」
「くっ、イケボ……!」
全員しらふなのに、どこか酔っ払いのような雰囲気だ。馬鹿みたいに騒いで盛り上がっているうちに、加賀さんのお父さんとハルさんが到着し、ようやく場が引き締まる。
「遅れてすまない」
「いいよ、もうすでに楽しいから」
加賀さんがお父さんのコートを預かって、な、と俺に同意を求める。曖昧にうなずくと、お父さんが颯爽と右手を差し出してくる。
「久しぶりだね、元気そうで何よりだ」
「お久しぶりです。今日は来てくださってありがとうございます」
握手を交わすと、俺と加賀さんを見比べて言った。
「二人の生活には慣れたか?」
「うん、おかげさまで、すげえ快適。なんの不便もなく暮らしてます。ありがとうございます」
俺も同時にお礼を言って頭を下げた。お父さんは満足げに俺たちを見て微笑むと、背後に目を向ける。軽く会釈して、「こんにちは」と俺の家族に挨拶をする。こんにちは、と気合の入った合唱が返ってくる。
「ハルさん、ケーキ作れた?」
突然母が言った。
「ごめん、失敗したから買ってきちゃった。これ冷蔵庫入る?」
ハルさんが舌を出して、ケーキの箱らしきものを加賀さんに渡した。
「あれ、面識あるの?」
加賀さんが訊くと、母とハルさんが手を取り合って「仲良し」と言った。驚いた。
「三穂さんにケーキ作り教わったんだけど、不器用だから気持ち悪い物体が出来上がってさ」
「それ持ってきてくれたほうが面白かったのに」
加賀さんが言った。美味しさより面白さを優先する人だ。
「定光、これを」
加賀さんのお父さんがワインを手渡すと、加賀さんが「げ」と小さく声を上げる。
「またこんなクソ高い……、あ、今年は時計買ってないよな?」
「買ったが?」
当たり前だろう、と言ってラッピングされた包みを差し出した。
「その指輪は七世君からのプレゼントか?」
目ざとく見つけ、「ペアリングか」と俺の左手を見て言った。
「うん、バイトして買ってくれた」
「そうか。それは何物にも代えがたいものだろう。だがこの時計もいいぞ」
「いらないって言ったのに」
「さあ、開けて着けてみせなさい」
「今? あとでいい? とにかく座ったら?」
加賀さんがダイニングの椅子を引いて、お父さんを座らせた。ハルさんは、初対面らしい姉二人と挨拶を交わしている。
「早く開けなさい」
お父さんが諦めない。ふところからスマホを出して、構えている。俺の家族がハルさんと喋っているのを確認すると、加賀さんが素早くラッピングを解き、ケースを取り出した。見た瞬間に、はあ、とため息をついた。手元を覗き込む。白い箱に、英字が印字されている。Vから始まるそのブランドは、見たことがなかった。読み方すらわからない。
「せめてゼロ一個減らしたのにしてよ」
「四の五の言わずに着けなさい」
加賀さんにスマホを向けて、興奮気味にお父さんが言った。時計のことになるとこの人は少し変になる。でもそういうところがあるほうが、親しみやすいと思う。
加賀さんが時計を腕にはめると、お父さんがすかさず連写を始めた。
「いいぞ、目線をくれ。素晴らしい」
シャッター音を響かせると、それに気づいたみんなが便乗してそれぞれ携帯を出して撮影会が始まった。
「ちょっと何これ。倉知君、止めて」
加賀さんが困った顔で助けを求めてくる。力強くうなずいて、思い切り手を叩き合わせた。パン、という破裂音にみんなの動きが止まる。
「みなさんお揃いになったので、早く準備してパーティを始めましょう」
はーい、と返事をして撮影会はお開きになった。
母とハルさんが仲良く料理の準備をして、五月と六花がセッティングを手伝い、父と加賀さんのお父さんが何か難しそうな話で盛り上がり、加賀さんと俺は放置された。ソファに腰掛けて、テーブルにごちそうが増えていく様子を眺めていた。
「加賀さん」
「ん」
「時計見せて」
腕を取って、眺めた。青みがかった文字盤で、見るからに高級そうだ。
「これなんてブランドですか?」
「ヴァシュロンコンスタンタン」
「ば……たんたん」
なんて難しい名前だ。一度聞いただけじゃ覚えられない。復唱に失敗する俺を、加賀さんが目を細めて見た。
「日本じゃマイナーだけどまあ、めちゃくちゃ高い」
二年前のロレックスから歯止めが利かなくなっているような感じがする。
「マンションとか時計とか……、お金、なくならないんでしょうか」
無理をしていないのかと心配になってくる。
「支出より収入が多いから、大丈夫」
「はあ」
弁護士という職業はそれほど儲かるのだろうか。想像もつかない世界だ。
「いろんなことに手ぇ出してるからな。不動産以外にも投資もしてるし。金儲けの才能があるんだよ」
「なんかすごいですね」
「うん、なんかすごいんだよ。なあ、倉知君」
時計を観察する俺の肩に、加賀さんが頭を乗せた。目を上げる。顔がやけに近い。
「なん、なんですか、近いです」
「この時計の名前、なんだっけ?」
「え? えっと、ばなんとか、こん……たんたん?」
「はは」
加賀さんが歯を見せて笑って、俺に寄りかかってくる。
「やべえ、可愛い」
「加賀さん、近いです」
「くそ、今すぐ寝室に連れて行きたい」
耳のそばで囁かれて戦慄する俺に、加賀さんがとどめを刺してくる。
