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帝国編

世間は意外と狭いのでした

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 ここが闘技場西門だね、宿の方からなら南門に着いてたんだよね。
(フレイアのティータイムは気分が良くなるのだわ!)
(てぃーた・・・レイちゃんもフィオナみたいな言い方するー)
(妹ちゃんとリアが話しているのを聴いているうちに覚えたのだわ、変わった娘っ子なのだわ!)
(そうかなー?フィオナの変わってる所って魔導術だけだと思ってたよ、気付いたの剣術学院卒業してからだけどね!)
 術式とかよく分かんないし!時々組むことがあったパーティーとか実地訓練護衛とか、魔導師の人達のを見たときだったかな。
(模様浮かぶのが普通だったんだよね?フィオナの魔導術前触れとかないもんね!)
(小森地帯で練習してたようだけどできてなかったようなのだわ、魔導師とはこれいかに・・・なのだわ!)
(西門からの階段っと・・・わーやってるやってる!)
 キィンッ キィンッ
「円形闘技場なのは王都と同じだねー」
 違うのは中心の地面が高くなってる所かな、戦う範囲決められてるんだね!
(龍人が審判やってるのだわ、ぶっ刺さっても大丈夫そうなのだわ!)
「凄く痛そうだね!」
「お嬢ちゃん盛り上がってるね~どうだい闘技場は、今年は特にこの闘技戦予選が先祭りさ!」
(血祭りにならないといいのだわ!)
「おじさんお酒臭いよ!」
「ごめんなさいねうちの旦那が・・・飲んでなくてもこの調子なんだけどね~」
「ん?お嬢ちゃんも冒険者か、その業物で参戦しないのかい!?」
(テンションのたっかいおじさんなのだわ!)
 受付してなくてもいけるのかな?ミリーちゃん達の話だと当日って言ってたけど。
「おじさんこの剣鞘に入ってるのに、業物って分かるんだ!」
 誕生日に貰ったミスリルの剣なんだけど、刃の部分見なくても分かるものなんだね!
「おう、友人が王都で鍛治師やってるんでなーその鞘もそいつの仕事よ」
「あ、おじさんの友達さんが作った剣だったんだ!」
(世間は存外狭いのだわ!) (そうだね!)
「あいつが鞘まで作るのは会心の出来くらいのもんだからな~・・・お、フレイアんとこの姉ちゃん!さんどいっちを所望するぜ!」
 フィアさんだ、紐付きの箱を両肩に下げて食べ物を売ってる!
(ティータイムの時にいないと思ったらここにいたのだわ!)
「クラフトさん、また鍛治を放り出してきたのですか・・・おや、アイリちゃん?」
「こんちわー!フィアさん私もさんどいっち下さい!」
(ついでにアタシのもお願いするのだわ!)
「また耳鳴りが・・・と、はいどうぞ」
「鍛治に関しちゃぁ一仕事終えたんだ、皇帝陛下からの勅令とあっちゃぁ下手なもんは作れねえ」
 おお、皇帝陛下から依頼なんてもしかしてこのおじさん凄い人だったのかな?
(頭つるつるなおやじにしか見えないのだわ!)
「皇帝のような方がクラフトさんに依頼ともなると、ディオール関連の装備か・・・最近お店に顔を見せないとノアが言ってたよ」
「この人一度集中したら工房から出ないから・・・十数年振りの大仕事と張り切ってたわ」
「おうよ!・・・とはいえ杖の方は経験あるからよかったが、共和国製が主な刀のほうがよ・・・鞘に合わせて作るのが至難だったぜ」
 刀身に合わせて作るのが云々・・・私にはよく分かんない!


