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16話:夏休みの約束
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次の日、教室に入ると志悠は真っ先に江永の姿を探した。もうそろそろテストが近づいているのもあり、勉強をしている生徒も多い。志悠も本来は勉強をする側だが、まずは江永に直接謝りたかった。あと、自分で自分を傷つけるような発言をするなと詰りたかった。
「江永、おはよう」
「ああ、志悠。おはよう。また何か良からぬことを企んでる?」
「昨日のことを謝りたくて」
「何か謝られるようなこと、あったっけ」
「江永に江永自身が傷つくようなこと言わせたから。もうあんなことは言わないでほしい。言わせないように僕も気を付けるから」
江永はわずかに眉尻を下げて笑った。
「あと、引っ越すこと、美也にも言うことにした」
あの後に母が帰ってきて、転勤が正式に決まったと告げられた。
「そう。うん、その方がいいと思う」
「米田先生から呼び出されてるから、今から職員室に行ってくる」
朝の職員室は、どの先生もバタバタと忙しなく動いている。
「丸山君、まさか本当に転校するとはね」
「僕も驚いてます。お手数をおかけしますが、手続きなどよろしくお願いします」
「いやいや、それは仕事だからいいんだ。丸山君も、試験とかあるから頑張ってね。って言っても、まあ丸山君は大丈夫だと思うけど」
部活前、例によって美也は志悠の教室にやってきた。志悠は「ちょっと」と美也の裾を引っ張った。
「ん?」
「引っ越すことになった。学校も変わる」
一息に告げると、美也は固まった。
「は?」
「えと、だから、引っ越すことになって、学校も変わる」
「いや、聞こえなかったわけじゃねぇんだ。志悠が? 引っ越すって?」
志悠は黙って頷いた。
「なんで」
「親の都合。転勤だって」
「どこに」
「札幌」
「函館ならすぐだったのになぁ、札幌かよ。はぁ~、そうか……」
思いのほか項垂れている美也に、志悠は面食らった。
「いつ?」
「夏休み明け」
「じゃあ、夏休みは思う存分思い出作らねぇとな。まだカラオケにも行ってねぇし、花火大会も祭もあるだろ」
美也は指折り数えて、「他になんかあっかなぁ……」と呟いて、窓の外を見た。窓からは海と、海に浮かぶ自衛隊の船が見える。
「あ、海にも行くか?」
今度は志悠がうろたえる番だった。美也の言う「じゃあ」の意味が理解できなかったし、その提案にのれば間違いなく江永を悲しませる。
「ざんねーん、志悠には先約があるのでお引き取りくださーい」
「はあ? 誰と」
「俺と」
「じゃあ、俺がいたっていいだろ」
「俺は浜辺と遊ぶつもりないんだけど」
「ひっでぇ。志悠、こいつひどくね?」
「江永は基本優しいけど、美也には辛辣だよね」
「こいつに優しいとこなんてあるか?」
「あるよ。江永にはいつも助けられてばっかりだ」
休んだ時にはノートを頼める相手、ギブアンドテイク。人脈づくりは大切。江永はそううそぶいていた。志悠は始めこそ江永の考え方に賛成できなかった。だが、二人一組になる時やグループを作らなくてはならない時、江永のおかげで志悠はあぶれることを免れていた。そんなことが重なるにつれ、協定を結ぶのも悪くないと志悠は思ったのだった。江永のほかに仲の良い人は相変わらずいないが、教室での居心地は悪くなく、中学までの息の詰まるような苦しさがない。親睦会での気遣いや、相談に乗ってくれること、どれも江永の優しさに他ならない。そんなようなことを志悠は気づけば力説していた。美也に、江永のことを勘違いしたままでいてほしくなかった。
「……そうかよ。江永は志悠にはなんだかんだ甘ぇもんな。ところで志悠よ、俺とは遊んでくれねぇのか」
「別に僕と遊ばなくたって、美也にはいくらでも遊ぶ相手がいるでしょ」
「志悠との思い出を作りてぇって話してんのに、なんでほかの奴誘う話になんだよ」
志悠は自分の耳を疑った。聞き間違いでなければ、確かに美也は「志悠との思い出作りてぇ」と言った。それが聞き間違いでない自信が志悠にはなかった。志悠は聞き返す。
「美也は僕と思い出作りたいの」
「そう言ってんだろ」
そうか、とその言葉を反芻した。それが「幼馴染として普通」なのであれば、応えるべきなのかもしれない。志悠はちらと江永を見た。江永は諦めの表情を浮かべていた。