「可愛い七世」
濃い艶を含んだ官能的な声。体が反応しようとするのを、全力で堪える。考えるな、感じるな、鎮まれ。ふと、視線を感じて顔を上げる。全員が、動きを止めて、無言でこっちを見ていた。一気に血の気が引く。下半身に集結しつつあった熱も、すごい勢いで冷めた。
「どうぞ続けて。安心して、見て見ぬふりするから」
六花が目を爛々とさせて言った。
「もう、無理! 見てらんない!」
五月が顔を覆ってうずくまる。ハルさんと母が生暖かい目でキッチンからこっちを見て言った。
「いいなあ、ラブラブで。まるで新婚じゃん」
「いいよねえ、私も戻りたい……、あの頃に」
うっとりする母に、父が心外そうに口を尖らせる。
「俺らだって負けてないし、今もラブラブだろ?」
「お父さんたら!」
さりげなくイチャイチャする両親をほほえましそうに見ていた加賀さんのお父さんが、俺たちに視線を移し、口元に手をやって、笑いをかみ殺すような表情をした。
「私たちはお邪魔かな」
この人にまでそんなことを言わせるなんて。
「いいえ、全然、すいません、あの、自重します」
慌てて立ち上がり、声を張り上げる。みんな、ほのぼのとした目で見てくる。
「ていうか自重するのは加賀さんですよね」
「倉知君が可愛いから悪いんだよ」
「可愛くないです」
「可愛いよ」
ソファに座ったまま、上目遣いで俺を見上げて、指の先をそっとつかまれた。可愛い。キュン、と胸がうずいて、ほだされそうになる。我に返って急いで手を引っ込めた。
「ほら、また」
「なんだよ」
「今からスキンシップ禁止です」
「え」
絶望的な顔になる加賀さんが、また可愛いと思ってしまった。胸を押さえて息を吐いてから言った。
「俺に触らないでくださいね」
「何それ、うわ、傷ついた」
「少しくらい我慢してください。俺だって触りたいんですから」
「じゃあ触ってよ」
「駄目です」
「指一本くらいならいい?」
俺の親指に小指を絡めてくる。
「またいちゃついてるっ」
五月が口を挟む。俺は顔をしかめて反論した。
「なんで、別にいちゃついてない」
「りっちゃん、判定をどうぞ」
五月が六花に手のひらを向ける。六花は腕を組んで考え込む仕草をしてから、キリッと目を上げた。
「判定は……、いちゃついている」
「ほらね」
「もう、あの、ほんと、みんながいる間は離れてますから」
悲しそうに俺を見る加賀さんに、語気を強めて言った。シュンとしている様子が怒られて耳を伏せた犬みたいで可愛い、と思った。冗談です、と言って抱きしめてスリスリしたい。
「そんな顔したって、駄目……、です」
可愛さに怯む俺を、加賀さんはすがるような目で見つめてくる。後ずさって距離を取ろうとする俺の服の裾を、加賀さんが引っ張った。
「なんで駄目なんだよ」
「だ、だって、恥ずかしいでしょ、いちゃついてるって思われるの」
「だからなんで?」
「なんでって」
「別にみんなが見てる前でキスしようって言ってるわけじゃないんだし」
キス、という単語に体が反応した。無様に体をびくつかせる俺を、五月が冷めた目で見て喚いた。
「ねえ早くパーティ始めようよ!」
いつの間にか、ところ狭しと料理が並べられていた。ハルさんがワイングラスを全員に配っている。
「七世君はまだ飲めないんだっけ?」
ハルさんが訊いた。
「はい、未成年です」
「来年やっと二十歳だもんな」
「若いね」
「若いな」
ハルさんと加賀さんが遠い目をしてつぶやいた。
「私も今日は運転係だから、あんたと一緒」
六花が俺にウーロン茶を手渡すと、父がワイングラスに鼻を近づけて匂いを嗅いでから言った。
「全員グラス持った? 乾杯の音頭はやっぱ光太郎さんだな」
「了解した」
ワイングラスを持った加賀さんのお父さんが椅子から腰を上げた。恐ろしいほどワインが似合っていてカッコイイ。紳士の見本のような人だ。
「今日は息子のためにお集まりいただき、どうもありがとう。こんなに豪華な食事まで用意していただいて、皆さんには本当に感謝しています」
父、母、姉と視線を移して、最後に俺を見て言った。
「七世君、これからも末永く……、いや、死が二人を分かつまで、仲良くしてほしい」
「……はい!」
泣きそうになるのを堪えて、うなずいた。お父さんはうなずき返すと、最後に加賀さんに向き直る。
「定光、誕生日おめでとう」
グラスを軽く持ち上げて「乾杯」と締めくくる。みんなが乾杯、おめでとう、と声を上げて、拍手をする。
「なんか結婚式の挨拶みたいだな」
加賀さんが笑って言った。死が二人を分かつまで、というと確かに結婚式で出てくるフレーズだ。もし、結婚したら。こんな感じなのだろうか。二人の家族が集まって、みんなが祝福してくれる。同性を好きになったという気後れを一切感じる必要のない、居心地の良さ。リラックスした楽しい時間が過ぎていく。料理をほとんど食べつくし、ケーキを食べて一息つくと、みんながなんとなくほろ酔いになってきたパーティの終盤に、五月が元気よく手を挙げた。
「加賀さん、ぷよぷよしよ」
持参していたらしいゲームのパッケージを振り回して言った。
「リベンジするために猛特訓したんだから」
「いいよ」
加賀さんが飲みかけのシャンパンを一気にあおってうなずいた。
