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帝国編

気分転換は重要なのでした

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 世に平穏のあらんことをとカインドフルネスをしていた最中、体が宙に浮いていたのです・・・具体的にはミリーとユラに両脇を抱えられていたのですが。
「日の光に当たらなさすぎなのではなくて?所要もないなら外にでも行きましょう」
「・・・闘技場にでも向かう?アイリさんも観戦しているようだし」
 外に連れて行くのが先行して、行き先が決まっているわけではないようなのです。
「引き籠もりの子供を外に連れ出すかのようじゃの、そのまんまではあるが」
「あの・・・私は別に引き籠もりなわけではないのです、目的が室内で済んでいるから出ないだけで・・・ビタミンDには困ってないのですー」
「いつも通り意味不明な事なのは理解できましたわ」
「骨密度的に重要なのですが、光力の合成を軽視しているのも度し難いといった感じなので・・・」
「・・・その理屈だと外に出るってならない?」
「言い分が雑じゃと突っ込まれるという典型じゃな・・・直感的に思考連結記憶を使っている弊害かのう」
「リアさんの言葉は意味も理解できませんわね、フィオナが直情的といった話でよろしくて・・・?」
「魂側が肉体記憶へと位相の逆転がとも言えるが、気にするほどの事ではないのじゃ」
「私は主観的に生きているだけなのです・・・屁理屈を述べた訳ではないので下ろしてほしいのです」
 リアが扉を開け、そのまま外に連れ出されたのでした。

 快晴な空の下を歩いていると、闘技場前の大通りを行き交う帝都民は天下の往来よろしく通り過ぎていくのです。
「率先して観戦する人ばかりではないのですね、ちらほら闘技場に入っていく人もいますが」
「大々的な試合ではありませんから、フィオナも王都の闘技場に足を運ぶことは少なかったでしょう?」
「・・・魔導師組はあまり縁もないだろうしね、剣術学院では騎士団との演習が授業にあるよ」
「参戦はしても観戦はしていなかったのです、そういうものですかね・・・」
 知人友人が出ているならともかく、他人を眺めているほど酔狂人でもないのです。
「己の人生と戦う意味では時に気分転換もよかろう、人の生き方を俯瞰するのも妾は好んでおるぞ?」
「リアは究極の余暇人でしょうし、龍族ですが」
 アートマ体の時点で龍の枠ですら外れている存在でしょうけど、人の時間は有限なのです。
 自身の目標に進むための参考に、眺めるのなら己の糧になるかもですが。
「フィオナ、リアさん行きますわよー」
「はいなのですー」「端から見ても同い年には見えんのう」

 闘技場南正門の左右小差にそれぞれ観戦席に続く階段があるようで、ミリー達の後ろについて行き視界が開けた際日の光が目に刺さったのです。
 ギィィンッ
「日の光が眩しいので・・・」
 右目を瞑ってから左目の視線で宙を注視すると・・・物体のようなものがこちらに飛んできていたのです、直撃コースではあるのですがとりあえず杖の時の要領で当たる前に減衰させて両手で受けるのです。
「・・・変な形の盾だね、違う・・・中央がひしゃげているだけかな」
「斬撃で歪んだようですわね、試合の場所から随分と遠くに弾き飛ばしたようですけれど・・・」
 ミリーの視線が闘技場の中央に向けられているようですが、少し驚いた表情なのです。
「ごめんなさーい!観戦席まで弾いちゃった!大丈夫かなー?」
「アイリのようじゃが・・・はて、あの場は最早観戦とは言わぬと思うがのぅ」
 このひしゃげた鉄製の盾は姉様の所業みたいですが、寧ろ加減をした結果がこれなのでしょう・・・抑えなき斬撃なら真っ二つになっているのです。
「この予選抜戦は飛び入りも可能だったのです?」
「月1で1人の計5人選抜するらしいですけれど、今月の受付が先月ですから・・・それ以前にアイリさんは元々当日で参加は決まっていますわよ」
「乱入とは、姉様もとんでもないことをしちゃったのです」
 周りの観戦者を見渡すと、特に騒いだ様子もなく試合を眺めているようなのです。
「辞退した冒険者の代わりに参戦したあの娘・・・凄い腕前だ」
「君達盾が飛んできてたけど大丈夫か?」
「ええ、フィオナ・・・この子が受け止めましたわ」
「盾の軌道が変わったように見えたけど・・・気のせいか」
 石段の観戦席に座っていた男性が2人ほどこちらに声を掛けてきたのです、無事を告げるついでに少し話を聞いてみるのです。
「代わりに参戦と聞こえたのですが、途中変更を許可された感じなのです?」
「ああ、不戦敗なのもあれだからと龍人貴族様が観戦者の方に声を掛けられてな」
 どうやら審判を受け持った龍人貴族の方が機転を利かせちゃった結果のようなのです、対戦相手の冒険者も姉様が観戦していたという不運に見舞われたとでも言っておくのです。
「・・・アイリさんが応じちゃったんだね、認可された上でなら問題はないのかも」
「参加を禁じられているわけでもありませんから、闘技戦当日はアイリさんが連戦になるかもしれませんわね」
 体育祭2連続参加みたいなものですかね・・・私なら全力でお断りするです。
(あ!ミリーちゃん達がいるー)
(アイリの弾いた盾もあそこに飛んでいったようなのだわ!なら問題ないのだわ!)
 頭上から鉄の塊が降ってくるのを大丈夫とは言い難いのですが、誰もいなかったとしても器物破損はしていたのです。
 回復魔導術を龍人貴族の方が冒険者に施し、姉様と握手し舞台から降りる・・・盾越しでも腕が折れていたようなのです。
「フィオナも観戦に来たんだね!物作りはもういいの?」
 中央の円形舞台から石段の観戦席を駆けてきた姉様は、実に清々しい表情なのでした。
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