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15話:事実陳列罪
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江永は、志悠の言う「いいこと」が何であるか、散々問いただしてきた。ただ、美也のいる前で話せるものではないので、後で教える、と答えてかわした。
家に着くやいなや、タイミングを見計らっていたように志悠のスマホが震えた。江永からだった。
「家、着いた?」
「うん」
「で、なに。いいことって」
「美也に対するカモフラージュ方法。誰かを好きな素振りを見せる」
「うわー、悪いこと思いつくな~。俺と付き合ってるのに?」
「うっ……、やっぱりだめ?」
「その攻撃は美也にだけじゃなくて、俺にも効く。志悠は分かってないと思うけど、俺、だいぶ志悠のこと好きだからね。フリだって分かってても嫌」
さらりと恥ずかしいことを言ってのける江永に、志悠はむせてしまった。通話越しに、江永がため息をついているのが志悠の耳にも届いた。
「美也に俺と付き合ってること話すんじゃ、だめ?」
江永の提案に、志悠は乗る気にはならなかった。以前に、江永のことを好きなのかと聞かれて否定したときの反応が脳裏によぎる。ほっとしたように「なら良かった」という反応。
無言の否定に、江永は気づいたようだった。
「俺が女子だったら良かったのにね」
「違う。そんなことを言わせたかったんじゃない」
「うん、知ってる。志悠は優しいからね。残酷な優しさだ。好きでもない男と付き合ってくれるんだから」
その発言は志悠を傷つけるもののようなものでありながら、実のところ傷ついているのは江永自身であることに、志悠は思い至った。江永が言葉で自傷しているのが、志悠にまでその痛みが伝わってくるようで、肌がひりひりとした。
「……そんなこと言うなよ」
「でも、本当のことでしょ」
「事実陳列罪だ」
江永はようやく自分を傷つけるような言葉の羅列を止めた。
「よく覚えてたね、そんな言葉」
幾分か弱々しい声だった。これ以上何かを言えば、意図せずともまた江永を傷つけてしまうかもしれない。ただ、まだ志悠には言わなければいけないことがあった。
「ごめん。もう一つ、江永に言わないといけないことがあるんだ」
「別れの言葉なら聞かないよ」
「親の都合で引っ越すかもしれない」
「そっちの別れできたか。それでマネージャー探してたんだね。納得」
「まだ確定はしてないけど。もし本当に引っ越すことになっても、美也には言わないでほしい」
「黙っていなくなるつもりなんだ。志悠は本当に悪いこと考えるね。二人だけの秘密って思えば、恋人っぽくていいけど。あいつ、だいぶ傷つくと思うよ」
「そうかな」
「恋愛で好きかどうかは別にして、幼馴染が何も言わずにいなくなったら、喪失感は大きいと思うよ」
志悠は別に、美也を傷つけたいわけじゃない。ただひっそりといなくなって、自分のことなど最初からいなかったかのように過ごしてほしいだけだった。
「幼馴染が何も言わずにいなくなる喪失感、か」
美也がもしも何も言わずにいなくなったら。そう考えると志悠はぞっとした。心に、一生消えない傷ができるような気がした。だが自分がいなくなった場合、美也も同じ状態になるとは思えなかった。自分には恋愛感情があるが、美也は自分に恋愛感情はないのだ。その違いは、喪失感にも大きな差が出てくるように思えた。
「まあ、ほかの部員に知らせるかどうかはともかくとして、あいつには教えてあげてもいいんじゃない」
珍しく美也の味方になる江永に、志悠は驚いていた。
「もう少し考えてみる」
「じゃあ、また明日」
「うん」
心ここにあらずな状態で志悠は空返事をした。
スマホを無意識のうちに放り出していた。ぽす、と枕のわきに落ちる。志悠はベッドの上で大の字になって、天井を眺めた。
美也には幸せに過ごしていてほしい。傷つけたくなどない。そのための最善策は一体なんなのだろう。考えれば考えるほど、鏡の迷路に入ったように分からなくなっていく。そんなこと、志悠には今までなかった。学校で出される問題は、考えれば必ず答えが分かるものばかりだった。正解の無い問いに、志悠は戸惑っていた。
志悠が美也に、なぜ今更になって近づいてくるのかと尋ねたとき、美也は「幼馴染なんだから」と答えていたのを志悠は思い出した。美也はあくまで自分のことを幼馴染としかみていない。それはそうだ。同性に恋愛感情を抱いている自分のほうが異常なのだ。ならばこちらも普通を装って、引っ越すことを告げるべきか。