「光太郎さんはゲームとかしたことあるの?」
二人がゲームに興じるのを、ぼんやり眺めながら父が訊く。
「ないな」
「え、一回も? マリオとかも?」
「スーパーマリオか?」
「スーパーマリオ、うん」
「ないな」
「まあ、してるとこ想像できないもんな。暇つぶし以前に暇ないだろうし」
「その通り」
「なんだろう。なんか、可愛い」
二人の会話を聞いていた六花がつぶやいた。何が可愛いのかはわからないが、六花がいそいそとお父さんの隣に椅子を移動させる。
「あの、お願いがあるんですけど」
失礼なことを言わないだろうな、と身を固くして見守る俺を、六花が一瞬だけ振り返る。大丈夫だから、とテレパシーを送ってきた。
「何かな」
「私も光太郎さんって下のお名前で呼んでもいいですか?」
六花の科白にハッとした。それはとても魅力的なお願いだ。正直、羨ましい。
「もちろん、構わないよ」
「ありがとうございます」
六花が頭を下げてから、俺を見て素早くウインクをした。今だ、と思った。ソファから腰を上げ、加賀さんのお父さんの前に直立する。
「あの、俺も……、名前でいいですか?」
ドキドキしながら訊いた。ワイングラスをテーブルに置いて、加賀さんのお父さんが俺を見上げる。
「ぜひ、呼んでみてくれ」
「え、あ、今ですか?」
脚を組んで俺を見上げるお父さんは、面接官のような威圧感がある。唾を飲み込んでから、遠慮がちに呼んだ。
「光太郎さん」
ふふ、と笑われた。照れ笑いだと気づいて、こっちまで照れがくる。
「お前、本当になんか乙女みたいだな。乙女座だっけ?」
「違うって。それ前も言ってなかった?」
呆れたように言う父に呆れたように返した。
「勝てない! 加賀さん鬼!」
五月が大声を上げてコントローラを放り出し、頭を抱えている。
「次こそ勝つから!」
「まだするの?」
「勝つまでするもん」
「いいけど、倉知君こっちおいで」
加賀さんが手招きをする。隣に腰を下ろすと、テレビに目を向けたまま「俺も」と言った。
「え?」
「俺も名前で呼んで」
「えっ、あの、でも」
「親父が名前で呼ばれてんの、なんかすげえ悔しい」
ゲームに集中しているのかと思ったら、聞いていたらしい。
「いいんですか?」
「呼んでみて」
ゲーム画面から目を逸らさずに指を忙しく動かしている。俺は加賀さんの横顔を見つめて、ふう、と息をついてから言った。
「定光さん」
目が、俺を見る。すぐに逸らして、うーんと考える素振りを見せた。
「思ったより悪くない」
「会話しながらこの連鎖!」
五月がフローリングの上にぐったりと崩れ落ちた。また負けたらしい。
「ちょっと、もっかい目ぇ見て呼んでみて」
体ごと俺のほうを向くと、視線を合わせてくる。途端に鼓動が速くなる。胸に手を当てて、深呼吸をしてから愛しい人の名前を呼ぶ。
「定光さん」
加賀さんが柔らかく微笑んだ。
「七世」
全身が、沸騰したように熱い。顔を覆ってソファの上で丸くなる俺の頭を加賀さんの手が優しく撫でた。
「なんか違和感あるな。自然に呼べるまで待つか」
そんなときが来るとは思えない。他の誰に呼ばれても何も感じないのに、加賀さんだとどうしてこうなるのだろう。自分がわからない。
「ねえ、なんでみんながいるのにそんなナチュラルにイチャつけるの?」
「イチャついてないよ」
五月の問いかけに加賀さんが平然と答える。
「イチャついてるってのは」
俺の頭を撫でていた加賀さんの手が、肩に回された。耳に息がかかる。七世、愛してるよ、と小さな声で囁いた。そして唇の柔らかい感触。ちゅ、と音を立てて耳から唇が離れると、意識が遠のいていく。
「こういうのだよ」
五月と六花の悲鳴が耳をつんざく。それと同時に気を失った。気を取り戻したときには何事もなかったかのように、全員が帰り支度をしていた。
「あ、起きた」
加賀さんが俺の顔を覗き込んで言った。
「もうみんな帰るって」
「そ、そうですか」
気絶したことが恥ずかしくて顔が熱くなる。加賀さんが笑って頭を撫でた。
「あ、七世起きた」
五月が吹き出しながら言った。みんなコートを着て荷物を抱え、まさに帰る直前だ。
「お前、いろいろ大丈夫か?」
父が半笑いで訊く。
「だい、じょうぶ……」
「そんなに眠たかったの? 昨日寝てないの?」
母が心配そうだ。目を合わせられない。六花がニヤニヤ笑いを隠そうともせず、俺の視界に無理やり入ってくる。恥ずかしさを堪えながら、ちら、と光太郎さんを確認する。コートの襟を正しながら、穏やかに笑っている。
「七世君は寝不足か?」
「えっ、いえ、そういうわけじゃ」
「定光に眠らせてもらえないのか?」
「……はっ? えっ、あの」
まさかこれは下ネタだろうか。反応に困って加賀さんを見る。うつむいて笑いを堪えていた。
「今日は早く寝なさい」
励ますように俺の肩を叩いた。ハルさんも笑いを堪えた顔で、「またうちにも遊びにきてね」と手を振った。
全員が出ていくと、加賀さんが大きく息をついた。
「あー、おかしかった」
「あの、俺、どれくらい気を失って」
「十分くらいかな。寝不足?」
「え、えっと」
「親父のあれ、別に下ネタじゃないよ」
加賀さんが手を繋いでくる。
「俺が夜型だって知ってるから」
「そういう意味だったんですか」