 闘技場から見上げた先に皇城が顔を覗かせる、400年以上の月日が流れてもこの景色は変わらないね。
 王都の闘技場からも王城が見えていた・・・この時代に来てからは一度も帰っていないけど。
「フィアちゃんこのさんどいっち?というの美味しいね~新作かい?」
「そうですね、近いものは出していたんですけどより手軽にと共和国で広まっていたそうで」
 ジュベレール共和国か、漁村から始まり行商人達が集まる場として拡大していたとはいえ・・・国として確立していると聞いたときは驚いたものだよ。
 何より獣人族はともかく魔族が生活圏にいるなんて、よくあの状態から和解できたものだよ・・・アーシュラルド派の魔族だったとしても。
 確かに和解を持ち掛けてきたのは彼だったが、僕とレイスを国から引き離す為の口実だったのだとこの時代の歴史書を読むまでは思っていたよ。
「そういやぁ魔海の大型種ってのはどんな魔物だったんだろうなぁ」
「100年前にも現れたっていうルスカという奴だと号外で見たぜ、用心を重ねた結果死傷者もなかったとさ」
 魔海か・・・大戦中に起きたと云われている次元断裂事変で生じたとあった、あれは十中八九ヴェルガリアが発端だけど。
 応援に駆けつけた冒険者や帝国騎士団の善戦で旧魔王ジェネラル軍を押し返した矢先、魔槍を暴走させ僕や勇者レイス・・・アーシュラルド軍を含む全員に向けた。
 聖剣ディケオスィニの蒼き閃光、魔剣イドの緋の眩耀(げんよう)が渦のように迫る白の光彩と交わった瞬間・・・僕は直感的にアイギスを臨界顕現させたんだ。
 今のように・・・空を見上げた先に黒き龍、ヴェルガリアが姿を現した刹那アイギスから伝わってきた感覚は形容しがたいものだった。
 押し潰されるかのように、だけど引き裂くかのように勁烈(けいれつ)な力をアイギスを通して感じた時には盾も砕け散り視界が真っ黒に染まった・・・どこを見渡しても誰の姿も確認できず減退していくアイギスの力に僕は死を覚悟した。
 宙を漂い流されていく最中蒼の煌めきが淡く光る青紫の螺旋に向かっていくのを見た気がした、そこにアイギスの力を解放した所で意識が途切れたんだけど・・・目が覚めたら森の中で若い男女が襲われていたんだっけ。
「フィアちゃんの淡紅色な髪が日の光で神々しさすら感じるねぇ、儚げに空見上げてどしたい?」
「何でもありませんよ、魔海はどう現れたのかと思いまして・・・」
「そりゃぁ・・・あれだろ・・・次元なんとかって奴・・・」
「次元断裂事変だろ、息子も総合学院での歴史で習ってたぜ・・・勇者とか魔王に古龍様も参戦した戦争中に起きた災害だろ?」
 400年前の事となるとあれは災害という認識らしいね、僕にとっては17年前の感覚だけど・・・神殿で食っちゃ寝しているようにしか見えなかったあれが古龍様と今でも帝国の龍族信仰は変わっていないようだ。
 月に4日ほどあるお店の休み中で図書館に通って歴史書を読み耽っていたけど、旧魔王派と新魔王派の記載はあるのにアーシュラルドの名前は記されていなかったのが一番目に付いた変化だったなと・・・少し耳鳴りを感じるな。
 アイギスの問題かとも思ったけどそれなら17年前の時点で起きていたはずだし、丁度古龍のヴェルガリアが帝都に再度姿を現した辺りから・・・
「・・お、フレイアんとこの姉ちゃん!さんどいっちを所望するぜ!」
 あれはクラフト夫妻とアイリちゃん、観戦しにきたようだけど・・・
 キーン
「ヴェルガリアが近くにいる様子ではないけど・・・耳鳴りはする、古龍が原因というのは僕の被害妄想なのか・・・?」
 アイリちゃんは無邪気に手を振っている、確か19歳と聞いたけど仕草に幼さを感じる。
 発育の良い赤髪の少女は見た目に反して子供っぽい一面もある娘だけど、その妹は見た目の子供っぽさに反して無情な気配を感じた娘と・・・最近はその感覚も薄いけれど。
 近づくにつれ耳鳴りが強くなったかのように感じるのも、きっと僕の気のせいなのだろう・・・
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