家に着くやいなや、タイミングを見計らっていたように志悠のスマホが震えた。江永からだった。
「家、着いた?」
「うん」
「で、なに。いいことって」
「美也に対するカモフラージュ方法。誰かを好きな素振りを見せる」
「うわー、悪いこと思いつくな~。俺と付き合ってるのに?」
「うっ……、やっぱりだめ?」
「その攻撃は美也にだけじゃなくて、俺にも効く。志悠は分かってないと思うけど、俺、だいぶ志悠のこと好きだからね。フリだって分かってても嫌」
さらりと恥ずかしいことを言ってのける江永に、志悠はむせてしまった。通話越しに、江永がため息をついているのが志悠の耳にも届いた。
「美也に俺と付き合ってること話すんじゃ、だめ?」
江永の提案に、志悠は乗る気にはならなかった。以前に、江永のことを好きなのかと聞かれて否定したときの反応が脳裏によぎる。ほっとしたように「なら良かった」という反応。
無言の否定に、江永は気づいたようだった。
「俺が女子だったら良かったのにね」
「違う。そんなことを言わせたかったんじゃない」
「うん、知ってる。志悠は優しいからね。残酷な優しさだ。好きでもない男と付き合ってくれるんだから」
その発言は志悠を傷つけるもののようなものでありながら、実のところ傷ついているのは江永自身であることに、志悠は思い至った。江永が言葉で自傷しているのが、志悠にまでその痛みが伝わってくるようで、肌がひりひりとした。
「……そんなこと言うなよ」
「でも、本当のことでしょ」
「事実陳列罪だ」
江永はようやく自分を傷つけるような言葉の羅列を止めた。
「よく覚えてたね、そんな言葉」
幾分か弱々しい声だった。これ以上何かを言えば、意図せずともまた江永を傷つけてしまうかもしれない。ただ、まだ志悠には言わなければいけないことがあった。
「ごめん。もう一つ、江永に言わないといけないことがあるんだ」
「別れの言葉なら聞かないよ」
「親の都合で引っ越すかもしれない」
「そっちの別れできたか。それでマネージャー探してたんだね。納得」
「まだ確定はしてないけど。もし本当に引っ越すことになっても、美也には言わないでほしい」
「黙っていなくなるつもりなんだ。志悠は本当に悪いこと考えるね。二人だけの秘密って思えば、恋人っぽくていいけど。あいつ、だいぶ傷つくと思うよ」
「そうかな」
「恋愛で好きかどうかは別にして、幼馴染が何も言わずにいなくなったら、喪失感は大きいと思うよ」
志悠は別に、美也を傷つけたいわけじゃない。ただひっそりといなくなって、自分のことなど最初からいなかったかのように過ごしてほしいだけだった。
「幼馴染が何も言わずにいなくなる喪失感、か」
美也がもしも何も言わずにいなくなったら。そう考えると志悠はぞっとした。心に、一生消えない傷ができるような気がした。だが自分がいなくなった場合、美也も同じ状態になるとは思えなかった。自分には恋愛感情があるが、美也は自分に恋愛感情はないのだ。その違いは、喪失感にも大きな差が出てくるように思えた。
「まあ、ほかの部員に知らせるかどうかはともかくとして、あいつには教えてあげてもいいんじゃない」
珍しく美也の味方になる江永に、志悠は驚いていた。
「もう少し考えてみる」
「じゃあ、また明日」
「うん」
心ここにあらずな状態で志悠は空返事をした。
スマホを無意識のうちに放り出していた。ぽす、と枕のわきに落ちる。志悠はベッドの上で大の字になって、天井を眺めた。
美也には幸せに過ごしていてほしい。傷つけたくなどない。そのための最善策は一体なんなのだろう。考えれば考えるほど、鏡の迷路に入ったように分からなくなっていく。そんなこと、志悠には今までなかった。学校で出される問題は、考えれば必ず答えが分かるものばかりだった。正解の無い問いに、志悠は戸惑っていた。
志悠が美也に、なぜ今更になって近づいてくるのかと尋ねたとき、美也は「幼馴染なんだから」と答えていたのを志悠は思い出した。美也はあくまで自分のことを幼馴染としかみていない。それはそうだ。同性に恋愛感情を抱いている自分のほうが異常なのだ。ならばこちらも普通を装って、引っ越すことを告げるべきか。
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