「お前が勘違いしてるのがおかしくて」
「変なこと言わなくてよかった……って、加賀さん、なんで寝室?」
手を引かれ、気づくと寝室に連れ込まれていた。
「寝不足だから?」
寝室のドアを閉めると、胸倉をつかんで引き寄せられ、顎を吸われた。
「あ、ずれた」
「あの、もう寝るんですか?」
「寝るよ」
「睡眠のほう、ですよね?」
「なんで? 性行為のほうだよ」
寝室のドアに押しつけられたまま、俺の内腿を撫でて、脚を絡めてくる。
「しよっか」
「します」
「七世」
加賀さんが俺の顔を両手で挟み込み、軽くキスをしてから言った。
「そばにいてね。死が二人を分かつまで」
〈おわり〉
日曜の十一時過ぎ。父と母と二人の姉がやってきた。
出迎えた加賀さんに全員で「お誕生日おめでとうございます!」と声を揃えた。
「ありがとうございます。今日はわざわざすいません」
「いえいえ、こちらこそ二人の邪魔してごめんよ」
父がすまなそうに言ってから、俺に向かって「元気そうだな」と笑った。父に会うのは久しぶりだ。
「大きくなったんじゃない?」
母が言った。会うたびに同じことを言うが、俺は縦にも横にも大きくなってはいない。
「どうぞ上がってください」
加賀さんが促すと、持っていた座布団を俺に押しつけて、二人の姉が靴を脱いで部屋に上がる。
「お邪魔しまーす」
「キャー、すっごくいい部屋! 広い! 綺麗! 羨ましい!」
あとに続いた父が、両手に荷物を抱えてキョロキョロしている。
「光太郎さんはまだ?」
「光太郎さん?」
「加賀さんのお父さんだよ」
平然と答える父。驚いた。いつの間に下の名前で呼ぶようになったのか。
「父は少し遅れると連絡がありました」
加賀さんが言った。
「ほんと忙しい人だよなあ。土日も無関係だし」
言葉の端々に親しみが込められている。父親同士が仲良くしてくれるなら、それにこしたことはない。ありがたく思わなくては。
「お風呂場とか見せてよ」
「寝室もね」
五月が言うと、六花が付け足した。
「いいですか?」
加賀さんに訊くと、いいよ、と簡単に返ってきた。いつも掃除は完璧にしてあるし、見られて困るものもない。ないというか隠してある。
「私も見たい」
母も混ざってきた。三人を引き連れて部屋の中を案内する。
五月は単純に羨ましがり、六花は下心満載の顔でにやついて、母は魂の抜けたような声を出して感心していた。
「こんなマンション、ドラマでしか見たことない。本当に存在するんだねえ」
「いいなあ、この開放感。あたしもこういうとこ住みたい」
「ねえ、ちょっと、寝室が予想以上にエロいんだけど」
三人が興奮してまくしたてていると、父が呼びにきた。
「お母さん、料理の準備とかどうすんの? 皿とかは並べといたけど」
「あ、するする、ごめん。ほとんど作ってきたんだけど、七世、手伝って」
キッチンに母を案内すると、動きを止めて嘆息した。
「ハリウッド映画みたい、このキッチン」
確かに、アイランドキッチンはなんとなく日本らしくない。スペースも広く、料理もしやすいから俺も気に入っている。
「はあー、換気扇が浮かんでる。照明がスポットライト浴びてるみたい」
いちいち感動する母が、作業台を抱きしめて「持って帰りたい」と呟いた。
「お母さん、この刺身冷蔵庫入れておくよ」
冷蔵庫を開けようとする俺の手を、がし、と誰かにつかまれた。六花だ。
「七世、あんたこれ」
キャー! とリビングのほうから悲鳴が上がる。五月だ。
「やだ、加賀さんが結婚した! 薬指に! 指輪!」
六花がハッとなる。
「ペアリング? これもしかして加賀さんの誕生日プレゼント?」
「う、うん」
六花が泣き顔になって、下を向く。すぐに顔を上げて眉尻を下げて微笑んだ。
「尊い」
「はあ?」
よくわからないが嬉しそうだ。
「お互いに俺のものだっていうマーキングでしょ。ああもう、……描いていい?」
「お好きにどうぞ」
「指輪? 見せて」
母が俺の手を引っ張ってくる。食い入るように間近で見つめて、何度も手をひっくり返しながら「綺麗だね」と言った。
「七世が買ったの?」
「うん」
「こんな立派なもの、買えるようになったんだ」
子ども扱いする母が涙目で精一杯背伸びすると、俺の頭を撫でた。
「バイトしたいって言うから何か欲しいものがあるのかと思ったら、こういうことか」
リビングのソファに座った父が、にやけながら言った。
「あたし、ぬけがけでプレゼント用意しようと思ったんだけど」
誕生日パーティを開くのはいいが、プレゼントは絶対に買わないでほしいと加賀さんが前もってお願いしていた。気を遣わせるのと金を使わせるのを嫌がったのだ。
「何買っても霞んじゃいそう。加賀さんが一段とキラキラしてるように見えるのは気のせい?」
五月が目をこすって加賀さんを見て言った。父はニヤニヤ笑いをやめない。両脇から父と五月が加賀さんを観察している。
「いや、俺から見てもキラキラしてる。キラキラっつーかツヤツヤ? なんだ? 指輪効果か?」
サラダの大皿をテーブルに置いて、咳払いをする。
「あんまりジロジロ見ないでよ」
「俺のだからって?」
「うん」
「見るくらいいいじゃん、けち」