「……仕方ない。三人で遊ぼう。俺の寛大な心に感謝するといい」
「なんで感謝しなきゃなんねぇんだよ」
志悠は江永にだけ聞こえるような小声で、ありがとう、と呟いた。
「江永、おはよう」
「ああ、志悠。おはよう。また何か良からぬことを企んでる?」
「昨日のことを謝りたくて」
「何か謝られるようなこと、あったっけ」
「江永に江永自身が傷つくようなこと言わせたから。もうあんなことは言わないでほしい。言わせないように僕も気を付けるから」
江永はわずかに眉尻を下げて笑った。
「あと、引っ越すこと、美也にも言うことにした」
あの後に母が帰ってきて、転勤が正式に決まったと告げられた。
「そう。うん、その方がいいと思う」
「米田先生から呼び出されてるから、今から職員室に行ってくる」
朝の職員室は、どの先生もバタバタと忙しなく動いている。
「丸山君、まさか本当に転校するとはね」
「僕も驚いてます。お手数をおかけしますが、手続きなどよろしくお願いします」
「いやいや、それは仕事だからいいんだ。丸山君も、試験とかあるから頑張ってね。って言っても、まあ丸山君は大丈夫だと思うけど」
部活前、例によって美也は志悠の教室にやってきた。志悠は「ちょっと」と美也の裾を引っ張った。
「ん?」
「引っ越すことになった。学校も変わる」
一息に告げると、美也は固まった。
「は?」
「えと、だから、引っ越すことになって、学校も変わる」
「いや、聞こえなかったわけじゃねぇんだ。志悠が? 引っ越すって?」
志悠は黙って頷いた。
「なんで」
「親の都合。転勤だって」
「どこに」
「札幌」
「函館ならすぐだったのになぁ、札幌かよ。はぁ~、そうか……」
思いのほか項垂れている美也に、志悠は面食らった。
「いつ?」
「夏休み明け」
「じゃあ、夏休みは思う存分思い出作らねぇとな。まだカラオケにも行ってねぇし、花火大会も祭もあるだろ」
美也は指折り数えて、「他になんかあっかなぁ……」と呟いて、窓の外を見た。窓からは海と、海に浮かぶ自衛隊の船が見える。
「あ、海にも行くか?」
今度は志悠がうろたえる番だった。美也の言う「じゃあ」の意味が理解できなかったし、その提案にのれば間違いなく江永を悲しませる。
「ざんねーん、志悠には先約があるのでお引き取りくださーい」
「はあ? 誰と」
「俺と」
「じゃあ、俺がいたっていいだろ」
「俺は浜辺と遊ぶつもりないんだけど」
「ひっでぇ。志悠、こいつひどくね?」
「江永は基本優しいけど、美也には辛辣だよね」
「こいつに優しいとこなんてあるか?」
「あるよ。江永にはいつも助けられてばっかりだ」
休んだ時にはノートを頼める相手、ギブアンドテイク。人脈づくりは大切。江永はそううそぶいていた。志悠は始めこそ江永の考え方に賛成できなかった。だが、二人一組になる時やグループを作らなくてはならない時、江永のおかげで志悠はあぶれることを免れていた。そんなことが重なるにつれ、協定を結ぶのも悪くないと志悠は思ったのだった。江永のほかに仲の良い人は相変わらずいないが、教室での居心地は悪くなく、中学までの息の詰まるような苦しさがない。親睦会での気遣いや、相談に乗ってくれること、どれも江永の優しさに他ならない。そんなようなことを志悠は気づけば力説していた。美也に、江永のことを勘違いしたままでいてほしくなかった。
「……そうかよ。江永は志悠にはなんだかんだ甘ぇもんな。ところで志悠よ、俺とは遊んでくれねぇのか」
「別に僕と遊ばなくたって、美也にはいくらでも遊ぶ相手がいるでしょ」
「志悠との思い出を作りてぇって話してんのに、なんでほかの奴誘う話になんだよ」
志悠は自分の耳を疑った。聞き間違いでなければ、確かに美也は「志悠との思い出作りてぇ」と言った。それが聞き間違いでない自信が志悠にはなかった。志悠は聞き返す。
「美也は僕と思い出作りたいの」
「そう言ってんだろ」
そうか、とその言葉を反芻した。それが「幼馴染として普通」なのであれば、応えるべきなのかもしれない。志悠はちらと江永を見た。江永は諦めの表情を浮かべていた。
「……仕方ない。三人で遊ぼう。俺の寛大な心に感謝するといい」
「なんで感謝しなきゃなんねぇんだよ」
志悠は江永にだけ聞こえるような小声で、ありがとう、と呟いた。
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