五月が口を尖らせる。ヒュー、と口笛を吹いて囃し立てる父に、顔をしかめてみせた。
「それより加賀さんのお父さんのこと名前で呼んだりして、失礼な真似してないよね?」
「名前で呼べって言ったのは光太郎さんだぞ」
それならいいが、なんとなく、父とあの人が同じ目線で会話ができるとは思えなかった。
「で、お前らはそろそろ名前で呼び合ったりしないの?」
突然父から振られて内心で悲鳴を上げた。ちら、と加賀さんを見る。加賀さんは一瞬
笑いだしそうな顔をしてから平然として答えた。
「たまに呼びますよ、七世って。な?」
油断していた。膝に力が入らなくなって、その場で崩れ落ちる俺を、父が不思議そうに横目で見る。
「あたしも加賀さんのこと、定光さんって呼びたいな」
五月がうっとりとした表情で言った。
「いやいや、やめて。俺、親にも加賀って呼ばせてるんだ」
わけのわからないことを言う加賀さんに、なぜか父が「おおっ」と感嘆の声を上げて手のひらを差し出した。二人が握手を交わす。よくわからないが多分映画か何かのネタだろう。
「えー? 何、意味わかんない、呼んじゃ駄目なの?」
「別に駄目じゃないけど。倉知君でさえ加賀さんだよ?」
加賀さんが自分の名前をあまり好きじゃないのは知っている。俺も名前にコンプレックスがあって、子どもの頃に散々からかわれてきたから気持ちはわかる。呼んでと言われない限り、呼びたいと言わないことに決めている。
「呼ばせりゃいいじゃん」
父が簡単に言う。加賀さんがあっけらかんとして答えた。
「四文字から六文字になるから、長ったらしくてめんどくさいかなって」
「面白いこと言うね。光太郎さんはどうなるんだよ、すげえ長いよ」
「そういやそうですね」
はは、と笑って、加賀さんが俺を見る。
「呼びたい?」
「え」
「定光さんって」
「あ、いえ、俺はどっちでも」
「お前がそう呼ぶなら俺も七世って呼ぶわ」
「う」
それは暗に、名前で呼ぶなという意味だろうか。
「あんたまさか加賀さんに名前で呼ばれたら興奮するとか、ないよね?」
五月が疑わしそうに訊いた。ぎく、として思わず目を背ける。
「図星? やだ、なんか変態っぽい」
「楽しそうな話だね」
六花が大皿を抱えて満面の笑みで登場した。倉知家から持参した折り畳みのテーブルにサーモンとアボカドのマリネを置くと、俺の顔を覗き込んでくる。
「七世って呼ばれるとぞくぞくするとか?」
勃起する、とは言えずに黙っていると、六花が恍惚とした表情で「いいね」と親指を立てた。
「ちょっと加賀さん、呼んでみて」
「えっ」
六花の無茶ぶりに裏返った声が出た。
「俺はいいけど、いいの?」
加賀さんがおかしそうに訊いた。俺は必死で首を横に振る。
「駄目です、危険です」
「え、何、どうなんの? 呼んでみてよ」
父も乗っかってくる。今ここに俺の味方は存在しない。全員が、加賀さんに名前呼びを要求している。たじろぐ俺を見つめると、容赦なく、やけに甘ったるい声色で名前を呼んだ。
「七世」
快感が、背筋を這いあがっていく。フラッシュバックする、数日前のベッドでの出来事。体が熱くなり、身震いが止まらなくなった。顔を覆って背中を丸める。
「なんだよお前、首まで真っ赤じゃん。なんで名前呼んだだけでそうなる?」
父が呆れて言った。六花がすかさずフォローを入れる。
「今のは仕方ないよ。加賀さん狙ったでしょ」
「わかった? ちょっと意地悪したくなって」
「ねえねえ、あたしも呼び捨てで呼んでみて? 今みたいに色っぽいの希望!」
五月が変なことを言い出した。指の隙間から加賀さんを見る。あんまり呼んで欲しくない、と思ったが、加賀さんはこういうところは無頓着だ。
「五月」
「……っ、キャー! セクスィー!」
悶絶する五月。
「ずるいぞ五月。加賀さん、俺も呼んでよ。英二(えいじ)ね」
「英二」
「うはー、やられたー」
父が胸を押さえてのけ反った。
「何これ」
五月と父がソファの上でのたうち回るのを、六花が半笑いで眺めている。
「お母さんはね、三穂(みほ)です」
今度は母が現れた。彩りの鮮やかな一口サイズの寿司が並んだ皿を置いて、名前を呼ばれるのを待っている。加賀さんが笑いながら母の名を呼ぶ。
「三穂」
母が照れ笑いを浮かべる。
「なんだか若返った気がする」
「みんないい加減にしなよ。こうなったら私も呼んでください」
ついに六花まで言い出した。加賀さんが色っぽく六花の名前を呼ぶ。
「六花」
「くっ、イケボ……!」
全員しらふなのに、どこか酔っ払いのような雰囲気だ。馬鹿みたいに騒いで盛り上がっているうちに、加賀さんのお父さんとハルさんが到着し、ようやく場が引き締まる。
「遅れてすまない」
「いいよ、もうすでに楽しいから」
加賀さんがお父さんのコートを預かって、な、と俺に同意を求める。曖昧にうなずくと、お父さんが颯爽と右手を差し出してくる。
「久しぶりだね、元気そうで何よりだ」
「お久しぶりです。今日は来てくださってありがとうございます」
握手を交わすと、俺と加賀さんを見比べて言った。
「二人の生活には慣れたか?」
「うん、おかげさまで、すげえ快適。なんの不便もなく暮らしてます。ありがとうございます」
俺も同時にお礼を言って頭を下げた。お父さんは満足げに俺たちを見て微笑むと、背後に目を向ける。軽く会釈して、「こんにちは」と俺の家族に挨拶をする。こんにちは、と気合の入った合唱が返ってくる。
「ハルさん、ケーキ作れた?」
突然母が言った。
「ごめん、失敗したから買ってきちゃった。これ冷蔵庫入る?」
ハルさんが舌を出して、ケーキの箱らしきものを加賀さんに渡した。
「あれ、面識あるの?」
加賀さんが訊くと、母とハルさんが手を取り合って「仲良し」と言った。驚いた。
「三穂さんにケーキ作り教わったんだけど、不器用だから気持ち悪い物体が出来上がってさ」
「それ持ってきてくれたほうが面白かったのに」
加賀さんが言った。美味しさより面白さを優先する人だ。
「定光、これを」
加賀さんのお父さんがワインを手渡すと、加賀さんが「げ」と小さく声を上げる。
「またこんなクソ高い……、あ、今年は時計買ってないよな?」
「買ったが?」
当たり前だろう、と言ってラッピングされた包みを差し出した。
「その指輪は七世君からのプレゼントか?」
目ざとく見つけ、「ペアリングか」と俺の左手を見て言った。
「うん、バイトして買ってくれた」
「そうか。それは何物にも代えがたいものだろう。だがこの時計もいいぞ」
「いらないって言ったのに」
「さあ、開けて着けてみせなさい」
「今? あとでいい? とにかく座ったら?」
加賀さんがダイニングの椅子を引いて、お父さんを座らせた。ハルさんは、初対面らしい姉二人と挨拶を交わしている。
「早く開けなさい」
お父さんが諦めない。ふところからスマホを出して、構えている。俺の家族がハルさんと喋っているのを確認すると、加賀さんが素早くラッピングを解き、ケースを取り出した。見た瞬間に、はあ、とため息をついた。手元を覗き込む。白い箱に、英字が印字されている。Vから始まるそのブランドは、見たことがなかった。読み方すらわからない。
「せめてゼロ一個減らしたのにしてよ」
「四の五の言わずに着けなさい」
加賀さんにスマホを向けて、興奮気味にお父さんが言った。時計のことになるとこの人は少し変になる。でもそういうところがあるほうが、親しみやすいと思う。
加賀さんが時計を腕にはめると、お父さんがすかさず連写を始めた。
「いいぞ、目線をくれ。素晴らしい」
シャッター音を響かせると、それに気づいたみんなが便乗してそれぞれ携帯を出して撮影会が始まった。
「ちょっと何これ。倉知君、止めて」
加賀さんが困った顔で助けを求めてくる。力強くうなずいて、思い切り手を叩き合わせた。パン、という破裂音にみんなの動きが止まる。
「みなさんお揃いになったので、早く準備してパーティを始めましょう」
はーい、と返事をして撮影会はお開きになった。
母とハルさんが仲良く料理の準備をして、五月と六花がセッティングを手伝い、父と加賀さんのお父さんが何か難しそうな話で盛り上がり、加賀さんと俺は放置された。ソファに腰掛けて、テーブルにごちそうが増えていく様子を眺めていた。
「加賀さん」
「ん」
「時計見せて」
腕を取って、眺めた。青みがかった文字盤で、見るからに高級そうだ。
「これなんてブランドですか?」
「ヴァシュロンコンスタンタン」
「ば……たんたん」
なんて難しい名前だ。一度聞いただけじゃ覚えられない。復唱に失敗する俺を、加賀さんが目を細めて見た。
「日本じゃマイナーだけどまあ、めちゃくちゃ高い」
二年前のロレックスから歯止めが利かなくなっているような感じがする。
「マンションとか時計とか……、お金、なくならないんでしょうか」
無理をしていないのかと心配になってくる。
「支出より収入が多いから、大丈夫」
「はあ」
弁護士という職業はそれほど儲かるのだろうか。想像もつかない世界だ。
「いろんなことに手ぇ出してるからな。不動産以外にも投資もしてるし。金儲けの才能があるんだよ」
「なんかすごいですね」
「うん、なんかすごいんだよ。なあ、倉知君」
時計を観察する俺の肩に、加賀さんが頭を乗せた。目を上げる。顔がやけに近い。
「なん、なんですか、近いです」
「この時計の名前、なんだっけ?」
「え? えっと、ばなんとか、こん……たんたん?」
「はは」
加賀さんが歯を見せて笑って、俺に寄りかかってくる。
「やべえ、可愛い」
「加賀さん、近いです」
「くそ、今すぐ寝室に連れて行きたい」
耳のそばで囁かれて戦慄する俺に、加賀さんがとどめを刺してくる。
「可愛い七世」
濃い艶を含んだ官能的な声。体が反応しようとするのを、全力で堪える。考えるな、感じるな、鎮まれ。ふと、視線を感じて顔を上げる。全員が、動きを止めて、無言でこっちを見ていた。一気に血の気が引く。下半身に集結しつつあった熱も、すごい勢いで冷めた。
「どうぞ続けて。安心して、見て見ぬふりするから」
六花が目を爛々とさせて言った。
「もう、無理! 見てらんない!」
五月が顔を覆ってうずくまる。ハルさんと母が生暖かい目でキッチンからこっちを見て言った。
「いいなあ、ラブラブで。まるで新婚じゃん」
「いいよねえ、私も戻りたい……、あの頃に」
うっとりする母に、父が心外そうに口を尖らせる。
「俺らだって負けてないし、今もラブラブだろ?」
「お父さんたら!」
さりげなくイチャイチャする両親をほほえましそうに見ていた加賀さんのお父さんが、俺たちに視線を移し、口元に手をやって、笑いをかみ殺すような表情をした。
「私たちはお邪魔かな」
この人にまでそんなことを言わせるなんて。
「いいえ、全然、すいません、あの、自重します」
慌てて立ち上がり、声を張り上げる。みんな、ほのぼのとした目で見てくる。
「ていうか自重するのは加賀さんですよね」
「倉知君が可愛いから悪いんだよ」
「可愛くないです」
「可愛いよ」
ソファに座ったまま、上目遣いで俺を見上げて、指の先をそっとつかまれた。可愛い。キュン、と胸がうずいて、ほだされそうになる。我に返って急いで手を引っ込めた。
「ほら、また」
「なんだよ」
「今からスキンシップ禁止です」
「え」
絶望的な顔になる加賀さんが、また可愛いと思ってしまった。胸を押さえて息を吐いてから言った。
「俺に触らないでくださいね」
「何それ、うわ、傷ついた」
「少しくらい我慢してください。俺だって触りたいんですから」
「じゃあ触ってよ」
「駄目です」
「指一本くらいならいい?」
俺の親指に小指を絡めてくる。
「またいちゃついてるっ」
五月が口を挟む。俺は顔をしかめて反論した。
「なんで、別にいちゃついてない」
「りっちゃん、判定をどうぞ」
五月が六花に手のひらを向ける。六花は腕を組んで考え込む仕草をしてから、キリッと目を上げた。
「判定は……、いちゃついている」
「ほらね」
「もう、あの、ほんと、みんながいる間は離れてますから」
悲しそうに俺を見る加賀さんに、語気を強めて言った。シュンとしている様子が怒られて耳を伏せた犬みたいで可愛い、と思った。冗談です、と言って抱きしめてスリスリしたい。
「そんな顔したって、駄目……、です」
可愛さに怯む俺を、加賀さんはすがるような目で見つめてくる。後ずさって距離を取ろうとする俺の服の裾を、加賀さんが引っ張った。
「なんで駄目なんだよ」
「だ、だって、恥ずかしいでしょ、いちゃついてるって思われるの」
「だからなんで?」
「なんでって」
「別にみんなが見てる前でキスしようって言ってるわけじゃないんだし」
キス、という単語に体が反応した。無様に体をびくつかせる俺を、五月が冷めた目で見て喚いた。
「ねえ早くパーティ始めようよ!」
いつの間にか、ところ狭しと料理が並べられていた。ハルさんがワイングラスを全員に配っている。
「七世君はまだ飲めないんだっけ?」
ハルさんが訊いた。
「はい、未成年です」
「来年やっと二十歳だもんな」
「若いね」
「若いな」
ハルさんと加賀さんが遠い目をしてつぶやいた。
「私も今日は運転係だから、あんたと一緒」
六花が俺にウーロン茶を手渡すと、父がワイングラスに鼻を近づけて匂いを嗅いでから言った。
「全員グラス持った? 乾杯の音頭はやっぱ光太郎さんだな」
「了解した」
ワイングラスを持った加賀さんのお父さんが椅子から腰を上げた。恐ろしいほどワインが似合っていてカッコイイ。紳士の見本のような人だ。
「今日は息子のためにお集まりいただき、どうもありがとう。こんなに豪華な食事まで用意していただいて、皆さんには本当に感謝しています」
父、母、姉と視線を移して、最後に俺を見て言った。
「七世君、これからも末永く……、いや、死が二人を分かつまで、仲良くしてほしい」
「……はい!」
泣きそうになるのを堪えて、うなずいた。お父さんはうなずき返すと、最後に加賀さんに向き直る。
「定光、誕生日おめでとう」
グラスを軽く持ち上げて「乾杯」と締めくくる。みんなが乾杯、おめでとう、と声を上げて、拍手をする。
「なんか結婚式の挨拶みたいだな」
加賀さんが笑って言った。死が二人を分かつまで、というと確かに結婚式で出てくるフレーズだ。もし、結婚したら。こんな感じなのだろうか。二人の家族が集まって、みんなが祝福してくれる。同性を好きになったという気後れを一切感じる必要のない、居心地の良さ。リラックスした楽しい時間が過ぎていく。料理をほとんど食べつくし、ケーキを食べて一息つくと、みんながなんとなくほろ酔いになってきたパーティの終盤に、五月が元気よく手を挙げた。
「加賀さん、ぷよぷよしよ」
持参していたらしいゲームのパッケージを振り回して言った。
「リベンジするために猛特訓したんだから」
「いいよ」
加賀さんが飲みかけのシャンパンを一気にあおってうなずいた。
「光太郎さんはゲームとかしたことあるの?」
二人がゲームに興じるのを、ぼんやり眺めながら父が訊く。
「ないな」
「え、一回も? マリオとかも?」
「スーパーマリオか?」
「スーパーマリオ、うん」
「ないな」
「まあ、してるとこ想像できないもんな。暇つぶし以前に暇ないだろうし」
「その通り」
「なんだろう。なんか、可愛い」
二人の会話を聞いていた六花がつぶやいた。何が可愛いのかはわからないが、六花がいそいそとお父さんの隣に椅子を移動させる。
「あの、お願いがあるんですけど」
失礼なことを言わないだろうな、と身を固くして見守る俺を、六花が一瞬だけ振り返る。大丈夫だから、とテレパシーを送ってきた。
「何かな」
「私も光太郎さんって下のお名前で呼んでもいいですか?」
六花の科白にハッとした。それはとても魅力的なお願いだ。正直、羨ましい。
「もちろん、構わないよ」
「ありがとうございます」
六花が頭を下げてから、俺を見て素早くウインクをした。今だ、と思った。ソファから腰を上げ、加賀さんのお父さんの前に直立する。
「あの、俺も……、名前でいいですか?」
ドキドキしながら訊いた。ワイングラスをテーブルに置いて、加賀さんのお父さんが俺を見上げる。
「ぜひ、呼んでみてくれ」
「え、あ、今ですか?」
脚を組んで俺を見上げるお父さんは、面接官のような威圧感がある。唾を飲み込んでから、遠慮がちに呼んだ。
「光太郎さん」
ふふ、と笑われた。照れ笑いだと気づいて、こっちまで照れがくる。
「お前、本当になんか乙女みたいだな。乙女座だっけ?」
「違うって。それ前も言ってなかった?」
呆れたように言う父に呆れたように返した。
「勝てない! 加賀さん鬼!」
五月が大声を上げてコントローラを放り出し、頭を抱えている。
「次こそ勝つから!」
「まだするの?」
「勝つまでするもん」
「いいけど、倉知君こっちおいで」
加賀さんが手招きをする。隣に腰を下ろすと、テレビに目を向けたまま「俺も」と言った。
「え?」
「俺も名前で呼んで」
「えっ、あの、でも」
「親父が名前で呼ばれてんの、なんかすげえ悔しい」
ゲームに集中しているのかと思ったら、聞いていたらしい。
「いいんですか?」
「呼んでみて」
ゲーム画面から目を逸らさずに指を忙しく動かしている。俺は加賀さんの横顔を見つめて、ふう、と息をついてから言った。
「定光さん」
目が、俺を見る。すぐに逸らして、うーんと考える素振りを見せた。
「思ったより悪くない」
「会話しながらこの連鎖!」
五月がフローリングの上にぐったりと崩れ落ちた。また負けたらしい。
「ちょっと、もっかい目ぇ見て呼んでみて」
体ごと俺のほうを向くと、視線を合わせてくる。途端に鼓動が速くなる。胸に手を当てて、深呼吸をしてから愛しい人の名前を呼ぶ。
「定光さん」
加賀さんが柔らかく微笑んだ。
「七世」
全身が、沸騰したように熱い。顔を覆ってソファの上で丸くなる俺の頭を加賀さんの手が優しく撫でた。
「なんか違和感あるな。自然に呼べるまで待つか」
そんなときが来るとは思えない。他の誰に呼ばれても何も感じないのに、加賀さんだとどうしてこうなるのだろう。自分がわからない。
「ねえ、なんでみんながいるのにそんなナチュラルにイチャつけるの?」
「イチャついてないよ」
五月の問いかけに加賀さんが平然と答える。
「イチャついてるってのは」
俺の頭を撫でていた加賀さんの手が、肩に回された。耳に息がかかる。七世、愛してるよ、と小さな声で囁いた。そして唇の柔らかい感触。ちゅ、と音を立てて耳から唇が離れると、意識が遠のいていく。
「こういうのだよ」
五月と六花の悲鳴が耳をつんざく。それと同時に気を失った。気を取り戻したときには何事もなかったかのように、全員が帰り支度をしていた。
「あ、起きた」
加賀さんが俺の顔を覗き込んで言った。
「もうみんな帰るって」
「そ、そうですか」
気絶したことが恥ずかしくて顔が熱くなる。加賀さんが笑って頭を撫でた。
「あ、七世起きた」
五月が吹き出しながら言った。みんなコートを着て荷物を抱え、まさに帰る直前だ。
「お前、いろいろ大丈夫か?」
父が半笑いで訊く。
「だい、じょうぶ……」
「そんなに眠たかったの? 昨日寝てないの?」
母が心配そうだ。目を合わせられない。六花がニヤニヤ笑いを隠そうともせず、俺の視界に無理やり入ってくる。恥ずかしさを堪えながら、ちら、と光太郎さんを確認する。コートの襟を正しながら、穏やかに笑っている。
「七世君は寝不足か?」
「えっ、いえ、そういうわけじゃ」
「定光に眠らせてもらえないのか?」
「……はっ? えっ、あの」
まさかこれは下ネタだろうか。反応に困って加賀さんを見る。うつむいて笑いを堪えていた。
「今日は早く寝なさい」
励ますように俺の肩を叩いた。ハルさんも笑いを堪えた顔で、「またうちにも遊びにきてね」と手を振った。
全員が出ていくと、加賀さんが大きく息をついた。
「あー、おかしかった」
「あの、俺、どれくらい気を失って」
「十分くらいかな。寝不足?」
「え、えっと」
「親父のあれ、別に下ネタじゃないよ」
加賀さんが手を繋いでくる。
「俺が夜型だって知ってるから」
「そういう意味だったんですか」
「お前が勘違いしてるのがおかしくて」
「変なこと言わなくてよかった……って、加賀さん、なんで寝室?」
手を引かれ、気づくと寝室に連れ込まれていた。
「寝不足だから?」
寝室のドアを閉めると、胸倉をつかんで引き寄せられ、顎を吸われた。
「あ、ずれた」
「あの、もう寝るんですか?」
「寝るよ」
「睡眠のほう、ですよね?」
「なんで? 性行為のほうだよ」
寝室のドアに押しつけられたまま、俺の内腿を撫でて、脚を絡めてくる。
「しよっか」
「します」
「七世」
加賀さんが俺の顔を両手で挟み込み、軽くキスをしてから言った。
「そばにいてね。死が二人を分かつまで」
〈おわり〉
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